第24章
リアン・カーテルとキース・ランチェスターが喧嘩してから一週間。二人ともいつも通り授業には出てる。でも、二人は全然話してないんだよね。っていうか、リアン・カーテルはまだキース・ランチェスターと話す気がないみたい。
キース・ランチェスターがリアン・カーテルの気を引こうとしても、いつもシカト。リアン・カーテルは、キース・ランチェスターが見えないふりしたり、空気みたいに扱ったりしてるんだ。キース・ランチェスターはマジで困ってた。外では冷静な顔してるけど、本当は、リアン・カーテルに嫌われたり、友達じゃなくなったりしたらどうしようって不安で仕方ないんだよね。
一方、リアン・カーテルはキース・ランチェスターに怒ってるわけじゃないんだ。ただ、キース・ランチェスターが、あの日何をしたか反省するのを待ってるだけ。別にキース・ランチェスターに謝ってほしいわけじゃないし、リアン・カーテルに悪いことしたわけでもないから。できれば、キース・ランチェスターには自分を大切にしてほしいって思ってるんだ。まだ若いけど、リアン・カーテルみたいな、キース・ランチェスターが自分を愛して大切にしてくれないと悲しくなる人もいるって知っておくべきだよ。
学校のチャイムが二回鳴って、先生が宿題の確認とか明日のテストのこととか話してる。みんなカバンに教科書とか入れてる。クラスメイトたちが、放課後何しようかとか話してる声が教室に響いてる。リアン・カーテルは静かにカバンに物入れて、席から立った。
いつもなら、キース・ランチェスターがリアン・カーテルの荷物まとめてあげて、一緒に帰るはずなんだ。でも最近は、リアン・カーテルはキース・ランチェスターを待たずに先に帰っちゃう。もちろん、クラスメイトたちは二人が喧嘩したって知ってる。先週起きたイジメのこととかも。
二人をイジメてた奴らは、急に別の学校に転校したんだ。噂によると、あの一件で、奴らの家のビジネスがうまくいかなくなったらしい。商売に必要な材料すらまともに手に入らないらしい。理由なんてすぐわかるよね。誰が裏で手を回してるのか、みんな分かってるから。
あの事件は、もし誰かがカーテル家とランチェスター家に敵対したらどうなるかっていう、いい見せしめになったんだ。
リアン・カーテルがまた自分を待たずに帰ろうとしてるのを見て、キース・ランチェスターは急いでカバンに荷物を詰めた。でも、キース・ランチェスターがリアン・カーテルの名前を呼ぶ前に、誰かが先に動いたんだ。アンドリューがリアン・カーテルの名前を呼んで、彼女のところへ小走りで向かう。アンドリューはすごくいい笑顔してる。リアン・カーテルは歩くのを止めて、アンドリューを待った。
「なんでまた私を呼ぶの?」
リアン・カーテルとキース・ランチェスターがギクシャクしてる間、アンドリューは頻繁にリアン・カーテルと話すようになったんだ。最初は、アンドリューは喧嘩に巻き込んだことを謝ってきた。リアン・カーテルが何も怒った様子とか見せなかったから、アンドリューはホッとしたみたい。それから数日後、アンドリューはまるでずっと前から友達だったかのようにリアン・カーテルと話し始めた。
アンドリューに何度も会ううちに、リアン・カーテルは彼が話しかけてくることに、あまり気を遣わなくなってきた。あることに気づいたからなんだ。ミスター・プロタゴニストみたいに、このヴィランもまだ若い。すごく小さい頃から計算高いけど、やっぱり子供なんだ。将来どうなるか分かってるから、リアン・カーテルは、この若いヴィランと恋に落ちさえしなければ、不幸な運命を回避できるんだ。
「それにしても、若い子と恋に落ちるなんてありえないしね」リアン・カーテルはそう思った。
アンドリューの異変に気づいてるのはリアン・カーテルだけだから、この若いヴィランが正しい道を歩めるように助けてあげよう。もしリアン・カーテルがこの計画に成功したら、アンドリューは将来、優しくて責任感のある男になるかもしれない。他人からものを奪ったりせず、周りの人を大切にするような。そして一番重要なのは、リアン・カーテルが家族と一緒に悲惨な死を迎えたりすることなく、長く生きられるってことなんだ。
でももちろん、リアン・カーテルはまだこの若いヴィランには気をつけないといけない。まだ若いからって、彼の能力を過小評価しちゃだめ。ミスター・プロタゴニストみたいに、ミスター・ヴィランにも人を惹きつけ、騙す力がある。リアン・カーテルは、彼が近づいてきたとしても、用心しないといけないんだ。
「図書館で一緒に勉強しない?帰る前に」アンドリューが言った。今はリアン・カーテルと並んで歩いてる。
「どうかな。お兄ちゃんが、今日は一緒に帰ろうって言ってたんだけど」
「マジ?」アンドリューはそう言って、腕時計を見た。「今日一緒に帰るなら、一時間待たないといけないよ。一時間あれば、図書館で勉強できるよ。行こ!」
返事も待たずに、アンドリューはリアン・カーテルの腕を掴んで、一緒に連れて行こうとする。アンドリューのリアン・カーテルの腕の掴み方は、すごく親密。教室でそれを見てるのは一人だけ。ある人物は、そのクソ野郎の行動を心に刻み、拳を強く握りしめた。
「引っ張らないで、アンドリュー。自分で歩けるから」リアン・カーテルは言った。
「…あ、ごめん」アンドリューはそう言って、リアン・カーテルの腕を離した。
「大丈夫だよ」リアン・カーテルは言った。「でも、なんで図書館に行きたいの?」
「あー、ちょっと見せたいものがあるんだ」
「何?」
「すごく綺麗なの」アンドリューはリアン・カーテルに微笑んだ。でも、直接は答えなかった。
図書館に着くと、アンドリューは二人を二階に案内した。図書館の二階には、学校の美術部の生徒たちが描いた絵がいっぱい飾ってあるんだ。アンドリューはリアン・カーテルの前に大きな絵を連れてきた。
それは、小さな遊園地で子供たちが楽しそうに遊んでる絵だった。そして、美しい女性がベンチに座ってる。絵の中の女性は、木の枝の間から差し込む太陽の光を見てるんだ。この絵に使われてる色はすごくカラフルで、生き生きしてる。でも一番目を引くのは、女性の笑顔なんだ。それは幸せそうな笑顔じゃなくて、作り笑顔だった。
リアン・カーテルは、絵をじっと見つめながら、少し首を傾げた。すごく綺麗な景色なのに、絵の中の女性はなんで泣きそうな顔してるんだろう?絵の中の女性の表情はすごく細かくて、笑顔なのに、目には感情がこもってないんだ。
「どう思う?」アンドリューが尋ねた。
リアン・カーテルは、美術に関しては専門家じゃない。でも、リアン・カーテルはこの絵を描いた画家の怒りとか悲しみを感じ取ることができた。絵の下には銀色のプレートがあって、絵の作者の名前が書かれていた。
「シェイラ・ガーティン作『隠された秘密』」
「ガーティン?」リアン・カーテルは言って、アンドリューを見た。「親戚?」
「うん。妹なんだ」
リアン・カーテルは驚いて目を瞬かせた。アンドリューには妹がいたんだ。
「なるほど。まあ、私は美術の専門家じゃないんだけどさ。でも、絵の中の女性は、すごく辛い思いをしたんじゃないかなって」リアン・カーテルは説明した。
「あー」
アンドリューは、彼女の意見に反論も肯定もせず、ただ小さな笑顔で絵を見つめてるだけだった。
「私の考えは間違ってるかもしれないけど」リアン・カーテルは言った。「もしかしたら、妹さんに絵について聞いてみるべきかな。どこにいるの?」
「うーん。もういないんだ」
「え?」
「去年、癌で死んだんだ」
二人の間に、急に静寂が訪れた。リアン・カーテルは、何を言えばいいのか分からなかった。アンドリューに癌で亡くなった妹がいたことなんて、全然知らなかったんだ。このことは、本には書かれてなかった。もしかしたら、物語の最後のほうで出てきて、リアン・カーテルが死ぬ前に読むチャンスがなかったのかもしれない。
「ごめんなさい」
「うーん。大丈夫だよ。ここに連れてきたのは僕だし」アンドリューは言った。「妹が病院に入る前に描いた最後の絵を見せたかったんだ。ずっと長い間、病院に入院してたんだけど」
「…そっか」
「それで、絵について他に何か考えとか意見とかある?正直に言っていいよ」
「うーん…絵の中の女性は泣きたいけど、泣けないって感じ」
「なんでそう思うの?」
「景色がそうさせるんだと思う。子供たちが遊んでる綺麗な公園のベンチに座ってるんだから。もし急に泣き出したら、子供たちを怖がらせちゃうでしょ…あくまで私の推測だけどね。気にしないで」
アンドリューの視線を感じて、リアン・カーテルは自分の意見を言うのをやめた。口を閉じて、絵をもう一度見た。何か言おうとした時、ポケットのスマホが震えてるのに気づいた。画面を見ると、お兄ちゃんから電話がかかってきてる。
「お兄ちゃんが、探しに来てると思う。そろそろ行かないと」
「分かった」
「妹さんの絵を見せてくれて、ありがとう」リアン・カーテルは言った。
「どういたしまして」
リアン・カーテルはアンドリューに挨拶して、図書館から出るために足早に歩き出した。本当は、リアン・カーテルの心臓はすごくドキドキしてるんだ。ミスター・ヴィランの視線は、リアン・カーテルにとって怖すぎる。アンドリューはまだ若いのに、いつもリアン・カーテルに向ける視線とか眼差しは、謎めいてるんだ。
リアン・カーテルは、アンドリューが図書館に消えるまで、自分の姿を見つめていたことに気づかなかった。彼の笑顔は消えて、無表情に変わっていた。アンドリューが今何を考えてるのか、誰も理解できないだろう。