第41章
ザナヤのPOV
「え?」
セトが三回も着替えろって言うから、ため息が出ちゃった。
もう出かけるの、嫌になってきた。
てかさ、セトってあたしの服のチョイスにこんなうるさい人だったっけ?
あたしは、東京が隅でクスクス笑ってるの見て、顔をしかめた。
「ザヤ、デートだってのはわかるけどさ、二人はアーティストでしょ。人の中に溶け込まないと。セクシーな服は二人が世界公認になってからにしなよ」って東京がからかってきた。
「何が悪いのよ、あたしの着てるやつ」ってあたしは睨んだ。
あたしは黒のショートパンツにクロップドトップスを着てた。
「めっちゃ可愛いんだけど、ショートパンツだと目立っちゃうんだよ。ロビーから出た瞬間、ファンに見つかるよ」ってセトが当然のように言うから、あたしはそれに同意してる東京が嫌だった。
着替えるために部屋に戻る前に、彼の方を向いて睨んだ。
「あたしの服のこと、もう二度と言わないで。あたしは着たいものを着る。それに、着替えるのはあんたがそう言ったからじゃないからね」って言ったら、彼は頷いた。
彼は両手を上げて降参した。
「わかった、わかった。でもあんまり露出が多いのはやめてね。あたしを見てるやつ、殴りそうになるかもしれないから」って彼は言ってきて、あたしの頬は彼の言葉で赤くなった。
セトはあたしが露出の多い服を着るのは好きじゃないんだよね。放送で短いドレス着てるのにさ。
でも、たぶん、ちょっと過保護なんだろうね。あたしが何を着るか、コントロールできないってことはわかってるみたいだし。あたしをコントロールしちゃだめだよ。
あたしは部屋に戻って、マックスからもらった白のグッチのブラウスを黒いパンツにインして着替えた。
大きな黒いパーカーとピンクのキャップ、マスクを手にした。
部屋から出たら、東京が携帯電話でぴょんぴょん跳ねてるのを見て、眉をひそめた。
「あいつ、なんなの?」ってセトに聞いたら、彼はただ「グレイ」って口パクしただけ。
あたしは彼の反応に笑っちゃった。
東京の突然の行動に、彼はすごくビビってるみたいだった。
彼の隣に立って、東京に聞こえないようにこっそり囁いた。
「グレイの番号、あげちゃだめでしょ。あいつ、キレるよ」
「おい、東京!グレイに番号教えたの俺だって言わないでね?あいつ、ちょっと怖いんだから」ってセトはぼそっと言った。
数分後、あたしたちは二人で、バカみたいに携帯で笑ってる東京を後にした。
セトはあたしのパーカーとマスクを直して、あたしに微笑んだ。
なんでかわからないけど、彼の目は少し悲しそうだった。
何か隠してるのかな?
あたしは無意識に彼の顔を包んだ。
「何かあったの?」って少し心配になって聞いた。
彼は首を横に振って、あたしを見て微笑んだ。
「今日はデートを楽しもうよ」
そう言って彼はマスクとキャップをかぶった。
あたしの左手を取って、すぐにロビーから歩き出した。
何人かがあたしたちを見ていたけど、もう暗いし、外にはあまり人がいない。
あたしたちはタクシーに乗って、見慣れない場所に向かった。
三十分ちょっと経つと、あたしたちは屋台がたくさんある場所にたどり着いた。
ここは市場みたいだ。
彼は興奮したようにあたしを引っ張って、数分後、角を曲がると、ある屋台にたどり着いた。
中に入ると、あまり人がいないことに気づいた。
彼は奥のテーブルに案内して、おじいさんがついてくる。
「お、セト、久しぶり」って挨拶して、セトはマスクを外して微笑んだ。
「だよなー。ここのご飯、食べたかったんだよね」
おじいさんは三十代半ばくらいに見えた。
「彼女も一緒なんだな」って言って、あたしは挨拶するためにお辞儀をして、マスクを外した。
「可愛いだろ?」ってセトが言うから、あたしは少し顔を赤らめた。
「可愛いよ。お前はラッキーだな」って彼はセトの肩を叩いて、数分後、あたしたちの食べ物がテーブルに運ばれてきた。
美味しそう。
あたしはセトを不安そうに見つめた。
「本当に大丈夫?何人か、あたしたち見てるよ」って言ったら、彼はただ微笑んだ。
「気にすんなって。俺たち、もう4年近くここで食べてるし、周りの人はあんまり気にしてないから」って彼は安心させてくれた。
ここのご飯はすごく美味しかった。なんだか、アジュンマのレストランを思い出すんだよね。同じように穏やかな雰囲気で、落ち着くんだ。
「大好きな場所に連れてくって言ったでしょ。実は、ここは俺が一番好きな場所の一つなんだ。全部ザナヤに見せたかったんだ。俺がどんな風に過ごしてきたか、練習生の頃から、今みたいにアイドルになってからも、知ってほしいんだ」って彼は言って、なんだか温かい気持ちになった。
「お互いのことを知る機会、なかったからさ。この一年、ザナヤのこと嫌いになろうとしてた自分が、すごくバカみたいに思えてくるんだ」って付け加えた。
ほんと、その通りだよ。
結婚してから、デビューのステージを収録するまで、会うことなかったんだもん。
あたしをもっと知りたいって言ってくれるのは、嬉しい。
それから、ある考えが急に頭に浮かんだ。
「あたしに名前で呼びかけてきたメッセージ見たとき、どれだけ嫌だったか、知ってる?」ってあたしは彼をからかったら、彼は顔を赤くした。
ほんと、可愛い。
「酔ってたんだよ!」って彼はむくれた。
食べ終わったら、セトがお勘定を払った。
路地を手をつないで歩いてて、こんなに幸せな気持ちになったのは初めてだった。
あたしたちは普通のカップルみたいで、それが大好き。
角の屋台で立ち止まって、おでんをいくつか買った。
そして、普通のカップルみたいに、あたしは彼のからかいに笑いながら、お互いに食べさせ合った。
「二人、すごくお似合い」って売ってるおばあさんが微笑んでくれたから、感謝してもしきれない。
マスクしてなかったのに、あたしたちだって気づかれなくてよかった。
彼の携帯が鳴ってるのに気づいた。ちらっと見たら、知らない番号だった。
彼は電話に出る時、眉をひそめてたけど、あたしは気にしなかった。彼のプライバシーは尊重しないとね。
魚のケーキのスタンドの向かいにあるカフェに気づいて、あたしは飲み物を買ってこようと、彼がまだ電話で話してる間に合図した。
彼は少し怒った顔をしたけど、あたしは肩をすくめただけ。
マスクで顔を覆って、カフェに入った。
中にはあまり人がいなかったけど、レジの人がイライラした顔をしてた。
「キャラメルフラペチーノ、2つください」って注文したら、その女性は眉を上げた。
あたしをじっと見て、「なんか見覚えあるんだけど」って言った。
声でバレたら嫌だから、あたしは何も答えなかった。
「BPの女の子にそっくりだけど、あなたじゃないと思うわ。あの子は生意気そうな子で、こんなとこには来ないでしょ」って皮肉っぽく言われて、あたしの息は一瞬止まった。
なんなの、この人。
こんなこと初めてで、あたしは不意を突かれた。
「すみません、気にしないでください」って、おばあさんが申し訳なさそうに微笑んで、そのレジの女性を優しく叩いた。
注文したものが出来上がったら、あたしはそれらを受け取って、すぐに店を出た。
あたしはくすくす笑った。この状況、なんだかすごく見覚えがある。
東京と出かけて、セトとサリーがデートしてるのを見た時のことを思い出した。
あたしは首を振って、一人で微笑んだ。
少なくとも、今は彼が一緒にいる。
でも、カフェを出たときに何か起こるって、気づくべきだった。
セトを見た。
クソッ。
彼は女の子とキスしてる。
あたしの目は見開かれ、頭に血が上るのを感じた。
心臓は激しく鼓動し始め、泣かないようにしようとすると、喉が痛み始めた。
二人の唇が離れた瞬間、女の子がサリーだって気づいて、あたしの心は粉々になった。
また。
あたしの目はセトに注がれ、顔に現れた傷を隠そうともしなかったけど、彼の姿に、あたしは息を呑んだ。
彼はあたしを睨みつけていて、落胆した様子が顔に表れていた。
なんなの、これ?
彼は全く申し訳なさそうにしてない。
「セト…」ってあたしは彼の名前を呼んだら、彼はただ無表情であたしを見つめてた。
そして、彼の言葉は、あたしの残りのすべてを打ち砕いた。
「別れよう」
そして、世界が目の前で崩壊したのを感じた。
あたしの手にあるフラペチーノは地面に落ちて、あたしは、靴が濡れたことさえ気にならなかった。
一瞬、自分がわからなくなった。
「なんで?」あたしの声は震えてたけど、どうしても聞いてしまうんだ。セトは心配そうにあたしを見てるように一瞬思ったけど。
どうしてこんなことしたの?
愛してるって思ってたのに?
涙が顔を伝い始めた。
これは、地獄みたいに痛い。
あたしは痛みを和らげようと、胸を叩き始めた。
彼を信じてたのに、いつもいつもあたしを傷つけることばかり。
もう、あたしの中には何も感じられないのかもしれない。
全てが空っぽに感じる。
突然、周りが回るように感じ、気がついたら、視界が暗くなり、誰かの手に抱きかかえられているのを感じた。
「ザナヤ!」
そして、あたしは意識を失った。
心も一緒に。
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