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チャプターエイティ - スリー
イーサンの視点
ベッドにうつ伏せになっている女性をじっと見ていると、頭痛なんて些細な問題に思えてくる。
彼女のヒップ、腕、太もも、お尻、そして背骨のヘビのタトゥーの周りにまで、アザの銀河が広がっている。
クソッ。
昨夜の記憶が少しずつ蘇ってきて、ハッと目が覚める。一体、俺は何をやらかしたんだ?彼女の背中が規則正しく上下していなかったら、殺してしまったんじゃないかと思ってしまう。
マジかよ。
酔った勢いで彼女に触れるべきじゃなかった。俺が酔わないのは、自制心がなくなるからだけじゃなくて、自分をコントロールできなくなるからでもあるんだ。あの状態になると、ストップボタンも一時停止ボタンもない。
ローズのことになると、そんなボタンがあったことなんてないけど。自分の決断を思い返すと、もっと彼女を犯し、もっと彼女を所有し、正真正銘の狂人になっていた。
まるで動物のように、何度も何度も床で彼女を抱いたなんて信じられない。彼女はすでにとても繊細で、ちょっと触れただけでもアザになるのに。どうして俺は、自分の獣性をあんな風に完全にコントロールさせてしまったんだ?
彼女の髪の毛に触れようと指を伸ばしたが、寸前でやめ、拳を握りしめる。もう彼女を感じる権利なんて、俺にあるのか?
「クソッ」と小声で呟き、髪をかきむしりながら、俺は飛び起きた。
もう全て終わったんだ。
手早くシャワーを浴び、黒いズボンと白いシャツに着替える。ローズはまだうつ伏せのまま熟睡している。疲労で、しばらくは起きないだろう。
彼女の机に座り、ペンを手に取り、指の関節が痛くなるまで書き続ける。彼女はいつも、俺みたいな左利きの字は最悪だって言ってたな。その通りだ。でも、ありきたりなメールやテキストを送る代わりに、最後に個人的な何かを残そうと思ったんだ。
枕の上に手紙を置き、彼女の額に唇を当てて、少し長めにそこに留めた。
「んー…イーサン?」彼女は眠ったままうめき声をあげた。
もし彼女が今起きたら、きっと俺を絞め殺すだろう。それは当然のことだけど、最後に決着をつける前に死ぬわけにはいかない。
だから、俺は毛布を彼女の顎まで引き上げ、部屋のドアを最後の時に閉めた。
もしロランを殺したいと思っていたなら、難しくなかったはずだ。
彼は自分のクラブの向かいの建物にスナイパーを招待し、始末させようとしていた。
俺がそうしなかったのは、彼に苦しんで欲しかったから、そして、お母さんやお父さんが味わった以上の苦しみを味わって欲しかったからだ。
彼が自分の罪に向き合わない限り、復讐にはならなかっただろう。あの日、お母さんがそう願ったように、俺の足元で血を流しながら、助けてくれと懇願する姿を見ることができなければ、満足できなかっただろう。
でも、状況は最初に始めた時とは違うんだ。
彼はローズを巻き込んだ。
もしアルバニア人がまだ彼女を捕らえていたら、彼女はもう命を落としていただろう。それがロランの最後の攻撃だ。それが、彼に名前が刻まれた弾丸なんだ。
両親の死は防げなかったかもしれないけど、ローズだけは、たとえそれが最後の手段だとしても守ってやる。
もしロランを始末すれば、アイルランド人との全面戦争は終わるだろう。ファイアは、ロラン側の幹部のほとんどが、ロシア人やイタリア人を敵に回すのは狂気の沙汰だと考えていると言っていた。日本とトライアドが加わるとなれば、自殺行為だ。
ロランは独裁者で、自分に逆らう者は誰でも殺していた。彼は恐怖で彼らを支配している。彼がいなくなれば、すぐに平和が訪れるだろう。
ローズは安全になる。
俺はレンズを通して、アイルランド人クラブのラウンジエリアに座っている男を見つめた。もう60代で、髪は真っ白だが、純粋な悪意が彼の目にはまだ潜んでいる。
俺の携帯が振動し、彼の目を逸らさずに取り出す。どうせ、今は撃てないしな。周りには報告なんかをしてくる取り巻きがいっぱいいる。やつを仕留めるには、クリアなショットが必要なんだ。外したら、俺の立場が危うくなる。
画面に表示された名前を見て、俺は口を開いた。
ゴッドファーザー。
彼から電話がかかってくるのは10年ぶりだ。彼の新しい番号を知らないと思っていたんだ。俺は彼の古い番号をずっと持っていたのに。
俺はゴクリと唾を飲み込み、「もしもし?」と答えた。
「何やってんだ、小僧?」
俺の指はトリガーから離れないままだ。ゴッドファーザーは40代かもしれないけど、まだ俺が5歳の頃、彼にぴったりと寄り添っていた頃と同じくらい威圧的な口調だ。
「何人か始末するところだよ」俺は冗談を言う。彼に話す唯一の方法だから、もう。
「撃たれたんだってな」
「まあね。銃弾じゃ俺は殺せないんだ。今回だけは」
「結婚したんだってな」
「まあ、そんな感じだけど、もう…終わった」俺の声はトーンダウンし、再び冗談っぽく言う。「お前みたいに結婚生活に向いてる奴ばっかりじゃないんだよ、ゴッドファーザー。奥さんを破滅寸前まで追い込むようなクソ野郎もいるんだ」
「真面目になれ。今回、どんな問題に巻き込まれたんだ?」
「いつもの復讐さ」俺は間を置いた。「両親を殺した奴らのこと、覚えてるだろ?奴らの一人を見つけたんだ。お母さんを裏切ったクソロシア野郎が誰だか、まだ分かってないけど、今はそんな時間がないから、おじさんを片付けることにする」
「それで?気が済むのか、それとも両親が生き返るとでも?」
「いや、でも最高に気分が良くなると思うよ」
「イーサン…」
「それに、破滅寸前まで追い込んだあの奥さんを、安全にできるだろうし」
「どこにいる?」
「大団円を迎える場所に」
「具体的にどこだ?」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「ここにいる」
俺は間を置いた。「どこに?」
「アメリカだ。会いに来い」
「なんで…なんで、全部終わった後に会いたいんだ?俺のこと嫌いになったのかと思った」
「お前のやったことは嫌いだったが、お前を嫌いになったことはない、イーサン。お前は、俺が父親とは何かを知る前にできた息子だった。そして、自分の子供ができてからも、それは変わらなかった」
俺はゴクリと飲み込み、咳払いをした。「感傷的になってるな、ゴッドファーザー」
「そしてお前はまた無謀になっている。会いに来い。今すぐだ」
「ちょっと待って、最後まで言わせてくれ—」
背後から何かが動く音が聞こえ、俺は言葉を遮った。飛び上がったが、もう遅い。肩に何かが撃ち込まれた。最初は銃声かと思ったが、血は出てこなかった。携帯が地面に落ち、画面が割れる。
後ろにのけぞりながら、俺は膝をつき、俺を撃ったクソ野郎を見つめる。ブリーチした髪があらゆる方向に跳ねていて、彼は麻酔薬入りの銃を吹き飛ばした。「強力だって言っただろ、イーサン」
クソッ。
ピーターは俺に近づき、見下ろした。「ロランを殺すんじゃない。ボスはまだそれを望んでいない」
「イゴールが、お前をけしかけたのか?」俺は掠れた声で言い、やっとのことで目を開けている状態だ。
ピーターは、赤ん坊からお菓子を奪うように、俺の手からライフルを奪った。「ボスは俺に、お前を軌道に乗せておけって言ってたから、ずっとそうしてたんだ。お前の計画を聞いてしまったローズを押したのは、俺だ」
こいつめ。
喉を切り裂いてやる。
いや、もっと苦しむように、鈍ったナイフで心臓をえぐり出してやる。
「俺は彼女を黙らせるために、色々なことをしてきたのに、お前は何をした?俺たちのやってきたことすべてに逆らってきたじゃないか。そんなことできない。それはボスへの裏切りだ。俺はそれを許せない。お前は、もう二度と現れるな。お前はロシア人でもないんだから、そもそも兄弟の一員であるべきじゃなかったんだよ、この汚いアイルランド野郎が」
彼はライフルを振り回し、俺の頭を殴りつけた。俺の体はドスンと地面に叩きつけられた。
最後に思い浮かんだのは、ローズの顔と優しい笑顔だった。
せめて、俺の手紙がさよならの言葉として役立つといいんだが。