チャプター28
オレたちが逃げてから、もう2週間も経ったんだ。吸血鬼のテリトリーに入ってからも、もう数日だね。エカテリーナが体調崩しちゃってさ、逃げてから1週間も待たなきゃいけなかったんだ。銀の呪文が、彼女の体にめっちゃ負担かけちゃったみたいで。でも、ラッキーなことに、彼女はすぐ元気になって、怪しまれずに吸血鬼のテリトリーに入れるように、強力な呪文をかけてくれたんだ。
セオドアとオレの関係は、相変わらずなんだ。彼はオレのこと、尊敬して接してくれるんだけど、それ以外は何も変わってないんだよね。変わってほしいんだけどなぁ。だって、あんな風に優しくされると、彼のこと好きになっちゃいそうじゃん。たまに、2人の関係を始めたいって思ったりもするんだけど、結局いつもやめちゃうんだ。オレ、シャイだし、もし勘違いで彼の気持ちが違ったら、振られるのも嫌だし。
セオドアとエカテリーナとオレは、吸血鬼のテリトリーのストリートを歩き回って、お母さんを探してるんだ。今日だけで、100人以上には声かけたと思うんだけど、誰もお母さんを見たこともないし、どこにいるのかも知らないんだ。もう手遅れなんじゃないかって、ちょっと心配になってきた。
「おい」って、セオドアがオレの顔の前で手を振ってる。
考え事しすぎて、ボーッとしちゃってたみたい。ハッと我に返ると、もう夕日が沈むところだった。つまり、また1週間が終わっちゃったってこと。まだお母さんは見つからないし、彼女の居場所について何も情報がないんだ。いつから泣き始めたのかも分からなかったんだけど、セオドアの温かい手がオレの顔に触れたときには気づいた。
「なんで泣いてるんだ?」って、彼はオレの涙を拭いてくれた。
「セオドア」って言って、お母さんがもう生きてないかもしれないって考えたら、涙が止まらなくなっちゃった。そんなの、考えたくもないんだ。もし本当だったら、オレ、生きていけないよ。セオドアは何も言わずに、ただオレを抱きしめて、腕の中に包んでくれた。オレは彼の胸に顔をうずめて、思いっきり泣いた。
どれくらいそうしてたのか、全然分からなかったんだけど、泣き止んだ頃には、空には星がいっぱい、月も出てたんだ。1歩踏み出そうとしたら、つまずきそうになって。慌ててセオドアに掴まったら、彼はオレを抱き上げてくれた。文句なんか言わずに、彼の腕の中にいるのを楽しんだよ。セオドアは、街に入ったときに借りた車まで、オレたちを運んでくれた。オレたちは、吸血鬼のテリトリーにあるホテルに泊まってるんだ。
車に向かう途中で、今日セオドアがしてくれたことを考えずにはいられなかったんだ。オレが何時間も泣いてたのに、セオドアはそばにいてくれたんだよ。別にそこにいる必要なんてなかったのに、彼はいてくれたんだ。それに、今もオレを車まで運んでくれてる。きっと、彼の足だって疲れきってるはずなのに。これこそが、セオドアについて言いたいことなんだ。彼はオレにすごく優しくしてくれるんだけど、それだけなんだよね。
次の日、昼間もまたお母さんを見つけられなくて、リビングでしょんぼりしてたら、セオドアが自分の部屋から出てきたんだ。セオドアとオレは、ホテルのスイートを一緒に使ってるんだけど、部屋は2つあるんだよね。セオドアは、オレに別々のスイートを取らせようとしなかったんだ。別に驚きはしなかったけどね。セオドアの独占欲は、もう慣れっこだし。
「お腹すいてる?」って、オレの隣に座って聞いてきた。
「うん、空いてる。ルームサービス頼んだの?」
「いや、頼んでない。今夜は外に食べに行かないか?」
「いいね、支度してくるね」って言って、ソファーから立ち上がったんだ。
着替えて部屋から出ていくと、セオドアとオレは、一緒に出かけることにしたんだ。午後にエカテリーナがかけた呪文はまだ効いてるみたいで、新しいのを頼む必要はないんだ。彼女は、今夜は一緒にご飯食べないんだって。どこか行きたいところがあるみたい。
着いたレストランに入ると、空いてる席に座ったんだ。
「それで、今夜は夜になってから、お母さんを探し始めるのがいいんじゃないかって思ってるんだ。吸血鬼に会えるかもしれないし、もしかしたら、彼女のこと知ってるかもしれないしな」って、セオドアはメニューを見ながら言った。
オレたちは、街にいる人間たちには聞いてたけど、吸血鬼には聞いてなかったんだよね。吸血鬼のテリトリーには、人間もたくさん住んでるんだ。そのテリトリーは、普通の人間が住むエリアみたいで、夜になると血を吸うモンスターがいっぱいいるだけなんだ。吸血鬼は、人間をたくさん住ませてるのは、食料を手に入れやすくするためなのかなって思う。人間たちは、吸血鬼のこと知ってるのかなぁ。でも、多分知らないと思うんだ。ほとんどの吸血鬼は、食べるときに全部血を吸っちゃうからね。吸血鬼に血を吸われたっていう話をする人間は、誰もいないんだよ。
「それ、私も考えてたことだよ」って、オレもメニューを見ながら言った。
「じゃあ、明日から始めようか」って、セオドアはウェイターに注文を終えてから言った。
「いいね。でも、いつも以上に気をつけなきゃだね」って、オレも注文してから言った。
「そうだね。エカテリーナにも、ずっと一緒についてきてもらおう」
「早く見つかるといいな」
「大丈夫、きっと見つかるよ」
ご飯の途中で、オレはトイレに行くことにしたんだ。用を済ませて出てくるときに、誰かにぶつかっちゃって。謝ろうとしたら、相手を見てビックリ。相手は…マットだったんだ。
オレは何も言わずに、彼を無視して通り過ぎようとした。すると、彼はオレの腕を掴んで、引き止めてきたんだ。
「アナ、あの夜のことは、本当に謝りたいんだ」
「謝罪なんていらないわ、マット」
「ごめん。あの夜は、何かに取り憑かれたみたいだったんだ。あんなこと、君にすることじゃない。本当にごめん、傷つけて」
「だから、マット、謝罪なんていらないって言ってるの。だから、手を放して」
「お願いだ、許してくれ。そして、戻ってきてほしいんだ」って、彼はオレを近くに引き寄せようとした。
「頭がおかしいの?あなたとやり直すことなんて、絶対ないわ。手を放して」って、オレは彼の腕を振り払った。でも、ちょっと遅かったのかもしれない。あの聞き覚えのある、大地を揺るがすような唸り声が聞こえたから。
部屋の向こう側を見ると、そこにいたのは、激怒したアルファ王で、今にもここにいるすべての吸血鬼に、自分が人狼であることを告げ、マットの首をへし折ろうとしているんだ。セオドアは、危険な足取りでオレたちに近づいてきて、マットに触れようとしたとき、オレは彼の胸に手を置いて、落ち着かせたんだ。
「落ち着いて。ただのバカな人間だよ。彼のせいで、自分たちの正体を明かすわけにはいかないわ」って、オレはセオドアを落ち着かせようとした。彼は、オレの後ろにいるマットから目を離さない。オレは彼の顔に手を触れて、自分の顔に近づけて、彼の目を見て、落ち着くように目で訴えた。永遠のように感じた後、セオドアは、オレが聞きたかった言葉を口にしたんだ。
「今夜は運がいいな、人間。お前のものに触れたとしても、命だけは助けてやる」って、セオドアは言って、オレの手を掴んだ。
「殺さなくてくれて、ありがとう」って、オレはセオドアに引っ張られて、外に出ながら言った。
「なんで、あの人間に触らせたんだ?男に触られるのは、一番嫌だって言っただろ」って、セオドアは怒った声で言った。
「ごめん、分かってる。もう、そんなことしない」って、オレは彼を落ち着かせようとした。
「二度とそんなことするなよ」って、セオドアは言って、オレたちを車に向かって歩き始めた。
「約束する」
車に向かう途中で、車のボンネットに誰かが座ってるのが見えたんだ。なんで、あんなところに座ってるんだ?セオドアに言おうとしたら、彼は突然、吸血鬼のテリトリーに入ってから、一番恐れていた言葉を口にしたんだ。
「バレた、逃げろ」って、セオドアは言って、オレを引っ張って走り出したんだ。
「どうして?」って、オレはセオドアの横を走りながら聞いた。
「俺の唸り声が聞こえて、俺たちが人狼だって気づいたんだろう」って、セオドアは、レストランの近くの森に走り込んだんだ。
吸血鬼のテリトリーは、どこもかしこも木に囲まれてるんだよね。日光を避けるためなのかな。
「シフとしてみる?」
「ダメだ、匂いで見つかる。まだ奴らの匂いがするから、必要になるまで待とう」
数分走り続けて、もう吸血鬼たちには追いつかれないんじゃないかってセオドアに言おうとしたとき、1人がオレたちに追いついてきたんだ。
「やあ、人狼さん」って、若い吸血鬼がセオドアの横を走りながら言った。
「仲間に入れてくれない?」って、年上の吸血鬼がニヤニヤしながら言ったんだ。
セオドアは走るのをやめて、横にいた奴の首を掴んで、森の奥に投げ飛ばした。オレの横にいた奴は、オレを捕まえようとしたけど、オレはそれを避けた。セオドアがすぐに助けに来て、彼を吹き飛ばしたんだ。
「もっと来てるみたい?」って、オレは息を切らしながら言った。走ったからだよね。
「ああ、匂う。信じてくれるか?」
「もちろん、どうしてそんなこと今になって聞くの?」って、オレは混乱した。
「信じてくれて嬉しいよ。だって、これから言うことを、何も聞かずにやってほしいんだ」
「分かった」って、彼が何を言うのか、オレは不思議だった。
「別れよう」
「ダメよ、なんでそんなこと言うのよ」って、オレは反対したんだ。なんで、今になってそんなことを言うんだろって、オレは思った。
「俺を信じてるか?」って、彼はまた聞いた。
「もう答えたわ。で、なんで別れるの?」
「信じてるなら、俺の言う通りにしろ。吸血鬼のテリトリーからの出口は、そんなに遠くないんだ。そこまで行ったら、あの小屋で待っててくれ」って、セオドアは言って、オレから離れて走り出したんだ。
「嫌よ、あなたと離れたくない」って、オレは彼を止めた。
「信じてくれ。それが、俺たち2人とも生きてここから出るための最善策なんだ」って、彼は言って、オレの額にキスをして、また走り出したんだ。
彼に逆らって、彼を追いかけることも考えたけど、セオドアを信じて、彼の計画に従うことにしたんだ。オレは、彼と反対方向に走り出した。
人間としての足で、できる限り速く走ったんだ。森の中で遠吠えが聞こえたときだけ、立ち止まったんだ。すぐにセオドアがなんでオレたちを別れさせたかったのか、理解できた。集中して、誰かがオレの方に走ってきていないか、耳を澄ませたけど、誰もこっちには来てないんだ。ただ、遠吠えが聞こえてきた方に向かってるだけだった。セオドアが、こんな風に自分の命をかけてくれるなんて、信じられない。
セオドアの犠牲を無駄にしないために、走り続けたんだけど、また立ち止まったんだ。森の中で、オオカミが苦しんでるような声が聞こえたから。セオドアが傷つけられてるんだ。彼を助けに行かなきゃ。オレは、その声が聞こえる方向に走り出したんだ。セオドアの匂いを嗅ぎつけて、もっと早くそこに着けるようにとも思った。オオカミの姿になれば、もっと速く走れるんだけど、そこに着くまで待つことにしたんだ。
走っているうちに、セオドアの匂いをもっと近くに感じて、考えを変えて、シフとした。血の混じった彼の匂いがするんだ。もう遅すぎないことを願ってる。吸血鬼の匂いもすぐ近くに感じられる。オレは、地面に強く足を叩きつけながら、スピードを上げたんだ。
セオドアの匂いと吸血鬼たちがいた場所にたどり着いたけど、セオドアも吸血鬼も、誰もいなかったんだ。もう手遅れで、彼らの体はバラバラになっちゃったのかな。人間体に戻って、真ん中にある血に近づいたんだ。ここから見ると、血には吸血鬼の匂いがたくさんする。しゃがんで、血に手を置いて、自分の鼻に近づけて、セオドアの匂いがするかどうか、嗅いでみたんだ。血の匂いが脳に届いた瞬間、オレの目から涙が溢れ出した。セオドアの血で、彼の体さえ見つけられないんだから。