CHAPTER 12
「家には帰らないの?」って聞かれて、私は出て行った。頬を涙が伝って、彼の家の玄関まで行って、長い舗装された道を歩いて出た。彼の豪邸とか庭とか、そんなのを見る勇気すら出なかった。涙が止まらなくて、何も見えなかったんだよね。門の警備員は、挨拶もなしに私をゲートから出してくれた。メインストリートまで歩いて、ブルックリン行きのバスに乗って、自分のアパートに向かった。
家に帰ると、誰も私を責めたり、私がここにいることに驚いたりすることのない、いつもの場所に戻ってきて、少し安心した。妹はソファーで寝てた。キッチンに行って、紅茶とトーストを作った。キッチンテーブルに座って、昨夜のことを思い出そうとした。
妹が私に電話して、迎えに来てって言ったのを思い出した。
バーで彼女が私にキレたのも。
私は彼女を追いかけずに、彼女のビールを飲んだことも。
ホーレンさんが私に話しかけてきて、私がそれに答えたことも。
そこまでしか覚えてない。どうやって彼の家に行って、どうやって彼のベッドに入ったのか、覚えてない!裸だったのに!!
やば!もしかして、ヤった?
頭の中はぐちゃぐちゃだけど、彼のことを思い出したらなぜか笑っちゃった。彼のシルクの金のシーツに包まれた姿とか、完璧に日焼けした肌の色とか、ベッドで私を見て(不機嫌そうに)飛び出した灰色の目とか、寝癖で目に少しかかった髪とか。完璧すぎるし、体もすごく引き締まってて。彼の腹筋を舐めたいし、彼の硬い胸に寝転びたかった。
ああ、もうそんなことできる人たち、羨ましいよ。
「昨夜、帰ってなかったけど、どこで寝てたの?」
声に驚いて、妹が起きた。「友達の家」
「友達なんていないでしょ」
「いるよ」
「あー、頭痛い!」妹が頭を抱えて叫んだ。
薬棚に行って、頭痛薬を探した。妹に渡して、彼女はそれを飲んだ。それから、お腹の調子が悪いのをわかってたから、炭酸水も渡してあげた。
「ありがとう」妹はそう言って、ソファーに戻ってテレビをつけた。
携帯を見ると、ホーレンさんからの着信があった。ドキッとした。
「電話、かけ直すべき?」
なんで電話してきたのか、何を言いたいのか知りたかったし、私も言いたいことがあったから。
電話をかけ直した。
三コールで彼が出た。
「電話のお返しです」私が言うと
「ああ、大丈夫か?」彼は心配そうに尋ねてきた。
「うん、大丈夫。あなたは?」私の心臓はすごく早くって、彼が私が求めてる優しさを見せてくれるのか、それとももう他に好きな人がいるから突き放されるのか、不安だった。
「ああ、元気だよ。あのさ…」
彼が言い出すこと、わかってたけど、昨夜のことについて私の気持ちを伝えたかったから。
「ホーレンさん、何か言う前に、昨夜私たちの間にあったこと…」言いかけたけど、彼は遮ってきた。
「昨夜のことは、間違いだった。二人とも飲みすぎただけのことだよ。単なるアルコールのせいだ。君に対して、何も感じてない。君は俺の従業員で、それ以上でも以下でもない」
「ただ、それを言いたかっただけだ」彼はそう言って、電話を切った。
またしても、私の心はどん底に落ちた。
ジャスミンの視点
月曜日は、あっという間に過ぎた。金曜日の夜、上司との間に起きたことを乗り越えるのに、すごく時間がかかった。せめて、私の話を聞いてほしかった。
何を期待してたんだ?
彼はエヴァン・ホーレンなんだから。
アメリカで一番成功してる25歳くらいの男の一人。みんな彼に頭を下げて、多くの人に愛され、少数の人に嫌われ、みんなに尊敬されてる人。
一方、私はアパートにしか住めなくて、頼りにしているお母さんの命を救うお金も貯められない、平凡な黒人女性。
職場のエレベーターに向かう途中で、苛立ち混じりのため息をついた。気持ちを落ち着かせて、感情を消した。プロフェッショナルとして振る舞って、ホーレンさんとあったことは忘れなきゃ。
エレベーターから降りて、ゆっくりと自分のデスクに向かった。そこに着くと、パソコンを起動して、メールをチェックして返信を始めた。
彼のオフィスのドアが開いて、彼が出てきた。
「おはよう」彼が言った。
「おはようございます」私はパソコンから目を離さなかった。彼を見るのが恥ずかしくて、もし見たら、あの感情が火山のように爆発するってわかってたから。彼の視線と、私の一挙手一投足に、ドキドキした。
視線を避けながら、お腹のドキドキを我慢しながら、パソコンを打ち続けた。
「オフィスに来てくれる?」彼はすごく真剣な声で言った。