吸血鬼退治、荒くれもの(ハン・フォン・リン・ユエ)
ウェッジ
吸血鬼ってのは15世紀のヨーロッパで生まれたんだって。遺伝子の病気だって言う人もいれば、毒だって言う人もいるし、人間が変異させたんだって言う人もいる…とにかく、なんであいつらが現れたのか、本当の理由は誰も知らないんだよね。
唯一確かなのは、21世紀になった今じゃ、見た目は普通の人間と全然変わんなくなって、俺らの周りに普通にいるってこと。鋭い牙とか燃えるような目とか、そういうのを見せない限り、誰にも見抜けないんだから。
吸血鬼がいれば、当然、それを狩るやつらもいるわけで。人間の安全を守るために生まれたのが、吸血鬼ハンター。あいつらは特別なエネルギーを持ってて、それを子孫に受け継ぐことができるんだ。
交通とか通信とかが発達して、世界中のハンターたちが連携するようになって、ハンターのグループがいっぱいできたんだよね。
その中でも、「ファルコン・グループ」ってのは世界最大級の国際的なハンターグループ。依頼は絶対断らないって言われてて、「ファルコン・グループ」には3人の責任者がいるらしい。
ファルコンのボス、ユー・クエ。通称「アイス」。あいつはモモの中で冷酷だって有名で、敵と対峙したら容赦なく殺す。
ファルコンのナンバー2、ビ・エユ。通称「ストリーム」。あいつはすごく優しくて、冷静で、あまり力を使わないで、頭脳プレーで敵を倒すんだ。
ファルコンの長老、ルー・シーア。通称「ファイア」。あいつはマジで情熱的ってのもあるんだけど、一番はキレやすいからで、あいつを怒らせたらマジでヤバいらしい。
M市のイェフーホテルってロビーに、冷たい目をした男が現れて、ちょっとした騒ぎになった。
そこは吸血鬼ハンター御用達のホテル。ホテルのスタッフは色んな変なやつらを見てきたけど、あんなにイケメンは初めてだって。思わず集まってヒソヒソ話してた。
その男、キリッとした顔つきで、整った顔立ち。ちょっとだけドSっぽいイケメンで、背も高くてガタイもいい。気品も漂ってて、レストランで飯食ってる小柄なおっさんとは対照的だった。通りすがりの客とかスタッフも、ついつい目で追っちゃうよね。
男がフロントに行って、身分証明書出して宿泊の手続きをしようとした時、受付の人が「お客様、場所間違ってませんか?ここはハンターのホテルですが…」って聞いてきたんだ。
「間違いない」
困惑しながらも、受付の人は空き部屋がないか確認しなきゃいけなくなった。「お客様、お部屋は503号室になります。ルームキーです」
色んな人に慣れてるのに、イケメンは珍しいから、受付の人は話しかけてきた。「ラッキーですね、お客様、これが最後の部屋なんです」って愛想笑いしてた。
お礼を言われると思ったのに、男は無表情でルームキーを掴んで、振り返りもせずに去って行った。
イケメンはイケメンだけど、残念ながら冷たすぎ。まるで氷みたい。
男が503号室に入った瞬間、なんか変な感じがした。この部屋、なんかおかしい気がするんだけど、どこがおかしいのか全然わかんない。
考えすぎかな?
気を取り直して、男はカバンから一枚の紙を取り出した。今日の任務が書いてあるんだ。
イェ・リン。女。1000歳。ハンターの血を吸うのが得意で、今まで何千人ものハンターを殺してる。
イェ・ジュ。男。1500歳。処女の血を吸うのが得意。あいつが現れたら、子供は誰も生き残れない。
これまで、この2人の吸血鬼の兄妹はハンターの標的だったんだけど、居場所が秘密主義で、今まで誰も倒せてないんだ。「ファルコン」は、その居場所を見つけるためにめちゃくちゃ苦労したんだって。
ユー・クエの手が、持ってる紙を無意識に握りしめた。あいつは必ず、兄妹を殺して、死んだ仲間や子供たちのために、正義を貫かなきゃ。
新月がカギみたいに細く輝いて、霧がかった月明かりの下で、2つの影が空中で戦ってる。闇の中、見えるのは、2組の邪悪で燃えるような目と、風になびく黒いマントだけ。そう、あいつらはイェ・リンとイェ・ジュだ。
「なんでここにいるってわかったの?」イェ・リンが聞いた。
「お前の親父のエネルギーを俺に素直に渡した方がいいぞ。どこに逃げても、俺はお前を見つけ出す」イェ・ジュの目がさらに冷酷になった。
「無理」
「かわいい妹よ、なんでそんなこと言うんだ?どうせ、お前は親父のエネルギーを使えないんだし。持っといても、苦しむだけだろ。俺も、お前のこと思ってるんだ」イェ・ジュが優しく妹を諭した。
「ふーん、優しいこと言うね。私のためにだって?全部あんたのせいであんなに苦しんでるのに!マジで感謝だよ!」ふざけんな!
「素直にならないなら、兄貴が容赦しなくなるぞ」
イェ・ジュが突然手を伸ばして、鋭い爪をイェ・リンに向かって放った。イェ・リンは横に避けて、攻撃をかわした。イェ・ジュの次の攻撃がすぐに始まり、イェ・リンは徐々に不利な状況になっていった。
道を歩いていたユー・クエは、吸血鬼の匂いを嗅ぎつけた。すぐにその匂いのする方向に走り出した。
吸血鬼は、エネルギーを使ってない時は普通の人間と変わらないんだけど、エネルギーを使うと、ハンターはその匂いを嗅ぎ分けて、正体を見抜くことができるんだ。ハンターの生まれつきの能力なんだよね。
ユー・クエが着いた時には、イェ・リンはイェ・ジュから掌底を食らって、弱々しく地面に倒れていた。
マジで、2人いるじゃん!これは、マジで楽勝だ!
ユー・クエは、懐から銀の弾丸がいっぱい入ったピストルを取り出して、2人の吸血鬼に向かって撃った。「大人しく降伏しろ!」
「小僧、余計なことすんな、お前は自分がどう死ぬかさえわかんなくなるぞ」イェ・ジュは簡単に弾を避けて、全く相手にしてない様子。ただのガキだと思ってんだな。
イェ・リンはさっき怪我したばっかりで、動きも前みたいにスムーズじゃなかった。ギリギリ弾を避けてたけど、弾が多すぎて、ついに一発食らってしまった。
ユー・クエは、彼女の弱点を見抜いたのか、イェ・ジュへの攻撃を緩めて、イェ・リンに集中攻撃し始めた。イェ・ジュも、まばらな弾を簡単によけながら、彼女に近づき、チャンスを伺っている。
逃げようとしたけど、隙が見つからない。最後の力を振り絞って結界を張って、弾を防ごうとした。でも、攻撃が激しくなるにつれて、結界はどんどん脆くなっていく。
やばい、早くどうにかしないと、死んじゃう。
彼女は突然、良いアイデアが浮かんで、少し離れたイェ・ジュに向かって叫んだ。「兄さん、今日は子供10人の血を吸うって言ってたじゃない?先に行ってて、私がここで足止めしてるから」
案の定、イェ・クエは、この言葉を聞いてすぐに攻撃をイェ・ジュに向け、唇をきつく結んだ。
イェ・リンは、ユー・クエの反応を見て、ニヤリと笑い、すぐに姿を消した。
ユー・クエの攻撃はさらに鋭くなった。ピストルをしまって、両手を合わせて印を結んだ。そして、強力な光の柱をイェ・ジュに向かって放った。
まさか、このガキにこんな能力があるなんて。イェ・ジュは数秒間呆然として、慌てて自分の身を守る結界を張った。でも、光の柱は結界を突き破って、イェ・ジュの体に突き刺さって、血を吐いた。
無理だと悟ったイェ・ジュは、イェ・リンの姿を探して、連れて行こうとした。
でも、どこにもいない。もう逃げちゃったんだ。
彼は、自分の邪魔をしたユー・クエを怒って睨みつけた。「この小僧、俺の邪魔しやがって、名前を名乗れ」
「ユー・クエ」
「ふん、そんな能力があると思ったら、有名な『アイス』だったのか!」イェ・ジュの笑顔は一瞬で険しい顔に変わった。「覚えてろよ、この恨み、必ず晴らしてやるからな」
また静かになり、広い夜空の下に一人取り残された。
ふん、逃げ切れると思ってるのか?お前には、もう誰かを傷つけるチャンスは与えない。
彼も、イェ・ジュの匂いを追って、追いかけた。
イェ・リンは自分の家に帰って、密かに安心した。今日はマジでついてない。でも、早く逃げたから良かった。そうでなければ、危なかった。
肩に刺さった銀の弾を無理やり出して、鈍い胸を抑えて、棺桶に入って傷を癒した。あのハンター、一体何者?あんなに強いなんて。これから気をつけないと。
胸の痛みがひどくなってきて、徐々に意識がぼやけてきた。
彼女は、優しい天使みたいなママを見た気がした。
ママは人間だったけど、吸血鬼と恋に落ちたんだ。それで、彼女、つまりイェリンは、人間と吸血鬼のハーフとして生まれたんだ。
イェ・ジュは、パパの子孫で吸血鬼。あの時、パパはママのことをまだ知らなくて、2人の結婚は、ただ家族を継ぐためで、愛ではなかった。パパとママが一緒になってから、パパは完全にそこにいた人たちとの連絡を絶ったんだ。
イェ・リンは小さい頃から、ママに色んな世話をしてもらった。毎日朝ごはんを作ってくれたり、学校に送り迎えしてくれたり。もちろん、特別な学校に通ってて、吸血鬼の基本的なスキルを教えてもらったんだ。
ママは賢い人で、彼女のために可愛いお姫様のドレスを縫って、毎日妖精みたいに着飾ってくれたんだ。
パパはいつもママをすごく愛してた。ほとんど外に出ないで、一日中ママと一緒に家にいた。ただママが家のことをしてるのを見てるだけで、一日中嬉しそうに笑ってた。
週末には、学校がない日には、パパが勉強を見てくれた。よくできたら、おもちゃを買って褒めてくれたんだ。
昔は、あの3人家族は毎日幸せに包まれてた。でも、それはイェ・リンが10歳になった時に変わったんだ。
あの日を、イェ・リンは絶対に忘れない。パパが家にいなくて、ママが遊園地に連れて行ってくれるって言ったんだ。人間と吸血鬼のハーフであるイェ・リンは、長時間太陽を浴びても大丈夫なんだ。
遊園地は人でいっぱいで、子供たちの笑い声が響き渡ってた。イェ・リンはメリーゴーランド、ジェットコースター、バンパーカー、巨大滑り台…ずっと楽しんでた。あの時は、喜びでいっぱいだったけど、数時間後にどんな残酷なことが待ち受けてるかなんて知らなかったんだ。
楽しく遊園地を出てきたのは夕方近くで、ちょっと暗くなってきてたから、タクシーを捕まえて家に帰ったんだ。
広々とした高速道路で、車は人気のない道を走っていた。
キィーッ!
突然、鋭いブレーキ音がした。
角から車が飛び出してきて、タクシーは止まりきれずに、それに真っ直ぐ突っ込んだんだ。
赤い色が目に広がって、衝撃的な赤色。ママの白いスカートが血で染まってるのが見えた。そして、イェ・リンは吸血鬼の力で守られてるから、無傷だった。ママの腕を必死に揺さぶったけど、反応がない。恐怖で震えながら、ママの冷たくなった体を抱きしめて、涙が溢れた。
ママを助けたいのに、何もできなかった。まだ小さすぎて、自分の力ではママの傷を治すことができなかったんだ。
どうすればいいのかわからずにいた時、パパが急いで駆けつけた。何かあったことに気づいて、すぐに2人を探したんだけど、一足遅かった。
パパは優しくママを抱き上げて、怖がってるイェ・リンを抱き上げ、すぐに家に戻った。
パパはすぐにママを癒したけど、ママの怪我は酷すぎて、出血多量でショック状態になってた。パパがくれたエネルギーは、ママを一時的に保つことしかできなかったんだ。
「リトル、大丈夫か?俺が助けてやればよかったんだ、な?今日、お前たちと一緒だったら、こんなことにはならなかったのに」パパはママを抱きしめて、罪悪感でいっぱいになった。
「違う、違うよ、ジュン・シャン、あなたのせいじゃないの。自分を責めないで。ごめんね、私はどうしても吸血鬼になりたくないの。わがままを許して。小リンのことは、これから頼むね」ママはパパの手を強く握った。パパは深くうなずいて、目にたまる涙を必死に堪えた。
それから、イェ・リンに手を伸ばして抱きしめて、優しく言った。「ママは、もうお前の面倒を見ることができないけど、これからパパの言うことを聞きなさい」
「嫌だ、嫌だよ、ママ、あなたと離れたくない」怖くて、イェ・リンはパパを掴んで言った。「パパ、ママを早く助けて」
ママはイェ・リンの手をパパの手の中に入れて、ゆっくりと目を閉じて、腕から力が抜けた。
「だめだよ、リトル…」パパは悲痛な叫び声を上げ、ママを強く抱きしめ、涙がとうとう溢れ出した。
彼は、可愛いイェ・リンを見て、仕方なく決断をした。
イェ・リンを自分の隣に抱き寄せた。「小リン、これから頑張って、自分のことを自分でできるようになるんだぞ。怖くないよ、ママとパパはいつもそばにいるし、ずっと一緒だからな」そして、もう一つの強力なエネルギーがイェ・リンの体に入ってくるのを感じた。パパの体がどんどん透明になっていく。
「パパ、どうしたの?」イェ・リンは嫌な予感がした。
「小リン、パパの言葉を覚えておけ。パパが与えたエネルギーは大切にしまっておけ。18歳になったら、それがお前の体に完全に融合する。普通の吸血鬼は、生まれたら親はほったらかすんだ。ママとパパは10年間一緒にいて、お前はもうすごくラッキーなんだ。これから強くなりなさい、パパは信じてるぞ!」
最後に、パパはイェ・リンを横に置いて、ママの体を抱き上げ、家のドアを開けて、最後の夕焼けに向かって歩いて行った。
空中で燃え上がり、炎が空の半分を赤く染めた。パパは、ママと一緒に生きて死ぬって約束したんだ。
イェ・リンが気づいて追いかけた時には、最後の炎は消えて、闇が世界を覆った。地面には、蝶の形をした輝く欠片が現れた。それは透き通っていて、かすかな光を放っていた。
「パパ、ママ」イェ・リンは泣きながら駆け寄った。欠片を拾い上げて、大切にしまい、これが両親が彼女に残してくれた最後の贈り物だったんだ。
そんな大きな変化の後、イェ・リンは崩れることなく、まるで一夜にして大人になったようだった。悲しみからすぐに立ち直ったんだ。パパがくれた力を自分のエネルギーと融合させようとした。なぜなら、これから自分で生きていかなきゃいけないって知ってたから、自分を強くしなきゃいけなかったんだ。パパも、彼女に自分の身を守ってほしいって思ってるはずだから。
でも、パパがくれた力は強すぎて、イェ・リンはまだ子供だから、一部しか使えなかった。
数日後、男女が来た。女はイェ・リンのおばさんのリン・ロンジアだって言ってて、男はイェ・リンの兄のイェ・ジュだって言ったんだ。彼らは、パパが死んだことを聞いて、パパの代わりに彼女の面倒を見に来たって言った。
彼らは、イェ・リンをあるお城に連れて行った。森の奥深くに隠されてて、木々の濃い影が太陽の光を遮ってて、その暗いお城は不気味に見えた。
彼らは、イェ・リンに客室をあてがったんだけど、そこには棺桶しかなくて、ベッドはなかった。イェ・リンは、吸血鬼は棺桶で寝るんだってことを知った。前は家にいたから、ママはイェ・リンを吸血鬼として育てたことがなかったし、パパもママに協力して人間の生活を送ってたから、棺桶で寝ることはなかったんだ。
お城に来たばかりの頃は、他の吸血鬼たちはみんな彼女と遊びたがった。だって彼女は人形みたいで可愛かったし、こんなに美しい吸血鬼を見たことがなかったんだって。でも、彼女が血を吸う必要がなくて、人間用の食べ物しか食べないって分かったら、彼女の正体を知ったんだ。つまり、人間と吸血鬼のハーフだってこと。それから、彼らは彼女を嫌うようになって、一緒に遊んでくれなくなったんだ。
あの時、たった一人、いや、幽霊だけど、彼女と遊んでくれたのが、兄だったんだ。
彼は、毎日色んな吸血鬼のスキルを教えてくれたり、イェ・リンをいじめる吸血鬼を追い払ってくれたり、お城の色んなところに連れて行って遊んでくれたんだ。あの頃は、両親を失った後で一番楽しい時間で、兄は彼女にとって一番信頼できる人になったんだ。
まさか、一番信頼してた人が、一番冷酷な人だったなんて、思ってもみなかった。