第41章
ロッド・アズラエル目線
「アイエシャ…」俺は彼女の名前をささやいた。
俺はそいつらから離れた。騒ぎを起こしたくないからな。
俺はただ、ブレイキーから傷ついた彼女を慰めて、励ましただけだったんだ。やっと彼女が前に進めたと思ったら、もう別の男といるんだから。
俺は?
俺の気持ちは?
泣きたかった…
彼女が他の誰かと一緒にいるのを見るのが、めちゃくちゃ辛かったんだ。今まで、彼女に対する自分の気持ちを隠していた。でも、感じている痛みを隠しきれなかった。
目から落ちてくる涙を止めようとした。恋のせいで弱くなっているところを誰にも見られたくなかったんだ。
俺たちの組織では、弱みなんてあってはならない。だから俺たちは、家族がいない孤児なんだ。それが、任務に支障をきたさないようにするためだ。まさか、恋が自分の弱みになるとは思わなかった。
今になって、組織がブレイキーにアメリアのことを思い出させたくない理由がわかったよ。任務の邪魔になるからだ。
「愛してるよ」
声が俺の注意を引いた。
あるカップルが抱き合っていた。俺から20メートルくらい離れたところに。見覚えのある女性の姿が、俺の視線を釘付けにした。
彼女は…アイエシャだった。
隣の男とハグしていた女性は、アイエシャだったんだ。
胸に鋭いナイフが突き刺さるような感覚がした。彼女たちが幸せそうに抱き合っているのを見て、俺の心はバラバラになった。
アイエシャの笑顔が違っていた。この数週間で、あんなに嬉しそうな彼女を見るのは初めてだった。
ある疑問が頭に浮かんだ…
アイエシャは、この男と幸せなのか?
「愛してる」
アイエシャは彼にそう言って、二人のハグを緩めた。
「いつも一緒にいたかった。君とたくさん一緒に過ごせなかったのが寂しいよ」
男はそう言ってため息をついた。
アイエシャは優しく男の顔を掴み、彼の目から落ちる嬉し涙を拭ってあげたんだ。
俺もアイエシャに、そうしてほしいと願ったよ。
「なに言ってるの!愛してる人。毎日会ってるじゃない。同じ屋根の下に住んでるんだから」
アイエシャは冗談っぽく言った。
同じ屋根の下?
なんだって?
でも、アイエシャは俺たちと一緒に住んでたはずだ…
最近、家でアイエシャを見かけないのは、そういうことなのか?
組織は、彼女がこの男と恋に落ちるのを許したのか?
組織は、このことを知っているのか?
俺たちは誰も、組織に恋をさせるようなことはしない。任務の邪魔になるから。それが、男たちのルールだ。でも、女の子たちにも同じルールがあるのか?
アイエシャは男の肩に頭を乗せた。
俺はただ、悲しそうにそれを見て、自分の心がバラバラになるのを感じた。
彼らは、俺が見ている前で幸せそうだった。すごくお似合いだった。
でも、俺は?
俺の気持ちは?
もう、見てられない…
アイエシャには幸せになってほしい。でも、他の誰かと幸せになってほしくないんだ。
俺はわがままかもしれない。アイエシャとあの男が別れればいいのにって思ってるんだから。
ただアイエシャを独り占めしたいんだ…全部、俺のものにしたい!
俺は立ち上がり、彼らから目をそらした。
彼らが見えないくらい遠くまで歩いた。車に着くと、中に入ってエンジンをかけたんだ。
長いドライブの後、警備員がゲートを開けてくれたから、中に入ることができた。駐車場に車を停めて、家の裏にある庭にまっすぐ向かった。
俺は座って目を閉じた。暖かい風を感じたかったんだ。
「ジュースはいかがですか?」
聞き覚えのある声がした。
目を開けると、彼女がいたから、思わず椅子から飛び上がりそうになった。
「アイエシャ!」
俺は大声で叫び、席から立ち上がった。
「欲しい?」
彼女が俺に尋ねた。
でも、彼女が何を手渡そうとしているのか、見る気にもなれなかったんだ。
ちょっと混乱してた…
さっきまでビーチで男と一緒にいたのに。今、俺の前に立っているんだ。
夢を見てるのか、それとも現実なのか?
「アイエシャ…君なのか?」
俺は信じられない気持ちで彼女に尋ねた。
彼女が本物なのか、それともただの幽霊なのか確かめるために、一歩ずつ近づいて、彼女の顔に触ろうとした。
「やめて!」
彼女はヒスを起こし、俺の手を叩いて止めた。
彼女が俺の手を叩いた時の痛みは少しだけあった。だからこれは夢じゃない、全部本当なんだ。
でもさっきビーチで見たはずだ。だろ?
さっきのは全部、俺の幻覚だったのか?
さっき、ビーチで彼女を見たのか?
たくさんの疑問が、頭の中で次々と浮かんでくる。頭の中で狂ったようにぐるぐる回って、答えを求めていたんだ。
俺はさっきのことは、頭から追い払うことにした。
「幽霊でも見たような顔してるね。大丈夫?」
アイエシャは俺にそう尋ねてから、椅子に座った。
俺に渡そうとしていたジュースを、隣のテーブルに置いた。さっき俺が受け取らなかったからな。彼女の隣の椅子に座って、彼女が渡そうとしていたジュースを手に入れた。
「さっきビーチに行ったのか?最近、家で全然見かけないけど」
俺は彼女に尋ねた。
たくさんの疑問が答えを求めていたからな。頭の中にずっと残ってて、気になって仕方なかったんだ。彼女も不快には思わないだろうと思って、そう尋ねた。
「さっきは自分の部屋にいただけで、まだ屋敷を出てないよ。それに、この数日は、上司の一人に何かを報告してたんだ」
彼女はそう答えた。
家を出てない?もしかしたら、さっき見たのは彼女じゃなかったのかもしれない。俺が考えすぎてるだけかもしれない。
「誰かと付き合ってるの?」
俺はすぐに尋ねた。
その言葉が口から出た瞬間、自分の口を塞ぎたかったんだ。
「いいえ!」
彼女はすぐに答えた。「今は付き合うつもりはないわ」彼女は続けた。
俺は彼女の言葉に呆然とした…
彼女の唇から出たその言葉で、俺は落ち着きを取り戻した。考えすぎるのをやめれたんだ。
ブレイキー・イバーソン目線
俺は、お母さんがくれた写真を全部見ていた。全部、俺たちの家族写真だ。お母さんは、自分の部屋で忙しそうに、自分のものを整理していた。俺が一緒に見れるように、この古いアルバムをくれたんだ。
昔の記憶が蘇る。子供の頃のことはあまり覚えてないけど、あの日から、母さんの顔を忘れてしまったんだ。
俺は母さんと父さんのことが大好きだった。だって、俺にとって唯一の家族だったから…
「お父さん…」
俺は冷たい風の中でそうささやいた。
他の家族みたいに、俺たちも一つのでっかい幸せな家族になれたらどんなに良いか。でも、それはできないんだ…
父さんは刑務所に入ってるし、組織には、母さんがまだ生きていることを知られたくない。俺のことで、俺のせいで、彼女を巻き込みたくないんだ。任務が終わって、父さんが刑務所から出たら、俺の貯金を全部使って、ここから遠く離れた別の州、いや、別の国に引っ越すんだ。
そこであいつらの前から離れて、新しい人生を始めるんだ。シンプルで普通の生活をさ。
俺たちは一緒にいる昔の写真を一枚一枚めくって行った。過去を想像し、あの頃どれだけ幸せだったかを思い出した。過去に戻って、あの時の幸せを体験したいと思ったよ。
でも…俺は、過去をいつも取り戻せるわけじゃないと気づいたんだ。
自分の人生を生きて、今のままで幸せにならなきゃいけない。今!
せめて今は、あの頃みたいに幸せな家族になれたらいいな。遅かれ早かれ、俺たちはみんな一緒にいられるはずだ。
「息子よ」
母さんは嬉しそうに俺を呼び、俺の向かいに座った。「お父さんはどこ?来るの?」
俺は彼女の言葉に驚いた。だから、見ていたアルバムを閉じて、一瞬目をそらしたんだ。
母さんの質問に答えることができない…
「刑務所に…」
俺はぎこちなく答えた。
「知ってるわよ!もう刑務所から出たのかと思ったわ」
母さんはそう言った。
俺は困惑した表情で母さんを見た。
どうして父さんが刑務所にいることを知ってるんだ?
「どうして知ってるの、お母さん?」
俺は尋ねた。
「あなたの叔父さんの部下が家に食べ物を届けに来た時に教えてくれたのよ。あと、お金も渡してくれたわ」
母さんに、叔父さんの部下が報告したんだな。
叔父さんは死んだけれど、母さんはここで面倒を見てもらっていた。母さんがいなくなった後、苦労しなかったのはよかったな。
「もう異母兄弟には会った?」
母さんは話題を変えて尋ねた。
異母兄弟?
「誰?」
俺はすぐに尋ねた。
「スカイ・リベラ…」