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チャプターシックスティ–エイト
イーサンの視点
ここは、俺が本当にいたい場所じゃない。いるべき場所でもないんだよな。イタリア人のビジネスなんて、誰が興味あるってんだ? まったく、俺じゃない。
今、やりたいことといえば、ローランの顔面にブチかますか、嫁をイチャイチャさせるかの二択だ。それ以外はありえない。
最初の選択肢は、今は保留だな。ファイアに待機するように頼んだんだ。あいつ、退屈でつまんないって文句言ってたけど。それ、俺も同じなんだよな。ファイアと俺は、面白いと思えるミッションしか受けないタイプなんだ。アドレナリンの波は俺らのもの。チャンスがあれば、いつでも乗りこなす。今は、ローズを俺の上に乗りたいだけなんだけどな。
あいつ、俺に逆らおうとしてる時の可愛さったら。そんで俺がひっくり返して、からかってやりたいんだよな
「集中しろ」と、レイが俺だけに聞こえるように囁いた。「集中してるフリでもしとけよ」
俺らは、ダウンタウンにあるブラトバの空っぽのクラブに座ってる。ルチアーノのアンダーボス、ニコロと会うためだ。ニコロは、十数人のガードを連れてきてて、彼らはまばらにいるスタッフたちを監視してる。スタッフたちはまだ開店準備中で、バタバタしてる。ニコロは疑り深い性格で有名だから、ラズロは同盟に消極的なんだよな。それでも、ボスの命が危険にさらされてるってことは無視できない。ボスは、ニコロの長兄でもあるし。つまり、俺が手を回してやったわけだ。
レイは、俺に感謝すべきだな。俺が邪魔しなきゃ、あいつはニコロを思い通りにできなかっただろうし。必要とあらば、俺だって結構いいやつなんだぜ。
ニコロはタバコを吸い込み、煙を上に向かって吐き出した。彼は洗練されたイタリア訛りで話し始める。「ローランは、ブリティッシュと組んでるみたいだ」
「マジかよ?」とレイは俺を見て、ウィスキーに入った氷を回した。
レイは俺に調べてくれって頼んだんだ。それで俺は、ブリティッシュは危険じゃないって言ったんだよ。本当なんだよ。彼らは数が少ないし、領土もほとんどないしな。
「ああ、あいつらは女を狙うんだ」とニコロが言った。
「みんなそうじゃね?」と俺は、退屈さを隠せない声で言った。
「娼婦のことじゃない」とニコロはライターでジェスチャーをした。「俺らの女、妻、婚約者、そういうやつらのことだよ。あいつらは、女を売春婦にして、ブラックマーケットで売って、俺らの名誉を汚そうとするんだ。俺らは女を人目につかないようにしてる。お前もそうすべきだ」
「レイは、そうする必要ないだろ」と俺はニヤリとした。「あいつの嫁は、いつも眠れる森の美女みたいに隠されてるからな」
レイは、笑みを浮かべながら、顎を噛み締めるのを隠した。「お前の嫁はさ、外に出たがってしょうがないみたいだけどな」
「俺の嫁に乾杯。あいつがいなかったら、この組織は、お前の秘密に資金を流すための合法的な金を持てなかっただろうからな」
「それに乾杯だ」とレイはグラスを傾けて、ニコロの方を向いた。「ブリティッシュを尾行してるやつはいるのか?」
俺のスマホがバイブして、グラスをテーブルに置いて、ファラオからのテキストを確認した。あいつはいつも、情報を引き出すためにあの手この手を使ってくるんだよな。最近はうまくいってないから、諦めたみたいだけど。いつもと違うと、何かあるんじゃないかって勘ぐっちまうんだよな。
ファラオ:「今、すごく良い景色を見てるから、シェアしたくて」
スマホを握りしめる力が強くなった。写真には、伝統的なアジア料理店で撮られた写真が写ってる。ローズが笑っていて、パクスタンとリーンに挟まれて座ってる。リーンは、あいつのクソみたいな手を、ローズの太ももに置いてる。
もう、終わりだ。あいつの死ぬ日は、時間の問題だな。
レイブン叔父さんが、ローズをファラオとパクスタンと、日本人に会わせに行ったんだよな。あいつは、大叔父さんのオフィスを出た後すぐに電話してきて、すごく嬉しそうだった。だから、リーンのクソ野郎なんかと一緒にいるなよって言ったんだよな。パクスタンにも近づくなともはっきり言った。ファラオには、あいつの人生がかかってても、近づかないだろうから、何も言わなかったけどな。
それなのに、あいつらと一緒にいるんだからな。俺の気分は、退屈から殺人鬼に、一瞬で変わっちまったよ。
俺は、ニコロがブリティッシュについて話してるのを、ぼんやりと聞いてるだけだ。俺がしたいのは、その集まりが行われてる場所に飛んで行って、ローズを連れ去ることだけだ。リーンとパクスタンには、それぞれ数発ぶち込んでからな。
「ラズロと俺は、その時まだ若かった」とニコロは、タバコを吸いながら、目を細めて、訛りを強めた。「当時のカポは、俺らのじいちゃんだった。彼は恐れ知らずで冷酷で、邪魔するやつは誰であれ、迷わずぶった切った。俺らがブリティッシュの領土を、正々堂々と取り上げた後、彼らは俺のばあちゃんを誘拐したんだ。でも、そいつらはそこで止まらなかった。ばあちゃんが何度もレイプされてる写真と動画を、じいちゃん、父、叔父たちに送りつけたんだ。最初は、ばあちゃんは泣いて抵抗してた。蹴ったり引っ掻いたりしてた。でも、日が経つにつれて、静かになっていったんだ。じいちゃんの名前を呼んでたけど、最後は呼ぶのをやめた。自殺を図ったけど、ベッドに縛り付けられて、汚い動物みたいに使われたんだ」とニコロは、石のように硬い顎をしながら、言葉を切った。「それは、俺の家族にとって最悪の時期だった。不名誉な汚点だよ」
「じいちゃんは、彼女を探さなかったのか?」とレイが尋ねた。
「もちろん探したよ。ニューヨークをひっくり返して、邪魔するやつを殺しまくった。でも、見つけられたのは、送られてきたテープだけだったんだ。で、そいつらが次に何をしたか、知ってるか?」
「彼女を殺したんだろ?」とレイは、まるで同情してるかのように、冷静に言った。そうじゃないんだけどな。そういう状況に必要な感情を模倣するのは、得意なんだよ。
「冷血に殺したんだよ。じいちゃんが、彼らに領土を返すことに同意した時、彼らは彼女を返すと約束したんだ。じいちゃんを見た時の、ばあちゃんの表情が変わった。彼女は彼に向かって走り出したけど、そのクソ野郎どもは、彼女がたどり着く前に背中を撃ったんだ。彼らはもう領土なんて必要なかったんだ。ただ、じいちゃんを傷つけ、壊したかっただけなんだよな。それは最終的に実現したんだ。ばあちゃんが死んだ後、じいちゃんは、見つけられるすべてのクソ野郎を暗殺した。ヨーロッパ中に散らばってからも追いかけまわして、仕事も睡眠もせずに、狂った犬みたいになったんだ。復讐だけで生きてて、それが最終的に彼を破滅させた。彼は自分を許せなかった。世界よりも大きかったのに、妻を救えなかったからな。数年後、彼女を撃ったのと同じ弾で、頭を撃ち抜いて死んだんだ」
「安らかに眠らんことを」とレイが言った。
ニコロはうなずき、吸いかけのタバコを揉み消した。「つまり、あの連中を過小評価するな、ってことだ。彼らは領土は少ないかもしれないけど、お前を滅茶苦茶にして、生きていけなくするようなことをためらわないんだ」
まるで、イタリア人が金を払って女を誘拐しないみたいな言い草だな。イタリア人も、ローズが許せば、そうしたはずだ。それは、古くからの犯罪組織のやり方なのに、標的にされると被害者のフリをするんだから、呆れるよ。
哀れだな。
レイはニコロに同情するフリをしてるけど、あいつは最高の偽善者だ。俺が知ってる限り、閉鎖的な生活を送ってて、自分も同じように嫁を捕まえたんだ。ブリティッシュのやり方を批判するべきじゃないんだよな、あいつはもっと卑劣なんだから。
レイはスマホを取り出して、ファラオの名前が画面に表示されたところで一瞬止まって、電話に出た。「ヴォルコフ」
俺は、銃声が聞こえるほど近くにいた。
パン。パン。パン。
ロシア語での叫び声と、別の聞き覚えのある言葉が聞こえてきた。
「クソッタレ!」ファラオはロシア語で罵ってから、「攻撃を受けてる!応援を送れ!」と叫んだ。
電話は切れた。
レイと俺は顔を見合わせた。俺の顔から血の気が引くのがわかったんだ。
間違いない。攻撃してきたやつらの声は、ブリティッシュだった。