チャプター29
なんで、彼の体がないんだ? どこに彼の体があるんだろう? ヴァンパイアにバラバラにされちゃって、何も残ってないとか? セオドアは死んだの? いや、信じたくない。すでに、お母さんがいなくなっちゃう可能性があって、今度はセオドア。いや、セオドアを失うわけにはいかない。彼を失うわけにはいかないんだ。彼を見つけなきゃいけないんだけど、どこから始めればいいのやら。自分がどこにいるのかも、よくわからないし。そう思ってたら、後ろで木の枝がパキッて音がして、思考から戻ってきた。すぐにオオカミの姿に戻って、誰か来るのを待ち構えた。
木の後ろから出てきたヴァンパイアに歯をむき出して唸った。
「やあ、別に危害を加えるつもりはないんだ。着替えられる服を持ってきただけだよ」 攻撃される前に、彼は急いでそう言った。手には服を持ってる。
そのヴァンパイアは、20代半ばか後半くらいに見えた。27歳以上には見えない。黒髪に茶色の目。他のヴァンパイアみたいに、顔色が悪くて死んだみたいだった。俺は茶色の目の男を見て、なんでこんなヴァンパイアみたいな奴が、俺に服をくれるんだろうって混乱した。それに、俺が考え込んでたことに気づいて、奇襲してこなかった。ヴァンパイアにしては、変な行動だ。
「お前が着替えてる間、俺は木の陰にいるよ」 彼はそう言って、俺から数フィート離れた地面に服を落とした。
俺は警戒を解かないまま、彼が俺から遠ざかるのを見ていた。彼が持ってきた服に着替えるべきかどうかわからない。俺が人間に戻ってから攻撃しようとしてるのかも、って考えた。でも、たぶん違うだろう。いいヴァンパイアもいるかもしれない、って、一か八かで人間に戻って服を着てみた。
「もう出てきていいよ」 完全に着替えてからそう言った。
「似合うといいんだけど。昔、俺のメイトが着てたんだ」 彼は優しく微笑んだ。
「あなたのメイトって、オオカミだったんですか?」 俺は目を丸くした。服はオオカミが着てたような匂いがする。彼が、着てたのは自分のメイトだって言うなんて信じられない。
「ああ、そうなんだ。一緒に行こう。お前のために奴らが戻ってくるかもしれないから、早く家に行こう」 彼はそう言って、先導し始めた。
「ちょっと待って」 彼の足を止めて、そう言った。
「別に悪く言うわけじゃないんだけど、あなたは大丈夫なんですか?」 そう尋ねた。
「俺は大丈夫だよ」 彼はそう言った。そして、俺は彼が大丈夫なのかどうかを考えながら見つめた。「心配すんな。家に着いたら、全部答えてあげるよ」 彼はそう言って、さっきの方向に歩き始めた。俺は彼についていきながら、自分の死に歩いてるんじゃないかと願った。
ヴァンパイアと俺は、森の中を数分歩いて、美しいコテージの前で止まった。
「あなた、森に住んでるんですか?」 ヴァンパイアがコテージに入る前に、俺はそう尋ねた。
「ああ、そうだ。心配するな、ここではヴァンパイアはお前を探しには来ない」
「お願いだから、誰か俺を突っついて。夢を見てるみたいだ」
「いや、夢じゃないよ」 彼は笑って、コテージの中に入っていった。
「あなたは誰ですか?」 俺は彼についていきながら、コテージの中に入って尋ねた。俺たちは小さくて居心地のいいリビングルームに入った。
「俺の名前はマットだ。別に言わなくてもいいと思うけどね。俺がヴァンパイアだってことは、もう知ってるでしょ?」
「なんで俺みたいなオオカミを助けるんですか?」
「俺の死んだメイトは、オオカミだったんだ」
「冗談じゃなかったんですね?」 さっきは場の空気を良くするために言ったのかと思ってた。
「ああ、違うんだ。俺のメイトはオオカミだったんだ」
「へえ、そんなことってあるんですね」 もし彼のメイトがオオカミなら、なんで俺を助けたのか説明がつく。メイトのせいで、俺みたいな種族を嫌ってないんだろう。
「すごく珍しいことだけど、あるんだよ」
「うわあ、信じられない」
「信じがたいのはわかるけど、俺があなたを攻撃しなかったってことが、俺を信じる助けになるんじゃないかな」
「助けてくれた理由は説明がつきますけど、それでも衝撃的です」
「そうだね、でも俺の話はもういいだろう。あなたは自己紹介もしてないし、なんでお前みたいなオオカミが、ヴァンパイアのテリトリーにいるのかも教えてくれないね」
「私の名前はアナ。お母さんを探しに来たんです」
「ヴァンパイアのテリトリーでお母さんを探してるんですか?」
「はい」
「なんで、お母さんがヴァンパイアのテリトリーにいると思ったんですか?」
「数ヶ月前に、人間にここで歩いてるのを見られたって聞いたんです」
「数ヶ月前か」
「はい」 俺はお母さんに関することを知ってるか、何か聞いてるのか、そう思ってそう答えた。
「お母さんの写真を持ってる?」
「持ってるんですけど、携帯の中なんです。最初に姿を変えたときに、なくしちゃったみたいで」
「俺は宮殿で働いてて、数ヶ月前にオオカミが連れてこられたんだ。それがお前の母親かどうか、100%確信があるわけじゃないんだ。写真があれば、彼女かどうか判断できたんだけど」
「もしかしたら、その人かもしれないんですか?」 俺は期待してそう尋ねた。
「彼女かどうか判断できる唯一の方法は、写真を見る事なんだ」
「今すぐ携帯を探しに行ってきます」 俺はそう言って、ドアに向かって歩き始めたけど、マットが俺を止めた。
「彼女を見つけるのは大事だってことはわかるんだけど、今、携帯を探しに行くのはベストじゃない。明日の朝にした方がいいよ。もっと安全だし。その頃には、ヴァンパイアもほとんど出てないだろうから」
「わかりました」 俺はそう言って、リビングルームに戻った。
彼が話してるオオカミがお母さんかもしれないなんて、信じられない。ああ、最高だわ。明日まで待つしかないわね。
次の日の朝、俺は早く起きて、森に携帯を探しに行った。想像通り、日が沈む頃に帰ってきても、見つからなかった。コテージに入ると、マットは出かける準備をしてるところだった。彼は仕事に行くところだった。ヴァンパイアキングのお城のキッチンで働いてて、昼間は寝て、夜に働く。ヴァンパイアなんだから、別に驚かないけど。
「やあ、アナ。携帯は見つかった?」
「いいえ、見つからなかったんです。それで、お願いがあるんですけど。彼女が牢獄に捕らえられてるかどうか、確認する方法はありますか?」
「従業員のIDカードを渡して、中に入ってもらうことはできるけど、お前が中にいる限り、ヴァンパイアはみんな、お前のオオカミの匂いを嗅ぎつけるだろう」
「それは大丈夫。なんとかなるから」
「どうやって?」 彼はそう尋ねて、俺は自分の香りを隠せる能力について話そうとしたけど、やめた。彼は助けてくれてるかもしれないけど、自分の秘密を打ち明けても、100%信用できる相手かどうか確信が持てないんだ。
「あなたに会ったばっかりなので、話せないわ」
「お前は香りを隠せるのか?」 彼はそう言って、俺に近づいてきた。彼はそれができるかどうかを知りたがってるみたいだ。
「香りを隠すなんて、どうして知ってるんですか?」 俺はそう尋ねた。
「それはね…」 彼は話し始めたけど、途中で止まった。何か気づいたみたいで、すぐに続けた。「お母さんの名前は何?」
「アナスタシア・ジョーンズ」 俺はそう言って、彼がお母さんのことを知ってるのかどうかを考えていた。知ってれば、彼女が牢屋にいる人なのかどうかわかるはずだから。
「まさか、お前だったとは」
「私の何が?」
「お前は、キングが探してるハイブリッドなんだ」 彼は驚いてそう言った。
「何ですって!」
「お前はキングが探してるハイブリッドなんだ」
「何言ってるのか、わからないわ。私はハイブリッドじゃない。オオカミよ。ヴァンパイアになれるわけがないわ」
「知らないってのは当然だ。俺の娘も知らなかったんだから」
「あなたの娘?」 俺は彼に娘がいることに驚いた。彼は一人暮らしで、メイトは死んだって言ってた。死ぬ前に出産したんだな。
「ああ、娘がいるんだ。お前と同じ、ハイブリッドだよ」 彼の娘はハイブリッドになれるかもしれない、だって、メイトはオオカミだったんだから。でも、俺はそうは思えない。
「ハイブリッドって呼ぶのやめて。私はヴァンパイアじゃないから」
「でも、そうなんだよ」
「違うわ。それに、あなたのこと、ちょっと変な人だと思い始めたわ」 彼の言ってることは信じられない。俺がヴァンパイアだなんてありえない。
「変じゃないよ。お前がハイブリッドだってことは、100%確信してる。オオカミの香りを隠す能力を持ってるのは、ハイブリッドだけなんだ。そうやって、ヴァンパイアになれるんだよ」
「私が香りを隠せるのは、ヴァンパイアだからってこと?」 俺は彼の言葉を信じられなくてそう尋ねた。
「そうだ」
「信じられないわ」
「信じないのは仕方ないけど、お前はヴァンパイアなんだ。証明することもできるよ」
「血をちょうだい」
「いや、結構だよ」
「あなたは欲してないから、欲しくならないんだ。お前がヴァンパイアだって証明する、一番簡単なテストがあるんだ」
「どんなテスト?」 彼の言葉を信じたくないけど、もし彼が正しければ、俺が香りを隠せるのは、そうだからってことの説明がつく。
「日光テスト」
「焼けることもなく、太陽の下を歩けるわ」
「できるのは知ってるよ。お前はオオカミだから。香りを隠しながら太陽の下を歩いてみな。そうすれば、肌が焼けるのを見て、俺が嘘をついてないってわかるから」
「わかったわ、じゃあ昼間に出て、あなたが本当のこと言ってるか見てみましょう」
「ああ、そうしよう」