第61章 イェ・アンヤオもまた
'リナがアンタのマネージャーになったって?'
'ウソだよ。最近、芸能のこととかちょっと慣れさせてもらってるだけ。リンはいつも、自分でマネージャー選びなさいって言うし。別にマジでほしいわけじゃないし' リン・レレはちょっと困った顔。自分の生活に、あんまり他人に入ってきてほしくないんだよね。
あいつより全然マシじゃん。リナって根に持つタイプだし。リン・レレとイェ・アンランが友達だって分かったら、陰で色々仕掛けてきそうじゃん。
'ま、じゃ、アタシはこれで'
二人は手を振ってバイバイ。イェ・アンランはリン家運転手の車でハーン家に送られて、イェ・ボーはフォ・チャンザーが会社に行ったって言ってたから、急いでハーングループに向かった。
受付の人がイェ・アンランだって気づいて、ガタガタ震えながら言った。「奥様、いらっしゃいませ」
イェ・アンランは、なんでこんなに怖がってんのか無視して、エレベーターに乗った。
大きな漁師帽をかぶって、イェ・アンランはエレベーターの隅でスマホいじってた。誰も気づいてない。
'さっき見た?'
'見た見た。イェ・アンヤオとアシャーの奥様、そっくりすぎない?'
'そうそう、後ろ姿見たとき、アシャーの奥様かと思ったもん'
'アシャーの元カノだったって話だけど、まさか妹がアシャーと結婚するとはね'
数人、フォ・チャンザーのゴシップ話で盛り上がってて、話せば話すほど熱がこもって、声も大きくなってく。
スマホいじってた手が止まって、イェ・アンランはついに、さっき受付の人たちがなんであんな顔してたのか分かった。
女優だし、他の人に噂されるのは普通のこと。でも、目の前で自分の私生活について話されるのは、ちょっとキツい。咳を2回して、顔を上げて、ゆっくり口を開いた。「あなたたち、暇なのね。仕事、足りないんじゃないの?」
数人、振り返って彼女を見た。顔が一瞬で真っ白になって、一人がビビって後ろにのけぞって、書類を落として、A4の紙が床に散らばった。
イェ・アンランとフォ・チャンザーの関係がそんなに良くないってことはみんな知ってるけど、彼女はフォ・チャンザーの奥さんで、この会社の店主の奥さんでもある。クビにするなんて、言えば済むことなんだから。
今ほど気まずい状況はないし、エレベーターの中じゃ逃げられないし、社会的に死ぬってのを体現してる。
エレベーターが到着すると、数人が両側に立って道を開けた。
「ゴシップ話をする時は、場所をわきまえて」 イェ・アンランはそう言って出て行った。数人、彼女の後ろ姿を怯えたように見て、「はい」と慌てて返事をした。
イェ・アンヤオも会社にいるって聞いて、イェ・アンランの足取りはすごく重い。浮気現場に乗り込むみたい。本物の奥さんは、浮気相手を殴ったり罵ったりできるけど、彼女は何もできなくて、二人から侮辱されるかもしれない。
なんで行っちゃうんだろ?
イェ・アンランは心の中で後退した。同時に妹と顔を合わせる夫に、本当に会いたくなかったんだ。
別に大したことないけど、フォ・チャンザーに誕生日のこと伝えなきゃだし。二人が何してようと、見ないようにすればいいんだし。
自分を励まして、イェ・アンランはフォ・チャンザーのオフィスのドアまで歩いて行った。そしたら、社員全員がビックリした顔で見てくるし、まず自分の心の整理をしないと。
このフロアは、ハーングループの中核の人たちばっかり。エレベーター降りて、管理部、経理部、購買部は左。社員が休憩できる広いラウンジもある。何でも揃ってる。右に行くと、会社の中心部。デザイン部とか研究開発部とか、みんなここ。フォ・チャンザーのオフィスもここ。
フォ・チャンザーのオフィスに行くには、この二つの部署を通らないといけない。彼女が来るの見て、みんな手元の仕事を終わらせようとしてるフリしてる。実際は、彼女のことガン見。誰も話さないで、キーボードを叩く音だけ。
イェ・アンヤオは10分前にフォ・チャンザーのオフィスに行った。
一人はボスの元カノ。
一人は、なぜか突然結婚した今の奥さん。
二人はまだ異父姉妹で、来るべき戦争を怖がってる。
そして、ちょっとの期待。
オフィスのドアはきっちり閉まってて、イェ・アンランの心臓はドキドキしっぱなし。バッグの中の心臓の薬を握りしめて、自分に言い聞かせた。
ここで死んじゃダメだ。
'コンコン'。
'入れ'。
声はフォ・チャンザー、相変わらず低い。
芝居を見てる後ろの人たちは息を止めた。イェ・アンランは唇を噛んで、ドアを開けた。
イェ・アンヤオはやっぱり中にいた。ソファーで雑誌読んでる。フォ・チャンザーは自分のデスクの前にいて、湯気が立ってるスープが入ったお椀があった。鶏ガラスープみたいな匂い。
いつからイェ・アンヤオ、料理できるようになったんだ?
二人が近づいてないし、イェ・アンランは心配な気持ちじゃなくなって、少しだけ安心した。
そしたらフォ・チャンザー二人が彼女のこと見て、やっぱりビックリした顔をしてて、イェ・アンヤオは手を組んで、ちょっと困った顔で立ってた。
'なんでここにいるの?'
イェ・アンヤオの口調はすごく悪い。最後にフォ・チャンザーに会ったのはハーン家だったけど、その時はイェ・アンランもいた。なのに、また来たってなんでだよ?
フォ・チャンザーに監視カメラでも付けてんのか?どこにでもいるじゃん。
イェ・アンランは彼女を無視して、フォ・チャンザーの方を向いた。「シージェ…」
その名前を聞いた途端、フォ・チャンザーはフォ・シージェの方に向かって歩き出した。
イェ・アンヤオは慌てて彼に駆け寄り、彼のスカートを掴んだ。
二人が何しようとしてるのか関係なく、イェ・アンランは用件を早く伝えて、一気に終わらせたい。「シージェから電話があって、おじい様の誕生日を来月15日に早めるって。連絡つかないなら、私に伝えてって言ってたの。用件を伝えたから、これで」
「あ、それと、彼女が帰ってくるから、迎えに行ってって頼まれたって」 イェ・アンランははっきり言わなかった。イェ・アンヤオの前で、フォ・シージェがフォ・チャンザーと一緒に迎えに来てって頼んだなんて言えない。もし言ったら、フォ・チャンザーが同意しないかもしれないし、彼女を侮辱するかもしれないし。
フォ・チャンザーは彼女を家族として扱ったことなんて一度もない。誰かの誕生日とか、ハーン家が何か祝う時も、イェ・アンランが家にいても、よそ者みたいに溶け込めない。ハーン家の両親がいればまだマシで、イェ・アンランは近くで手伝ったりできるのに。だから今、イェ・アンランは自分がメッセンジャーだと思って、ただ用件を伝えた。
それとも、ここで二人がイチャイチャするのを見ろってこと?
そう思って振り返ったら、なんと、フォ・チャンザーに手を掴まれた。イェ・アンランは首を傾げて、変な顔で彼を見た。「何か用?」
イェ・アンヤオのレーダーが作動して、甘えるようにフォ・チャンザーの手を取った。「アゼリ、何なの?何で彼女と?」
この光景、まるで食物連鎖みたい。
イェ・アンヤオの言葉を聞いて、フォ・チャンザーは本当に彼女の手を離して、イェ・アンヤオの髪を撫でた。「おじい様の80歳の誕生日だって言ってたから、ちゃんと聞かないと」
彼の声はすごく優しくて、昨日の無愛想な男とは全然違う。
フォ・チャンザーがおじい様のことを話したから、イェ・アンヤオは何も言えなくなった。口を尖らせて、フォ・チャンザーを見てる。今の彼女はまるで老鶏で、自分の卵を誰かに動かされたら、いつでも逃げ出す準備ができてる感じ。
フォ・チャンザーは彼女の卵なんだから。