第29章:彼の言葉
|彼の言葉|
その後の日々、リナスと私の間は順調だった。彼はすごく頼りになって、農作業にも文句ひとつ言わないんだよね。汚れることだって全然気にしないし。それに、お父さんの手伝いもよくやってくれる。一生懸命、牛のミルクを絞ったり。鶏に餌をあげて、鶏舎から卵を取ったり。一度、彼に「もう大変じゃない?」って聞いてみたんだ。だって、エリートの人たちの生活って、私たちみたいな貧しい人たちとは全然違うでしょ?
あと数日したら、一週間の休みも終わりで、また勉強が始まるんだ。また色んな活動とか授業とか。カフェでのバイトも再開だし。お父さんお母さんともまたしばらく会えなくなるけど、まあ、人生ってそんなもんだよね。夢のため、家族のためには、我慢しなきゃいけないこともある。勉強しなかったら、自分の目標なんて達成できないし。
あの丘の上でのシーンを思い出すと、深いため息が出ちゃう。なんで、私が彼を信じるって約束しちゃったんだろう? あれって、どういう意味だったの? 時々、本当にリナスのことって理解できないんだよね。ミステリアスだし。私だけじゃなくて、みんなにも何か隠してるみたいだし。でも、彼は私に「信じて」って言ったんだ。彼女として、もちろん信じるよ。だって、好きなんだもん。だから、何があっても、私は彼を信じる。
「ベッカ、お父さんとリナスを呼んできて。もうお昼ご飯にしよう」って、お母さんが言った。
「わかった、お母さん」って、私は答えた。
リナスとお父さんは、今、トウモロコシの種を植えてるんだ。植えるための機械を買う余裕がないから、お父さんが手作業でやってるんだよね。リナスも大丈夫かな。だって、お父さんと一緒に働くって申し出たんだから。
お母さんは、「まるであなたの婚約者みたいね。うちの両親を喜ばせるために、色んなことして、自分の優雅さをアピールしなきゃいけないんでしょ」って冗談を言った。
笑っちゃった。まさかリナスが、あんなに農作業とかするとは思わなかったし、上手だって言ったら、本当に上手なんだもん。
変わらないでいてほしいな。もし、彼がご両親とのことで苦労してるなら、すぐに仲直りできるといいな。親と仲良くできないって、なんだかすごく寂しいことみたいだし。もし問題を解決できるなら、話し合えばいいのにね。家族が仲良くまとまってるのが一番なんだよ。だって、困ったことがあったら、助けてくれるから。
でも、時々、家族だってあなたを壊すこともある。特に、あなたの夢を。でも、理解してあげなきゃいけない。だって、彼らだって、あなたのために良いことをしてあげたいんだから。でも、時々、彼らにとって良いことが、あなたを傷つけることもあるんだよね。
お金持ちの人たちのよくある問題は、子供たちを、同じような身分の人と結婚させようとすること。例え、その人を愛してなくても。お腹の中にいる時から、政略結婚をしたがるんだ。
ちょっと待って…もしかして、それがリナスの問題? もし…
その考えで、胸に何かが突き刺さったような感じがした。もし、彼が誰かと結婚するように決められてたら? そしたら、私はどうすればいいの?
でも、彼は私に「信じて」って言った。だから、私は彼を信じる。
「お父さん! リナス!」って叫んだんだけど、まだ二人ともトウモロコシを植えるのに夢中で、聞こえてないみたい。また深いため息。なんでお父さんは、もっと人を雇って、植える作業を早くしようとしないんだろう? 私が提案するたびに、あの土地はそんなに広くないから、一人でも植えられるって言うんだよ。でも、お父さんはもう若くないし、そのうち骨が弱って、植えるのも引退しちゃうかもしれないのに。
私に気づいたリナスに手を振った。「お昼ご飯にしようって、お母さんが言ってるよ」って言って、やっと二人の近くに行った。そしたら、お父さんに叱られたんだ。植えたばっかりのトウモロコシの種を、踏んでるって。
リナスは、もう汗だくだった。お父さんも。 「さあ、二人とも、私みたいにお腹すいてるでしょ」って言うと、二人は嬉しそうだった。
「おや、食べすぎちゃだめだよ。それに、あなたの体つき、前よりずっといいよ。前は太ってたんだから」って、お父さんに言われて、恥ずかしくて顔が赤くなっちゃった。
本当、私をからかうのが好きなんだから。「もう、いいよ、パパ。恋人の前で、私をからかうのやめてくれる?」って言って、家に戻った。リナスのくすくす笑い声が聞こえて、私が可愛いって言われた時は、もっとイライラしちゃった。
振り返らなかった。だって、楽しんで私をイライラさせてるみたいなんだもん。一応言っておくと、私は可愛くないから。綺麗だから。綺麗なんだから。
「あら、どうしたの? なんかお金でもなくしたみたいな顔してるわよ」って、家に戻ると、お母さんが言った。
「知らない。それはあなたの旦那に聞いて。楽しそうにからかって…」
「忘れちゃったみたいだけど、彼はあなたのパパよ。素直にしてなさい。ちょっとユーモアを交えなさいよ。あなたのパパのことだから、ユーモアセンスは抜群なんだから」って、お母さんが言った。
ただ頷いて、お母さんの手伝いをして、テーブルをセットして、ご飯の準備をした。二人の男も家に入ってきて、お父さんはまっすぐシンクに行って、リナスはリビングに残ったままだった。二人とも裸足だった。ブーツを外に置いてきたみたい。
テーブルがセットされた時、私はリナスに近づいた。下駄箱から彼のスリッパを取って、彼に手渡した。「お父さんのジャケット脱いで、着替えてきなさい」リナスは服をあまり持ってきてないから、お父さんの服を借りなきゃいけないんだ。
リナスは動かずに、私を見つめていた。私は左眉を上げた。「なに? 着替えないの?」
すると、彼は優しく笑った。「はい、奥様」って答えた。彼は私に近づいて、おでこにキスした。「顔を赤くした君はもっと綺麗だよ、ベイビー」って囁いて、二階に上がっていった。