Chapter 7: 彼が私の好きな人
「先にラーメン食べなよ」って言ったあと、エリアスはちょっと離れたけど、あたしの願いを聞き入れてくれたってことだよね。
正直、あたしあんまり食欲なかったし、ラーメン食べるのは、エリアスにいてほしかったからっていう口実みたいなもんだったんだよね。あたしはぬるくなったラーメンをずるずるすすりながら、エリアスのこと見てた。イケメンで性格もいい人って、ただそこにいるだけで絵になるよね。
今、エリアスはテレビも雑誌も読まずにソファーに座って、窓の外の遠くの方を見てたんだけど、横顔が完璧だった。
あたしはラーメン食べながら、のど乾いたな~って思ってた。
ラーメン食べ終わったあと、エリアスのとこに行って、「客室、全部新品だし、そこで寝たら?」って言ってみた。
エリアスは優しく、「まだクラクラする?」って、あたしのこと見てきたんだよね。目が澄んでてさ。
あの優しさに、ちょっとグッときちゃった。
エリアスって、偉そうなとこないし、頑固なとこもあるんだよね。お金で釣られても、自分がそうだって決めたこととか、やりたくないことには、びくともしない。
でも、あたしがエリアスを尊敬してる理由の一つでもあるんだよね。
誘惑に負けずに自分の意見をちゃんと持ってる人って、自立してて、自分を律してて、自給自足してるじゃん?
そういう人って、宝物じゃない?
エリアスはすごく綺麗なヒスイみたいなもんなんだけど、今は埃にまみれてて、誰にも気づかれてないだけなんだよね。
でも、あたしが一番最初に見つけられたのは、嬉しい。
「もう大丈夫だよ」って、あたしはすごくいい気分でエリアスに笑いかけた。
エリアスの隣に座ったら、拒否されることもなく、「あそこで何してたの?」って聞かれた。
もー、それってそういうことだよね?
でも、あたしは知らないふりしてるくせに、めっちゃ耳ダンボにしてるエリアスが面白くて、からかってやろうと思って、「さあ、教えて?夜にあんなとこに行く理由って、他に何があると思う?」って言ってみた。
案の定、かっこいい顔がムッとしたんだよね。
内心笑いながら、さらにからかってやった。「なんでそんな顔してんの?クラブは営業してもいいけど、あたしたちは楽しんじゃダメなの?それに…」
あたしはわざとゆっくりと、「あなたもいたでしょ?」って言ってみた。
エリアスは真剣な顔で一言一言、「仕事でいたんだ」って。
「たまたまあたしはお金使いに行ったんだけど。あたしが使わなかったら、あなた、どうやって給料もらうの?」
「ジャクリーン!」
「はーい」って、あたしは耳をさわりながら言った。「聞こえてるって。そんな大声出さなくてもいいよ?」
エリアスは深呼吸して、「あそこで仕事をしなきゃいけない、ちゃんとした理由があるんだ。それに、お前は女の子なんだから、狙われるだろ… 今夜、何も学ばなかったの? あたしがいなかったら、あんた、自分の力で男と戦えたと思う?」
あたしは軽く、「あたしを弱い女だって思わないでよ。護身術くらいは習ってるんだから」って言った。
「へえ、マジで?」って、エリアスはあたしの手首をめっちゃ早く掴んで、ソファーに押し倒してきた。
あたしは動こうとしたけど、ますます強く押さえつけられた。
両手で手首を掴まれて、太もももぎゅーってされてさ、上からあたしのこと見下ろしてくんの。匂いがすごい。
あたし、またちょっとクラクラしてきた。
「なにしてんの?」ってあたしは、まだ動けないのに強がって言った。「あたしのこと欲しけりゃ、別にいいんだけど。刺激求めてる?」
エリアスの目は暗くて、「ジャクリーン、喧嘩腰になるなよ。他の男があたしみたいに掴んできたら、逃げられると思うのか?」
真剣に聞いてくるし、あたしに外で女の子が身を守る方法を教えてくれよとしてるんだよね。
なんでこんなに可愛いんだろ?
「確かに。あたしが他の人にこんな風に掴まれたら、逃げられないと思う」って、あたしは真面目にうなずいた。
エリアスは、ちょっと安心したみたいにため息をついた。
落ち着いたところで、エリアスはあたしたちのあまりの親密さに、真っ赤になってエビみたいになってた。
咳払いして、立ち上がろうとするから、あたしは首に腕を回して引き寄せた。
勢い余って、唇が重なったんだよね。柔らかくて、ちょっとあったかくて、目をつぶって、この瞬間を楽しもうと思った。
でも次の瞬間、エリアスはパニックになって、這って逃げ出した。
冷たい空気が一瞬にしてあたしを襲った。
「もう遅いから、寝なよ」って言って、客室に逃げていったんだよね。その時、あたしは「ドスン!」って、ドアの枠に頭でもぶつけたのかな?って音が聞こえた。
あたしは思わず笑っちゃった。
あー、可愛い!
次の日、起きたら、もうエリアスはいなかったんだけど、テーブルにはお粥と、温泉卵と、おかずが並んでた。
ちょっと考えて、エリアスの番号に電話してみた。なかなか出なくて、忙しいのかなって思ってたら、やっと出た。
「いつ出たの?朝ごはん、ありがとう。美味しかったよ」
「あー」ってエリアス。「今ちょっと忙しいから、また後で話そう」
「わかった」
テーブルの上の朝ごはんを見て、全部食べちゃった。
会社に行ったら、イベットがいつものようにあたしにブラックコーヒーを入れてくれたから、「そこに置いといて」って言った。
イベットはちょっと驚いた顔で、「ボス、朝はブラックコーヒー飲まないんですか?」
「うーん」って、あたしはパソコンを起動して、イベットに笑いかけた。「今朝は朝ごはん食べたから、お腹空いてないんだ」
イベットはすごく頭がいいから、あたしの顔見て色々察したみたい。「ボス、昨夜はミスター・シルバと一緒だったんですか?」
「うん」ってあたしはつぶやいた。「毎日起きたら誰かが朝ごはん作ってくれてたらいいのになーって思ってた」
それから、あたしはクラブに何回か行ったんだよね。イギーと一緒に行ったのが2回で、あとは一人。
他の理由じゃなくて、エリアスがそこで働いてるから。
クラブの支配人に聞いたら、エリアスはクラブの社員じゃなくて、バイトみたいなもんだから、給料も待遇も社員よりずっと悪くて、いじめられやすいんだって。
ある夜、クラブに入ったら、ちょっと離れたところに人が集まってたんだよね。よく見たら、エリアスがいた。
人だかりに囲まれててさ。
あたしはちょっと目を細めて、エリアスに近づいていった。
イケメンのウェイターがエリアスを指さして、「ミスター・ジェンキンス、盗んだのはエリアスです。あたしは自分の目で見たんです。証拠もあります、彼のカバンの中から見つけました」って断言した。
支配人がカバンを受け取って確認して、エリアスに「本当に盗んだのか?」って聞いた。
エリアスは硬い声で「違います」って答えた。
「よくもそんな嘘を!」って、疑ってるウェイターはニヤリとした。「ビデオも撮ってあるんです。信じられないなら、ミスター・ジェンキンス、見てください」
ビデオには、エリアスがカバンに何か入れてるところが映ってたんだよね。
支配人は、お客さんの物がなくなって、大事にしたくなかったから、エリアスに「クラブにはルールがある。真面目に働いてくれたから、今日は警察は呼ばないことにする。給料を受け取ったら出て行ってくれ。みなさん、仕事に戻ってください」って言った。
「ミスター・ジェンキンス!」って、ウェイターは納得いかないって顔してる。
「ちょっとおかしいんじゃない?」って、あたしは怒ってるウェイターを遮って、みんなのとこに行った。「まだ調べてもないのに、盗んだって決めつけんのはどうなの? 否定もしてるんだし、わかんないの? それとも、わかりたくないの?」
支配人はあたしだって気づいて、笑って言った。「ミス・トンプソン、どうしたんですか?こんなものを見せてしまってすみません」
「ミスター・ジェンキンス、他のことは置いといて、彼にも弁明の機会を与えてあげてください」って、あたしはエリアスを指して言った。「良い人を間違えちゃダメですよ」
「しかし…」って支配人は困った顔で笑った。「証拠が…」
「証拠って何? ぼやけたビデオでしょ?」って、あたしは腕を組んで、エリアスを疑ってるウェイターを冷笑しながら見た。「最近のビデオなんて、誰でも編集して偽造できるんだよ。このビデオはエリアスが何かをカバンに入れたってだけで、今日のことだってわからないし、人にはめ込むことなんて簡単でしょ?」
言い終わると、ウェイターは顔を赤くしたけど、まだ諦めない。あたしがお客で、逆らえないって知ってるから、エリアスに八つ当たりしてるんだ。
「彼は問題を起こすんです。数日前に、あるお金持ちのお嬢さんに嫌がられて。お嬢さんが飲み物を誘ったのに、彼は冷たい顔をしたんです。ミスター・ジェンキンス、そのお嬢さんは、もう二度とここには来ないって言ってますよ」
「それが、あなたの言う盗んだっていうことと、直接関係あるの?」って、あたしは綺麗にネイルした自分の爪を見た。
「盗んだなんて言ってません」
「盗んだとかどうでもいいのよ」って、あたしはカバンの中の「証拠品」ってやつを見て鼻で笑った。「もしかしたら知らないかもしれないけど、あたしはミスター・シルバのこと追っかけてるんだよね。彼に高級時計とかスポーツカーとかプレゼントしてるんだけど、彼は見向きもしないんだよ。自分のところに送られてきたスポーツカーも時計もいらないくらいなのに、なんでこんなもんを気にするの?」
支配人は口をあんぐり開けて、卵でも飲み込めそうな顔してた。
ウェイターは悔しそうに、「あなたが好きだから、助けてあげてるんでしょ」って、必死に言い始めた。
「そうだよ」ってあたしは開き直った。「好きなだけじゃなくて、結婚したいと思ってるんだ」