第2章
新しい家に車で8時間。着いた頃には、太陽は地平線に沈み始めて、空はオレンジ色とかピンク色とか、そんな色に染まってた。
夕焼けを見るのが、あたしはいつも大好きだった。あの景色を見ると、なんだか落ち着くし、すっごい幸せな気分になれる。何度見ても、いつも感動しちゃうんだよね。
ぼーっとしてたあたしは、誰かとぶつかってバランスを崩しそうになって、でもなんとか踏ん張って、舗装された歩道に着地した。普段からバランス感覚ないあたしにしては、ちょっと奇跡。
「ご、ごめん」
「大丈夫ー?」
あたしたちは同時にそう言って、それから笑った。
「引っ越してきたばっかりでしょ」 誰の声かなーって顔を上げたら、男の子だった。たぶん10代後半か20代前半くらい。栗色の髪は風になびいてるみたいだけど、それがなんかカッコよかったりする。
「なんでわかったの?」 あたしはちょっと笑いながら聞いた。「あたしのこと知らないから?それとも、家の外に止まってる引っ越しトラックのこと?」
彼はそれを聞いて、ちょっと笑った。「面白いね」 彼はまだニコニコしてる。いい笑顔するじゃん。「俺、エイベルっていうんだけど」 そう言って、挨拶で手を差し出した。
「ライラ」 あたしはそう言って、彼の手に自分の手を重ねた。
「それでさ…」 彼はそう言って、ジーンズのポケットに両手を入れた。「なんでここに?」
「お母さんの車」 あたしが言うと、彼はちょっとつまんなそうな顔をした。「わかんない。ただ、何か違うものを探してたんだと思う」 なんであたし、こんな見ず知らずの人に弁解してるんだろ。たぶん、引っ越しで疲れすぎちゃって、まともな思考回路になってないんだな。
「なら、それは正解だったって言っとくよ」 彼は言った。「小さな町だけど、みんなフレンドリーだし」
「ありがとう」 あたしは彼に笑いかけた。
「どういたしまして。じゃあ…また会う感じ?」
「もちろん。だって小さな町だしね。またね」 あたしはそう言って、彼は去っていった。あたしは、家の全体を見ることにした。前の家と大体同じくらいの大きさだった。
「ねえ、ちょっと荷解き手伝ってくれない?」 お母さんが家の中から呼んだ。
「あの人、誰だったの?」 家に入ったあたしに、お母さんは最初にそう尋ねた。
「エイベル。あたしを歓迎してくれただけだよ」
「あら、親切ね」
「うん」 あたしがそう答えて、頭を回した時、裏庭につながる引き戸の外側で、何かがキラキラしてるのに気づいた。プールだって分かったのは、プールに反射する光を見てから。あたしは、どれくらいの深さか確かめようと、注意深く周りを歩き回ったけど、入ってみないとちゃんと分からないことに気づいた。
「お母さん」 あたしはリビングに戻ってから呼んだ。
「なあに、ダーリン」
「裏庭にプールあるの知ってた?」
「知ってたわよ。一年中暑いから、いいかなって思って」 あたしは、自分の質問がどれだけ馬鹿げてるか気づいた。もちろん知ってた。
「なんで引っ越したのか、まだ教えてくれないよね。なんで急いでたの?」 あたしは、お母さんの口から聞きたかった。自分の勘が当たってるか、確かめたかったんだ。
「ライラ、あたしたちは今ここにいる。ここは前より絶対いいでしょ?そう思わない?」
ああ、やっぱり。なんで引っ越したのか、はっきりとは言わない。何度聞いても、お母さんは変わらない。
「まだ、はっきりとは言えないかな」
「あたし、この辺のこと調べたんだけど、ここに住んでる人たちはすごく親切だって」
「そうなんだ」
数時間後、ほとんどの作業が終わって、今日は終わりってことになった。あたしたちはキッチンのカウンターに座って、途中のレストランで買ったテイクアウトのご飯を食べた。
「近所の人たちに挨拶に行きたかったんだけど、疲れちゃって無理だから、明日でもいい?失礼な感じにはしたくないし」
「いいよ」 あたしは同意した。
お母さんとさらに話をして、それからおやすみって言って、自分の新しい部屋に行った。
あたしの部屋の壁は、パステルラベンダー色で塗られてて、部屋と同じ色のバスルームもついてた。
まだ服を片付けてなくて、部屋は色んなサイズの段ボールでいっぱいだった。あたしはため息をついて、スーツケースから洗面用具を取り出して、シャワーを浴びに行った。
シャワーをどれくらい浴びてたか覚えてないけど、出た時には、バスルームは蒸気でいっぱいになってて、指先はプルーンみたいになってた。
フランネルのパジャマに着替えて、新しく敷かれたシーツに潜り込んだ。移動中ほとんど寝てたのに、すぐに眠りに落ちた。
あたしは、廊下の奥、たぶんキッチンかリビングから聞こえるガチャガチャした音で目が覚めた。
また寝ようとしたど、無理だった。大きく唸って、すごく快適なベッドから出て、キッチンに向かった。お母さんが、カップとかお皿をキャビネットにしまおうとしてるところだった。
「おはよう」 あたしは、段ボールにうずくまっているお母さんに声をかけた。
「おはよう、ダーリン」 お母さんは答えて、それからあたしを見て、「よく眠れた?」
「うん。何作ってるの?」 あたしはそう言って、キッチンがパン屋さんの匂いがするのに気づいた。
「カップケーキ。近所の人たちに挨拶するんでしょ」
「忘れてないよ。朝ごはん食べてからシャワー浴びるね」
「早くしないと、カップケーキもうすぐ出来上がるから、アイシングを手伝ってほしいの」
シャワーを浴びて、快適な服に着替えてから、あたしはお母さんのカップケーキのアイシングを手伝って、それぞれタッパーウェアに入れた。すぐに、あたしたちはドアから出て、隣の家に向かった。
お母さんがノックして、あたしはタッパーウェアを持って横に立っていた。1分くらいして、60代くらいに見える女性が出てきた。
「やあ、こんにちは」 彼女は満面の笑みで挨拶した。
「こんにちは」 お母さんもさらに明るい笑顔で答えた。「私の名前はクラリッサ。こっちが娘のライラ」 そう言って、あたしに手を振ったので、あたしはちょっと笑顔を見せて、挨拶で手を振った。
「あら、あなたたちが新しいお隣さんね。私の名前はポーリーヌ。どうぞ、入って」 彼女はドアを大きく開けて、歓迎するように手を振った。
ドアを開けると、オープンキッチンのリビングエリアだった。天井にはむき出しの梁があって、白く塗られてて、天井自体はレッドウッドみたいな色で塗られてて、美しいコントラストになってた。リビングエリアの中央にはファンがぶら下がってた。ソファは淡いグレーで、ラブシートの上には、ターコイズのブランケットがかけられてた。白いラグが、リビングエリアの中央にあるハードウッドフロアに敷かれてた。
全体的に、居心地の良い雰囲気だった。
「どうぞ、ゆっくりしてください」 彼女はそう言って、あたしはお母さんの隣のラブシートに座った。
「ごめんなさい、忘れかけてた。これ、持ってきました」 お母さんが、あたしが持っていたタッパーウェアを渡した。
「まあ、本当にありがとうございます」 ポーリーヌは言ったけど、お母さんが気にしないでって言ったから、受け取った。
ポーリーヌは、クッキーとレモネードが入った瓶を持ってきて、テーブルに置いた。
「どうぞ、召し上がってください」 彼女はそう言って、すぐに、彼女とお母さんは、何についてかはさっぱりだけど、深い会話を始めた。
あたしは、裏庭が見える床から天井までの窓の外を見ていたんだけど、プールがあることに気づいた。よく見たら、プールの中に、ちょっとぼやけた人影があった。
「あれは私の孫なの。あなたと同じくらいの歳よ」 ポーリーヌは、あたしが何というか、誰を見ていたかに気づいて言った。あたしは彼女を見て、見られてて恥ずかしくなった。「挨拶に行ってもいいわよ」 彼女は続けた。
「別にいいの。たぶん邪魔されたくないだろうし」 あたしは彼女にそう言った。
「バカ言わないで、気にしないわよ」
「そうよ、ダーリン。失礼なことしちゃだめよ」 お母さんは、最悪のタイミングでそう言った。あたしはちょっとぎこちなく頷いて、引き戸を通って行った。
もう、ここにいるのを後悔してた。
あたしは、ポーリーヌの孫が出てくるのを、プールから1、2メートルくらい離れたところで待って、プールの周りを見ていた。そこには、鮮やかな色の花が飾られててー
「お前は誰だ?何してるんだ?」 後ろから、低い声がした。