チャプター23
セオドアとあたしは、池で一日中遊んだんだ。セオドアは、あたしにほぼマーキングしそうになってから、もう湖には入らなかった。エカテリーナになんであたしをマーキングするのを止めたのか聞きたかったんだけど、あの時以来会ってないんだよね。
「たぶん、今は気分が良くなってきたと思うわ。ちょっと、そっち向いててくれる?」そう言われて、セオドアが顔を背けたから、あたしは水から出た。数時間前、水中で二人してほぼ全裸だったのに。セオドアに下着姿を見られるのは、やっぱり落ち着かないんだよね。
喉の痛みはなくなったし、話すのも痛くない。体温も下がった。それに、だるくもない。エカテリーナが水にかけた魔法のおかげだって確信してる。きっと、あたしの回復を助けてくれたんだ。家から持ってきたハンドタオルで体を拭く。あれ、セオドアが持ってきてくれたんだよね。
「もう、振り返っていいよ」あたしは服を着終わってから言った。
「本当に気分は良くなったのか?」セオドアが振り返って、あたしに向き合った。
「うん、そうなの」そう言うと、セオドアはあたしのおでこに手を当てた。
「そうだね、熱はもうないみたいだ」そう言って、あたしのおでこから手を離した。
「ねえ、エカテリーナは?」あたしは尋ねた。
「食べ物を探しに行ったよ。もうすぐ戻ると思う」
「美味しいものが見つかるといいね」
「そうだね」セオドアはハンドタオルを拾いながら言った。「こっちに来て」そう言って、あたしに近づくようにジェスチャーした。
「どうしたの?」あたしは彼に近づきながら尋ねた。
「髪の毛をちゃんと乾かしてない。服に水が滴ってるぞ」セオドアは、タオルを使ってあたしの髪を乾かしてくれた。
「ありがとう」あたしは、髪を乾かしてくれている彼を見上げて言った。
彼はうなり声を上げ、集中して作業をしている。あたしの髪を乾かしている時の真剣な顔ったら、面白い。彼はいつも真剣な顔をしているんだよね、何をしてても。
セオドアが、あたしの頭からタオルを外そうとした時、突然、あたしをくるっと回した。なんで反対側に向けられたのか混乱したけど、セオドアが苦痛にうめき声を上げた時、理由が分かった。セオドアが撃たれたんだ。どうして撃たれたのか、あたしには分からない。前を見ると、人間が銃をセオドアに向けているのが見えた。その人間はまた撃とうとしているけど、そうなる前に、セオドアがあたしを掴んで、あたし達は走り出した。大丈夫か、って聞こうとしたら、セオドアに先を越された。
「シフト!」セオドアは、アルファの声を使って、あたしを強制的にシフトさせた。エヴァはまだ戻ってこないし、話しかけてもこないから、今シフトできるのは、実際、この方法しかないんだ。
シフトすると服が破れ、あたしは走り続けた。セオドアもそれに従い、シフトしてあたしの横を走り続けた。セオドアは強い。銀の弾で撃たれたばっかりなのに、まだオオカミに変身できるんだから。
「セオドア、気分はどう?」あたしは、すごく痛いんじゃないかと心配して尋ねた。オオカミの姿でも、血が出てるし。涙が目からこぼれそうになる。オオカミの姿でも。あたしを守るために撃たれたんだ。あたしのために銃弾を受けたなんて、信じられない。
「大丈夫だ、走り続けるんだ」セオドアは低い声で言った。すごく痛いはずなのに、あたしには言いたくないんだよね。
あたしは全力で走り続けた。人生で一番早く走ってる気がする。銃弾が目の前に落ちた時、あたしは思わず止まりそうになった。ほんの少しのところで、あたしは撃たれずに済んだんだ。どうしてあたしたちに追いつけたんだろう。振り返ると、人間のハンターがバイクに乗ってあたし達を追いかけているのが見えた。あたしたちのスピードに追いつける理由はそれだ。人間はオオカミ人間のスピードには敵わないからね。あたしは前方に洞窟が見えて、そこに行って隠れるべきか、それとも走り続けるべきか考えた。でも、選ぶ間もなく、矢が飛んできた。あたしは、その場で固まってしまい、セオドアがあたしを突き飛ばすまで動けなかった。あたしはセオドアが地面に倒れるのを見て、口からオオカミの叫び声が漏れた。矢が彼の毛皮に突き刺さったんだ。
あたしはすぐにセオドアのところへ走り寄り、彼を守ろうとした。また別の矢が飛んでくるのが見えたけど、またセオドアがあたしを突き飛ばして、もう一本の矢が肩甲骨に突き刺さった。セオドアの目が閉じるのを見て、二本目の銀の矢が彼の毛皮に落ち着くのを見た。
「セオドア」あたしは、彼の心に繋がって泣きながら言った。「死なないで、死んじゃだめ。お願い、起きて」あたしは彼を起こそうとしたけど、何も変わらない。
歯を使って矢を抜こうとしたけど、銃弾が私たちの周りに発射されたので止めた。セオドアはすぐにあたしを抱きかかえて、すべての銃弾からあたしを守った。あたしは目を閉じて、自分たちの死を待った。
銃撃は止まり、セオドアの体が上下に動いているのを感じたから、あたしたちはまだ生きているんだと分かった。セオドアの下から出てきた。彼はそうしてほしくないだろうけど、弱すぎてあたしに抵抗できないんだ。あたしを囲んでいる人間のハンターが10人くらいいるのが見えた。何が起こっているのか分からないうちに、体にチクッとした痛みを感じた。振り返ると、毛皮に注射器が刺さっているのが見えた。どうしてこんなところに?前を見ると、変な銃を持った人間が立っていた。きっと、それで注射器を撃ち込んだんだろう。目が重くなり、開けているのが難しくなってきた。最後に覚えているのは、セオドアが「近づくな」って言ったことだけ。でも、あたしは弱すぎて、そんなことできないんだ。
目を開けると、体のあちこちに痛みを感じた。手を動かそうとしたけど、動かないことに気づいた。下を見ると、手は床に鎖で繋がれている。足も同じだ。隅っこでうめき声が聞こえる。暗くて、周りがよく見えない。隅っこに這っていって、そこにいる人がセオドアなのか確かめようとした。
「セオドア、あなた?」あたしはそう言って、その人の体に触れた。
「ああ、アナスタシア、あたしだよ。無事でよかった」セオドアはそう言って、あたしの顔に手を触れた。
「そう言うべきは、あたしの方だよ。気分はどう?すごく痛いはずだよね。ごめんね、セオドア。今日、何度も命をかけてあたしを助けてくれた。ごめんなさい。あたしのせいで、あなたがこんなに痛いんだよね」あたしはそう言って泣いた。セオドアの痛みと怪我に、すごく罪悪感を感じてる。彼の痛みの一部を感じることができるけど、彼はほとんどを隠しているって分かってる。あたしが感じていることなんて、セオドアが感じていることと比べたら、何でもない。
「大丈夫だ、お前のせいじゃない」セオドアはそう言って、あたしの涙を拭った。
「どうして、あたしのせいじゃないって言えるの?今日、あなたに向けられた銃弾は、全部あたしが狙われたものなんだから、当然、あたしのせいだよ」
「違う、お前のせいじゃない」
「そうなの。あたしが撃たれてれば、あなたは今頃大丈夫だったのに」そう言って、もっと涙が出てきた。
「アナスタシア、あたしを見て」セオドアがそう言うから、あたしは彼を見た。彼は、暗闇でも見えるように、目を金色にした。彼はあたしの顔を両手で包み、あたしの目を見つめた。
「お前のせいじゃない。終わり。泣くな」セオドアと彼のオオカミはそう言った。
「分かった」あたしはそう言って、泣くのをやめようとした。「傷はどう?矢は抜いた?」あたしは尋ねた。
「いや、まだだよ。それをお前にやってもらうことになる」セオドアはそう言って、あたしに近づいた。
「分かったけど、すごく痛いよ」あたしはそう言って、矢を探すために彼の体に触れた。
「分かってるよ。あと、体の中の銃弾も取らないといけないんだ。どんな弾で撃たれたのか分からないけど、体に銀が染み込んでる」
「分かった、まずは矢を抜こう」あたしはそう言って、彼の右肩の矢の上に手を置いた。「痛みを紛らわせるために、あたしを抱いてて」
「そんなのいらない」彼は言うけど、あたしは無視して、彼の手にあたしの太ももを触らせた。「だから、抱きしめる必要はないって」セオドアはそう言って、あたしの太ももから手を離そうとするけど、あたしは止めた。
「お願い、一回だけ、あたしの言うこと聞いて」あたしは懇願した。彼が矢を体から引き抜く時の痛みを紛らわせるには、何かを抱いててもらう必要があるんだ。
セオドアは何も言わずに、あたしの太ももに手を戻した。
「ありがとう。じゃあ、3つ数えるから」あたしはそう言って、彼の肩甲骨に片手を置き、もう片方の手で矢を掴んだ。
「やれ」
「1、3」あたしはそう言って、矢を彼の体から引き抜いた。セオドアはあたしの太ももを強く握って、そこに血が流れなくなるのを感じた。
「3まで数えなかったぞ」セオドアは、痛みが和らいでから言った。
「予想してない時に抜く方がいいの」
「いい考えだ。でも、もう片方は、教えてくれ」
「分かった」
あたしは彼に教えず、間違って数を数えながら、もう一本の矢を彼の体から引き抜いた。あたしは服をちぎって、彼の矢の傷口に当て、出血を止めた。今度は、体の中の銃弾を取り除こうとしている。これはすごく難しいんだよね、誰かの体から矢を抜くよりも、体の中の銃弾を抜く方がずっと難しいから。あたしは息を止めて、セオドアの傷口に指を突っ込んだ。
「ごめん」あたしはそう言って、セオドアが指が傷口に入って痛くてうめき声を上げるのを聞いた。あたしは指を深く傷口に突っ込み、銃弾を抜き取ると、大きな苦痛のうめき声が聞こえた。「ごめんね、こんな痛い思いをさせて」また泣きそうになるのが分かった。
「大丈夫だ、また泣き出すなよ」セオドアは、額に汗をかきながら言った。
「泣かない」あたしはそう言って、涙を引っ込めた。あたしは服を使って、彼の額を拭いた。人間が、あたしたちが意識不明の間に服を着せたに違いない。きっと、彼は痛みのせいで汗をかいているんだ。
セオドアが話そうとしたけど、牢屋のドアが開く音がして止まった。あたしはセオドアから目をそらし、誰が入ってくるのか見た。その人が部屋に入ってくると、部屋の明かりがついた。まさか、こんなところに明かりがあるとは思わなかった。あたしは目の前にいる人間を見た。彼は茶色の髪に青い目をしてる。顔に長い傷跡がある。爪痕みたいで、どうしてこんな傷がついたんだろうかと思った。
「やっと起きたか。アルファ王を殺す前に拷問するチャンスがなくなるかと思ったよ」その男は、不吉な笑みを浮かべて言った。
「お前のくだらない矢と銃弾だけじゃ、あたしを殺すことはできないんだよ、ウォルデン」セオドアは、憎しみを込めた声で言った。
セオドアは、彼が誰なのか知ってるみたいだ。もしかしたら、彼が顔の傷をつけたのかも。傷はオオカミにやられたみたいだから、セオドアがやったとしても、驚かない。
「くだらないって言ってるけど、お前は牢屋に繋がれてるんだぞ。お前を捕まえるのに協力できたんだから、どれだけくだらないんだ?」
「お前に捕まったのは、あたしがメイトを守っていたからだってことは、二人とも分かってるだろ、ウォルデン」
「好きなこと言っていればいいけど、分かってることは、お前は鎖に繋がれてて、あたしは自由だってことだけ」
「長くは続かないだろうな。お前が崇拝している存在に祈るんだな。この鎖から出たら、お前を見つけ出すって」
「心配するな。そんなことは絶対に起こらない。もう行かないといけない。誰かがお前たちに食べ物と水を持ってくるだろう。それを受け取って、あたしへの憎しみで止まらないように気をつけろ。すぐに、もっと酷いことが起こるだろうからな」そう言って、彼は部屋を出た。
もっと酷いことって、どういうこと?誘拐された時よりも、もっと恐ろしいことが起こるってこと?何であれ、セオドアとあたしは、それを乗り越えられるといいな