第7章
朝ごはんを食べ始めた時、母親はリアン・カーテルのそばを離れなかったんだ。いつもリアンに何が食べたいか聞いて、母親が自分のプレートに取ってくれるんだ。慣れてないことだけど、リアンは母親の好きなようにさせていた。母親がいるってどんな感じか、すっかり忘れちゃってたんだ。新しい母親がすごく優しくて、気にかけてくれるのって、なんか変な感じだよね。
「パンケーキ、もう一個食べる? それとも、ワッフルもいいわよ。このワッフル、チョコレートクリームとイチゴのスライスと緒に食べるのが好きでしょ…」母親は言いかけて、リアンの顔色をうかがった。「ごめん。ちょっと舞い上がっちゃった」
「ううん。大丈夫だよ」リアンは言った。「えっと…ちょっと、いいかな?」
リアンは深呼吸をしてから、ダイニングテーブルで一緒に座っている三人の顔を見た。
「みんな知ってると思うけど、何も覚えてないの。正直、今はみんな他人みたいに見えてる」
リアンは少し間を置いて、みんなの顔を見た。母親とティムは傷ついた顔をしていて、フランシスは不安そうな顔でリアンを見ていた。
「でも…私たちには、見えないつながりがある気がするの」
それは本当のことだった。もしかしたら、リアン・カーテルがこの体になる前に、家族と築いた絆なのかもしれない。リアンは、この人たちを信頼して頼れるって感じている。
「だから、やり直したいんだ。過去のこと、覚えているかもしれないし、覚えてないかもしれない。でも、ずっとそれに囚われていたくはないの。もし昔の記憶を思い出せるなら、それはそれでいい。もし、全然思い出せなかったとしても…」
リアンは新しい家族をもう一度見て、笑顔を向けた。
「それなら、家族と新しい思い出を作りたい」
リアンは、自分がどうしてリアン・カーテルになったのか、たくさんの仮説を頭の中に持っていた。その一つは、リアンがバスの事故に遭ったとき、リアン・カーテルも同じ時間にプールに落ちたということ。でも、なぜか分からないけど、リアンはリアン・カーテルの体を乗っ取ったんだ。つまり、本物のリアン・カーテルはもう永遠にいないってこと。
「最初からやり直したい。家族のこと、全部知りたいの。自分のことも全部。自分がどんな人間なのかも知りたい。でも、そうしようとすると、みんなが知っているリアンとは違うかもしれない。私って変だって、違うって思われるんじゃないかって、怖い」
そう考えると、新しい家族に対して罪悪感を感じた。彼らは、本物のリアンに何が起こったのか知らないんだ。真実を打ち明けようとも思ったけど、リアンが記憶喪失になったと聞いて、彼らがすごく傷ついた顔をしたのを見て、リアンは口を閉じることに決めた。
リアンは、まだそんなに親しくない人たちを傷つけることなんてできなかった。だから、本物のリアン・カーテルに心の中で約束したんだ。本物のリアン・カーテルの代わりに、この家族を愛し、大切にするって。リアンは絶対に彼らをがっかりさせないし、運命を変えてみせるって。カーテル家の結末を知っているから、それを避けるために最善を尽くすって。
ティムと母親は、娘の言葉を聞いて、すごく感情が込み上げてきた。リアンがみんな他人みたいって言ったのは、本当に辛い。今、彼女がどんな苦しみの中にいるのかを考えると、母親の胸が締め付けられる。母親は、彼女の痛みと苦しみを全部受け止めてあげたかった。
フランシスも同じだった。兄弟はとても仲が良いんだ。リアンが病院で意識不明だった間、彼はずっと自分を責めていた。もし、あの時、プールで遊んでいるときにちゃんとリアンの面倒を見ていれば、こんなことにはならなかったかもしれないって。
彼らの沈黙に、リアンは落ち着かなくなった。誰も言葉を発しない。みんな静かに、様々な表情で彼女を見ている。何か変なこと言ったかな?
「えっと…嫌だった?」
答えの代わりに、三人は席を立ち、それぞれがリアンを抱きしめた。リアンは本当にびっくりしたけど、彼らを突き放したりしなかった。代わりに、ぎこちなく腕を回して、彼らの首に抱きついた。最後に抱きしめてくれたのは母親だった。
「覚えていてね、私の愛しい人。あなたに何が起ころうと、あなたがどんな風に変わろうと、私たちには関係ないの。あなたが幸せで笑顔でいるのを見ることができれば、それで十分なのよ。あなたはいつも、私たちの家族の大切な一部よ」
「…ありがとう」
今度は、リアンは感謝することがたくさんあった。でも何よりも、この人たちに本当に感謝していた。
彼女の新しい家族。
母親を強く抱きしめながら、リアンは心の中で誓った。この人たちを心の底から大切にして、愛し抜こうって。そうすれば、彼らの優しさと理解に報いることができるって。