第57章
オニカ視点…
家に帰って、すぐにアレックスの様子を見に行ったんだ。アレックスがぐっすり寝てるのを確認してから、自分の部屋に向かった。
頭も痛いし、心も痛いし、ジェイコブの顔が目の前をちらつくんだ。苦しそうな顔、悩ましげな目…まるで、果てしない拷問を受けてきたみたいで…全部、私のせい。
胸を締め付ける罪悪感から、どうしても逃れられない。
ジェイコブはあんなに辛い思いをしてたのに、なんで今まで何も言ってくれなかったの?
地獄を見たのに、何のため?アグスティンを幸せにするため?はあ。
急に、状況の皮肉さが私をハンマーで叩いたみたいになった。
それにしても、ジェイコブを責めていいのかな?私もそうだったんじゃない?
一番酷いのは、アグスティンが私を悪く思わせる事ができるって事。まるで、彼も被害者のように。たぶん、そうなのかもしれない。
全部アグスティンのせいだって責めたい気持ちはあるけど、どこかで彼も傷ついてるって分かってるんだ。
自分の母親と親友に裏切られるなんて、耐え難いだろうし、辛いに決まってる。
実際、私もザビエルの行動には本当に驚いた。
何か誤解があるに違いないって。ザビエルが私に、私たちに、そんな事するはずがない。
私たちはすごく仲が良かったんだもん。私、アグスティン、ジェイコブ、ザビエル。友達以上で、まるで幸せな家族みたいだった。
一番辛い時でも、お互いを頼り合えると思ってた。まるで、ずっと欲しかった家族を手に入れたみたいだったんだ。
それが、たった一つの陰謀で、全部壊れちゃった。
信じられなくて、本当に、私が目を覚まして、全部ただの悪夢だって気づくのを待ってたんだ。
もしかしたら、私をからかってるだけかもしれないって。
「やったー、プリンセス捕まえた!」って、昔みたいに笑い出すんじゃないかって。
そしたら、私が怒って、許してくれるまで何日も口をきかないでやるんだ。
今回は、一線を越えすぎたからね。
あんなに私を怖がらせて、あんなに嫌な顔をして、私を傷つけたんだから。
…でも、彼らの演技力はマジでハンパないけどね!
心の奥底では、彼らがそんな大それた事を冗談で済ませるわけがないって分かってた。
でも、ザビエルがあんなクズになるなんて考えられなかったから、最初の可能性にしがみついてたんだ。
アグスティンが私を責め始めた時、私は真実を受け入れた。
カーテンの裏から誰かが飛び出してきて、「もう終わりだよ」なんて言う事はないんだって。
彼らは楽しんだんだって。
笑っちゃうけど、その可能性は、いつも私の心の奥底に、絶望的な希望の形で残ってた。
でも、もう真実を否定することはできなかった。
だって、アグスティンが私にそんな事をするなんて、想像もできなかったから。
だから、真実で、演技じゃないんだ。
正直言って、もし私が自分の母親に裏切られたら、アグスティンが私にした事と何ら変わらないだろう。
だから、アグスティンも裏切られた苦しみを知ってるんだって理解できるんだ。
でも、アグスティンは私を知ってるんだよ?どうして分からないの?
結婚する前に2年も付き合ってたんだから、説明するチャンスくらいくれても良かったんじゃない?
私に「どんなことがあっても、お前の味方だって」って言ったのは誰だった?
お願いだから、一度だけ、この件について調べてくれって頼んだだけなんだよ。
別に、彼のお母さんとか親友よりも、私を信じてくれって頼んだわけじゃない。
一度だけでも、私の話を聞いてくれって頼んだだけなんだよ。
それがいけない事だった?
どんな凶悪犯でも、自分の言い分を言うチャンスはあるのに。
彼は全てを掌握してたんだから、数時間でできたはずだよ…ここが、私が彼を許せない理由なんだ。
私を選んでくれなかったからじゃなくて、私が正しい可能性を一度も考えなかったから。
一緒に過ごした年月があったのに、一度も必要だと思わなかったんだね。
私が嘘をついてるって分かってたんだね。疑うことすら、なかったんだ。
そんなに簡単だったんだ。そんなに簡単に済ませられることだったんだ。
ザビエルにとっては、すごく都合が良かったんだね。
私なんて、アグスティンにとって、どうでもよかったんだ。何も。
でも、嘘はつけないけど、彼を許せそうな気がする瞬間もあったんだ。
彼が、状況を変えようと、一生懸命頑張ってるのを見てると、心が壊れそうになるんだよね。
すごく弱くて、まるで彼の心を私の手のひらに差し出して、好きにしてって言ってるみたいで。
彼を許すのを止めてるのは、私がもうそんなに純粋じゃないからなん。
彼が本当に自分の過ちに気づく日は、彼が私を解放する日になるだろう。
それ以下は、意味のない罪悪感でしかないんだ。
本物かどうかも分からないけどね。
まるで、彼の心に根付いてしまった雑草みたいで、役に立たないんだ。
もし、私を壊した後に、彼が私なしでは生きていけないって考えるだけなら、私が彼なしでは生きていけないんだって認める代わりに、彼は彼の罪悪感は彼の「愛」と同じくらい役に立たない。
今、私にとって一番大事なのは、人の感情じゃなくて、彼らの態度なんだ。
今回は、自分の優先順位をきちんと決めたから、アグスティンに壊される事はない。
今も、これからも、絶対に。それが、アグスティンから学んだことなんだ。
後者に集中する事。
だって、人の態度を持って生きていかないと。
感情なんて、心の中に閉じ込められた気持ちで、あなたを弱くするだけなんだから。
彼に二度目のチャンスを与えるって事は、私の心を直接貫く弾丸を渡すようなものなんだ。
一度目はギリギリで外したけどね。
もう、彼にチャンスはあげない。
私の子供に危険を及ぼす可能性のある人と一緒に暮らす事は、絶対にない。
彼が気づく日を待つよ。
私が悪夢を見るような人と一緒に暮らす事はできないって。
悪夢を見るような人を愛する事なんてできないんだ。
それ以上のことってある?
あなたを守るべき人が、あなたを怖がらせるって。
一緒に暮らす人も、愛する人も、そうでない人も、安全で守られてるって感じられないなら、私は一人で生きたい。
なんで、全部台無しにするんだよ、アグスティン?
なんで、こんな風にならなきゃいけないんだ?
もし、一度でも、私があなたにそんなことするわけがないって考える事ができてたら、違ったはずなのに。
憑かれたみたいに私を責めるんじゃなくてさ。
そしたら、あなたを受け入れてたかもしれないのに…はあ、誰に話してるんだろう、私が冗談言ってるんだよ。
あなたを受け入れてたかもしれないのに…
くそ、同じ事を何度も繰り返しても、過去は変わらないんだ。
彼は自分の選択をしたんだから、私も自分の選択をしないと。それだけなんだ。
たまに、全部から逃げ出したくなるんだよね。
アレックスと一緒に遠くへ逃げて、自分の人生を生きて、全部問題なかったかのように振る舞いたいんだ。
どうしても、全部から逃げ出したいんだ。
アグスティンは、私の心の壁を壊そうとする中で、むしろ私をまた壊してるんだって理解しないといけないんだ。
私の心を粉々にしてるんだよ。
だって、彼に対して、私が彼にされてきたように、冷酷になることなんてできないんだから。
痛みを和らげるように、おでこを手でさすった。
腕時計を見ると、もう深夜だった。
そろそろ寝る時間だ。
ただ目を閉じて、深い眠りに落ちたいんだ。
疲れてため息をついて、自分の部屋のドアを開けた。
部屋は暗くて、窓から少しだけ光が入ってるだけだった。
ゾクゾクするような感覚が体を駆け巡った。
何か悪い事が起きそうな気がしたんだ。
変だ。
本能を無視して、ただのパラノイアだと思った。
電気を点けて、振り向くと…アグスティンが私のベッドに座ってた。
怒りが火山のようにこみ上げてくるのがすぐに分かった。
何しに来たんだ?私が好きにさせてって言ったのに。
私が遅刻したって、お父さんみたいに説教しようって気なのか?
私たち、紙の上で結婚してるだけで、夫のふりをする必要なんてないんだよ。
小言を言おうとした時、彼の様子がおかしいことに気づいたんだ。
彼は私を見てないし、彼の目はまっすぐ前を見つめてるんだ。
まるで私を見てないみたいで、周りのことにも気づいてないみたいなんだ。
まるでトランス状態みたいで。
「アグスティン?どうしたの?」って、怒りを抑えながら尋ねた。
彼は何も言わず、私の方も見てない。
「アグスティン、話してるんだよ」今回は大きな声で言った。
無言。私の心臓がすぐに速く鼓動し始めた。
急いで彼に駆け寄り、彼の前にひざまずいて、彼の頬を叩いた。
「アグスティン、どうしたの?」今度は優しく、パニックを抑えながら尋ねたんだ。
彼は、初めて私の存在に気づいたかのように、私を見た。
私たちの目が合い、息が止まりそうになったんだ。
彼の目には、冷たさ、距離感、苦しみ、悩み、そして愛や称賛さえも見てきたけど、こんなのは初めてだったんだ。
…まるで、死んでるみたいで、不安が私を襲い、背筋にゾクゾクするような恐怖が走った。
「アグスティン、どうしたの?お願い、話して」
無言。
彼は瞬きもせずに私を見つめ続けてる。
まるで像みたいで、私を見てるのに、私の声が聞こえてないみたい。
パニックが急激に増してきた。
こんな彼を見たのは初めてなんだ。私が浮気したと思ってた時でさえ、彼は打ちのめされてたけど、こんなじゃなかったんだ。
今度は、彼の頬を激しく叩いたんだ。
彼は、少しも動かなかった。
「アグスティン、聞いてるの?」今回は、私の声が震えた。
無言。
「お願い、アグスティン、何か言ってよ。怖がってるんだ。お願い」今度は泣き叫んだんだ。
彼の目に何かが変わり、彼は瞬きしたんだ…恐ろしく赤い目から、一筋の涙がこぼれ落ちたんだ。
そんな彼を見て、逃げ出したくなったんだ。
次に彼が言った事は、彼に何があったのか尋ねた事を後悔させるものだったんだ。
「妊娠してた…」彼は一瞬間を置き、もう一筋の涙が彼の頬を伝ったんだ。「…女の子だった」
私の手は、両脇に落ちて、突然何も感じなくなったんだ。
私たちの目はまだ合っていて、しかし悪意のある沈黙があったんだ。
誰も何も言わなかった。
私の呼吸は荒くなり、アグスティンのはほとんど聞こえなかったんだ。
私は何て言ったらいいのか分からなかった。
こんな事、知りたくもなかったし、話したくもなかったんだ。
「報告書には、あなたの体に虐待の痕があったって…」
「やめて」私は泣き叫び、両手で耳を塞いだ。
無数の針が私の心を容赦なく突き刺すのが感じられたんだ。
「…あなたは合併症のため、二度と妊娠する事ができないって」
「やめて…お願い、やめて」私は両手で耳を塞いだ。
何千本もの針が私の心を容赦なく突き刺すのが感じられたんだ。
目を閉じて、悲しみが私を支配するのを許した。
これは、私がいつも避けようとしていた事なんだ。
まるで、何も起こらなかったかのように。
もしかしたら、この事を話さなければ、現実感が薄れるかもしれないんだ。
まるで、私の壊れた心が生み出したもののように。
だって、これが私の限界だって分かってたんだ。
アグスティンは突然立ち上がり、部屋を出始めたんだ。
「ど、どこへ行くの?」私は尋ねた。彼の行動に驚いたんだ。
彼は何も言わなかったんだ。
私たちは、この事について話し合う必要があるんだって分かってるのに、こんな風にここから出て行かせられないんだ…。
彼がちゃんと考えてない時だって分かってるんだから。
それに、彼の衝動的な性格も分かってるから、今、彼を一人にしておくわけにはいかないんだ。
でも、私が止める前に、彼は部屋から出て行って、ドアを閉めたんだ。
嫌だ。お願い、やめて。
「アグスティン、ドアを開けて、お願い、聞いてる?アグスティン」
ヒステリックにドアを叩き始めたんだ。
ああ、お願い、やめて。
何度もドアを開けようと試みたんだ。
そして彼に、戻って来てくれって叫び続けて、声が完全に枯れ、もう叫べなくなったんだ。
そして、何かが私の頭の中でカチッと音を立てたんだ。
ジェイコブ!そう!ジェイコブに電話しようって!
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