第12章 願いの池
めっちゃ寂しいんだよ、マジで。
話したいし、ハグしたいし、謝りたい。
ジョンはソフィアの寝室に入って、ベッドにゴロンってした。
夜になって、街全体が闇に包まれて、ポツポツと灯りが消えていって、部屋は真っ暗になった。
「ジョン」って、顔をツンツンされた気がした。
目を開けたら、ソフィアが膝を抱えて隣に座ってた。
ジョンは起き上がって、ソフィアを抱きしめた。
顔をソフィアの首に埋めて、匂いを深く吸い込んだ。
「ソフィア…」って、涙が止まらなくて、「めっちゃ寂しいよ…」
首の温かさが心地よくて、ジョンはソフィアに必死にしがみついて、離したくなかった。
「何、子供みたいにしてるの?」ソフィアが優しくジョンの髪を撫でた。
ジョンは目をギュッと閉じたまま、開ける勇気がなかった。
もし開けたら、ソフィアがいなくなっちゃう気がしたんだ。
必死にソフィアの首に、顎に、顔に、最後に目にキスした。
「くすぐったい…」
ソフィアが避けて、ジョンはハッと目を開けた。
外が明るくなってることに気づいて、腕の中にはソフィアじゃなくて、ただの布団だけだった。
ソフィアは、どこにもいないんだ。
ジョンは起き上がって、ぼーっと窓の外を見て、急に笑い出した。
マーガレットが行っちゃった後、メアリーおばさんが戻ってきた。ジョンは朝ごはんを食べて、オフィスに向かった。
最近、ジョンのエージェントが、映画とかテレビの専攻で、まだ卒業してない大学生グループに夢中になってて、何人かはもう子役で、演技経験もそれなりにあるんだよね。
アシュリーってエージェントが、アーティストの履歴書をジョンのオフィスに持ってきた。
ジョンは国際的なビデオ会議中だったから、アシュリーは賢く黙って、出て行った。
会議の後、ジョンはアシュリーが持ってきた履歴書を手に取って、一枚一枚パラパラ見ていった。
そしたら、ある写真に目が止まったんだ。
オリビア・テイラー、NYUのティッシュ芸術学校。
ジョンが彼女に気づいたのは、ソフィアにそっくりだったからなんだ。
ジョンはアシュリーに電話して、オリビアと契約するように指示した。
アシュリーはびっくりした。オリビアは、ボスに提出したアーティストの履歴書の中で、一番演技経験が少なかったから。
でもすぐに、アシュリーはわかった。オリビアは、めちゃくちゃ美人だったんだ。
見た目だけで生きていけるような。
アシュリーはオリビアに連絡を取ろうとしたんだけど、思ってたより契約するのが難しかった。
オリビアにはデビッド・テイラーっていうお兄さんがいて、妹が芸能界に入るのを反対してたんだ。
オリビアは両親には内緒で芸術学校に入学してて、卒業した今は、家族のビジネスを継いでほしいって思われてるんだよね。
デビッドが反対するもう一つの理由は、オリビアが去年、時代劇の水中のシーンで溺れそうになったことだった。
病院に運ばれて、医者は治療が難しいって言ってた。幸運なことに、オリビアは生き残ったんだ。
溺れたことで後遺症が残って、よく物忘れをするようになったんだって。
アシュリーはジョンに報告して、ジョンは色々と考えた末に、オリビアと直接会うことにした。
ジョンは、オリビアの演技クリップをオンラインで探して見て、演技力に感心したんだ。
面会は一週間後に決まって、アシュリーは気づいた。ジョーンズ・ファミリー・エンターテイメントだけが、オリビアと連絡を取ってる会社じゃないってことに。
……
「反対!」デビッドは腕組みして、部屋の中をウロウロしてた。
デビッドは背が高くて、185センチくらいあって、長年のフィットネスで鍛えた筋肉質。肌は黒くて、オリビアとは似てないけど、確かにオリビアのお兄さんだった。外見は、それぞれ両親に似てるんだよね。
「デビッド、私は演技がしたいの」って、オリビアは芸能界に入って、いい役者になりたいっていう夢を口にした。
「もう人事と話した。明日から会社の執行役員としてスタートするんだ」って、デビッドはオリビアのために道を作ってあげようとしてた。2年後に自分の会社を全部オリビアに譲るつもりで、海外市場にも進出する計画なんだ。
「行かない」って、オリビアは枕を抱きしめて、ソファに潜り込んだ。
「お前、ただの芸能人オタクじゃん」って、デビッドは怒ってた。「なんで芸能界に入りたいのか、俺は知ってるんだぞ。ニコラスのことだろ!」
ニコラス、昔子役で、彫刻みたいに整った顔の持ち主。オリビアのタイプ、クールでセクシー。
デビッドの言うことは半分正しかった。オリビアが映画学校に行ったのは、確かにニコラスと関係があった。誰だって、自分のアイドルに近づきたいじゃん? でも、オリビアは、デビッドの「芸能人オタク」っていう非難には納得できなかった。
「芸能人オタク」って、どういう意味?
ニコラスがいなかったら、こんなに試験でいい点取れたと思う?
「絶対会社には行かないから」って、オリビアはソファに寝転がった。
最近、ニコラスは、前の事務所との契約が切れそうで、更新する気がないっていう噂もあったし、どこの会社と契約するのかもわかんなかった。
ニコラスが独立して、自分の事務所を立ち上げるかもしれないっていう噂もあったり。
デビッドはオリビアを説得できなくて、イライラしてた。
「わかったよ、映画界に入りたいなら、勝手にしろ。泣いて帰ってくるなよ」って、デビッドはドアをバタンって閉めた。
オリビアは起き上がって、ドアに向かって変顔した。泣いて帰ったりしないんだから。
週末には、ジョーンズ・ファミリー・エンターテイメントの社長との約束があるんだ。
ジョーンズ・ファミリー・エンターテイメントは、設立からまだ一年ちょっとだけど、すごい資源を持ってるんだよ。
それに、ジョーンズ・ファミリー・エンターテイメントは、一番最初に連絡をくれた映画会社だったから、オリビアは彼らの誠意に感動したんだ。
週末はすぐに来て、オリビアは車で面会に向かった。
車は、お兄さんからの卒業祝いだったんだよね。
お兄さんは肌が黒くて、短気だけど、本当に優しいんだ。
でも、オリビアの運転技術は、全然ダメだった。何度も挑戦したけど、ちゃんと駐車できなかったんだ。
そしたら――
ドーン!
自分の車の後ろが、隣の車にぶつかって、オリビアの体に衝撃が走ったんだ。
ベンツ、限定モデルだった。
オリビアは道の脇に車を寄せて、ベンツの状態を確認するために降りた。
おでこを覆って、これはヤバいって思った。
ジョーンズ・ファミリー・エンターテイメントの社長との約束の15分前。オリビアは、ベンツのオーナーをさらに5分待ったけど、誰も来なかった。
カバンから付箋を取り出して、自分の名前と連絡先を書いて、車の窓に貼った。
オリビアはエレベーターで上に行った。
着いたら、もう誰か座ってた。
男の人の後ろ姿しか見えなかった。髪は短く刈り込まれてて、首が綺麗に見える。黒いスーツを着てた。
「遅れてごめんなさい」って、オリビアは言ったけど、別に遅刻したわけじゃないんだよね。
でも、会社と契約したいって思ってるアーティストとして、ボスより遅く着くのは、ちょっと気まずかった。
「大丈夫だよ」って、男の人が顔を上げた。オリビアはそこで、初めてその顔を見たんだ。
オリビアはびっくりした。
その男の人、めっちゃイケメンだったんだ。
オリビアは、彼が自分を見てるのに気づいて、落ち着かなくて自分の顔を触った。何か付いてるのかなって。
もし他の人だったら、自分に興味があるのかもって思っただろうな。だって、自分がめちゃくちゃ美人だって知ってるから。
でも、ジョンは――そういう感じじゃないんだよね。
「初めまして、ジョンさん。オリビアです。よろしくお願いします」って、オリビアは手を差し出した。
「ジョン」って、その男の人の手のひらは乾燥してて、指先は冷たくて、握手はあっさり終わった。
「君のお兄さんは、君が芸能界に入るのに反対してるんだって?」
オリビアは顔を曇らせた。「はい、すごく反対してます」
「どうして?」
オリビアは恥ずかしかった。お兄さんは、芸能界に入るのはプロらしくないって思ってて、いつも自分が彼が用意した道を進んでほしいって思ってるんだよね。
ジョンは話を聞いて、理解した。
芸能界は、表面上は華やかに見えるけど、成功してる人はみんな、すごく苦労してるんだよね。
オリビアはお金持ちの家の出身で、お兄さんが、将来が不安定な業界に妹を入れたくないって思うのは、当然のことなんだ。
ウェーターが料理を持ってきて、「マンゴーのスムージーがサービスであります。いかがですか?2つ?」って言った。
オリビアは首を横に振った。「いいえ、結構です」
「美味しいですよ」って、ウェーターはしつこく言った。
「私、マンゴーアレルギーなんです」って、オリビアは言った。
ジョンは一瞬止まった。
ソフィアも、マンゴーアレルギーだったんだ。
初めて付き合った時、ジョンはソフィアをマンゴーアイスを食べに連れて行ったんだ。ソフィアはかゆいのを我慢して、アイスを2つも食べて、全身に赤い発疹が出たんだよね。
ソフィアは、楽しい気分を壊したくなくて、何も言わなかったんだ。
ジョンは目を閉じて、胸が締め付けられるような痛みを感じた。
話が終わる頃、オリビアは言った。「どうしてもジョーンズ・ファミリーと契約したいんです。ジョンさん、心配しないでください。お兄さんを説得しますから」
ジョンは約束した。「もしジョーンズ・ファミリーと契約したら、全ての資源を君のために優先的に使います。契約してくれたら、フルーツTVとの共同ドラマで、君を主役にできるよ」
二人は順番にエレベーターに入った。
オリビアは地下駐車場のために、B2を押した。
携帯は鳴らなくて、ベンツのオーナーはまだ傷に気づいてないみたいだった。
そしたら、オリビアはびっくりしたことに、ジョンがその車の方に歩いて行ったんだ。
ジョンは、さっきオリビアが書いたメモを拾い上げたんだ。
オリビアは不安で震えた。「ジョンさん、この車、あなたのですか?」
ジョンが頷くのを見て、オリビアはガーンってなった。
自分の名前と連絡先が書いてあるメモを見たんだから、ジョンは聞くまでもなく、自分が車にぶつけたって知ってるんだよね。
「ジョンさん、連絡先を交換しましょう。修理代がわかったら、いつでもいいので連絡ください。必ず弁償しますから」って、オリビアは言った。
……
オリビアは駐車場から車を出した。
お兄さんから電話が殺到し始めたけど、ソフィア(これはオリビアが携帯のニックネームなのか、自分を間違えてるのか)は、ただ電話を切ったんだ。
マジで電話を切った!デビッドはFacebookに10個連続で投稿して、全部同じメッセージを伝えてた。
すぐに家に帰ってきてほしいって。
チッ、もしジョーンズ・ファミリー・エンターテイメントの社長と会うって知ってたら、なんでその場で捕まえに来なかったんだ?ジョーンズ家に逆らいたくなかったからだろ。
オリビアはハンドルを切って、最近動画でバズってる陶芸のお店に向かった。
ずっとやってみたかったし、ついでにカップでも作ろうと思ってたんだよね。
それに、オーナーがイケメンだって噂も聞いてたし。
オリビアは車から降りた。陶芸屋さんのドアは大きく開いてて、床から天井までのガラス窓から、中がよく見えるんだ。
オリビアは素敵な光景を目にした。黒いTシャツに茶色のエプロンを着たイケメンが、お客さんに手取り足取り陶芸を教えてるんだ。
絶対、あのイケメンがオーナーだ。
爽やかで、清潔感がある。
オリビアが入っていくと、イケメンオーナーが振り返った。「いらっしゃいませ」
そしたらオリビアは気づいた。このオーナー、ちょっと見覚えがある。ニコラスにそっくりなんだよね。