第28章
クイン
「ナイル、落ち着いて。」
彼に全部話したら、いきなり怒ってオフィスから飛び出しちゃったんだよね。あたしは彼を追いかけて、変なことするのを止めなきゃって思った。
過剰反応してたのは、あたしのほうだったのかもしれないけど。
「あいつのこと、何も教えてくれなかったくせに、今になってこれだ。」って、ナイルが叫んだんだ。
周りを見渡して、部下に聞かれちゃって恥ずかしいなーって思った。声、デカいし、めちゃくちゃ怒ってるし。ケンカでもしてるみたいに見えちゃうよ。
「まずは落ち着いて?もう、ナイルったら。ここで騒がないでよ。オフィスに戻って、そこで話そうよ。ちゃんと計画立てないで飛び出しても、ただ遅れるだけだよ。」
歯ぎしりしながら、彼はクルって向きを変えて、自分のオフィスに戻っていった。うう、唸ってるのが聞こえた気がする。
これが、あたしを落ち着かせようとしてるときの感じなのかな?疲れちゃうんだけど。
「コルトンが今、手伝ってくれてるんだ。クルのこと見つけたら、すぐに連絡くれるはずだよ。」
「あのクズが。」って、ナイルが唸った。
ナイルがコルトンのこと、あんな風に呼んだから、あたしは目を見開いちゃった。えええ、マジかよ。彼とクルは全然違うタイプだけど、この点に関してはそっくりなんだよね。
「コルトンはクルの大親友なんだよ。もしまたそんなこと言ったら、あいつの可愛い顔にアザ作ってあげるから。」
「チッ。部下に街中探させとく。万が一、国外に出国してたら、調査官にフライト履歴調べさせる。」
「それが計画ね。冷静に戻れてよかった。」あたしは疲れたように椅子のひとつに座った。
「最初から、あいつがどこにいるか教えてくれなかった時点で、そうすべきだったんだ。」って、ナイルが唸った。声が低くて、まるで地鳴りのようで、怒りが伝わってくる。
あんな風に誰かに接してるの、初めて見たかも。ましてや、女の人に対してなんて。クルへの想いは、あたしたちの誰よりも強いのかもしれない。
「ごめんね、わかった。あたしたちは、クルには何もないって、自分たちに言い聞かせてたんだ。いつもいなくなっては現れるから。慣れてたんだけど、今回は何週間も連絡がないから。」
あたしは、ありとあらゆる可能性を考えてるんだ。悪いことばかり。胸が痛くてしょうがない。最近、全然眠れないんだ。ベルだってあたしを安心させてくれなくなっちゃった。彼女も同じように感じてるみたい。
クルが危険な状態かもしれないって考えると、結婚式を乗り切れる自信がないんだ。あたしの親友が…って、そんな不安を抱えたまま、人生で一番幸せな日を祝いたくないんだ。
そう考えたとき、あたしは拳をぎゅっと握りしめた。
ドーン!って、大きな音が聞こえて、あたしはビクッとした。ナイルはテーブルをものすごい力で叩きつけたんだ。壁に響き渡るくらい。
「あいつを見つけられなかったら、この街は終わりだ。覚えておけ。」
そう言って、ナイルは唸ってから、オフィスから出て行った。
---
タイラーとあたしは、お気に入りのレストランでディナーをしてたんだけど、全然食欲がなかったんだ。ほとんど食べなかったし。
「どうしたの?また食欲ないの?」タイラーの声には心配そうな響きがあった。
ナイフとフォークを置いて、あたしはため息をついた。「タイラー…話したいことがあるの。」
「別にいいよ。もしそれが君の望みなら、俺は君の決断を尊重するよ。」タイラーの笑顔は穏やかで、愛情に満ちていた。
彼の答えに、あたしは顔をしかめた。混乱したし、本当にあたしが言おうとしてること、分かってるのかな?って思った。「あたしが言おうとしてること、分かってるの?」
彼の手があたしの顔に伸びて、頬を優しく撫でた。「いつから、君のことになると間違えるようになったんだい?」彼の声は優しくて、心に響くみたい。あたしだけに向けられた愛が、彼の目に宿ってた。
「もし、友達のことで心配して、結婚を延期したいなら、それでいい。分かったよ。」タイラーは、あたしの髪を耳にかけた。「あいつのこと、見つけられるように頑張るから。大丈夫だよ?だから、もう心配しないで、リラックスして、ご飯食べて。君が痩せちゃうのは嫌なんだ。」
あたしはすすり泣いた。「タイラー、本当に大好きだよ。」
彼はくすくす笑った。「知ってるよ。泣かないで。」それから、あたしのおでこにキスをして、自分の椅子をあたしの近くに寄せた。「さあ、ご飯が冷めちゃう前に。」タイラーは、あたしの皿にご飯を足してくれた。
彼の優しい仕草に、あたしは微笑んだ。「家族は?結婚延期することになったら、がっかりするんじゃないかな?」
「心配しないで。きっと分かってくれるよ。ただ、正直に話せばいいんだ。それに、君の家族はクルと仲良しだし、彼女のこと、放っておかないだろうし。」タイラーは息を吐いた。「正直言うと、俺もすごく心配なんだ。付き合い始めた頃、あいつは俺のことをすごく歓迎してくれた。前にも言ったけど、クルは俺の障害になるかもしれないって。でも、紹介されたとき、すぐに打ち解けられたんだ。君とベルをどれだけ大切にしてるか見てたから。あんな友達、滅多にいないよ。」
彼の言葉を聞いて、あたしは悲しくなるのを止められなかった。「会いたい。あいつが帰ってきたら、説教は控えめにしないと。」
タイラーは笑った。「子供たちへの説教はとっておきなよ。そうしないと、叱る言葉が足りなくなっちゃうよ。」
あたしは少し悲しげな顔で微笑んだ。「ごめんね、ベイビー。結婚式、楽しみにしてたのに。」
彼は静かに首を横に振った。「一番大事な人がいない状況じゃ、最高の結婚式にはならないって、二人とも分かってるはずだよ。」
---
次の日、タイラーは行動を起こした。クルの居場所を突き止めるために、人を探し始めたんだ。たくさんの人が助けてくれるって分かって、少しだけ不安が和らいだよ。
今朝、ニクソンから電話があった。あたしは彼に真実を話すことにしたんだ。彼もクルを探すのを手伝ってくれることになった。クルの元彼だけど、もうそんなことはどうでもいいんだ。ニクソンは明らかに、まだクルを大切に思ってる。
タイラーとあたしは、家族に結婚を延期する計画を話すことにしたんだ。クルがどこにいるか分からない限り、結婚式は挙げられない。
オフィスで考え事をしていると、ノックの音で我に返った。秘書がドアを開けた。「ミス・アンダーソン、コルトン・スティールさんという方が、あなたに会いに来ています。」
「どうぞ。」あたしは手を振って合図した。
少しして、コルトンが困った顔をして入ってきた。あたしは固まって、彼の表情に目を見開いた。あたしの手は震え始めた。
これは、良いことじゃないに違いない。
「見つかったの?」あたしは緊張して尋ねた。
彼はあたしのデスクの前の椅子に向かって歩き、座った。彼の動きには苛立ちと落胆が見て取れて、あたしの動揺はますます大きくなった。
彼は首を振った。
その答えに、あたしはがっくりと肩を落とした。
「君に知っておいてほしいことがあるんだ。」
その響きが気に入らなかった。そして、あたしの予感は的中した。
彼が告白した真実は、すべてを変えることになるんだから。