ゼニアの視点
やっと大学を卒業できたんだ。あの道のりは、本当に忘れられないものだったな。高校が終わってからずっと便秘みたいに溜め込んでた、巨大なクソをようやく出し切ったみたいな気分。
やっと、課題とか、プロジェクトとか、試験とか、講義とか、規則とか、授業に駆け込むとか、スケジュール作るとか、大学生につきものの全部から解放されたんだ。
ママとジャスミンは、私が卒業式で歩いて行って、色んな賞とか卒業証書を受け取った時、めちゃくちゃ喜んでくれたんだ。私も自分のことながら、すごく嬉しかったよ。一日中、笑いすぎて頬が痛かったもん。
街の一流雑誌に掲載される、私の最初のファッションラインを公式に発表する準備もできてたし。最高。それに、妹の彼氏がプレゼントしてくれたブティックでも、他の服を売ってるんだ。彼は約束を守ってくれたんだよね。
~
「ゼニア!」
大声で名前を呼ばれた。あの広いペントハウスに声が響き渡る。デジタルノートを枕の下に突っ込んで、ベッドからゴロゴロ転がり出た。
「ハーイ」
リビングルームで壁に寄りかかってたら、妹が息子と一緒にソファーに座った。
「やあ。元気?」
「元気だよ」
近寄って、甥っ子を抱き上げて、頬にチュウってキスをした。本当に可愛い男の子で、最高の笑顔なんだ。えくぼもあるんだよ。いつも彼の笑い顔を見るのが楽しみなんだ。
「おばさんのベイビーはどう?」
赤ちゃんの声で話しかけてみた。彼はニヤって笑って、恥ずかしそうに私の首のあたりに顔をうずめた。
「それでね、あなたにプロジェクトがあるんだけど」
ジャスミンが言い出した。
「どんなプロジェクト?」
隣に座って尋ねた。
「大きなやつよ」
満面の笑みを浮かべた。
「どれくらい大きい?」
「すごく大きいわよ」
「ちょっと、ジャスミン、もったいぶらないでよ。私が忙しいの、知ってるでしょ」
「あなたにドレスを作ってほしいの」
フン、って鼻で笑った。
ドレス?
それのことだったの?
ドレス?
「ドレスって、ジャスミン?マジで?」
率直に物を言った。
「どんなドレスか聞くべきだったでしょ」
彼女に文句を言ったけど、感謝しないといけないのは彼女なんだよね。ジャスミンがいなかったら、大学に入ることさえできなかっただろうし、卒業もできなかっただろうから。
だって、私たちは父親なしで育ったんだ。私が高校を卒業する前に、ママが肺の病気で大変なことになって、しょっちゅう入院するようになったんだ。ジャスミンは本当に一生懸命働いて、ご飯を作ってくれて、私の服を買ってくれて、学費を払ってくれて、私が夢を叶えられるように大学に行かせてくれたんだ。妹以上に良い人はいないよ。大好きだし。それに、彼女は最初から私のビジネスを応援してくれてたんだ。いつも服を買ってくれて、あげるとタダであげるって言っても、
『一番良いものって、タダで手に入るものじゃないのよ』
って言うんだよね。
「どんなドレス?」
甥っ子のお腹をくすぐって笑わせながら尋ねた。
「ウェディングドレスよ!」
彼女が叫んだから、びっくりしちゃった。
「え、何?」
目が笑ってる。
私が思ってること、言ってるのかな?
婚約指輪をはめた薬指を見せびらかしてて、私も嬉しくて叫び始めた。
「結婚するの?」
嬉し涙を拭った。彼女が心から愛する人と一緒に、この世で最高の幸せを味わえるように、心から願ってたんだ。1年以上も離れ離れになってたのに、まるで別れがなかったかのように、またお互いを愛し合えるようになったんだから。
「おめでとう、お姉ちゃん」
ハグした。
「おめ…しちょん」
ジェバンが「おめでとう」を真似してる。
ちょっと笑っちゃった。もう言葉を覚えてるんだね。
「ありがとう、ベイビー」
ママが彼のほっぺたを優しくつまんで言った。
彼女の携帯が鳴って、電話に出た。
「ゼニ、ジェバンを1時間くらい見ててくれない?パパに何か届けに、HTに行くの」
電話を切ってから説明してくれた。
「いいよ。全然大丈夫」
土曜日で、ブティックをお休みして、アシスタントに任せてたんだ。クライアントに送るデザインをいくつか仕上げなくちゃいけなかったから。
「ありがとうね」
立ち上がってドアに向かった。「ジェバンの前では言葉遣いに気を付けてね!」
バイバイって手を振った。
ジェバンを自分の部屋に連れて行って、ベッドに寝かせて、私はデザインを全部保存してあるデジタルノートに戻った。
ジェバンに気を配りながら見てたら、間違って、明日始めるはずのデザインを削除しちゃったんだ。
「クソッ!」
思わず悪態をついた。
「クソッ!クソッ!」
甥っ子が私が言ったことを真似し始めた。
「ダメダメダメ!ジェバン、それ言っちゃダメだよ。ママに聞かれたら、私、殺されちゃう」
「殺されちゃう。殺されちゃう」
彼はまた、言ってはいけない言葉を繰り返した。
頭の中で、その言葉を消す方法を探した。