第32章
廊下を歩いてたら、なんかみんな変な顔してんだよね。
気にしないフリして、ロッカーに教科書しまいに行ったんだ。
「ほーら、言ったでしょ?」
胸おさえてびょーん!って跳ね上がったら、犯人は、マリーンだった。
「まったく…かわいそーに。」
そう言って、下唇突き出すんだ。「あたしみたいに、いい子ちゃんぶってないで、あたしの言うこと聞いてれば、こんなことにはならなかったのにねー。なのにさー、意地っ張りなんだから。」
ケタケタ笑って、ヒールをカツカツ鳴らして去ってった。
お昼前までの授業中、ずっと噂話が聞こえてきてさ、全部「ライラとオーウェンの浮気」の話なんだよ。聞いててマジでムカついた。
「よお。」
見たら、ダスティンのいつもの顔。
「やあ。」
ニヤって笑った。
お昼休みになって、噂話聞きたくなくてベンチに座ってたんだ。
「ここ、空いてる?」
首振って「うん。」
隣に座って、沈黙。
「もしかして、ざまあみろって言いに来た?」
チラッと見たら、ちょっと傷ついた顔してる。
「なに?」
「ほら、オーウェンのこと散々忠告してくれたのに、あたしはあなたが間違ってるって信じてたじゃん。」
ダスティン見上げて。「やっぱりあなたが正しかったってことだし。だから、ほら、ざまあみろって言うんでしょ?」
ちょっと自嘲気味に笑って、首を振る。「まさか、そんなこと考えてると思ってなかった。」
なんか言葉選ぶみたいに頭下げて、俺の方に向き直った。「ライラってさ…マジで、やばいぐらいすごい人なんだよ。ほんと、信じてくれ。お前が辛いのは、見てて辛いんだ。だから、なんでそんなこと言うのかわかんない。」
俺の手を握って、優しく握った。「お前のこと、大事に思ってる。ほんとに。忘れんなよ。」
そう言って、優しく手を離して、どっか行っちゃった。
**********
「家に帰りたい。」
ケイトが外で座ってるあたしを見つけて言った。
「ねえ。見て。」
見たら。「あんたはめっちゃ強い子なんだから、あんなクソ野郎と付き合う価値なんてないんだよ。もっといい人がいるよ。」
「でも、噂聞いた?」
「ここは高校なんだから、みんな面白がってるだけだよ、どれだけバカげてることでも。だから、気にしないの。」
「ランチ行こ。」
「でも、あたし、誰かの娯楽になりたくないし、お腹も空いてない。」
ってボソッと言った。
「いやいや、それでも倒れる前に、なんか食べとけ。」
「あいつらに会いたくない。」
「じゃあ、見なきゃいいじゃん。恥ずかしいのはあいつらの方なんだから。あんたじゃない。さあ、行くよ。胸張って。」
あたしの手を掴んで、ちょっと強引に食堂に向かった。
入った瞬間、視線が全部あたしに集まってるのを感じた。平静を保って、アイコンタクトしないようにしたんだけど、なぜか何ヶ月も使ってたテーブルを見てしまった。
目をそらそうとした時、マリーンと目が合ったんだ。満足げにニヤリ。その時、彼女が座ってるものに気づいたんだ。いや、誰が座ってるかに。
「じーっ!」
ケイトが小声で怒鳴った。
目をそらしてランチを買って、リンゴと水だったんだけど、ケイトのテーブルに行ったんだ。そこには一人しかいなかった。
座って、今週なんでこんなに良いスタート切れたのに、急に最悪になったのか考え始めた。
早く終わってほしい、マジで。
「あら、ダスティンちゃん。」
マリーンの、鼻にかかった高い声がした。
「それ、地声じゃないんだよ。一回電話で話してるの聞いたけど、声高くなかったし。むしろ、普通の声なんだよ。」
ケイトが言った。
「何で負け犬といるのよ。言わないで、言わないで。」
話しかけるのを止めるように、手を上げた。ニセモノの熱意で。「負け犬気分味わってるわけ? ダメだわー、ダスティンちゃん。優しすぎるんだから。うーん、古着で我慢とか、ありえなーい」
「もう、いい加減にしろ!」
ダスティンは椅子をガタガタさせて立ち上がり、マリーンの腕を掴んで食堂から連れ出したんだ。その間もマリーンはニヤニヤしてたけど。
**********
ゴミ箱に、ちょっと強めにプラスチックを捨てた。
なんか、この日はさらに最悪になったんだ。授業中に寝ちゃって居残りだし、みんな帰った後、ゴミ拾いしなきゃいけないし。
割れたガラスを拾おうとしたら、手が当たって、血が出始めた。
「手伝おうか。」
「いらない。」
誰か見なくても分かった。
手が届きそうになったから、振り払った。
「触らないで。」
彼を睨んで、水道の方に行って、血が出てる手を洗った。
「なんでそんな怒ってるのか、わかんない。」
左肩をすくめた。「あたしが本当のこと言ったんだから、喜ぶべきでしょ。」
彼を睨んだ。
「ほら、お前には愛してくれる人が必要だろ。あたしには無理だけど。でも、常にお前のこと見てる奴がいるんだ。」
「ほっといて。」
「あたしが正しいって、お前も分かってるだろ。」
彼が去るのを見ないで、手の傷を洗ったんだ。
エピローグ
「やあ。」
後ろから抱きしめられて、首に頭を乗せられて、ちょっと笑って彼の方を向いた。
「やあ。」
彼の腰に腕を回した。
「なに?」
彼がしてる顔見て笑った。
首を振って「何でもないよ」って言ってるみたいだった。
手を上げて、手の甲で頬を撫でた。一回、二回。それから、優しくキスした。
何回キスしても、あの時の気持ちには敵わない。
「ちょっと、二人とも。人前だってこと、忘れんな。」
「ケイト。いつも邪魔するよね。」
「黙ってて。」
一緒に過ごすようになった日のこと、はっきり覚えてる。
オーウェンが居なくなって、居残りになった日のすぐ後だった。
傷の手当てが終わって、家に帰ろうとしたら、ケイトは先に、彼氏に会いに行ったんだって。
スマホ出して、お母さんに迎えに来てもらおうとしたら、留守電。「やば。」
何回かかけてみたけど、ダメだった。
そしたら、まだ学校に残ってる生徒がいたんだ。部活かなんか。
手が痛くて、顔をしかめた。
「血が出てるじゃん。来いよ。」
ダスティンはあたしを水道に連れて行って、手を水に当てて、何か取りに行ったんだ。
戻ってきたら、救急セットを持ってた。
「いい?」
手を出したら、ガーゼで止血してくれた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
何か言おうとした時に、スマホが鳴った。
「ライラ?ごめん、電源切れてた。何かあった?」
「うん。迎えに来てくれる?」
「今、学校のすぐ近くにいるよ。」
「じゃあね。」
「送ってあげればよかったね。」
「学校にいるなんて、知らなかったし。」
その時、オーウェンの言葉を思い出したけど、すぐに振り払って、駐車場に向かったんだ。
**********
ラジオで流れてる歌に合わせて歌ってたら、チャイムが鳴った。
誰も来る予定なかったし、お母さんもいないし。ドアを開けたら、ダスティンのいつもの顔。
「ダスティン、何してんの?」
「映画でも行かない?」
「えっと…デート?」
「いや。」
って答えて、咳払い。「いや、別に、ただの友達みたいな感じで。わかる?」
「うーん…無理。」
あたしの答えに、顔がしょんぼり。「そっか。」
って言って、もう帰ろうとしてた。
「でも、入ってってもいいよ。ちょっと、お母さんいないから、家にいなきゃいけないんだ。」
その日、一緒に映画を見たんだ。二人の関係も、ちょっとだけ緊張がほぐれた。でも、心はガードしてたよ。でも、ケイトとの話で、人生の良いところ、ネガティブな部分じゃなくてポジティブな部分に目を向けるようになったんだ。
数ヶ月後、ダスティンはデートに誘ってくれた。
デートの夜、ビーチに行ったんだ。最初はちょっと疑ってたんだ。何でこんなとこ連れてくるんだろ、って。
後で、あたしの顔見て、泳がないからって言って安心させてくれたんだ。夜は、ジャケット着ててもちょっと肌寒かった。
「今夜は、こんなに寒いとは思わなかったな。」
「全然平気。」
って答えた。
砂浜にブランケット広げて、座って、手作りの美味しいご飯食べてたら、雨が降ってきたんだ。
「何が起きたんだ?確認したんだけどな。今日は晴れるはずだったのに。」
あたしは、彼が慌ててるのを見て笑いたかったけど、やめて、代わりに、ピクニックバスケットに全部詰めるのを手伝った。
彼はため息をついて、車に乗ったんだけど、あたしは外に立ってた。
「早く、風邪ひくぞ。」
って言ってたけど、あたしはただそこに立って、空を見上げてたんだ。
彼はあたしのとこに来た。
「風邪ひくぞ、って言ったけど。」
って、ちょっと笑いながら言った。
「これ、あんたの計画?」
ちょっと混乱した顔して、「何?」
「ほら、あたしをここに連れてきて、雨の中でキスするっていう?」
その時には、彼はあたしの前に立ってて、あたしの額に自分の額をつけて、左手であたしの頬を触ったんだ。
「ただ…」
って言い始めて、親指で頬を撫でてくれた。「あたしを愛させて。」
胸がドキドキしてて、耳の中で血が流れる音が聞こえる気がした。震えながら、うなずいて、イエスって言おうとした時、彼の唇が触れたんだ。
アドレナリン、緊張、雨、全部で体が震えてたんだ。
彼の唇はゆっくりとあたしの唇に重なって、キスを通して、全部伝えてくれるみたいだった。あたしは手を伸ばして、彼の濡れた髪を撫でて、声に出せない気持ちを伝えようとした。でも、人間だから、空気が欲しくなってキスを止めたんだ。
彼はあたしの目を見て、二人ともニヤニヤしてて、抱きしめあったんだ。笑いが止まらなかった。
それから、ダスティンと何回かデートして、5年経っても、まだ恋人同士なんだ。
おしまい。