Chapter 20: 私の夫は最高だった
神様だって、オレにチャンスをくれたんだよ。
言った通り、馬ってのはスピリチュアルな生き物だからな。だから、勝ち負けとかも気にするんだよ、きっと。
序盤で遅れちゃったけど、鞭も使わなかったし、ウマのヤル気がそがれちゃったんだよな。でも、今鞭使ったら、矢みたいに前に突き進んだんだ。
ゆっくりと、ネリーに近づいていった。
ネリーが振り向いて、すぐ後ろにいるオレを見て、一瞬焦ったような顔をしたんだけど、すぐに落ち着いてロープを強く引っ張った。馬は後ろ足を上げて、風が吹いた。砂埃が一瞬で空を覆った。
ネリーって、勝つためなら何でもするんだな。
オレの馬も、オレも、砂埃で目がかすんじまったよ。
ウマ、コントロールきかねぇ。
ロープを締めようとしたけど、全然ダメ。落馬しそうになったその時、後ろからいきなりウマのいななきが聞こえたんだ。
顔を向ける間もなく、デカイ手がオレの腰を掴んで、別のウマの背中にひょいって移動した。そして、オレのウマは、もうすでに荒々しく駆け出してた。
呆然として頭を向けると、そこにいたのはなんと、エリアスだったんだ。
「エリアス?」
「何も言うな」 エリアスは片手でオレを抱きしめながら、前を見て、目は真剣そのものだった。
こんなエリアス、初めて見た。
乗馬の姿勢もプロみたいだし。見れば見るほど疑わしくなってくる。
こんなにプロ並みの乗馬技術を持ってる人って、一体何者なんだよ。
オレは言った。「あの若い娘は武士道精神のかけらもないな」
エリアスはムチを振るって言った。「じゃあ、ちょっと手伝ってやろうか」
オレは笑った。エリアスがこんなにドSな感じなのは初めて見たかも。
ネリーが焦ったのは、悪いことしたからなのか、エリアスにマークされてるからなのか、どっちなんだろうな。焦った時がチャンスだ。
最後の周、10ートル以上の差があったんだけど、エリアスは脚で馬のお腹を締めつけて、ウマは高く跳ねてフェンスを飛び越えてゴールしたんだ。
ネリーは一歩遅れて、ウマと一緒に砂埃を浴びてた。
ゴールした後、エリアスはウマのスピードを落として、ゆっくりとオレを乗せて散歩したんだ。もうレースじゃなくて、ただの散歩だな。
オレは言った。「最後のあれ、結構意地悪だったよな」
エリアスは軽く言った。「そうかな?」
こいつ、マジで腹黒いとこあるよな。
「なんで乗れるんだ?どこで覚えたの?」
エリアスは逆に聞いた。「そんなに大事なことか?」
「別に、旦那のこと心配するのは間違ってないでしょ?でも、マジで色んなスキル持ってるよな。子供を産む以外、全部できるって感じ?」
エリアスはオレを呆れたように見てきた。
そよ風が心地よくて、ウマは鼻を鳴らして、遠くからは花の香りがしてきた。オレは、エリアスの広い胸に寄りかかって、今まで感じたことのない安心感に包まれた。
「これってデート?」 オレは笑顔でエリアスに聞いた。
「人前でデートする奴がいるか?」 エリアスはまたもや質問で返してきた。
「いるよ。」 オレは笑った。「だって、オレは普通じゃないから、きっと何か特別なことすると思うし」
エリアスはまたもやオレの足元をすくった。「自信過剰なのは良いけど、自信過剰すぎるのはナルシストって言うんだぞ」
オレは良い気分だったから、反論はやめた。
オレがウマから降りるとすぐに、ネリーが哀れな顔をして近づいてきた。「ジャクリーン、本当にごめんなさい。私のウマが急に我慢できなくなって、あなたを傷つけそうになっちゃって」
ネリー、マジで狡猾。
悪女も演じられるし、純粋な子も演じられる。イアンの前では、ただの純粋で無邪気な女の子なんだよな。
オレは笑った。「大丈夫だよ。別に怪我してないし。まあ、ゲームではいつも事故はあるもんでしょ」
「今回のラウンドはジャクリーンの勝ちね」 ネリーは微笑んでイアンの方を見て言った。「そうでしょ、イアン?」
イアンは目を伏せて、何も言わなかった。
「じゃあ、次はイアンの番ね。イアンは以前乗馬を習ったことがあるらしいから、どれくらい上手か見てみたいわ」 ネリーは甘く笑った。「イアン、私に勝ってくれるんでしょ?」
イアンは彼女に微笑んだが、その目は曇っていた。
オレはエリアスを見た。エリアスはオレを見た。何も言わなかったけど、エリアスの言いたいことは分かった。絶対勝てるってことだ。
くそ、あんなに自信満々な態度に、なんでこんなに惹かれるんだろ。
レースが2周目に入った時、イアンのウマはエリアスのすぐ後ろにつけていた。
オレは緊張して拳を握りしめた。
その間に、ネリーがオレに近づいてきて、何気ないように話しかけてきた。「ジャクリーン、誰を心配してるの?」
驚いてネリーを見た時、ネリーは顔に純粋で甘い笑顔を浮かべて、またいつもの自分に戻った。
オレの目は、エリアスの細い姿とハンサムな顔に釘付けになっていた。「ネリー、冗談でしょ? 私はもちろん、私の旦那を応援してるわ」
レースは終わり、エリアスが1位だった。
オレが着替えに行った時、エリアスのことをゴシップしてる人たちの声が聞こえてきたんだ。
「一体、エリアスって何者なんだよ。なんでTRグループの社長と結婚できたんだ? 俺たちの仲間じゃないのに」
「お前は分かってないんだよ」 もう一人の男が言った。「エリアスってやつは若いし、マジでイケメンなんだ。ジャクリーンはTRの最年少女性社長で、サイラスだってビビってるんだ。あいつは全部持ってるから、おもちゃの男と遊んで何が悪いんだよ」
「ただ遊んでるだけ? もう結婚してるのに?」
「あいつが一人とずっといると思うか? お前はマジでナイーブだな。今はただ楽しんでるだけなんだよ。飽きたらポイ捨てするんだろ」
「お前の話だと、エリアスってマジで可哀想だな」
「可哀想? 金持ち女と数年過ごせば、名声も富も手に入るんだぞ。ジャクリーンに捨てられたとしても、車とか家とか小切手とか貰えるんだ。マジで良い取引だろ」
オレはそれを聞いて面白く感じただけだった。こういう奴らが、オレの前でオレの悪口を言ってるんだもんな。
オレが出ようとした時、エリアスがそいつらに近づいていく姿が見えたんだ。
エリアスの顔は暗かった。どうやら、そいつらの言葉、全部聞いてたみたいだ。
ゴシップしてた男たちは、エリアスが現れた瞬間、一瞬慌てたけど、すぐに手を洗って、俯いて話すのをやめた。
エリアスは蛇口をひねり、黙って手を洗って、止めて出ていったんだ。
そいつらが安堵のため息をついた時、エリアスは突然振り返って、何気ない様子で言ったんだ。「昔から、こんな話があるんだがな」
「陰で人の悪口を言ってる奴は、最後には舌を抜かれるってな」
男たちは顔色を失い、怒りを露わにしながらも、何も言えなかった。
オレは笑いを堪えた。マジで、オレが気に入った男を褒めたくなったよ。オレと一緒にいる時間はまだ短いのに、エリアスはオレにちょっと似てきたんだな。