第39章:私たちは口をきいていなかった
どういう意味なんだよ、もう終わりだって?
結局、全部話したあとでも、まだあたしのこと疑ってるんだ。
もし本当にあたしのこと信じてるなら、誓った後でも疑ったりしないはずだよ。
あたしにもプライドとか自尊心ってものがあるんだから。
誰かに頭を下げたこと、今まで一度でもあった?もうすでに「へりくだった」のに、他に何ができるっていうんだよ?
ジャクリーン・トンプソン、一歩後ろに下がって、視線は少し冷たくなってた。「エリアス、ずっとあたしと別れたいって思ってたの?」
エリアス・シルバ、顔を上げて、美しい瞳でじっとあたしを見てた。
「そんなこと考えてなかったら、喧嘩するたびに別れ話を持ち出すわけないでしょ?つまり、エリアス、あたしたちの関係はいつ終わってもいいって思ってるんでしょ?」
エリアス・シルバ、口を開いて、ついに頷いた。「もしそう思ってるなら、それでいい。」そう言って、車に乗り込むために振り返ったんだ。
あたしは怒りで我を忘れてたんだと思う。「それ、あんたのために買った車よ。」
言葉が口から出た瞬間、後悔した。
あーあ、言ってしまったことは覆水盆に返らずってやつで、もう取り返しがつかない。
エリアス・シルバ、一瞬硬直して、それから振り返って、突然笑った。
「ああ、その車はお前のものだ。返すよ。」エリアス、鍵を取り出してあたしの手に置いて、「さよなら。」
エリアス・シルバとあたしは、口もきかない状態になった。
その日、エリアスは家を出たんだ。
あたしはまだ腹が立ってた。エリアスがあたしのことを誤解して、あたしに怒鳴るべきなのに、まず謝るべきはエリアスの方だって思ってたから。
イアン・イェーツとの間には何もなかったのに、エリアスはあたしを疑い続けてたんだ。
あたしも怒りと悲しみでいっぱいだった。
でも、一晩経ったら、もうその悲しみを受け止めていられなくなってた。
エリアスはいつも夜通しあたしを抱きしめてくれてたのに。
エリアス・シルバの抱擁は暖かくて心地よくて、あたしの不眠症や不安を追い払ってくれたんだ。
夜が明けるまで寝返りを繰り返して、スマホを確認したけど、エリアスからのメッセージも着信もなかった。
もう怒りや悲しみはなくて、ただ心配だった。
エリアスに何かあったんじゃないかって。
空が明るくなり始めたらすぐに、車のキーを手に取って、孤児院に向かった。
ミセス・サンダースは、あたしたちの喧嘩のことなんか知らなくて、エリアスが来ない理由を尋ねてきた。あたしは適当にごまかして、エリアスのことを探しに別の場所に行った。
でも、エリアスを見つけることができないってことに気づいた。
エリアスには友達もいないし、家族もいない、会社もないから、いつ飛んでいくかわからない凧みたいだったんだ。
そう考えると、余計に不安になった。
途方に暮れて、ニールに電話した。
ニールは寝てたのかもしれないけど、あたしの声を聞くとすぐに起きて、「ボス、おようございます。どうしました?」
エリアスがニールのところに行くはずがないってわかってたけど、やっぱり試してみたかったんだ。
「エリアス、そっちにいる?」
「いいえ。」ニールはすぐに答えた。「あなたとエリアス、何かあったんですか?」
「何もない。」あたしはすぐに電話を切った。
今日、会社全体の雰囲気が暗かった。大体あたしのせいなんだけどね。
イベット・リンカーンもあたしの様子がおかしいことに気づいたみたい。
「ボス、今夜、ビジネスディナーが…」
「行かない。」あたしは不機嫌だった。
イベット・リンカーンは一瞬黙って、「ボス、今回はディナーを断れないと思います。スティーブン・チェルトンが計画したもので、Yグループとの協力もありますから。」
あたしは落ち着こうとした。
エリアスのことで動揺して、まともな思考ができなくなってたんだ。
深呼吸して、少し落ち着いてから「わかった。準備しといて。」
イベット・リンカーンは返事をしたけど、すぐに去る代わりに、慎重に尋ねてきた。「ボス、エリアス・シルバさんと喧嘩しましたか?」
あたしは顔をしかめて、口を閉ざした。
「ボス、喧嘩しない恋人なんていませんよ。喧嘩は関係を良くすることもあります。マジで、エリアス・シルバさんは、あなたと一緒にいるとき、あまり感情を表に出さないように感じました。今はあなたと喧嘩してるってことは、あなたを大切に思ってるんじゃないですか?」
イベット・リンカーンはすごく頭がいいから、あたしに何が起こってるのか、大体わかってるんだろうな。
「全部知ってるの?」
イベット・リンカーンは恥ずかしそうに笑った。「ボス、何年もあなたについてきて、あなたが言わなくても、あなたが何を求めてるかわかります。イアン・イェーツは、本当にあなたとエリアス・シルバさんの関係にとって障害になってますね。」
イベット・リンカーンはあたしに何かを匂わせてる?
あたしは顔を上げて言った。「もしこの障害を取り除いたら?」
イベット・リンカーンは意味深な顔で言った。「それは、ボス次第です。」
あたしはテーブルを指で叩きながら、頭の中で状況を考えてた。
イアン・イェーツがあたしに悪意を持ってなくても、イアン・イェーツがあたしに執着し続ける限り、誤解は何度も繰り返されるだろう。
イアン・イェーツをあたしから遠ざけることだけが、エリアスが、あたしたちの間になにかあったんじゃないかという誤解を解くことになるんだ。
「そういえば、エリアスって、孤児院とミルクティーのお店以外に、どこか行きそうな場所ってある?」
イベット・リンカーンも心配そうに言った。「ボス、あたしは人探しが得意なんですけど、エリアス・シルバさんが何を考えてるのか、さっぱりわかりません。」
「考え続けてれば、エリアスが行きそうな場所、わかるんじゃない?結局、よく知ってるんでしょ?」
エリアスはどこにいるんだろう?
猫カフェだ!
「イベット・リンカーン、街中の猫カフェを全部調べて、エリアスを探す人を送って、見つけたらすぐに教えて。」
「はい、ボス。」
イベット・リンカーンはすごく仕事が早くて、すぐに住所を送ってくれた。
ディナーまでまだ数時間あるけど、エリアスのことで気が散って、仕事に集中できない。あたしはキーを持って、エリアスを探しに行ったんだ。
猫カフェに入った瞬間、あたしはそんな光景を目にした。
女の子たちがエリアス・シルバの周りに集まって、親しげに話しかけてる。
猫をかわいがってるんじゃなくて、明らかにあたしの男に媚びてるんだよ。
一番むかついたのは、エリアス・シルバはあたし以外には、いつも完璧なジェントルマンだったことなんだよね。
でも、今は…フン!
あたしはむかついて、ヒールを鳴らして、腕を組んで、彼女たちの前に歩いて行って、ニヤリとした。「美女たちに囲まれて、ご機嫌ね。」
エリアス・シルバはすぐにあたしを見た。
エリアス・シルバの腕の中には白いラグドールがいて、魅惑的な青い目でエリアスに寄り添ってる。
猫まであたしに対してエリアス・シルバの気を引こうとしてるのかよ?
エリアスは、あたしを見ても全然驚いてないみたい。あたしが来るのを知ってたような顔をしてる。
エリアスは何も言わなかったけど、周りの女の子たちが先に話し始めたんだ。
「あなた、誰、おばさん?」
おばさん?
ジャクリーン・トンプソンの口角がピクッとして、あたしの視線は氷のように冷たくなった。
あたしは確かに大人っぽい格好をしてたし、彼女たちは18、19歳くらいにしか見えなかったけど、あたしをおばさんって呼ぶのは、ちょっと早くない?
普通なら、あたしは彼女たちみたいな小娘と張り合って、自分のレベルを下げるようなことはしないんだけど。
でも、今は、思わず口に出してしまった。「あたしをおばさんって呼ぶなら、エリアスのこと、おじさんと呼びなさいよ。」
巻き毛で白いバルーンスカートを着た女の子が、不機嫌そうにあたしを見て言った。「なんでおじさんって呼ばなきゃいけないの?」
「なんで?」ジャクリーン・トンプソンはエリアス・シルバの方を見た。「エリアスに聞いて。」