90 END
CHAPTER NINETY
イーサンのPOV
マジで来なかった。
バルコニーで何分か待ってみたけど、アイツの影も形もなかった。
全然。
電話もなし。
メールもなし。
バッグに入れといたアイツからの手紙をじーっと見てる。あれが最後になるのかな? マジで?
あいつには、俺をあんな目に遭わせたことについて、ケツを蹴り上げてやりたい気持ちだ。俺は戻ってきて、せめて話でもするようにって、ありったけの理由をあげたんだ。俺から行ったんだ。結婚指輪も外さなかった。出ていくことが解決策だって考えてることとか、バカだって言ってやれなかった。
全部やったのに、アイツは全然来なかった。
くそったれ。
シャワー浴びようかなーって思ってたら、部屋の外が騒がしい。
心臓がドキドキして、ドアを勢いよく開けたら、つまずきそうになった。
俺を待ってたのはイーサンじゃなかった。代わりに、ゼスとエイヤがリアと揉めてて、中に入れないって言ってるところだった。
「どうしたの?」落胆した気持ちを隠して話しかけてみた。
「お嬢様には邪魔しないようにって言われてたんですけど」ゼスが言う。「ヴォルコフ夫人が、どうしてもお会いになりたいと。」
「大丈夫だよ」二人に笑って、彼女の方を見た。「リア、入って。」
彼女は俺の後ろについてきて、ドアを閉めた。顔色が悪くて、唇もカサカサ。ドレスのボタンも間違えてるし、急いで着たみたいだった。
「座って。」ラウンジの方を指した。
彼女は首を必死に振って、息を整えてる。
「大丈夫? リア」もしかしたら、旦那がいないことには理由があるのかも。「エイドリアンは大丈夫なの?」
「もちろんよ、いつもそうじゃない?」と彼女はすごい剣幕だけど、全部怒りってわけじゃない。何か別の感情が隠れてる。何だろう? 憎しみ? 恨み?
「分かった。なんでここに来たのか教えてくれる?」変だし、エイドリアンの几帳面で秘密主義な性格からしたら、護衛もつけずにフラフラさせるはずないんだよ。
彼女の大きな目に涙が溜まってて、俺のことを見てる。うわ、どうしたんだ?
「前、助けてくれるって言ったわよね、ローズ。」
「言うわ。」
「約束?」
「もちろんよ。何があったのか教えて。」
「お、お願…お願いだからエイドリアンから逃がして」彼女は震える、汗ばんだ手で俺の手を握った。「もしそうしてくれなかったら、私、死ぬわ。」
まじかよ。
リアを、エイドリアンが知らない俺たちの安全な隠れ家に、エイヤとゼスに送ってもらってから、シャワーを浴びた。
どうすればいいのか分かんないけど、彼女は今にも壊れそうで、エイドリアンから逃げ出したかったんだ。もしあいつが何かしたら、殺してやる。
シャワーを浴びながら、お腹に手を当てた。「もし男の子だったら、絶対に女の人を虐待しちゃだめだよ。もし女の子だったら、玉がないからってだけで、男に虐待されるようなことだけはしちゃだめだよ。」
首を振った。まさか胎児に話しかけることになるとは思わなかったけど、マリアがギャレスに話かけたり、アッシャーが話しかけたりするたびに、ギャレスがお腹の中で動くって言ってたのを思い出したんだ。
ギャレスみたいに、子供が完全な家族を持てないかもしれないって考えたら、胸が締め付けられる。何が起きたとしても、俺はこの子をちゃんと育てるんだ。マリアと心と心で話し合ってから、少しずつ興奮する気持ちが湧いてきてたんだ。
お母さんみたいになりたい。子供たちを命がけで守ってあげたい。
タオルで体を拭いて、バスルームから出て、小さなタオルで髪の毛を乾かしてる。
寝室の真ん中に立ってる男を見つけた瞬間、足が止まった。
イーサンだ。
俺を追いかけてきたんだ。
その考えが頭をよぎって、唇が震えたけど、すぐに引き締まった。
あいつはシャワーを浴びたんだ。さっきの血は全部消えてる。ぴっちり筋肉にフィットする、清潔な白いシャツを着てる。髪は少し湿っていて、何本かおでこにかかってる。
本当にここにいる。
一瞬、お互いを見つめ合って、現実を理解してるみたいだった。
「話を聞いてくれないか?」と静かな声で言った。
「何について? もう手紙置いて、さよならって言ったんじゃないの?」
長い息を吐く。「あれは間違いだった。」
「間違い?」
「いや、言ったことは全部本当だよ。ただ、一つだけ違ったことがあって。」
「何?」俺の声はか細い。
「お前と別れるのが正しいって部分。」
「正しくないってこと?」
「クソったれ、違うんだ。そうすべきだってのは分かってるけど、お前と離れるなんてできねえんだよ。」少し笑う。「今朝部屋を出たときに、自分の心臓をえぐり出したくせに、皮肉だよな。」
「どうして、イーサン?」
「言っただろ、俺はお前にとって危険だって。」
「それは私が決めること。」
「俺はお前を傷つけた。」肩のあざを指した。
「もし私が傷ついたとしたら、触らせてたと思う?」俺の声は低くなる。「数えきれないくらい、あなたに会いに来たわよね。それに、やめてって頼んだことないでしょ。もし本当に酷くなったら、やめてって言ったと思うけど。」
「でも…やりすぎた。」
「私は荒いのが好きなの。」
彼の目がキラキラしてる。俺が思ってる以上に気に入ってるんだ。そして、俺もそうなのかもしれない。
「他に何か言いたいことある?」俺は探りを入れてみた。
「ああ…病院に連れてくよ。俺がお前のそばにいる。」
「医者だけでいいの。病院じゃなくても。」
彼の眉間にシワが寄る。「なんで?何かあったのか?」
「ううん。病院の先生が、産婦人科に行くようにって。」
彼の中で何かが分かったのか、黙ってから、「お前は…」と囁いた。
「妊娠してるの」って俺が代わりに言った。
「なんで?」
「だってそうしたいんだもん。」
「子供なんて欲しくないんじゃないの?」
「それは前ね。自分に自信がなかった頃のこと。」
「今は?」
「今は、そうする自信がある。お母さんやマリアみたいに、いいお母さんになりたいの。勘違いしないでね。ピルをすり替えたのは、一生許さないクソみたいな行為だけどね。」
彼は一瞬黙って、ポケットに手を入れた。
俺は彼と、彼の沈黙を見てて、我慢できなくなって、「何か言ったら?」って口にした。
「何か聞きたいんだけど、答えを聞きたいかどうか分からないんだ。」
「聞かなきゃ分からないでしょ。」それに、もっと近づいてきてほしい。距離が気になるんだもん。
「子供の将来、俺の居場所はあるのか?」
「なんでないの? お父さんでしょ。」
「お前の将来は?」
「どう思う?」
彼の青い目が俺をじっと見つめて、ため息をついた。「分からないんだ。ただ、自分がしくじったってことは分かった。お前を幸せにするために、何でもする準備はできてる。」
「何でも?」
「何でも、お姫様。」
「じゃあ、二度と私を置いていかないで。絶対だよ。マジで、イーサン。もしまた私を置いていくようなら、お前に怒りの鉄槌を下すから。」
少し笑って、近づいてきて、長い足で一瞬で距離を詰める。俺のすぐそばで止まって、彼の匂いが空間を満たす。「また受け入れてくれるってこと?」
俺は彼のシャツの襟を掴んで、つま先立ちで彼の唇に自分の唇を合わせた。頭がクラクラして、ほんの数秒しか続かなかったけどね。
下がってくると、まるで空を飛んでたみたいで、やっと地面に着地したような感覚になった。
「愛してる、イーサン。あなたを知ってからずっと愛してたけど、あなたにも自分にも、それを認める勇気がなかった。」
「クソッ、お姫様」と彼は息を切らして言った。「俺も、初めてお前に会ったときから愛してたと思う。」
「そうなの?」
彼はうなずいた。「でも、臆病者だった。」
「私たち、どっちもね。」まだ手に持ってるシャツの襟を撫でた。「お互いに埋め合わせをしないとね。」
「そう思う。」
「今、キスしてくれるの? 旦那様?」
「ああ、キスだけじゃないよ、奥さん。」
彼は俺を抱き上げて、俺はきゃあきゃあ言ったけど、その声は彼の唇に消された。
終わり