Chapter 19: 邪悪なオオカミ犬
言い終わらないうちに、お風呂場のドアがドーン!って開いて、エリアスがバスタオル一枚で下半身を隠して、私をじっと見てる。「もう、私が男だって知ってたんでしょ?」
「わざとでしょ」私は彼を睨んだ。
彼は優雅に私の横を通り過ぎた。「ああ、わざとだよ」
私、「…」
ママ、つまり義理の母が、私がいない間に彼のこと、応援したのかなーとか思っちゃったり。
イアンが出てきてから、なんでこんなに素直で可愛い子犬から、気難しい狼犬に変わっちゃったの?
次の日、オフィスに着いたら、なんかおかしいなって思った。
会社中に、めっちゃキツい花の匂いがしてる。
強い匂いとか嫌いだし、眉間にシワ寄せながら自分のオフィスに入ると、イベットが今日のスケジュールを報告しにきた。私は彼女に聞いた。「会社、どうしたの?」
イベットは答えた。「ジャクリーンさん、今朝早く、イェーツさんに花が贈られたんです」
「へー?」私は軽く眉を上げて、「誰から?」
イアンったら、相変わらずモテモテだな、ていうか、ファンが会社まで来ちゃったんだ。
イベットはなんか困った顔で、「あの…Yグループの会長の娘さんからです」
それから半月後、Yグループの会長の娘が恋に落ちた、相手はイアンだってニュースが流れた。
会社の人たちは、イアンがすごい勢いで出世街道を走ってるって噂してた。
イアンはTRには全然興味なくて、Yグループへの足がかりとして利用してるだけなんだ、とか、前に私を好きだって言ってたのに、なんでこんなに上手く二股かけてるんだ、とか。
イアンは、こういう噂に対して、何も説明しなかった。
夕方になって、私はエリアスを夕食に誘った。
びっくりしたことに、レストランでイアンと、彼の新しい彼女、ネリーにバッタリ会ったんだ。
あっちも私たちに気づいたみたい。
私たちは、当然のように一緒に食事することになった。
ご飯を食べていると、ネリーが私に話しかけてきた。「ジャクリーン、馬に乗れる?」
馬に乗る? ちょこっとだけ習ったことあるけど、ホントにちょっとだけ。
「まあ、ちょっとは」
「すごいわね」ネリーは嬉しそうに誘ってきた。「今度、競馬場で競馬やるんだけど、ジャクリーンも一緒にどう?」
「いいね」私は笑顔で承諾したけど、エリアスはなんか言いたげ。
食事が終わってから、ネリーは映画に行こうって言ってきたけど、エリアスと私は断った。
帰り道、エリアスが私に聞いた。「なんで受けたんだ?」
「え?」私はキョトンとしちゃった。「
競馬のことだよ」彼は信号で止まって、私に尋ねた。「まさか、あの子の誘いを真に受けてるわけじゃないだろうな?」
「まさか、って?」私は彼に聞き返したけど、心の中ではもう分かってた。
ネリーはただの女の子じゃない。スティーブン・チェルトンの娘だ。スティーブンは、すごくずる賢い人だし、彼の影響を受けて、娘だってきっと単純な人間じゃない。
私とイアンを見る目つきで、分かったんだ。
きっと、イアンのこと、調べてる。
で、私はイアンの元カノの一人。
競馬への誘いも、きっと何か裏があるんだろうな、って。
でも…
タダより高いものはない、っていうし。
私は絶対、行く。
「なんでそんなにバカなフリしてるんだ?」エリアスの顔は真剣だ。
私はため息をついて、考え事をしているフリをした。「ハニー、分からないのよ。大人の世界って、絶望ばっかりなんだから」
彼は私をチラッと見て、「どのくらい馬に乗れるんだ?」
私は少し考えて、慎重に答えた。「多分、落馬しない程度かな」
エリアス、「…」
「冗談だって。マジで信じてるの?別に私は競馬のエキスパートじゃないけど、弱くもないわよ」
「どの壺も自分の壺を褒める」エリアスは言った。
私、「…」
しばらくして、エリアスは静かに言った。「俺も一緒に行く」
私は聞き間違えたのかと思って、彼を真剣に見つめた。彼はまた私を睨んだ。「勘違いするなよ。お前が嘘ついてないか、確かめたいだけだ」
私は優しく微笑んだ。
ああ、なんて可愛い男!
レース当日、風も気持ちよくて、すごくいい天気だった。
エリアスと私が着いたときには、もう競馬場にはすごい人だかり。
「ジャクリーン、来たわね」ネリーが、真っ赤な乗馬服でやってきた。
若くて、すごくエネルギッシュ。笑顔が、まるで春に咲く花みたい。こんなに元気で可愛い女の子、嫌いな人いる?
彼女の後ろを見ると、イアンがニヤリと笑って私たちに向かって歩いてくる。
イアンは、この女の子のこと、本当に好きなのかな?それとも何か企んでる?
「今日は特別な競技をするの」ネリーは言った。「優勝者には豪華な賞品、最下位には罰ゲームよ」
「賞品は何?」私は聞いた。
ネリーは笑った。「ジャクリーンったら、罰ゲームのこと聞かないでどうするの?」彼女は作り笑顔だった。
やっぱり、何か裏があるんだ。
なんでこんなことしなきゃいけないの?
別にイアンと絡みたいわけじゃないのに、なんで私ばっかり標的にされてるんだろう?
「だって、俺がいるからな」エリアスが来て、私の肩を抱いた。「罰ゲームのことなんか聞く必要はない。俺たちが勝つから」
やばい、ちょっと大口叩きすぎじゃない?
私はニヤリとした。
二人がいなくなると、私はエリアスを隅に引っ張って行った。「ハニー、あなたの気持ちは嬉しいけど、現実的にならないと。あとで負けて気まずくなるのも嫌だし」
彼は眉を上げて、落ち着いた様子。「俺が負けるって、なんで分かるんだ?」
「俺」だって、二人称じゃなくて、一人称。
「馬に乗れるの?」
「少し」
「少し…って、どのくらい?」
彼は自信満々な顔で言った。「お前が負けるようなことは、させない程度には」
ああ、すごい自信。
エリアスは私の旦那だし、私が連れてきたんだ。もし彼があまりにもひどい負け方をしたら、私が恥ずかしい。
私たちは男女別にグループ分けされた。
ネリーと私は、第一グループ。
ネリーが乗ってる馬を見たけど、高級車より高いじゃん。スティーブンったら、本当に甘やかしてる。
ピストルの音が鳴り響き、馬たちは矢のように走り出した。私は馬の背中にできるだけ体を密着させて、腹を掴んだ。
一周目、ネリーがリードしてる。
ネリーみたいな女の子は、小さい頃から乗馬の訓練を受けてるはず。私はちょっとだけしか習ってないけど、それでも心の底では闘志が燃えてた。
ネリーが勝ち負けにこだわりすぎて、ムチを連打したのが、チャンスだった。
馬って、やっぱり霊的な生き物なんだね。
ネリーの焦りが、馬に伝わって、前脚を上げて嘶き、ネリーは落ちないように必死に手綱を締めた。
その隙に、私がトップになったんだ。