第六章
ちょっと色々あってから、あのね、アタシ、セオドアと会ってないんだよね。ちょっと嬉しいんだけど、会うといつも泣いちゃうから。でも、ちょっと寂しい気持ちもある。メイトボンドのせいで、避けたいのに、一緒にいたくなっちゃうんだよね。
キッチンで朝ごはん作ってたら、クロエが入ってきた。
「おはよう、アナ。」クロエはキッチンの椅子に座って言った。
「アナじゃないけど、おはよう。」アタシはちょっと微笑んで答えた。セオドアが昨日クロエを追い出した後だったから、来てくれて嬉しい。もうアタシと時間過ごしたくないのかなって心配してたんだ。
「今日は気分どう?」アタシがクロエにスクランブルエッグを出すと、クロエが聞いてきた。朝ごはんの時間に来てるってことは、まだ食べてなかったんだね。
「まあまあかな。なんで?」
「ありがとう。ベータの家、そんなに遠くないから、昨日の夜、泣いてるの聞こえたんだ。」クロエは同情した目で、朝ごはんを食べながら言った。
「ああ、大丈夫だよ。そんな顔しないで。」アタシはそう言って、自分の卵を作りにもう一度ストーブのところに戻った。
「どんな顔してる?それに、今日は元気そうでよかった。」
「すごく同情した顔。」
「ごめんね、仕方ないの。」
「大丈夫だよ。それより、何か話そっか。」
「今日は何か予定ある?」
「ないよ。」
「やったー!じゃあ、一緒にモール行かない?ダンに記念日のプレゼント買いたいんだ。」
「一緒に行きたい!それに、結婚してたんだね。」オオカミ人間って結婚しない人も多いけど、する人もいるんだよね。オオカミ人間にとっては、首に印がつけば、もう結婚指輪みたいなもんだし、誰だって「ああ、あの人はもうダメだ」ってなるから。
「いや、してないよ。メイト記念日なんだ。」
「メイト記念日?初めて聞いた。」
「自分たちで作ったんだ。メイト記念日は、出会って、ボンドが完成した日。ボンド完成って結婚みたいなもんだから、毎年祝うことにしたんだ。」クロエはそう言って、考え事でもしてるみたいに笑顔になった。きっとダンと出会った日のことを思い出してるんだろうな。笑顔からして、幸せな日だったんだと思う。
アタシもそうだったらよかったんだけど、アタシがメイトと出会った日は、死にそうになって、目が覚めたら、彼はほとんど何も言ってくれなかったんだから。
「素敵だね。」アタシは笑顔で言った。
「うん。」クロエはまだ考え事をしてる。
その日の午後、アタシとクロエは街のモールに行った。今は時計屋さんで、ダンに一番いいやつを探してる最中。アタシ、時計のこと全然知らないし、クロエもそうだから、まあ大変。
「これどう?」アタシはシルバーの腕時計を指さした。スチールストラップの時計。
「嫌だ。」
「好きな色は何色?」クロエにどんな色の腕時計を勧めたらいいか聞いたら、
「青。」
「じゃあ、これだね。」アタシは三針の青いシリコンの時計を見せた。
「うーん。」クロエはまたアタシの提案を拒否した。
「もういいや。」アタシは両手を上げて降参した。アルマーニの店に入ってから、もう五個も見せたんだよ。今まで見た中で一番いい腕時計が置いてある店なのに。
「ごめんね、こだわっちゃって。一番いいやつをあげたいから。」
「わかるよ。」
「ありがとう。これ、どう思う?」クロエは革製のメッカリコ腕時計を指さした。
「いいと思う。ダンに似合うよ。」アタシは正直に言った。
「私もそう思ったんだよね。これにするわ。アナもアルファ・キングにあげたら?誕生日にプレゼントしてもいいんじゃない?」
「誕生日プレゼント?いつなの?」アタシは驚いて聞いた。メイトの誕生日が近いなんて知らなかったんだ。アタシ、彼の事全然知らないから、気にすることないんだけど。名前だって誰かに聞いただけで、彼から聞いたわけじゃないし。なんだか、嫌いな男と結婚させられた女みたい。
「あと2週間だよ。知らないのは驚かないけど、何か買ってあげたら?そうすれば、アナが彼の事気にかけてるって思ってくれるかもよ。」
「気にかけてるって言わないけど、メイトなんだから、一緒にいたい気持ちはあるかな。」アタは正直に言った。セオドアと一緒にいたい気持ちはあるけど、気にかけてるとは言えない。
メイトボンドがなかったら、好きだったのかどうかもわからないんだよね。関係がめちゃくちゃで、彼のこと知って、好きになれるのかどうかもわからない。メイトボンドのせいで一緒にいたくなるけど、恋に落ちるわけじゃないんだ。惹かれる気持ちはあるけど、気持ちは作るんだよ。
「わかってるけど、損はないでしょ?」
「損はないけど、お金ないし。」
「大丈夫。先に何か買って、アルファがお金くれるようになったら、返してくれたらいいから。」
「ほんと?」アタシは少し彼女の優しさに驚いた。そんなにアタシのこと知らないのに、お金貸してくれるなんて。
「そうよ。さあ、アルファが喜びそうなもの探そ。」クロエはアタシの腕に絡んで、お店の中を歩き始めた。
「ありがとう。」アタシは笑顔で言った。
「どういたしまして、ルナ。」クロエも笑顔で返してくれた。
その晩、アタシはクロエと一緒にモールで買ったドレスを眺めながら、ニヤニヤが止まらない。黒いロングのクレープドレスで、構造的なリボンと手作りのクリスタル刺繍がサイドに施されてるんだ。セオドアの誕生日の大きな晩餐会があるから、ディナードレスを買ったんだ。王様だし、毎年こんな風に祝ってるんだろうな。彼は25歳になるんだ。
彼はすごく若い年齢で王様になったんだ。18歳で王位を継承したんだよ。おじさんがオオカミ人間の王国を運営するのを手伝ってくれて、彼が大人になるまで支えてくれたんだ。彼の両親は何年も前に亡くなってる。父親は母親をヴァンパイアから守ろうとして死んで、母親はリアムを産んだ後に亡くなったんだ。セオドアのパパが死んだ数か月後のことだった。クロエは、メイトの死が受け入れられなくて、出産中に亡くなったんだって信じてる。セオドアはほとんど両親なしで育ったんだよね。オオカミ人間の王国を運営するのを手伝ってくれたおじさんも、彼が王位を継承したら、引っ越しちゃったんだ。クロエは今日、ショッピング中に全部教えてくれたんだ。
ベッドから起きて、クローゼットにドレスをしまおうとしたら、ノックが聞こえた。ドレスをベッドに落として、誰かいるのか見に行こうと思ってドアに向かった。きっとクロエかな?ドアを開けたら、そこにいたのは、一番会いたくない人だった。
「今日はどこ行ってたんだ?」セオドアは、ドアを開けたアタシに尋ねた。
「あなたもね。」アタシはそう言って、彼が入れるようにスペースを空けた。
「聞いたんだ。今日はどこ行ってたんだ?」彼はまるで自分の家みたいにアタシの部屋に入ってきた。実際、そうなんだけど。
「クロエとモールに行った。」
「許可を求めなかったのはなぜだ?」
「許可?出かけるのに許可が必要だとは思わなかった。」
「出かけるときはいつも許可を求めなければならない。」
「出かけるのに許可なんて必要ないと思う。アタシはあなたの囚人じゃない。」
「ああ、あなたは囚人じゃない。でも、アタシのメイトだ。」彼はそう言って、アタシに近づいてきた。「次、許可なしに家を出たら、二度とここから出られなくしてやる。だから、いつもアタシに聞いてから、ここから一歩でも足を踏み出すように。わかったな?」彼はそう言って、最後の言葉をアタシの顔に吹きかけた。
すごく近くにいて、長い美しいまつげが見える。じっと見つめられて、すごくイケメン。髪の毛をかきあげたくてたまらない。今日、たくさん手でかきあげたんだろうな。仕事が大変だったんだろう。王様だから、しょうがないよね。大変なんだろうな。何かしてあげられたらいいのに。
「見とれるのはやめて、答えろ。」彼の声がアタシの耳に響いた。
「はい、わかりました。」アタシはそう言った。アタシの人生について、そんな決定をするのは間違ってるってわかってるけど、彼と議論しても無駄だってことも知ってるんだ。
さっき、彼に見とれてて、ちょっとの間、何を話してたのか忘れちゃって、ただメイトの美しさに見とれてた。出かける前に許可を求めるように言われるのは、理不尽だってことも忘れちゃった。たまに思うんだよね。彼はアタシのことを気にかけてるからこんなことするのか、それともただアタシの人生を地獄にしたいだけなのかって。