第3章
病院に着くまで気づかなかったんだけどさ、私、アルコールにめっちゃくちゃ重度の、アレルギー持ちなんだよね。
普通なら、キスくらいじゃ出ないはずなの。でも、マジでアレルギー体質で、肌に触れただけでも反応出ちゃうんだよね。
医者にどれくらい飲んだか聞かれて、顔真っ赤にしてモゴモゴしちゃった。
「ちょ、ちょっとだけ?」って答えた。
ネイサンも顔真っ赤にして、水くれようとしてくれたんだよね。
「もう二度と飲まない」って、医者が去った後にため息ついてた。
「あなた、アレルギーじゃないじゃん」って笑っちゃったけど。
「でもさ、いつでもどこでもキスしたいんだよ」って、ネイサン、マジ顔で言うんだもん。「飲んだら余計にしたくなるんだよ」だって。
でも、今はもう、私をアルコールから守ってくれる人なんていないんだ。
ビールを口に運ぶとき、ライアンの方をチラッと見たら、目がネイサンのみたいだった。
彼に微笑んで、心の中で思った。「ネイサン、会いたいよ」って。
ビールを飲みながら、腕を上げて、顔に伝う涙を隠した。
ライアンに抱きかかえられて車に乗せられたときには、もう意識が朦朧としてた。
喉が腫れちゃって、ほとんど声が出ない。
さっき個室で怒ってた彼のことを思い出して、笑いが止まらなかったり。
3杯飲んだ後、マジで気分悪くなったんだよね。
ソファーの隅っこで丸まってたら、
ライアンが私を思い出して名前呼んでくれたけど、動けなくて。
近づいてきて、髪の毛触って、顔覗き込んできた。
「マジかよ。アルコールアレルギー?」って、ライアンが私を抱き起こそうとしてくれた。
痛すぎて、何も言えなかった。
ライアンの友達が集まってきて、「どけ」って、低くて怖い声で命令してた。
ライアンは私を抱き上げて、すごい速さで外に出たんだ。
でも、ライアン、あなたがお酒飲ませたんでしょ。
こんな風になっちゃったのも、あなたのせいだよ。
ライアンは頭を下げて運転席に乗り込もうとして、私は起き上がろうともがいてた。
「あ、あなた…飲んで…運転…」って、声ガラガラで息も荒い。
「関係ねえよ」って、私のこと無視して車に乗り込もうとするんだよね。
ライアンの友達も出てきて、追いかけてきてた。
友達の一人が車の前に立って、窓を叩いて、出てこいって言ってる。
「どけ」って、ライアン、冷たい声で答えた。
なんかおかしいって感じたんだよね。
エンジン吹かしてて、音がうるさい。
「どかないなら」って、ニヤって笑って、「お前も轢く」って。
「ライアン、やめろよ。お母さんとの約束は…お前、前もやったろ…」って、友達、真剣な顔になってた。
私を見て、口を噤んだんだ。
「マジで気分悪いから…誰かに運転してもらって…」って、お願いして、目を閉じて、彼の袖を弱々しく引っ張ったんだ。
結局、ライアンは折れた。
「ライアンをちゃんと扱えるのは、奥さんだけだな」って、友達が運転しながら言ってた。
私はちょっと口を動かして、返事した。
顔をさらに深く埋めた。ライアンの顔もだんだん落ち着いてきたんだよね。
病院に向かう途中、道が悪かったのか、車が結構揺れたんだよね。
もう気分悪かったから、余計に吐きそうになっちゃって。
突然、ライアンが私を引っ張って、私の頭を彼の膝に固定したんだ。
「寝てろ、動くな」って。
腫れ上がった目で彼の顔を見ようとしたんだけど、彼の掌でまぶたを覆われた。冷たい掌で、目の腫れが少し落ち着いた気がした。
「また揺れたら」って、悪態ついてたけど、「蹴り出すぞ」ってさ。
偶然なのか、病院に着いたら、前回と同じ医者だったんだよね。しかも、私だって気づいてて、ちょっと怒ってた。
「女の子、命の大切さ分かってんのか? アルコールアレルギー、酷いんだぞ? もう少し遅かったら、救急車呼ぶところだったんだぞ? 前回、あなたと彼氏に注意したのに、最近の若いもんは…」って言われた。
私は頭を下げて、何も言えなかった。点滴が速くて、血管が冷たくて痛い。
医者は私を叱って、それからライアンを叱ったんだ。
私が何か言おうとしたら、ライアンはポケットに手を入れて、素直に叱られてた。
なんかちょっとボーッとしちゃった。
ライアン、金持ちのボンボン育ちで、ガキの頃から甘やかされて育ったから、性格悪いんだよね。
誰も彼に強く言えないし。
たまにキレて、大切な人のことなんかどうでもいいみたいな態度とったりするのに。
今は、眉間にシワ寄せて、いつもの生意気さもなくて。医者の話とか説明を、ちゃんと聞いてる。
もしかして、罪悪感感じてるのかな?
落ち着いた顔は、なんだかネイサンに似てる。
ああ、私のネイサン。
いつも目がキラキラしてて、優しかった。
目がちょっと三日月みたいで、髪の毛は日差しを浴びると明るい栗色で。
ふわふわしててあったかい髪の毛で、前髪上げてて、ゴールデンレトリバーみたいだった。
入院することになったから、ライアンに先に帰るように言ったんだ。
彼は窓に寄りかかってたんだけど、月の光が、彼の生意気さを洗い流してくれるみたいだった。
頭を下げて、タバコをくわえて、火をつけようとしたところで止まったんだよね。
「アルコールアレルギーで入院って、前にもあったの?」って、ライアンが聞いてきた。
私は頷いた。
病室のベッドサイドランプは薄暗くて、まだ目が腫れてて、彼の表情はよく見えなかった。
「で、今日は自殺未遂? それとも俺に罪悪感を感じさせたかった?」って、ライアンがニヤって笑ったんだ。
「違う」って、首を振って否定したんだ。「誕生日にあなたを不機嫌にしたくなかっただけ。友達が言ってたんだけど、誕生日に叶えたい願い事は全部叶えないと、新しい一年が上手くいかないんだって」って。
3年前、ネイサンに誕生日に5つ願い事を頼まれたんだよね。願い事多すぎない?って聞いたら、全然だって。10個でも足りないって言ってた。
結婚してってお願いしたんだ。
「クレア、今日は俺の誕生日じゃないんだけど。俺に優しくしないでよ」って、ネイサン。
「ハッ」
「迷信深いな」って、窓際に寄りかかって風を受けながら、ライアンは笑ったんだ。
「シャーロット、次からやめろよ」って、彼は続けた。「アルコールアレルギーだって言っとけって。俺は別に、そんなに悪いやつじゃないんだから」
分かったって言ったけど。
でも、ライアン、あなたはそういう悪いやつなんだよ。
ライアンは少しいて、帰ることにした。
アルコールアレルギーでの入院だけで、あんな彼を完全に動かすことができるとは思ってなかったんだよね。
ライアンが病室を出た後、私は起き上がって手に刺さってる針を抜こうとしたんだ。
手から鋭い痛みが走って、針が外れて血がポタポタ落ちてたけど、なんか自傷行為的な快感があったんだよね。この痛みが、自分が何者で、どこにいるのかを思い出させてくれる。
前に入院した時、ネイサンは病室の椅子に座って、一晩中そこにいてくれたんだよね。
たまに私の額に触ってくれたり、私が寝返り打ったら、毛布をかけてくれたり。
別に元々甘えたいタイプじゃないんだけど、ネイサンのおかげで、すごく甘えるのが好きになったんだ。
もう二十歳なのに、どんどんデリケートになって、ペットボトルの蓋も開けたくないし、冷たいタピオカも飲みたくないし、自分のカバンも持ちたくない。
あの時、胃腸炎で入院した時も、点滴を3日間されて、注射のせいで手が腫れちゃったんだよね。血管に注射するのも、すごい痛かったりして。
冬だったから、ネイサンは生理食塩水のバッグを借りて、外に出てお湯を入れて、それをTシャツで包んで、私の手の甲に優しく当ててくれたんだ。
彼のこと、お母さんみたいだねって言ったんだ。
「一生お前の『お母さん』でもいいけど? 旦那って、奥さんを娶って、家で甘やかすもんなんじゃないの?」って、ネイサンは笑って、薬のせいで痛む腕を撫でながら言ったんだ。また笑っちゃった。
笑ってたら、涙が止まらなくなって、ちょっと変な顔になったと思う。
蛾が病室に入ってきて、ライトの周りをひらひら飛んでたんだよね。
「泣かないで」って、後ろから男の優しい声がした。
ライアンだったんだ。食べ物が入った箱と、カバンを持ってて、タバコの匂いがした。
彼は荷物を置いて、私の手の血を見て、
すぐにナースコールを押した。
看護師さんが処置してくれた後、ライアンは私の隣のソファーに座って、ニヤニヤしてたんだ。
「俺がいなくなって、すぐ拗ねた?」って聞いてきた。
私は布団の中に縮こまって、何も言わなかった。
「俺が一緒にいてあげなかったから、怒ってるの?」って、また聞いて、食べ物が入った箱を指さして、「お粥買ってきてあげたんだけど、食べる?」って。
「なんでまた来たの?」って、鼻声で喉も痛いから、そう聞いてみた。
ライアンは少し黙ってた。
「お前が俺のせいで入院して、俺が帰っちゃったら、ちょっと冷たすぎるかなって」って言ったんだ。
でも、今日はどういうわけか、彼には一緒にいてほしくなかったんだよね。
「今日の新しい彼女が怒るよ」って言ったんだ。
「わざとだろ?」って、ライアン、イライラしながら聞いてきた。
私は黙った。
ライアンは電気を消したんだ。
ソファーの軋む音がして、服を着たままソファーに寝転がったんだよね。内側を向いて、後ろ向きになるのが一番良い体勢だったから。だって、後ろ姿がネイサンみたいなんだもん。
私はライアンをしばらく見てて、眠たくなってきた。
すごく寝苦しい夜で、全身が不快で、寝たり起きたりしてたら、誰かが私の額に触ってるのが分かったんだ。掴んでみたら、悪夢が止まった。
その手を強く握って、頬に押し付けたんだ。
またたくさん泣いちゃったみたいで、枕が濡れてた。
次の日、目が覚めたら、寝てる間ずっとライアンの手を握ってたことに気づいたんだ。
彼も大変だったみたいで、椅子に寄りかかって何度も居眠りしてた。
私がクスクス笑うと、ライアンはびっくりして起きたんだよね。唸って首を揉んでて、明らかに辛そうだった。
まさか、お金持ちの御曹司であるライアンが、私みたいな患者に、こんなに気遣うなんて思わなかったよ。
「帰れって言ったのに」って、からかったんだ。
「お前が昨夜、暴れて泣いてたから、俺がここにいるんだろ?」って、ライアンは言い返してきた。
マジで昨夜、あんなに寝相悪かったのかな?
実は、もっと酷い時もあったんだ。ネイサンが死んだ直後は、夢遊病みたいになってたんだよね。真夜中に屋上に何度も行って、座ってたんだ。
警備員に何度か捕まったんだけど、なぜか、飛び降りることはなかったんだ。
夢の中で、ネイサンが私の腕を掴んで、飛び降りるのを止めたんだよね。もし飛んだら、来世では絶対許さないって言ってた。夢の中でだけど、彼が私に怒ってるのを見たのは、それが初めてだった。
その目は、底なしの悲しみと怒りに満ちていたんだ。「ライアン」って、突然彼に訊ねた。「もしある日、私があなたの人生から完全に消えたら、あなたはどうする?」
「他に何ができるっていうんだ?」って、ライアンは目を細めて笑いながら聞き返した。「新しいのを見つけるしかないだろ」って、ポケットからガムの箱を取り出して、口に入れて頬を膨らませたんだ。
相変わらず、クソ野郎だ。
布団をめくって起き上がって、服から鍵とかカードとか全部出して、テーブルに置いたんだ。
それを彼の方に押しやった。
「別れよ、ライアン。ちょっと疲れたんだ」って言った。
私は立ち上がって、靴を履いて、コートを掴んだ。「ライアン、私が間違ってた」って、小さく呟いた。
振り返らずに病室を出たんだけど、ライアンの足音が聞こえたんだよね。でも、私も早く歩いたんだ。
急いで階段に駆け込んで、角のドアの影に隠れた。
ライアンが駆け抜けていくのが見えた。私を追いかけてきたに違いない。
ついに、私の罠にハマる第一歩を踏み出したんだ。
今まで彼と一緒にいるフリをして耐えてきた屈辱なんか、もうどうでもよかった。彼と一緒に地獄に落ちたかったんだ。
3年前の大晦日、ネイサンが私の家まで車で迎えに来てくれたんだよね。大晦日を祝うために。
仕事とか色々あって、出発が遅くなっちゃったんだ。
その時間には、道には車がほとんど走ってなかった。
眠くなって助手席でウトウトしてたら、ネイサンが手を伸ばして、音楽のボリュームを下げてくれたんだ。
「クレア、あんまり深く眠らないでね、もうすぐ家に着くから」って、優しく低い声で言ったんだよね。
私はうなり声で返事した。
「ママが、お前がカニ食べるのが好きだって聞いて、5ポンドも大きなカニを買ってきてくれたんだよ…」って、笑いながら言ったんだ。
言い終わらないうちに、突然ハンドルを切ったんだよね。
体が浮いた感じがして、車が何度も転がったんだ。
事故を起こした車は、黄色のマセラティだった。
私たちの車は横転して、ネイサンと私はシートにぶら下がってた。
顎から血が流れて、視界がぼやけてたんだよね。
でも、はっきりと、疑いもなく、運転席から出てきた若い男が見えた。
彼はふらふらと歩いてた。明らかに、飲みすぎなんだよね。
何が起きたのか見てから、私たちの車に近づいてきたんだ。
車に近づいて、中を覗き込もうとしたんだよね。
でも、女の声が彼を止めたんだ。
そして、誰かが彼の腕を引っ張ったんだ。
でも、一瞬見ただけで、その男の顔をはっきりと見てしまったんだ。
そして、私はすぐに意識を失ったんだ。ネイサンは、あの交通事故で私を永遠に残して、さよならを言うことすらできなかった。
あの日々をどう過ごしたのか、覚えていないんだ。一晩中起きて、携帯電話を持って、事故前のネイサンとのチャットログを読んでたんだ。
事故の捜査結果を知った時は、さらに落ち込んだんだ。ひき逃げ犯は、誰かのせいにすることができたんだよね。
あの道の監視カメラは、都合よくその夜だけ故障してて、事故当時の映像は残ってなかった。
スケープゴートはすぐに刑務所に入れられ、私の証言は受け入れられなかったんだ。
私が指さした人は、その夜のアリバイがあった。
あちこち訴えたけど、結局何も変わらなかったんだ。
ある日、私の友達でさえ私を説得しにきたんだ。
「クレア、もうこれが限界なのかもしれない… あなたが告発したのは、ジョンソン・グループだけど、彼らは街中にコネがあるから」って、友達が私に新聞を渡したんだ。「それに、あそこの金持ちの息子は、ひき逃げを何度もやってるんだ」って。
私は、秘密裏にライアンを調べ始めたんだ。
あの事件の後、彼は2年間海外に行って、私も彼を追いかけた。
彼の好きな女の子は、グレースっていう名前だった。
彼女に関する情報を集め始めたんだ。
その後、彼はグレースに似た女の子を探してるって聞いたんだよね。
美容整形外科に入った時、本当は諦めようと思ってたんだ。
手術した後でさえ、復讐計画を諦めそうになったんだよね。
でも、家に帰るたびに、どうしてもネイサンのことを考えてしまうんだ。
彼が私に言ったことを思い出したんだ。全部が鮮明に心に残ってて。
ネイサンはもういない。
そして、真犯人は、まだ誰も罰せられてないんだよね。