エピローグ
「エレラ」 あたしを呼ぶ声の方を振り向いた。 デイモンだった。 小さいトレイに薬が並んでて、あたしにめっちゃ綺麗に笑いかけてる。
「薬の時間だよ」 デイモンがそう言うから、あたしはニコニコって頷いた。 デイモンも笑ってあたしのとこに来て、薬のカプセルをくれた。 あたしはそれを受け取ってニコニコ。 デイモンは水のグラスもくれたから、それも受け取って、ずっとデイモンのこと見てた。
薬を飲むとこを見せてあげて、口を開けて飲んだって証拠も見せた。 デイモンから目が離せなくて、もし目を離したら、もう二度と会えなくなる気がした。 そしたら、ずーっと会えなくなるんだよ。
またデイモンに会えなくなるのは嫌だから、瞬きすらしない。
「少し休みなよ、エレラ」 デイモンがそう言うから、あたしはすぐに首を振った。
「嫌」 って、あたしはデイモンを見て、早口で言った。
「エレラ、休まないと、クマができちゃうよ」 デイモンがそう言うから、あたしはむーって顔した。 デイモンは笑ってる。
「嫌だもん。寝たらまたいなくなるんでしょ」 あたしが言うと、デイモンの笑顔がちょっと消えた。 あたしを見てる。
「エレラ…」 デイモンの話は聞かずに、あたしはすぐに抱きしめた。
「またあたしに見せて、寝ろって言うんでしょ? 嫌だよ、デイモン、嫌だよ」 抱きしめながらそう言うと、デイモンは何も言わないから、あたしは笑って目を閉じた。
「デイモン、どこに行ってたの? どれくらいで帰ってきたの?」 抱きしめながらそう尋ねると、デイモンは何も言わないから、もっと強く抱きしめた。
「ねえ、いつもデイモンはもういない、帰ってこないって言う人がいるんだよ。 でも、あたしは信じてない。 絶対帰ってくるって知ってる。 デイモンはいないんじゃなくて、その人がおかしいんだよ、あたしを好きなんだから」 って言って笑った。
「ね、その人がどんなに酷いことしても、あたしは信じない。 本当じゃないって知ってる。 そうでしょ、デイモン?」 そう尋ねたけど、デイモンは返事をしなかった。 深呼吸して、また笑った。
「前に言ってたこと、もう一回言ってくれる? デイモン」 抱きしめながらそう尋ねた。
「エレラ」 デイモンがそう言った。「デイモンはいない」 瞬間、デイモンの声が変わった。 抱きしめるのをやめて、誰か見てみた。 デイモンの顔も変わってる。
「あなたは誰? デイモンじゃない」 あたしはそう言って、目の前の男を突き飛ばした。 すぐにデイモンを探したけど、デイモンはいなかった。 胸が痛くて、涙が止まらない。 またデイモンはどこ? さっきまで抱きしめてたのに、なんで急にいなくなっちゃったの? またあたしを置いて行ったんだ。 また一人ぼっち。 もういないんだ、いないんだ。
「エレラ、デイモンはもうずっと前に死んだんだよ。 受け入れなきゃ」 男がそう言った。 あたしは首を振って、男から離れた。
「嫌だ、まだ生きてる。 何言ってるの? 頭おかしいんじゃないの?」 泣きながらそう言った。 あの男はいつもそう言うんだ。 デイモンがいなくなると、いつもデイモンは死んだって、受け入れろって言う。 まだ生きてる、デイモンが見えるんだもん、一緒にいるんだもん、どうしてデイモンが死んでるって言えるの?
「エレラ、デイモンがいなくなってから二年経ったんだよ。 受け入れなきゃ」 男がそう言うから、あたしは男を見た。 男もあたしみたいに泣いてる。 なんで泣いてるのか分かんないけど。 男の目には悲しみが見えるし、寂しさも見えた。 でも、なんで悲しいのか分からなかった。 誰なの? なんであたしみたいに傷ついてるの?
「エレラ、あなたは誰かに治してもらわないと。 あなたのお母さんがあなたを恋しがってる」 男の言葉に、あたしはハッとした。 男の顔をじっと見て、表情を観察した。 お母さんがあたしを恋しがってるの?
「病気でもないのに、なんで治さなきゃいけないの?」 笑いながらそう言うと、男は悲しそうに見ていた。
笑って、あたしは隅っこに目を向けた。 笑いが消えていって、最後には泣いていた。 こんなの嫌だ。何度も何度も。 デイモンがいなくなるたびに、一緒にいる男はいつもデイモンはいない、受け入れなきゃって言う。
デイモンには怒りたい。いつもこの男のためにあたしを置いていくから。 でも、デイモンを見ると、抱きしめてあげたくなる。
「エレラ」 一緒にいた男が呼んだ。「少し休みなさい」 そう言って、いつの間にか男はあたしの近くにきていて、腕に何かを注射された。 力が抜けて、倒れそうになった。
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ゲイザーの視点
「大丈夫だった?」 ゲイザーはエレラの部屋を出ると、ハバッコに聞かれた。 ゲイザーは首を横に振った。 エレラはまだ元気じゃなくて、ここから出すことはできそうにないって意味だ。
デイモンの死刑執行から2年後、あたしたちはエレラを歩道で見つけた。 すごく汚くて、正気を失ってた。 ハバッコとあたしたちが見たときには、敵の子どもを抱えてた。 デイモンの死刑執行後、エレラと会うのはあの時だけだった。 あんな状態になってるなんて、探さなかったら分からなかった。
病院に連れて行ったとき、医者はトラウマとストレスだって診断した。 エレラはすごく痩せてた。 その後、精神科医に見てもらったら、デイモンが死んだのを見てトラウマになったことが分かった。 エレラの状態は悪くなる一方で、2週間後にはPTSD、つまり心的外傷後ストレス障害って診断された。 精神科医はいつもエレラの症状を見てた。 1ヶ月経つと、病気はどんどん悪くなっていった。
姿を消したり、幻覚を見たり、ご飯は一回しか食べなかったり。 それから、エレラがどれだけデイモンを恋しく思ってるか、あたしたちは知った。 あたしたちは、エレラがデイモンを思ってる気持ちを知らなかった。 デイモンもエレラのこと好きだったんだ。 デイモンに会ったとき、デイモンは感情のない冷たいやつだったから。
それから2年経っても、エレラは何も変わらなかった。 ずっと消えたり幻覚を見たりしてる。 一番酷いのは、薬をあげるたびに、エレラはあたしたちとデイモンを見てるんだ。 エレラのお母さんが来て、心配そうだった。 息子がどうしたのか、なんでそうなったのかって聞いてきたけど、あたしたちは答えられなかった。 エレラがそんな状態だったことしか言えなかった。 デイモンの名前を言ったら、お母さんは怒るだろうから。 お母さんはデイモンに何があったか知ってる。
国中の人が、何が起きたのか、デイモンの事件はどうなったのか知ってる。 死刑に反対する人もいたし、死刑でいいって言う人もいた。 デイモンは罰を受けたんだから、せめて罪は償ったんだって。 そんな言葉を聞くたびに、あたしたちはイライラした。
今まで、デイモンに何が起きたのか、あたしたちにとっては辛かったけど、時間が経つにつれて、ハバッコとあたしたちは少しずつ受け入れてきた。 エレラを助けてあげなきゃって思うようになった。 デイモンは、一番好きな女の子を助けもしなかったら、怒るだろうから。
デイモンがいなくなってから、アティの相手側の弁護士から手紙が来た。 デイモンの事件のミエルダ。 その弁護士はデイモンの弟のショーンだって知った。 ショーンはデイモンを怖がって逃げ出したから、それから連絡はなかった。 あたしたちが会ったのはそれが最後だった。 ショーンの2。
ショーンがくれた手紙には、あたしとハバッコの名前が書いてあった。
ゲイザー、ハバッコ。 これを読む頃には、俺はもういないだろう。 ショーンを頼ったのは、彼しか信用できなかったからだ。 裁判が始まる前に、ショーンには全部話した。 ミエルダには言わなかったけど。 伝えたら、あの人は俺を刑務所から出す方法を探すだろうし、出たらドラコに殺されるから。 罪を告白して死ぬ方が、地獄で魂が燃え尽きるよりいい。
エレラのことを見守ってほしい。 最後の息を吐くまで。 できるか分からないけど、君たちならできると信じてる。 頼んだよ。 ゲイザー、小さい頃から俺のこと信じてくれたよな。 俺の言うこと全部信じて、チャイとかアハズが出てきても怖がらなかった。 君のおかげで、ドラコで感じることができなかった兄弟みたいな気持ちになれた。
ハバッコ、君は俺たちに会って、昔一緒にミッションに参加したから、ゲイザーのそばから離れられなくなった。 だから、俺も困らせてごめん。 でも、ゲイザーと俺は、ショーンがまた一緒にいるように感じてたんだ。
二人には感謝しかない。 困ったことがあれば、いつも助けてくれた。 ショーンと俺は、俺が残すものについて話した。 全部君たちの名前をつけたから、新しい人生を歩んでほしい。 あああああ。
エレラ、彼女を困らせて、守ってやってくれ。 君たちみたいに、彼女も俺にとって大事なんだ。 地獄の門で待ってるから、また会おう兄弟たち。
~デイモン
デイモンがハバッコとあたしに残した手紙とは別に、ショーンはエレラのために手紙もくれた。 エレラはまだ、自分の状態のせいで読んでない。
ハバッコとあたしは、エレラが元気になって、デイモンが残した手紙を読む日を待ってる。
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三人称の視点
「エレラ」 エレラは鏡を見て、自分の姿を見た。 笑って、近くにあった櫛を取った。
「いつ出てこれるの?」 声が聞こえた。 エレラは笑って、長い黒髪を梳き続けた。
「もうすぐ」 エレラは笑顔で答えた。
「本当に?」 声が言った。「それとも、護衛の人たちのおかげで、また出られなくなるんじゃないの」 笑って、その声は言った。 すると、エレラの口元の笑顔が少しずつ消えていった。
「すぐに外に出るには、こうするんだよ」 また別の声が囁いた。
「殺して、鍵を奪って、外に出るんだ。 デイモンが外で待ってる」
「そうだよ、エレラ。 あなたは外でデイモンを待ってるんだ」
「わかった。 デイモンはまた出ていくんだ」
「出ていきたくないって言ってたのに?」
「それとも、臆病者だから出られないの?」
「あなたは臆病者なの、エレラ?」
「あなたは臆病者」
「ガハハハハ、エレラは臆病者だ」
「アハハハハ、無理」
「何やってんだ、やめろ!」 エレラは耳を塞ぎながら泣き叫んだ。
「あなたにはできない、臆病者」
「やめて!」 エレラは叫び、持っていた櫛を向かいの鏡に投げつけ、目の前の鏡を壊した。
「エレラ、どうしたの?」 エレラは部屋に入ってきた女の方を向いた。 白い制服を着ていた。 エレラはごくりと唾を飲み込み、後ずさった。
「チャンスが来たら、エレラ、ドアは開いてるよ」 声が囁いた。
「エレラ、近づかないで。 溺れちゃうよ」 女がそう言って、ほうきとちりとりを持った。 エレラはすぐに近くにあった鋭利なナイフを手に取り、後ろに隠した。
「エレラ、また聞こえる?」 女はエレラに尋ねて、床に散らばっている傷を掃きにエレラのところへ行った。
「殺して、すぐにドアから出て!」 声がエレラに囁いた。
「そう、デイモンが外であなたを待ってる」
「デイモン…」 エレラはデイモンの名前を口にした。 すると、女は掃くのをやめて、エレラの方を向いた。 エレラは恐ろしい笑顔を浮かべていた。
「デイモンは外で待ってるわ」 エレラはそう言うと、持っていた鋭利なナイフを取り出した。 女はエレラを怖がった。
「エレラ、それを置いて…」 女が言い終わらないうちに、エレラは持っていた鋭利なナイフで女の首を刺した。 血がエレラの着ている白いガウンと床に飛び散った。
「逃げろ、エレラ、デイモンが外にいる!」 声が囁き、エレラは笑顔で部屋を出て、エレベーターに乗った。
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「速報、精神病院から患者が今朝脱走しました。 昨夜、看護師の遺体が部屋で見つかり、施設の外には患者と警備員の遺体が複数、4人か3人以上が転がっていました。 セント・ジョセフ精神病院内で見つかった遺体。 そして犯人は、アウレラ・ドノバン、つまりエレラと特定されています。 写真の女を見かけたら、すぐに当局に連絡し、容疑者の最後の目撃場所に関する情報を提供してください。」
エレラは公衆便所に入り、すぐにドアをロックし、盗んだ服をカバンに入れた。
「エレラ、探されてるよ」 声が囁いた。 すぐに公衆便所の鏡に近づき、血まみれの自分の姿を見た。
「捕まっちゃだめ。 デイモンが待ってるんだから」 エレラは平然と言い、ポケットから血のついたハサミを取り出した。 すぐに少しずつ髪を切り、また鏡を見た。
「デイモンとあたし、お金を稼ぐんだ」 歌いながら言い、個室に入って、血のついた服を脱ぎ、血まみれの体を洗った。
「デイモンとあたし、またお金を稼ぐんだ」 シャワーを浴びながら歌った。
シャワーを浴びた後、服を着替えて、また鏡を見た。 綺麗になった自分を見て、笑った。
「デイモンとあたし、またお金を稼ぐんだ」 鏡を見ながらそう言った。
ニヤニヤしながら公衆便所を出て、何事もなかったかのように歩き続けた。
「デイモン、今行くよ」
~おしまい~