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CHAPTER SEVENTY – FIVE
ローズ・アマラのPOV
妊娠。
医者が今、俺が妊娠したって言った気がする。
「妊娠するわけない」って、俺は思わず口走った。「ピル飲んでるし」
医者は持ってる書類をもう一回確認する。「そうです、ミス」
「間違いだって」
「いいえ。あなたの血液検査の結果、かなりの量のhCGが出ています。妊娠ホルモンです」
俺は医者の顔を見つめて、口が開いた。「じゃあ…じゃあ…なんでピル飲んでるのに妊娠したんだ?」
「1日か2日飲み忘れたとか、そういうことですかね」
「そんなこと、絶対ないもん」だって、あの最低なイーサンはいつも俺にめっちゃ構ってくるし、コンドームするのめっちゃ嫌がるから、俺はマジメに飲んでるんだから。
俺の視線はゆっくりとイーサンの方へ移った。イーサンは黙ってて、顔には何も出てない。あれ、どういう意味?イーサンもショック受けてんの?
お前に赤ちゃん作ってやる。
俺はさっきのイーサンの言葉が頭に蘇って、目を見開いた。
まさか、そんなことするわけない。
イーサンは…ありえない。
「妊娠について初めて知ったことですか?もしそうなら、産婦人科に行くべきですね」医者は続けた。「できるだけ早く」
俺は返事ができなくて、コクリと頷いた。医者は俺たちをちょっと不思議そうに見て、それから部屋を出て行った。
医者がドアを閉めると同時に、俺はイーサンの方を向いて、冷静さを保とうと必死だった。俺の中で火山が噴火寸前なんだ。
「何か言うことある?」
イーサンは俺の目を見て、俺はそれを見た。狡猾さ、クソみたいな勝利。もし疑いがあったとしても、もう完全に消えた。
マジでクソ野郎。
マジでクソ野郎。
イーサンは俺の手を取って自分の顔に持ってきたけど、俺はキスされる前にそれを振り払った。
「何か問題でも?」イーサンは気のない感じで、まるで純粋な子供みたいに言った。
「何か問題でも?何かクソ問題でも?俺はピル飲んでたんだよ。妊娠するはずないじゃん」
イーサンは冷静を保ってる。「あれは99%しか効果ないって聞いたことあるけどな」
「もしすり替えてたら、0%だろ」
「あり得るね」
「ふざけんなよ、お前!」俺はベッドから飛び降りてイーサンを殴ろうとしたけど、世界がグルグル回って、俺の計画を邪魔した。
イーサンは俺の腕を掴んだけど、俺はそれを振り払って、イーサンから背を向けてベッドの柱を掴んだ。イーサンの顔を引っ掻き回してやりたい。蹴りまくってやりたいけど、身体が弱ってて何もできない。
「なんでそんなに怒ってんの?いつかこうなるって」
俺は口を開いた。イーサンは否定も弁解もしない。俺のクソみたいなピルをすり替えたことを白状してる。
「まじで今すぐ殺したいんだけど」
「それじゃ俺たちの子どもだけになっちゃうから、やめといた方がいいよ」
俺は振り返って、イーサンのまだ治りかけの顔面を殴った。イーサンはそれを避けようともしなかった。絶対来るってわかってたはずなのに。「俺たちの子どもじゃない」
「お前と俺で作ったんだから、その子が俺たちのものだよ」
「お前がやったんだ」
「わかったよ。でも、そんなに興奮しないで。体に良くないから」
「なんでそんなに落ち着いてられるんだよ?」
「なんでだよ?」
「そうだね、なんでだよ?」俺の声は皮肉っぽくなって、怒りが込み上げてくる。「お前は最初からこれを企んでたんだろ、そして自分の計画通りに進んでるだけ。それで?次は何するの?俺にもう何人か子ども作る気?」
「もしお前が望むなら」
「望んでないから!だからピル飲んでんだよ」
「もう終わり?」
「クソったれ、まだ終わってないよ!ねえ、だからお前を信用できないんだよ、イーサン。まさにこれが理由なんだ。一瞬で俺を世界の頂点に立たせて、次の瞬間には背中を刺すんだから」
「そんな大げさに言うなよ」
「大げさ?これのこと大げさだと思う?ああ、本当に大げさってやつを見せてやる」俺はイーサンの胸を押した。「あなたとはもう口もきかない」
「わかったよ」
「話しかけないで!」
「話しかけてないよ。お前が話してるんだ」
苛立ちが血管を駆け巡るけど、俺はそれを抑えて部屋を出た。イーサンがすぐ後ろについてきてるのがわかった。俺は車の方に向かって立った。ゼスとエイヤに電話する以外、他に何もできないから。イーサンがドアを開けた瞬間に、俺は助手席に滑り込んで、窓の外を見た。
この席に座るときの思い出は無視しようとした。1時間も経ってないのに、イーサンは俺を最高に幸せにしてくれたんだ。今は、全然違う方法でやってきた。
イーサンはため息をついて、俺はイーサンの視線を感じた。「気持ち悪くならない?医者が薬をくれたよ」
俺は答えずに、窓から他の車を眺め続けた。
「それで、このままいくの?沈黙作戦?」
その通り。
俺の中で育っている命と、それをさせた男について、どうすればいいのか決めるまで。
だって、これからはもう、私たちはずっと同じじゃないんだから。
イーサン
家に帰るまでの間、沈黙が続いた。窒息しそうなタイプのやつ。
ローズは完全に俺を無視して、外の世界に全神経を集中させている。
俺はハンドルを握りしめて、ローズを掴んでぶん殴るのを阻止した。そんなことしたら、事態はもっと悪くなるから、自制した。
だって、ローズが怒ってるのは、別に理由がないわけじゃない。病院では、ローズがキレないように適当に話したけど、俺だってローズの怒りはもっともだってわかってる。
俺たちがロシア人の屋敷に着くと、ローズは外に飛び出した。エイヤとゼスが玄関でローズを迎え、ローズは軽く頷いた。
俺はローズの隣を歩き、ローズの怒った足取りについて行った。怒りってのは、たまにはいいもんだ。怒ってるってことは、気にかけてるってことだ。反応がないのが、俺をイライラさせる。
俺たちが2歩ほど屋敷に入ったところで、ベラが階段の下から飛び起きて、爪をカチカチするのをやめた。ベラはずっとそこに座ってたのか?パジャマ姿で、白金髪はほとんど梳かされてないし、目の下のクマは、たくさんの夜を眠れなかったことを物語ってる。
ベラが走ってきて、ローズを抱きしめたから、俺たちは止まった。「大丈夫、レイエンカ?何が起こったのか聞いて、すごく心配だったんだ」
俺の妻は、従姉妹のために笑顔を作った。俺の前では不機嫌そうにしてるのに。「全然大丈夫だよ、アナ」
「でもパパは、アルバニア人があなたを捕まえて連れて行って…」ベラは、鼻をすすりながら言葉を詰まらせた。
「ベラ、そんな些細なことで泣かないで」ローズは、愛情深い母親みたいに叱った。そのたとえが、自分の息子か娘を抱いてるローズの姿を俺の頭に浮かばせた。俺の息子か娘。
俺の視線はローズの腹に注がれた。まだ平らだけど、医者は俺たちの子どもがいるって言った。俺たち。俺とローズの。
クソったれ。こんなに…高揚感があるなんて、考えもしなかった。本当に魅力的だ。
「些細なことじゃないわ」ベラは反論した。「あなたは危険な目にあったんだから」
「でももう大丈夫だよ、泣き虫」
「でも過去にはあって、これからもそうなるかもしれない」ベラの視線の中に、今まで見たことがないもの、柔らかくて守られたベラには絶対に出ないはずの何かが現れた。
恨み。怒りの恨み。
面白いもんだな。
ローズはベラを抱きしめた。「心配しないで、アナ。私がいつもあなたを守るから」
「でも、いつまで?」妹は、何も見ないで呟いた。
「永遠に」ローズは離れた。「わかった?」
ベラは頷いて、俺の方を見て、それからローズの方を見た。「あの…何か話したいことがあるの」
「明日にできない?」
「うん、もちろん」ベラはローズにキスした。「あなたが無事でよかった」それからベラは俺に微笑んだ。「あなたを連れて帰ってくれてありがとう」
「ローズは俺の妻だ。いつでもそうするよ」俺はローズに手を伸ばそうとしたけど、ローズは一歩下がった。
ベラが階段を上がって姿を消すとすぐに、ローズの笑顔は消えた。
俺たちはレイブンのオフィスに向かい、何が起こったのか報告した方がいいんだ。俺はローズがどんな反応するのか、必死で抑えた。
「あとはイーサンが知らせるわ」ローズは俺を見ずに、曖昧なジェスチャーをした。「疲れたから、部屋に戻る」
「もちろんだ」レイブンの眉がひそまった。「自分と赤ちゃんを大切に」
その時のローズの唇は細い線になっていた。今まで妊娠について嘘をつくのは平気だったのに、今やそれが現実になったから、俺を殺したい気分なんだろうな。
ローズはレイブンに「おやすみ」を言って、地獄みたいにオフィスから出て行った。
俺は、あの状況をどう説明するのが一番いいのか、レイブンに説明する前に考えてた。彼女に今夜あんな状態で寝かせるわけにはいかない。レイブンの質問に答えるのに20分かかって、もう十分だった。
「あのアルバニア人全員は殺してないと思うんだ。他の隠れ家もあるからな。ファラオとエイドリアンが、朝には全部報告してくれるだろう」
俺が立ち去ろうとすると、レイブンは俺を呼び止めた。「暗殺を実行してほしい」
「誰を?」
「近いうに知らせる」少しの間が空いた。「準備しておけよ、俺たちだけの秘密な」
「わかった」誰を消そうとしてるのか、全く見当がつかないけど、秘密にしてるってことは、何かあるに違いない。名前を聞き次第、詳しく調べよう。奴らは、誰が金を盗んでるのか分かったのか?
レイブンの目にシワが寄った。「ありがとう」
「何に対して?」
「ローズをひどい運命から救ってくれて」
なんでレイブンとベラは、俺が彼らのためにやったって思ってんだ?ローズと自分のためにやっただけなのに。
「お礼を言う必要はないよ。ローズは俺の妻だから」
「おやすみ」を言ってから、俺は俺たちの部屋に戻った。ベッドで眠ってるローズを見つけて、入り口で立ち止まった。ローズが眠るには意外な体勢で、丸くなってるんだ。
その脆弱さは、俺の心に響かないわけがない。ローズは今日、攻撃から誘拐まで、いろんなことがあったんだ。そして最後に妊娠が判明して終わった。
あのクソ野郎どもがローズにしたことを思い出したら、あのクソ野郎どもの喉を全員切り裂くために、時間を巻き戻したくなった。
もしファラオが、あの警備員を捕まえられなかったら、もし俺が少しでも遅かったら、ローズはこんな風にベッドで眠ってなかっただろう。永遠に失ってたかもしれない。
長い溜息を吐き出しながら、俺はあの考えを振り払った。もう終わったんだ。ローズはここにいる。そして俺は、どんな時でもローズを自分の視界に入れておくことで、二度とそんなことが起こらないようにするつもりだ。
でも、ローズはきっとそれを気に入らないだろうな。