最初の美徳
最初ノ美徳。
東風、エリドリア
2420 AA、大昇天後。
アレは雷じゃナイって、ハビラは分かってた。カラダ中が叫んでるノ。フチまで行ってもっと確かめようとしながら、ね。ずーっと待ってたんだ。そしたらついに報われた。デッカイ火の玉が空を切り裂いたんだ。
雲の中も同じようにオレンジ色に光ってて、マジで不気味だった。
ハビラは一歩後ろに下がった。さっきの光景にビックリしたんだ。
イナズマってオレンジ色じゃないよね。眩しい白とか青とかで、ボールじゃなくて、線状になるはずなのに…。違う、とハビラは心の中で思った。
そう考えてたら、暗い影が一つ、また一つ、ハビラがいる雲の下をすごいスピードで通り過ぎた。またデッカイ音が空に響き渡った。雲が揺れてて、ハビラも揺れた。でも、別の場所にいたんだけど。
ココノ門の影響、もしかしてすごく弱まってる?それとも、この眺めてる場所って、ベールみたいなものなの?そんなこと考えてるヒマもなく、周りから最初の音みたいに、もっとゴロゴロって音が聞こえてきた。オレンジ色の光が夜空を埋め尽くしてる。
怖くなったハビラは、街に戻って、希望の光の温かさを求めて走った。門をくぐると、希望の光がハビラの中にしみ込んできて、乱れてた感情を落ち着かせてくれた。前に襲ってきたパニックも洗い流してくれた。もうライオンの巣窟に入ったようなモンなのに、少しだけ落ち着けた。
それでも、ハビラは歩き続けた。色んな大きさ、色んな格好のグレートが周りをウロウロしてる。普通に歩いてるのもいれば、浮いてるのもいる。みんな同じ、風になびくカラフルなローブを着てる。他の人たちから見たら、めっちゃキレイなんだろうな。いろんな色がキラキラして、虹みたいな万華鏡みたいだし。
うん、ココは本当にキレイで、キラキラしてる。優雅な光と虹、それに人々の富を象徴する金が溢れてる。そう信じさせられてきたけど。ハビラは、こんな場所でクリスタルの上を歩くなんて、普通じゃないって思ってた。眺めてる場所から見て分かってたし、この場所を形作ってる金とか象牙とかは、人間にとっては夢みたいなモンなんだろうけど、ホントにパラダイスなの?見た目だけならそうかも。緑色の植物がたくさんある、白い雲とかもそうだし。時々ある、青い川がフワフワした雲から落ちてきて、中心にはアダマンタイトの構造物。キラキラした尖塔と塔が街の他の建物よりもずっと高くそびえ立ってる、ダイヤモンドの城。
そこはサンクチュアリ。この街の中心的な建物。あるいは、4分の1かな。希望が休んでるように見える頂点。他は全て、ソコを中心に回ってるみたい。それも当然だよね。だって、みんなの生活の源なんだから。異次元のパラダイスへのアンカー。
ハビラはもうちょっと歩いて、自分の家の方に向かった。他の住宅と同じように、金の豪邸。内側の住宅街にあって、サンクチュアリの外側のすぐ東。街の基準で見てもデカイ。街のほとんどの家よりずっと大きくて、外側の住宅街を円を描くように配置されてる、3つだけある家と同じくらい。
他の建物と同じように、この豪邸も城みたいなデザイン。上層階は塔みたいでキラキラしてるし、小塔もあって、希望の光を屈折させる、焼かれたアダマンタイトの円錐形の屋根も付いてる。
クリスタルじゃない部分は、黄色、白、ローズゴールド、いろんな色の金がクリスタルの光の中でキラキラしてて、小さな雲の庭が玄関前の階段とかに植えられてなくても、マジで見ごたえがあった。
豪邸に近づくと、ハビラは頭を振って、前に曇ってた暗い考えを振り払った。そして一歩、また一歩進んで、家の紋章が刻まれた、キラキラ光る二重のドアに近づいた。
予想通り、家の紋章、炎がツタの輪の中に入ってるのが白く光り、次にいろんな色に変わって、最後は赤色に落ち着いた。トリバンローブと同じ色。仲間と同じ色。そして、中に入れるように変わった。
「ハビラ。」ハビラの母の声が、玄関のすぐそばに響いた。
「はい、ハビラの母。」ため息をつきながら返事をして、台所に向かう長い道のりを歩き始めた。すごくイヤで、なるべくゆっくり行こうと思ってたんだ。
「遅いわよ!」台所に入るとすぐ、ハビラの母は容赦なく怒った。
「ごめんなさい、ハビラの母。」ハビラは顔をしかめたけど、とりあえず返事をした。
色々思ってることはあったけど。ハビラはハビラの母を尊敬してた。それに、色々あったけど、今できることは、下を向いて真面目なフリをすることだけ。そんなすごいパワーの人の前で、他に何ができるっていうんだ?
ハビラは、そうすれば許されるって分かってた。特に、どういうわけかハビラの母がすごく不機嫌な時は。
あんなに冷たい銀色の目を見つめるよりはマシだしね。ハビラの目と同じ銀色の目、もし同じじゃなかったら、もっと鋭くて明るいかもしれない。同じ肌の色で、ハビラよりちょっと暗いけど。
全部合わせて見たら似てるハズなのに、ハビラの母の銀髪は、ハビラが父から受け継いだ黒髪とは全然違う。
能力に関しては、そこで全部終わり。まるでそれを証明するように、金のフォークがハビラの頭をかすめて、部屋を出て、ハビラの母の開いた手に落ち着た。
ハビラはゆっくり顔を上げて、ハビラの母を疑わしげに見た。でも、ハビラの母は全然動揺してなくて、落ち着いてるみたいだった。何が起きたのか、あるいは起きそうになったのか、全然動じない。
『ハビラの母…』
「邪魔だったからよ。もしもっと早く来てたら、そんなに色んなことしなくて済んだのに。」
それがハビラの答え。つまり、全部ハビラのせいって言いたいんだ。ハビラは返事にため息をついた。そして、いつものように偉そうな顔をされて、自分の立場を思い知らされた。
もう勝負になんないって分かってたから、ハビラはまた心の中でため息をついて、うなずいた。この女に文句言ってもムダ。ハビラの母はただ…ハビラの母なんだ。ハビラを産んだ女で、ものすごい力と影響力を持ってて、今じゃ2つの役割の境界線が分からなくなってる女なんだ。
ゆっくりと、ハビラは前に進むことにした。もう、やらなきゃいけないことが山ほどあるって分かってて、気が重かった。
「何すればいいの?」ハビラはのろのろと聞きながら、クリスタルトップのアイランドに行って、そこにある4つの金の椅子に座った。落ち込みすぎないようにするのが精一杯だった。これから待ち受けてることは、確実に、すごく大きな大惨事だって分かってたから。
「野菜を刻んで、皿を洗って、テーブルをセットして。」ハビラの母は気のない返事をした。ハビラはまたため息をついて、イヤイヤながらも、そのタスクに取り掛かった。ハビラは、来る大惨事をちゃんと分かってて、集中しようと目を閉じると、引き出しがガタガタし始めた。開いて、いくつかの包丁が飛び出して部屋中に散らばった。
「集中しなさい!」ハビラの母の声が響き渡り、ハビラは思わず笑ってしまった。どっちにしても、これは危険だ。いつか、誰かが刺されることになるだろう。昔ながらの人間のやり方でやればいいのに。
ハビラは目を開けると、前に空中にあった鋭い刃が、大きな音を立ててクリスタルの上に着地した。「そんなにいらないんじゃないの?」ハビラの母が注意した。「そんなに基本的なこと、まだうまくできないでしょ。だから、全部しまって、本当に必要なものだけに集中して。」
そう思って、ハビラは包丁を集めようとしたけど、ハビラの母がそれを止めた。
「ダメ!美徳を使いなさい!」
またため息。これは、思ってたより面倒くさくなってきた。ハビラはうなずくことしかできなかった。自分の遅刻のせいで、予定が遅れてるって思ってただけなのに。全部不公平だって心の中で文句を言うことしかできなかった。何度か失敗した後、やっと全部の包丁をしまい込んで、小さくて細い包丁を取り出して、キッチンのカウンターに乱暴に置いた。
「野菜のイメージを頭の中で作って。カウンターの上に並べて、包丁が野菜を刻むイメージを投影して。どれから始めてもいいけど、タマネギを炒めるから、タマネギは必要よ。」ハビラの母が指示した。いつものように、ハビラはまたうなずいた。
ゆっくりと、包丁を手に取ろうと苦労して、すごく苦労して、包丁が空中に浮いて、ゆっくりとタマネギを切り始めた。ハビラは、額にしわが寄ってるのが分かった。一つずつタマネギを切り、ニンジンをさいの目に切った。ジャガイモの皮をむいて、ピーマンとナスを刻んだ。次にコリアンダーの芽が来て、気づけば、全部の野菜が刻み終わってた。でも、すごく雑で、いつも几帳面なハビラの母は眉をひそめた。
「完璧じゃないけど、まあいいんじゃない?」ハビラの母が言って、ハビラは自分がやったことに嫌気がさして、顔をそむけた。
なんでこんななんだろう?ハビラは自分が作ったグチャグチャなものを見て、思った。なんでこんなに違うの?なんでハビラの母みたいになれないの?全部失敗して、それしか言えないの?妹と弟たちから、からかわれるのがもう目に浮かぶ。
実際、ここは愛のある家族とは程遠くて、陰鬱な命令が出される直前に生まれた双子のために、ハビラはそこで慈悲を得られるとは思えなかった。
「なんで怒らないの?ひどいでしょ!」ハビラは突然叫んだ。ハビラの母の言葉の中にある理解に、居心地が悪かった。
「ハビラ…」ハビラの母が言い始めた。涙がこぼれそうになりながら。
「すごく難しいの。」ハビラは思わず口に出した。「頑張って、頑張ってるのに、いつも上手くいかない。なんで、あなたみたいに、目を開けたままできないの?」
「ハビラ…」ハビラの母がまた言い始めた。いつもと違って落ち着いて。「それは最初の美徳の方法じゃないの。まず、見えないものを見る方法をマスターしてから、私ができることを始められるの。全部練習、練習よ。そうすれば、あなたもこの美徳の誰とも同じくらい上手くなるわ。」
かもしれないけど、いつ練習すればいいの。いつも、あの口うるさい、不機嫌そうなエルダーに時間を使われてるし、ハビラの母はもっと分かってくれてもいいのに。だって、あのイヤなヤギのもとにハビラを預けたのは、ハビラの母なんだから。
「みんなみたいになりたくない!」ハビラは突然言い出した。「あなたみたいになりたい!」
「そして、それがあなたの問題なの。そこよ!」そして、ハビラの母はいつものイヤミなハビラの母に戻った。「自分の道を探さずに、私みたいになりたいなんて!私たちは違うの、ハビラ。私たちの人生の目的も全然違うし、自分の個性を認めないと、自分が何のために作られたのか、永遠に分からないわよ。」ハビラの母は叱った。
「私の個性。」ハビラは自嘲気味に笑った。「私の何が特別なの?みんな私を見て、あなたと同じように、あなたくらい上手くやってくれることを期待してる。でも、私は違う!そして、私には、この場所での目的が何もない!いつも巻物を読んでるだけだし、双子でさえ簡単にできるような、一番簡単なことにも向いてないわ!」ハビラは立ち上がって答えた。「実際、グレートの目的って何?私たちの美徳の理由は?あなたでさえ、そんなに知らないなら、どうすれば自分の目的が分かるの?」
「ハビラ!」ハビラの母は叱ったけど、ハビラはもう聞く気はなかった。
ハビラはイライラして頭を振って、台所から飛び出した。どこに行けばいいのか分からなくて、結局、季節がないこの奇妙な国に植えられた、プライベートな冬の庭にたどり着いた。
ここは永遠に夏で、その多様性の欠如が、ハビラがいつも眺望に行きたくなる原因だった。ハビラが読んだ巻物はいつも、季節、天候の変化、そして他の世界でしか見ることができないことを語っていた。それで、どういう意味なの?
人間は、本当に自分たちが信じさせられてるように、邪悪なの?もし人間が、グレートでさえ達成できない何かを与えられてるなら、なんで彼らが呪われた者で、グレートじゃないの?なんで長い寿命があって、訓練以外の目的がないの?これは、本当にパラダイスってことなの?
巻物から学んで、感じたことについて考えていると、疑問が頭の中に押し寄せてきた。