第十三章
「マジやばかったけど、こんなにヤバイとは知らなかった」 ヴァンパイアが俺の首から牙を外す。口は血まみれで、しかも誰かの血じゃなく、俺の血。マジで弱ってて、まだ生きてるのが不思議なくらい。また牙を首に戻して、俺からどんどん命を吸い取っていく。もう彼を押し返す力なんて残ってない。血を飲まれれば飲まれるほど、どんどん弱っていく。
「おー、すげえ!お前の血を飲めば飲むほど、俺は強くなるのがわかるぜ」 彼は俺の首から少し離れてそう言う。彼を突き飛ばそうとするけど、手が彼の体に届く前に力尽きて落ちてしまう。「大人しくしとけよ。余計弱くなるだけだ。それにしても、お前みたいなウェアウルフが、ここで何してんだ?」話したいけど、言葉がほとんど口から出てこない。「そんなこと答える必要はないんだよ。お前、もうすぐ死ぬんだから」 彼はそう言って、また俺の命を吸い取ろうとした時、誰かに引き剥がされた。
目の前にいたのは、オオカミの姿になった俺のメイト。彼の美しいオオカミの姿に見惚れる間もなく、彼はヴァンパイアを投げ飛ばした場所へ向かって走り出した。ヴァンパイアはセオドアと戦おうともせず、逃げ出した。今夜は死なずに済むと心底嬉しかったけど、すぐそうでもないことに気づいた。魂が体から抜け出していくような感覚。目を開けていようとするけど、首の痛みと血の少なさで難しい。必死に抵抗するけど無理で、暗闇に飲み込まれていった。
酷い首の痛みで目が覚めた。マジで気絶しすぎだろ。ってか、起きた!生きてる!死んでない!マジで死んだと思った。
「気分はどう?」 セオドアが病室のベッドの隣の椅子に座って聞いてくる。俺はただ起きたって事実に浸るのに忙しくて、周りを観察する余裕なんてなかった。メイトは俺の手をぎゅっと握っていて、彼の目はすごく心配そうに見つめてくる。なんで俺の手を握ってるんだ?それに、なんで何日も寝てないみたいな顔してんだ?もしそうじゃなかったら、俺のこと一晩中心配してたって言ってもおかしくない感じ。
「どのくらい寝てたの?」 俺は起き上がろうとするけど、まだ弱ってて無理。メイトが俺を支えて、背中の枕を直してくれて、座らせてくれた。
「できるだけ動かない方がいい。体が回復する時間が必要だ。一週間も寝てたんだから」
彼がこんなに心配してくれる理由がわからない。死にかけたのは初めてじゃないのに、なんでこんな行動をとるんだ?
「一週間?マジかよ。せいぜい一日くらいだと思ってた。で、お母さんは見つかった?」
「いや」 彼は唸る。
なんでお母さんの話したら怒るんだ?まさか、俺のお母さんのこと嫌いとか?それは変だろ。だって、彼とお母さんが会ったことなんてないと思うし。
「俺のお母さんのこと嫌いなの?」好奇心に負けて聞いてしまった。
「嫌いじゃない」 彼はまだ怒った声で言う。
「じゃあ、なんでお母さんの話をするたびに怒るの?」
「お前がほとんど命を落とすことになった原因がお母さんだからだ」彼は怒鳴って、俺の方を向いた。
「何の話?」俺は混乱して聞いてしまった。彼の言葉は信じられない。お母さんが俺を傷つけることなんて絶対しないから。別に産みの親じゃないけど、産みの親みたいに俺を愛してくれてるってわかってるんだから。
「全部だよ。お前はお母さんを探して家出した。そして、ヴァンパイアに殺されそうになった。全部あいつのせいだ」彼は怒りで唸った。
「なんでお母さんのせいなのよ?」俺はちょっと大きめの声で言う。まさか、俺に起きた不幸をお母さんのせいにするなんて信じられない。「お母さんに会うなって言われたから、家出したのは私だし。ヴァンパイアに襲われたのは、私のせいじゃん。ヴァンパイアを見た瞬間に逃げ出すべきだったのに、その場から動けなかっただけ。お母さんは何も悪くないし、むしろ、まだ見つけられてない私が悪い娘なんだよ」涙が滲みながら、俺はそう言った。
「俺はあんなことが起きるってわかってたから、お前にここにいろって言ったんだ。なのに、お前は俺の言うこと聞かないで、見てみろ、何が起きた?もし俺が間に合わなかったら、ヴァンパイアがお前の血を全部吸い取ってたら、お前はお母さんを見つけられたのか?」
「無理だよ。でも、なんでそんなこと気にするの?別に俺たちは本当のメイトってわけじゃないのに。心配してるフリとかしなくていいよ」なんで彼は、俺のことをメイトと思ってないって言ってるのに、こんなに過保護なんだろう?まるで俺たちに未来があるみたいな期待を抱かせるけど、すぐにそれを打ち砕くようなこと言ったりする。
「前にも言ったけど、俺は別に心配してるって見せる必要はないんだ。ただ、俺が何か言ったら、ちゃんと聞いてくれよ。毎回お前を助けられるわけじゃないんだから」 彼は俺の顔に近づいてそう言った。
「わかった」 彼は見せる必要はないって言うけど、本当は心配してないんだって信じてる。だって、一度も見せたことないんだもん。
その日の後半、クロエ、リアム、ダン、シャーロットが見舞いに来た。みんな俺のこと心配してて、起きた俺を見てすごく喜んでた。クロエは、セオドアが俺をクレセント・ムーン・パックで治療してくれたけど、首の傷が感染する心配がなくなったら、自分のテリトリーに戻したって教えてくれた。それに、セオドアは俺のことすごく心配してて、毎日そばにいて、俺が起きるように祈ってたんだって。ヴァンパイアに襲われた後、生き残るのはすごいラッキーだってクロエも言ってた。俺みたいに血をたくさん失ったら、普通は生き残れないんだって。
起きてから数日経って、もうすぐ退院。シャーロットが来るのを待ってる。このテリトリーのこと全然わかんないから、家に帰るのを手伝ってもらわなきゃ。ドアがノックされて、入ってきたのはシャーロットじゃなくて、セオドア。なんで?
「準備できたか?」 セオドアが聞いてきた。彼は挨拶の仕方とか教わってないのかな?いつも最初の言葉は質問だよね。
「うん」 俺はベッドから起きて、彼について行った。
病院の外を、お互い何も話さずに歩いて、彼の家まで来た。なんでシャーロットじゃなくて彼が来たのか気になって聞いてみた。
「なんでシャーロットじゃなくて、あなたが来たの?」
「俺がお前を家に連れて帰ることに何か問題でもあるのか?」
「ううん、別に」
「じゃあ、なんでシャーロットを探してるんだ?」
「シャーロットはもっと他にやることあると思ってたから、なんで来なかったのかなって」
「シャーロットは、俺のメイトを家まで送るより、他にいいことあるだろ」 彼はそう言って、俺は目を見開いた。まさか、俺のことをメイトって呼ぶなんて。こんなにカジュアルにメイトって言ったこと、今までなかったのに。
「メイト?今、私をメイトって言った?」俺は自分の耳がちゃんと聞こえてるか確認した。
「ああ、言った。それも何か問題あるのか?」
なんで彼は、全部のことについて俺に問題あるのかって聞くんだ?
「ううん、別に。ただ、あなたが私をメイトって呼んだから、びっくりしただけ」
「お前は俺のメイトだ」
「うん、そうだね」もう他に何を言えばいいのかわからない。
次の日、キッチンで朝食を食べてると、セオドアが入ってきた。
「食べ終わったら準備しろ。お前は今日、俺と一緒にオフィスに行くんだ」
「なんで?」
「30分後に出る。遅れるな」 彼は俺の質問を無視して、キッチンから出て行った。
なんで俺をオフィスに連れて行きたいんだ?俺が二度と逃げないように、監視したいのかな?
食べ終わるとすぐに、食器を洗って、準備するために二階に上がった。朝ごはんの前にシャワー浴びといてよかった。クローゼットに行って、彼のオフィスに着ていく服を探してみた。ここにあるのは、ジーンズとTシャツだけ。オフィスに着ていくには、ちょっと違う気がする。彼に、着ていくものがないって言いに行くか、もうあるものを着ていくか悩んでる。彼の機嫌を損ねたくないから、一番マシな服を着ていこうかな。
着替えて、階段を下りていくと、彼はスマホを見ていた。スマホを持ってる彼を見ると、俺もスマホが欲しくなる。彼がスマホを持たせてくれたらいいのに。スマホさえあれば、もっと色々できるのに。
「準備できたよ」 俺は彼の注意を引こうと話しかけた。彼はスマホから目を離して、俺を見た。頭からつま先までじっくり見てくる。
「毎日オフィスに来るなら、服を買いに行った方がいいな」 彼はそう言って、家から出て行く。
「毎日?」俺は彼についていきながら尋ねた。
「ああ、今日から毎日、俺と一緒にオフィスに行くんだ」
「なんで?」理由はわかってるんだけど、聞いてみた。
「お前は、俺の寝室にも引っ越すことになる」
「え?」俺は目を見開いたけど、彼は何も言わずに仕事を続けた。逃げたらセオドアに大変なことになるってわかってたけど、まさか24時間一緒にいることになるなんて思ってもなかった。これは、マジでやばい。
セオドアが評議会との会議に出てる間、俺は一日中彼のオフィスで過ごした。今日が人生で一番退屈な日だったと思う。彼のオフィスでは、ただ座って壁を見てるしかなかった。読む本もないし、インターネットを閲覧できるコンピューターもない。一日中マジでつまらなかった。お母さんの捜索がどうなってるのか彼に聞きたかったけど、オフィスに着いてから全然会ってないし。昔のアルファが、お母さんを探すのをやめてないことを祈るしかない。
彼を待ってる間に眠くなってきたから、彼のオフィスのソファでくつろぐことにした。どうせ彼の部屋に引っ越すことになったら、今夜は絶対寝れないだろうし。
セオドア
セオドアは、他のアルファが自分より広い土地を持ってるって文句を言ってるアルファたちの話を聞いて、数時間後に自分のオフィスに戻ってきた。疲れ果てて、早く家に帰って寝たかった。オフィスのドアノブを回すと、メイトの匂いがしてきて混乱した。彼女はなんでここにいるんだ?中に入ると、メイトがオフィスのソファでぐっすり寝てるのを見つけた。今日彼女にオフィスに来るように頼んだこと、一瞬忘れてた。セオドアは優しくメイトを抱き上げ、オフィスを出て家に帰った。
セオドアは、メイトをベッドに寝かせようとしたけど、どうやら彼女は自分のベッドに引っ越す方がいいみたい。彼女を自分の部屋に寝かせることになるって言ったのはわかってるけど、後になって、そうしない方がいいってことに気づいた。毎日彼女の匂いを嗅いで、触ることすらできないってのに、それは十分すぎるくらい辛い。もう一度ベッドに寝かせようとしたけど、アナスタシアは彼を放そうとしない。
セオドアはもう諦めて、自分とメイトが一緒に眠れるようにベッドでくつろいだ。でも、絶対眠れないってわかってる。メイトが彼の隣で眠っていて、彼のオオカミは彼女をマークしようと一晩中邪魔してくるだろう。彼はそんなことしないって誓ったから、一晩中起きていなきゃいけないって覚悟した。
次の日、セオドアがシャワーを浴びてると、家の中で騒ぎが起きた。弟はもう引っ越したから、一体どこから聞こえてくるんだろう?彼はシャワーを急いで終えて、メイトの部屋に駆け込み、彼女が浮気してないか確かめた。セオドアが目にしたものは、彼を困惑させた。メイトは床に座り込み、泣きながら自分の体を掻きむしっていた。彼女の目が彼の目と合った瞬間、彼はその理由がわかった。メイトがヒートを起こし、それを鎮められるのは彼だけだった。