第四章
「ママ!」 焦って叫びながら、誰もいない森の中を見回した。落ちた木の小さな枝につまずきまくって、暗くて、寒くて、濡れてる。「ママ、怖いよ。ママ、どこにいるの?!」 泣き叫ぶと、後ろでガサガサって音が聞こえて、思わず頭をぐるっと回って、ほとんど転びそうになった。
「お前のママじゃないけど、怖がらせてやるよ」 男の声が後ろでニヤニヤ笑った。
汗だくで目が覚めて、自分のちっちゃな部屋を見回した。何年も考えてなかった記憶だ。時計を見ると午前4時。うーん、短い睡眠だったな。ブランケットを引っぺがして、足を横に放り出す。頭をスッキリさせるには散歩でもするか。クローゼットからコートを掴んで羽織り、忘れずにキーカードも持った。何度か忘れちゃって、外に何時間も閉め出されたりしたからね!
自室のドアを開けると、廊下は暗くて不気味。緑色の非常灯だけが頼りで、余計にゾッとする。気味の悪い廊下を歩いて、ドアまでたどり着く。キーカードをかざすと、お馴染みのピッて音が廊下に響く。ドアが開くと冷たい空気が吹きつけてきた。これなら完全に目が覚める。コートをきゅっと体に巻き付けてから建物を出た。あの廊下より全然明るい! なんでこの人たちは電球ってものを使わないんだ?!
静かに散歩を始めた。頭の中には色んな考えが渦巻いてた。ほとんどがトビーのこと。あいつ、運命の相手のこと絶対諦めないよな。どうしたらいいのか、マジで分かんない。まさか自分が運命の相手を見つけるなんて思ってもなかったし! 若い頃に自分のオオカミを失って、周りのみんなも私も、もう相手なんて現れないと思ってたんだ。それが、トビーの目を見たとき、こいつが私の相手で、私も彼のものだって分かった。誤解しないでほしいんだけど、運命の相手がいるのは嬉しい。でも、彼を見つけたせいで、色んな障害が出てきちゃった! アライアンスを辞める気は全然ないけど、彼が去ったら、めちゃくちゃ寂しくなるだろうな! いや、そもそも私なしで彼が去るってことはないだろうけど。昨日は、本当は彼を拒否するつもりなんてなかったんだ。言葉が口から出てくる時でさえ、気分が悪くなった。誰かが自分のために戦ってくれるのを見るのは、なんか嬉しかった。いつも私は忘れられがちだから。
考えからハッと我に返ると、彼の部屋のメインドアのすぐ前に立っていた。え、なんでここにいるんだ?! キーカードまで使ったのに、気づかなかった。ドアの前でちょっと立ち止まって、彼の部屋をじっと見つめた。中に入って、彼に会いたいって気持ちも半分あった。でも、彼は今寝てるはずだし、私もそうあるべきなんだ。そうすれば、彼は自分が正しいってことになる。それは避けたい。彼に、私が思ってる以上に彼を必要としてるって知られるのは嫌なんだ。ため息をついて、部屋から離れて自分の部屋に戻った。別の建物にあるんだよね。
私たちが仕事をするメインの建物があって、寮の建物もある。私たちのチームの男たちは一緒に1つのブロックを使ってるんだけど、チームで女の子は私だけだから、廊下を全部一人で使えるんだ。ルカスとトビーが許可を得たら、ゲストが寝る建物に行くことになる。でも、それまでは私たちの建物にいる。ありがたいことに、私たちのチームしか出入りしない。
自分の廊下のメインドアを開けると、緑色のライトがチカチカしてる。もう寝直そうとしても無駄だから、シャワーを浴びて、それで目が覚めて、運命の相手のことなんて一瞬でも忘れられたらいいなと思った。
今朝、オフィスに一番乗りしたのは私だった。モーガンよりも前! あれは衝撃的。あいつ、寝ないんじゃないかってくらい、朝来るといつもオフィスにいるし、夜も最後まで残ってる。全部の電気を点けて、カウンターに残ってたファイルにまっすぐ向かった。昨日の夜、みんなを部屋に送り届けた後、リチャードの攻撃と被害者を大きなホワイトボードに書き始めたんだ。何かパターンが見えてこないかって期待して。今のところ、この作業で分かったのは、リチャードがいかに怪物かってことだけ。壁に何枚か写真を貼ってたら、モーガンが入ってきた。私がこんなに早くから仕事してるのを見て、顔がすごいことになってた。
「テイラー、もう起きてたのか」 って驚いて言ったけど、私はニヤリ。彼が私がどれくらい起きてたか知ってたら、びっくりするだろうな。
「うん、眠れなかったんだ」って笑って、別の写真を貼ろうとした。それはリチャードの7番目の犠牲者だったマックスの写真。
数分間、私たちは黙ってたけど、彼が私を見て、また目をそらすのを何度か感じた。彼の顔つきから、私を理解しようとしてるのが分かった。なんで私が眠れなかったのか、考えてるんだろう。
「何か話したいことある?」 って、彼は静寂を破って尋ねた。自分のデスクに座ってる彼を見上げて、何を言いたいのか分からなかった。「アルファのことに関係あるのか」 って言うから、私はボードを見て、目が大きく見開かれた。トビーが言ったのか?
「知ってるんだよね?」 って彼を見たけど、彼はちょっと微笑んで頷いた。「どうやって?」 貼っていた写真を置いて、尋ねた。トビーがみんなに話して回ってないか、特にライリーに、本当に心配だったんだ。
もしライリーが、私がアルファの運命の相手を見つけたって知ったら、たぶん二度と話してくれなくなるだろう! 彼はアルファとベータが嫌いで、若い頃に自分のアルファとベータが父親を殺すのを見てたんだ。それが、彼がルカスやトビーと一緒にいたがらない主な理由なんだ。
「最初に彼を連れてきた時の会話を聞いてたんだ」 って、彼はデスクから立ち上がったから、私はため息をついた。これが私の秘密だった方が良かった。「これは良いことだよ、テイラー」 って彼は近づいてきたけど、私は首を横に振った。
「そう自分に言い聞かせてるけど、考えれば考えるほど、運命の相手を見つけることの難しさが分かってくるんだ。ここを辞める気はないけど、彼が私を置いていくってことはないだろうし!」 そう言って、今まで自分の中にしまっておいた気持ちを全部吐き出した。これで、決断するのに役立つといいんだけど。
「この場所だけが人生じゃないんだ。確かにすごく寂しくなるだろうけど、あなたは運命の相手を見つけたんだ。お祝いするべきだよ!」 そう言って彼は私を励まそうとしたけど、私はもうそんな段階じゃなかった。
「あなたが私をあの湖から助けてくれた日から、アライアンスの一員になることしか考えてなかった。人生のほとんどを費やして、彼のために全部投げ出すつもりはない。正直、誰も私が相手を見つけるなんて思ってなかったでしょ」 ってため息をついて、テーブルの上に飛び乗った。モーガンは同じ場所に腕を組んで立ってる。
「もし私が、この場所とアメリアのどちらかを選べって言われたら、毎回アメリアを選ぶよ」 って彼は言った。アメリアは、彼の運命の相手で、リチャードに殺されたんだ。「運命の相手のそばにいる時に感じる気持ちは、言葉では言い表せないんだ。どんな決断をしても応援するけど、彼がここを去って、あなたが残ることになったら、それが一番辛いことだってことを知っておいて」 って言って、私はその気持ちをずっと感じてた。昨日の夜、彼に近づきたくて、知らず知らずのうちに彼の部屋まで歩いて行ったくらい。
話が続こうとしたところで、横のドアが開き、ブランドンが入ってきた。モーガンに頷いて微笑んでから、ブランドンを手伝った。何か落としそうだったから。
「テイラー、もう起きてるのか」 って驚いて言ったから、テーブルに置くファイルを受け取った。もっと早く起き始めるべきなのかもしれない。
モーガンは自分のデスクに戻って作業を始め、ブランドンと私は話をした。ほとんどが事件のことだったけど、なんでこんなに早く起きたのかって、彼は私に何度も聞いてきた。話の途中で、モーガンが私の方を向いた。
「君たち2人に、トビーのパックに行って証拠を探してもらう。リチャードが脅迫状を残した場所に焦点を当てて。ライリーが早く起きてくれれば良いんだけど」 って言ってため息をつきながら時計を見たけど、それからアイデアが浮かんだ。
「私とブランドンが行くのはどう? きっとライリーが起きる頃には帰れるよ」 って提案すると、ブランドンはびっくりした。彼はこういうことを滅多にしないから。「早く証拠を集めれば、リチャードを見つけるのが早くなる」 って言ったら、それは事実だし、トビーとの距離を置きたかった。離れてるのがどんな感じか知りたいから。
「ブランドンにもっと経験を積ませられるし、うん、分かった」 モーガンはそう言っ微笑み、車の鍵を私に投げた。私は微笑んでブランドンの腕を取り、横のドアから連れ出した。
うん、どんな感じか試してみようかな?