第31章
ドアのギシッて音で目が覚めて、席から立ち上がってハンさんの方を向いて笑ってみた。もうすぐ12時なのに、やっと出てくるんだもん。
「終わった?」って、手の甲で目をこすりながら聞いた。
「アンナ」って、ハンさんは膝に腕をついてかがんだ。「今夜は泊まらないといけないんだ」
私の笑顔は一瞬で消えた。「えー」
「先に帰ってゆっくり休んでなよ」って、ハンさんは私の頭を撫でてきた。
帰って…休む? 夜遅くに一人で運転するのは危ないからって、毎日仕事の後送ってくれるって言ってたのに。
今も危ないんじゃないの? もう遅い時間だし。
「ハリーに迎えに来てもらうように言うよ」って、ハンさんは笑った。
「ううん、大丈夫。タクシー呼ぶから」って、肩をすくめてハンさんには挨拶もせずに歩き出した。
…はあ? なんであいつ、あいつと二人きりでいなきゃいけないの? 私がワガママ言ってるのかもだけど、私が手伝ってあげられるからって泊めてって言ったのに、ララが泊まらせたがってて、ハンさんが一番私のことわかってるからって言ってたんだよね。
ふー…一番ってさ。
カバンを棚に投げつけて、靴を脱ぎながら「ご迷惑おかけします」って、ララの真似して「ハンさんが一番私のことわかってるから」ってつぶやいて、足を踏み鳴らした。
「バカ!」って、廊下で大声出して、深呼吸した。
キッチンに行って、お湯を沸かして、カップラーメンを三つとコーラを持ってきて、テーブルにドーン!って叩きつけた。テーブルに強く叩きつけたから、すごい音したけど。
三つのカップラーメンにお湯を注いで、全部食べた。
ダイエットのことなんか忘れちゃって、お腹を満たして落ち着こうとしたんだよね。
「落ち着け、アンナ。考えすぎだって」って、パジャマに着替えてベッドに倒れ込んだ。「寝たら落ち着くよ」って、お布団を顔にかぶって、そのまま寝ちゃった。
朝ごはんを食べて、元気よく家を出たんだけど、ハンさんの家のドアが閉まってるのを見て、笑顔が消えちゃった。
…まあ、いいんだけど。
タクシーを呼んで会社に行った。エレベーターから出て、ハンさんのことなんか気にせず自分のキャビンに入った。
メッセージの一つもくれないなんて、あいつ、あいつのことばっかりなの?
ハンさんのこと探すのはやめようって自分に言い聞かせながら席に座ったら、テーブルにミルクティーのパックがあるのを見て、思わずニヤけてしまった。パックを取って、ハートの付箋を剥がして、下唇を噛みながら読んだ。
「おはよう、可愛い子ちゃん」
「…まあ、許してあげる」って、付箋を自分の手帳に挟んだ。
お昼休みになって、ハンさんが自分のオフィスに入っていくのが見えた。朝からずっと会議に出てて、今やっと会社に来たみたい。私を見て笑って、手招きするから、私も笑顔でオフィスに駆け寄った。
よく言うよね。「恋は人を狂わせる」って。
ハンさんの前に立ったら、いきなり抱き寄せられて、キャー!って声が出ちゃった。恥ずかしくてハンさんのシャツを掴みながら見上げた。
「会いたかった」って、ハンさんが近づいて囁いた。
「そうなの?」って、疑わしげに眉毛を上げて聞いた。
「もちろん」って、もっと近づいてくる。「君に会うまで、僕の魂は死んだままなんだ」って、私の首に頬を寄せて、痕をつけてくるから、顔が赤くなって、ハンさんのシャツを強く掴んだ。
ハンさんのオフィスのカーテンがいつも閉まってるのは、本当に助かる。
ハンさんは体を離して、私を真っ直ぐ見て「送ってあげられなくてごめんね」って、残念そうに言った。
「大丈夫だよ」って、ハンさんの頬を引っ張って、唇にキスをして、すぐに離れて、ハンさんの膝から降りた。
「上司をダメにしちゃいそう」って、ハンさんのテーブルに寄りかかってニヤニヤ笑った。
マジかよ…こんなことになるとは思わなかった。
ハンさんは立ち上がってネクタイを緩めて、白シャツの上のボタンを二つ外して、前に一歩出て、テーブルに腕を置いて、私の顔に近づいて「もうすでにダメにしてる」って、低くてハスキーな声で言った。
近づいてくるから、目を閉じたら、唇が触れそうになったところで、ハンさんの電話が鳴って、すぐに離れた。
テーブルの上にある電話に目をやると、私の笑顔は消えてしまった。またララだ。
ハンさんは電話に出て、私は腕を組んでオフィスの周りをウロウロした。
「やあ」って、電話をテーブルに置いてパソコンに向かって「仕事の後、家まで送れないんだ」
「病院?」って、立ち止まってハンさんを見つめた。
「うーん」って、メールを打ちながら唸った。
「私も行く」
指を止めて、ハンさんは私を真っ直ぐ見て「いいよ」って笑った。
ララの必要なものを買いに買い物に行って、私はハンさんが電話でずっと話してるから、運転中はずっと黙ってた。
冗談でしょ、病院に行く前に話せばいいじゃん。
携帯を取り出して、フルーツニンジャで遊んだ。切るフルーツ全部、ハンさんのつもりで。
恋人がいるのに、どうすればいいのかわからないの? 特に、前に付き合ってた人がいて、あいつのこと好きな女の子がいるのに。