第37章
アマーの心から
眠くなってきたな、人事の気配もなくて。
起きてなきゃって頑張ってる。ここはオフィスだし、寝たらルール違反だし。
フィリップが来て、なんか文句言ってくるかも。俺のこと嫌いだから、何か粗探ししたり、ミスを蒸し返したりするんだよな、きっと。
時間見たら、もう4時近い。あと1時間くらいで定時じゃん。
もしかして、人事はわざと待たせてるのかな。だって、俺のこと無視する理由ないでしょ。受付で待ってるって伝えてあるのに。
もしかしたら、俺のこと重要じゃないとか、昨日来なかったからとかかな。
そんなの言い訳にならないんだけど。ちょっとの時間で会ってくれれば、サインして、それで終わりじゃん。そしたら、彼女は自分の仕事に戻って、俺は家に帰るだけなのに。
5分もかからないはずなのに。
金、もらわないとだし、マジで。今日で、この会社とはおさらばだし。
このオフィス、全部恋しくなるんだろうな、フィリップも含めて。
でも、そのうち恋しくなくなるし、人生でフィリップのこと、ずっと心に持っていこう。
俺のこと、あの牢獄から救い出してくれる男だと思ってたんだよね。
確かに、あの檻からは救ってくれたんだ。ルイスが鍵を握ってたけど、フィリップのおかげで自由になれたんだ。でも、完全にじゃない。
まだ罪悪感で檻の中にいるみたいだし、ルイスもまだ俺のこと追いかけてくるし。
本当に、あんなに欲しかった自由は、まだ全然なんだよな。
ルイスは、もう帰ったかもな。だって、もう2時間以上、追い出されてるし。さすがにもう疲れて帰るでしょ。
誰を騙してるんだろうな。ルイスはマジで手強いし、諦めないんだよ。
俺のこと見るか、金もらうまで、絶対に諦めないだろうな。
でも、残念だけど、もう俺の金からは一銭もらえないんだよ。
マジで眠いんだよな。昨夜は全然寝れなかったし。
目が重いし、疲れてるし。
ちょっとだけ、目を閉じようかな。そしたら、気分良くなるかもしれないし。
椅子に深く座って、目を閉じた瞬間、数分で意識が飛んで、誰かに起こされた。
自分がどこにいるのか、必死に思い出そうとしてた。
ちゃんと座って、顔が濡れてるのを感じた。触ってみたら、寝てる間にヨダレ垂らしてたんだ。マジかよ。
恥ずかしすぎて、手で顔を拭いた。
人事を待ってる間に、寝ちゃったんだ。今、やっと理解できた。
起こしてくれた人を見上げたら、消えてしまいたいって思った。
フィリップが、ちょっと距離を置いて立ってた。
腕を組んで、情けないって顔で俺のこと見てる。
「ごめんなさい、わざとじゃないんです。寝るつもりはなかったんです…」
って言ったら、彼は手をひらひらさせて遮ってきた。
「出ていくって言ってたのに、人事を待つなんて言ってなかったよな。なんで俺のオフィスで寝てるんだ?」
俺は不安になって周りを見回して、それから自分の腕時計を見た。まだ4時過ぎたばっかりだった。
一日中寝てたような気分なのに、実際は15分から20分くらいしか寝てないんだよな。
フィリップに何て返事したらいいのか、わからなかった。彼は神様みたいに俺を見下ろしてるし。
会社のこと、めっちゃ詳しいから、ルール破ったことに対して言い訳できないんだよな。俺もここで働いてたんだし。
でも、仕方ないじゃん。お腹空いてたし、疲れてたし、退屈してたし、それに、昨夜も全然寝てないし。
眠気に負けるのは、当たり前でしょ。
もう、どうしようもないよな。謝ったし、もっと謝れって言うなら、いくらでも謝ってあげるし。
一番嫌なのは、ヨダレ垂らしたこと。
あんな姿、見られたくなかった。
彼が俺が寝てる姿を見たことなんてなかったし、きっと、彼の頭の中は、俺が一番恐れてるものになるだろうな。
いつもあんな風に寝てるんだろうなって思ってるだろうな。口からヨダレ垂らして。でも、違うんだよ。不快で疲れてる時くらいしか、ヨダレなんて垂らさないのに。
「ごめんなさい…本当にごめんなさい…」って、何度も言った。
反論できなくて、彼の顔も見れなかった。
もっと謝ってほしいなら、いくらでもしてあげるよ。そうすれば、気分良くなって、俺のこと放っておいてくれるならね。
俺を見下ろしてる姿は、マジで屈辱的だし、もし何か言われたら、また謝るしかないし。
こんな状況で、謝ること自体は全然問題ないんだけど、今一番の問題は、この屈辱的な瞬間から逃れるために、彼の視界から消える方法なんだよね。
「人事は席にいないよ。ちょっと前に知ったんだ。受付の人は、そのことをあなたに伝えなかったのか、それとも、あなたがお金じゃなくて、寝に来たんだと思ったのかな。あなたは、自分がどんな場所にいるのか、忘れてると思ったのかもね…」
「ごめんなさい、社長…」ってまた答えた。
彼は黙ってて、俺は自分のバッグを持って、強く握りしめた。
もし、金も払わずに追い出すつもりなら、もうどうしようもないじゃん。大人しく受け入れるしかない。
「明日にまた来てください。今日はもう終わりだし、人事もいない。彼女はもう何時間も前にいなくなって、戻ってこないよ。今日のチャンスはまた逃したね。もし、まだお金が欲しいなら、明日また来るしかないよ…」
「あなたと人事部のスタッフ、みんなおかしいわ…」って言って、俺は立ってバッグを持った。
もう、こんなくだらない「いい子」ごっこはたくさんだ。屈辱と侮辱もたくさんだ。
俺にどれだけ払うつもりなんだよ。こんなに苦しませたいのか。
俺は立ち上がって歩き始めた。彼は俺の名前を二回呼んだ。
怒って振り返って言ったよ。
「私の名前を口にしないで、フィリップ。私が悪いと思ってたけど、あんたは最低、冷酷で、自己中心的だ。こんなとこに来た自分を呪うわ。あんたに嫌われても、もう気にしない。謝るだけ謝ったし。もう、諦めた。あんたの金と会社、楽しんで。いらないわ。私たちは同じ世界にいないし、二度と、あんたにも誰にも、屈辱を与えさせない。自分の壊れた欠片を全部拾って、何か良いものを作るわ。私が役に立たないとか、価値がないって思ってるんでしょ。だから、ゴミみたいに扱うんだ。ルイスと一緒じゃないか。男ってやつは、みんなクズばっかり…出ていくわ!」
俺が歩き始めると、彼は落ち着いた声で、でも十分聞こえるように言った。
「まあ、もしお金が必要なら、明日また来るよりは、すぐに振込できるよ。それで困ってるんでしょ?ルイスはまだ外で待ってるよ。俺はもうすぐ出るから、車に乗せて、ルイスのところまで連れて行ってあげようか…」
俺は立ち止まって、深く息を吸い込み、彼の方を向いた。ルイスが外で待ってるって知っただけで、全身に恐怖が走った。
ルイスは、俺の悪夢なんだ。もうあそこには行きたくないんだよ。
「振込して。口座番号送る?それとも、口頭で言う?あんた、もうすぐ出るんでしょ?車に乗せてもらうだけなら、別に構わないわ…」
彼は不快そうな顔で俺を見て、下に降りて待ってろって言った。
俺の怒りは全部消え去った。まるで怖い小さなネズミみたいだった。階段を降りて、彼の車のそばで待つことにした…
「お腹空いてる?」
って聞こえたから、すぐに振り返った。
「私に話しかけてるの?って小さく聞いた。
「ああ、他に誰がいるんだ?ここにいるのは俺たち二人だけだろ。エイプリル、お腹空いてる?」
まだ、あの横暴な口調で、顔も変わらず、笑顔もないけど、俺は腹ペコだし、ちゃんとしたご飯でお腹を満たしたいんだよ…
「うん、空いてる。ありがとう…」
って、「ありがとう」ってつけ足したんだ。あんな質問、彼からされると思ってなかったから。
彼は、俺に下で待ってろって言って、自分のオフィスで何か取ってくるから、一緒に来るように言った。
俺はうなずいて、彼の車のそばで待つために降りた。