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イーサンの視点
ゆっくりと目を開ける。まぶたがくっついてる。最初に気づいたのは、俺が座っていて、金属の椅子に縛り付けられてるってこと。灰色の壁が周りにあって、錆び付いた金属の機械が隅っこでちらちらしてる。
頭を振る。機械じゃなくて、俺の視界がフラフラしてるんだ。
動こうとするけど、太いロープが俺を拘束してる。手は背中で縛られてて、足は椅子の足に巻き付けられてる。こういう状況、慣れてるんだよな。うまくやれば、椅子を後ろにひっくり返して、脚の1本を曲げられる。足首を外せたら、もっと余裕ができる。
計画を実行する前に、俺を捕まえたラッキーセブンに囲まれちまった。連中は、俺を自分たちのところにも連れて行こうとしなかった。ただ倉庫に連れてきただけだ。場所が重要じゃないってことは、俺の命とか死とか、どうでもいいってことなんだろうな。
フォン・ハーデスが前に出てきて、手下にジャケットを渡して、袖を肘までまくり上げて、タトゥーを見せびらかす。
そうしながら、いつもの不機嫌で陰気な表情で俺を見てる。マジでつまんないんだよな。
「そんなに親密になった覚えはないんだけど、ハーデス。始める前に、俺の合言葉は『もうやめて』だよ」
俺の口調はユーモラスだけど、喉と胸に燃え上がる裏切りの味は隠しきれない。ローズ・アマラは俺を毒殺しただけじゃなく、彼女の部下に俺を渡して、とどめを刺させようとしてるんだ。
怒るべきなんだろうけど、怒りの気配は、あの燃えるような感覚に押しつぶされる。
「ノリがいいね」 同じように冗談めかして続ける。「いつもみたいな場所にいるのか?」
「質問に答えなければ、お前の墓場になるぞ」
「ナイフプレイも嫌いなんだよね。血が出ると後始末が面倒くさいし」
「ふざけるのはおしまいか?」
「まともなことを言ってるだけだよ、ハーデス。こういうことには、ルールが必要だろ?」
「ルール?」 彼は鼻で笑う。「お前がルールなんて信じるようになったのはいつからだ?」
「お前のルールは冗談じゃないんだよ」
「俺はお前の仲間じゃない。答えるか、嫌いなナイフから始めるか、どっちかだ」 彼は間を置いて、念を押す。「アイルランド人と内通してるのは誰だ?」
「なんで俺が言わないといけないんだ…?」
「言わなければ、後悔することになるぞ。これが最後の警告だ、ハンター」
「仲良くなってきたけど、まだぶっちゃけトークするような仲じゃないんだよな、え?」
フォン・ハーデスが拳を振り上げて、俺の顔を殴りつけてきたから、俺は椅子でビクッとして、上唇から血が噴き出した。
くそったれ。
「間違った答えをするたびに、どんどん悪くなるぞ」 彼は拳を強く握る。「お前の計画は?」
「かわいい奥さんのとこに帰るんだ。ここでどんなプレイをしてるのか、奥さんは気にしないんじゃないかな。だって、俺たちをくっつけたのは彼女だし――」
彼が拳を顔面に叩き込んで、鼻が折れそうになり、俺は言葉を遮られた。息をのんで、血を吐き出す。フォン・ハーデスは、指についた赤色にはまるで動じない様子だ。このすべてが彼の遊び場なんだろう。
「繰り返す。お前の計画は?」
「言っただろ。信じてくれないのは、俺のせいじゃない」
彼は俺の腹を殴ったり蹴ったり。俺は椅子と一緒に後ろに倒れて、大きな音を立てて地面に叩きつけられた。フォン・ハーデスの手下が俺を抱え上げて、また殴ろうとするから、床に血を吐き出した。まるで俺がサンドバッグかのように、自分の拳を使ってる。
フォン・ハーデスは、ファラオみたいに無謀でもなければ、レイのように冷酷でもないけど、一番乱暴で、自分の目的を達成するために力を使うことに躊躇しないんだよな。
俺の顔を地面に叩きつけて踏みつけられる前に、何かしないとまずい。だけど、連中がどれだけ知ってるのか、全然わかんないんだ。
俺に喋らせるための策略かもしれないけど、それはなさそうなんだよな。だってフォン・ハーデスは、確固たる証拠がなければ動かないから。
それがわかるまでは、拷問に耐えるしかない。こんな時、俺のバックグラウンドは役に立つ。俺は拷問訓練を受けてて、基本的には、幻覚を見て熱が出て、死にかけてるところまで拷問されるんだ。結局のところ、拷問を生き残る唯一の方法は、それを乗り越えることなんだから。
肉体的な拷問なんて、大したことない。経験済みだし、どうすればいいか正確にわかってる。
痛みは神経に集中してる。それを乗り越える一番いい方法は、麻痺させることだ。考えなければ、苦痛は最終的に消えるんだ。
俺の計画の落とし穴は、俺がここにいる理由、今フォン・ハーデスのサンドバッグになってる理由を忘れられないことなんだ。
俺の妻。
そういう拷問は、肉体的な痛みとは全然違うんだ。ああいう拷問は、数えきれないほどの男を限界まで追い詰めてきた。
息を吸い込み、フォン・ハーデスの視線と向き合う。まるで彼は無表情で俺を見てるように見えるけど、本当は全然違うんだ。
彼は、俺を殴る機会を喜んでるに違いない。結局のところ、俺が戻ってきて、彼の守りの下からローズ・アマラを奪った日から、俺を憎んでるんだから。
それは嫉妬じゃない。ロマンチックな感情を感じれるとは思えないから。もっと、ローズ・アマラは、エリオットに彼女を守ると誓ったあと、彼の責任だと思ってたから。
「どうやって俺を捕まえたんだ、フォン・ハーデス? 強さじゃないのは、どっちもわかってるだろ」
「俺の強さを感じたいか、イーサン? 手加減してたんだが、お前がそう言うなら拒否する理由はないな」
手加減? 俺の顔を歪ませて、手加減って。マジかよ。
「なんでわざわざ俺を縛り付けるのか、知りたいだけなんだ」
「お前の罪を償うためだ」
「罪?」 俺は血を吐きながら笑う。「急に神様になったのか? でも、意味ないだろ。俺はそういうものを信じてないから」
「信じなくても、逃げられるわけじゃないんだ」 彼は俺の顔面に拳を叩きつけ、骨が折れる音がした。
マジで痛えよ。体中に絶え間なく痛みが走って、歯を食いしばるしかない。