喪
デカイ部屋に入った。そこには、あたしのヒトのカラダが安置されててさ。深呼吸した。周りはシーンとしてて、誰もいなかった。あたしのヒトのカラダと、死んだ兵士たちのカラダだけがあったんだ。
あたしの仲間たちを見た。みんな、あたしのカラダをじーっと見てから、あたしの方を見たんだ。
「もう一回、クサァラ」と、おじいちゃんが言った。あたしは頷いて、シイルのカラダから出た。シンラドが、意識を失ったシイルをすぐに抱きとめた。あたしは、目の前のヒトのカラダをもう一度つかんで、中に入ろうとしたけど、さっきと同じで、カラダはあたしを受け入れなかったんだ。
二人の仲間を見て、首を振った。
「マジでわかんない…」あたしはそう呟いた。おじいちゃんは深呼吸して、あたしがシイルのカラダに戻るように合図したから、すぐにそうした。さっき、庭で色々あって、あたしはシイルの部屋に連れて行かれて、そこで話したんだ。なんであたしがシイルのカラダにいるのかって聞かれたから、説明した。
そしたら、すぐに信じてくれたんだ。
シイルはとっくに死んでて、このカラダを動かせるのは、ミラの魂だけなんだって説明した。ミラがあたしに託してくれたから、このカラダを使えるんだって。それに、ミラとシイルの間で交わされた約束、ミラとあたしとの約束と、あたしたちの計画についても話したんだ。
ガブリエルに全部話した。アラダとミラが今どこにいるのかはわからないけど、ミラはきっと計画通りやってるはず。
「医者によると、毒で死んだらしい」って、おじいちゃんが言ったから、あたしは彼を見た。
「あたしも死んじゃうの?あたしの魂も?」あたしは聞いた。おじいちゃんはあたしを見て首を振った。「あたし、どうなっちゃうの?」
パヴェルに本当のこと知らせないまま、消えちゃうのが怖いんだ。
「クサァラは消えたりしない」って言って、深呼吸した。
「死んだのは、ヒトのカラダだけ。魂は消えない」そう付け加えた。シンラドが、あたしの隣に立った。
「ってことは…クサァラはまだ生きてるけど、魂だけってこと?」シンラドが聞いた。
「そうそう」ガブリエルが答えた。「悪魔の魂は、そう簡単には死なないんだ」って。あたしは、自分のヒトのカラダを見た。
「あたしのカラダ、なんで毒盛られたんだろ?」あたしは聞いた。
「ちょっと、頭の中でイメージが…もしかしたら、カラダに入り込んだやつが、毒を飲んだのかもしれない」シンラドがそう言ったから、あたしは彼を見た。
急に、アラダならやりそうだって思った。あたしはアラダのこと知ってるし、あいつは、自分以外が幸せになるのは許せないんだ。
「グランパ・ガブリエル、シイルのカラダはもう死んでるんでしょ?なんでクサァラは、シイルのカラダと融合できるの?なんで、自分の死んだカラダと融合できないの?」シンラドがそう聞いて、あたしもびっくりした。あたしのカラダを見ていたおじいちゃんは、考え込んでた。
シーンとして、沈黙が流れた。
「たぶん、ミラとシイルの約束が関係してるんだ」とおじいちゃんが答えた。「シイルは、自分のカラダと引き換えにミラと契約したって言ってたよね?だから、クサァラはシイルのカラダを使えるんじゃないかな。死んでても、魂が融合したら生き返るみたいな」ガブリエルが説明した。
「じゃあ…もうあたしのカラダは使えないんだ…」あたしが聞くと、シンラドが深呼吸して、いきなりあたしの左手をつかんだから、あたしは彼を見た。
「もう、受け入れるしかないんだよ」シンラドはそう言って、あたしを見た。あたしの目を見ていた彼の視線は、部屋のドアが開く音で遮られた。同時に、あたしたち三人は、ドアを開けた人の方を見たんだ。あたしは立っている場所から、パヴェルが茫然自失として、あたしたちのことを見ているのが見えた。
彼は、シンラドとあたしが手をつないでいるのを見て、視線を外したから、あたしはシンラドの手を離したんだ。
「パヴェル…」シンラドがすぐに、あたしがパヴェルに近づくのを止めた。あたしは、感情のないまま、あたしのヒトのカラダに近づいていくパヴェルから目を離せなかった。彼があたしの横を通り過ぎたとき、心臓が引き裂かれるような気がした。彼はゆっくりと悲しみをあたしの瞳に刻み込み、そして、あたしのヒトのカラダの左手をつかんだ彼の方を向いた。
「なんでここにいるんだ?」彼は冷たく、あたしのヒトのカラダを見ながら言った。
「殿下」おじいちゃんがパヴェルに声をかけた。
「クサァラに起きたこと、お見舞い申し上げます」そう言うと、パヴェルは彼を見た。何かを探すような目だった。
「君の悲しみは、本物なのかわからない」パヴェルは、冷たくおじいちゃんに言って、おじいちゃんは言葉を止めた。
「パヴェル…」シンラドが、パヴェルに脅すように呼びかけた。パヴェルは、あたしの隣にいたシンラドの方を向いた。あたしたちの目が合い、彼は話し始めた。
「君は、本当に悲しいのか?」彼はシンラドに聞いた。部屋は静まり返った。今、彼の目から流れた涙を拭いてあげたいと思った。
「なんか…どんな気持ちかわからないんだ」彼はそう言って、あたしのヒトのカラダを見た。あたしは、すぐに涙が溢れた。
「クサァラがまだ生きてる気がする…カルマがまだ生きてる気がするんだけど、彼女のカラダを見ると、ただの悪夢だったんじゃないかって、希望がなくなっていくんだ」彼は悲しそうに言った。
「本当に悲しいのか?」パヴェルは、自分のカラダを見つめながら、二人に尋ねた。
「だって…わからないんだもん」そう言って、彼の声は途切れた。
「自分の気持ちを信じたいけど、現実を見てると、希望がなくなってくるんだ」パヴェルはそう言って、あたしは涙が止まらなかった。
パヴェル、あたしはまだ生きてるよ、ここにいるんだよって言いたいけど、言えない。そんなこと信じてもらうのは難しいってわかってるから、そんなこと言う力もない。
「殿下、現実を受け入れましょう。きっと、クサァラは今、殿下の姿を見て、悲しんでると思います」おじいちゃんがそう言って、あたしを見た。
「ずっと彼女を待っていたんです」彼は悲しそうに言った。「また、全部やり直しになるんだな。また、彼女を探すことになるんだな」彼は悲しそうに言った。おじいちゃんはパヴェルに近づき、抱きしめた。
「疲れた…」彼は意味深な言葉を口にしたから、あたしは涙が止まらなくなった。
「あたしも、休みたい」彼の言葉に、あたしの心は砕け散るようだった。
「彼女の隣で休みたい」彼は泣きながらガブリエルに抱きしめられていた。あたしは、嗚咽を止めるために口を覆った。彼があんなに悲しんでいるのを見るのは耐えられない。
「何百年も彼女を待っていたんです」パヴェルは泣きながら、何も言わないおじいちゃんに言った。彼は、ただパヴェルを抱きしめながら、話を聞いていた。
「もし、あの時に戻れたら…もし、過去に戻れたら…悪魔と契約なんてしなかった…そうすれば、彼女はもう苦しまなかったのに」彼はそう言って、また自分を責めているのがわかった。
「あたしが目撃するのは、カルマの死が、またいくつか増えるんだ」パヴェルは子供のように、ガブリエルの腕の中で泣きながら言った。
「さあ…クサァラも悲しんでるよ」おじいちゃんは言って、まだ泣いているパヴェルを慰めた。