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TOB 59
ローズ・アマラ POV
ドアが開いて、歯ぎしりしちゃった。あんな風にずかずか入ってくるやつって、エリートグループの誰かか、レイブンおじさんしかいないんだよね。じいちゃんは今日医者の予約があるから、選択肢は狭まる。
案の定、フォン・ハーデスがふらっと入ってきて、目は燃えるようにギラギラ、顔はいつもみたいにしかめっ面。マジかよ。いつかこうなると思ってたよ。
キースは彼を見て笑った。「ハーデス、久しぶりだな。」
「キース。」フォン・ハーデスは軽く頭を下げて返事した。まるで用事があるみたいで、世間話をする気分じゃないんだ。いつもそうだけど。
キースは笑みを浮かべたまま立ち上がって、ジャケットのボタンを留め、あたしと握手した。「また連絡するよ。」
「楽しみにしてる。」
あたしの手は、ちょっと長めに握られた。「行く前に、アドバイスしてもいいかな?」
「もちろん。」
「歴史は繰り返すものだから、よく見ておいた方がいいよ。」
そう言って、キースはあたしの手を離してオフィスを出て行った。
彼が後ろでドアを閉めたとき、フォン・ハーデスがあたしの顔に近づいてきた。「なんであいつを逃がしたんだよ?」
あたしは座って、冷たくなったコーヒーを飲み続けた。
「だって、役に立たないから。」
「役に立たない?役に立たないからって、記憶喪失のフリでもしたのかよ?」
「彼が持ってる情報、大したことなかったの。あたしたちにとって価値がないってわかった。」
「拷問してから決めることだろ。それに、あいつ何か隠してたんだから、死んでも当然だ。」
あいつ、敵多すぎ。もしチャンスがあれば、フォン・ハーデスはイーサンの顔を一番最初に撃ち抜くやつだよ。パクスタンも、ソーンも、ファラオもそうだろうな。
みんな、あいつがあんまり苦労しないで昇進したから気に入らなかったんだ。それにイーサンは、兄弟を陥れようとした罪で死刑になってもおかしくないんだけど、あたしはどうしてもできなかったし、他の誰にもさせたくなかった。
さっき聞いた、心臓が砕ける音が、まだ胸に響いてるみたい。午後中は無視しようとしてたんだけど、今は暗いところに丸まって、そこにずっといたかった。
「もう、放してあげて、フォン・ハーデス。」
「あんなクソ野郎、放すわけにはいかないよ。血で償ってもらわないと。」
「彼がまだあたしの夫だってこと、忘れたの?」
「だからって、手出しできないわけじゃない。」
「そうだけど、もしみんなに彼が裏切り者だってバレたら、あたしの立場が悪くなる。ファラオとソーンはもうあたしを陥れようと企んでるんだから、こんなチャンスあげたら、あたしの首、躊躇なく落とすでしょ。だから…お願い、見逃して。あたしのために、フォン・ハーデス。」
彼の唇が歪んで、きっと文句はいっぱいあるんだろうけど、あたしは彼が逆らえないカードを切った。それはあたし自身のこと。卑怯だけど、彼が同意する唯一の方法だった。それに、あたしの言ってること、嘘じゃないし。
「わかったよ。でも、もしあいつがまた現れたら、殺してやる。」
「もしまた現れたら、あたしがやる。」
フォン・ハーデスはあたしを信じてないみたいな、解読不能な視線をよこしたけど、それ以上は何も言わずに立ち去った。
あたしは仕事が遅くなって、ベラの様子をちらっと見てから、足の感覚がないまま部屋に向かった。ドアを開けると、最初に鼻をつくのは彼の独特な匂い。それが嫌いなんだ。彼の存在が、部屋の隅々に息づいてるのが嫌なんだ。
カジュアルに椅子にかけられたジャケットとか、彼が残した男らしい痕跡だけのことじゃない。あれは始まりにすぎなくて、この場所にあるもの全部が、彼を思い出させるんだ。あたしを後ろから忍び寄って、ベッドで抱き合うために持ち上げられるところを。
とか、あたしを後ろから抱きしめたり、悲鳴を上げるまで食べたりするところ。あるいは、誰が優位に立つか勝負するところ。あたしは負けるんだけど、ほとんどわざとで、そうすれば彼は乱暴にヤるから。あるいは、おもちゃをあたしの中に突っ込んで、彼のキラキラ光る目はあたしから離れないんだよね、だってあたしたち、そういうの好きだから。
結婚してそんなに経ってないけど、彼はあたしの人生に欠かせない存在になってたんだ。彼がいなくなって、どうやってこの破片を集めたらいいのかわからない。本当に記憶喪失だったら、もっと楽だったろうになあ。でも、本当にそうかな?
シャワーも浴びないで、着替えもしない。ドレスを脱ぎ捨てて、靴も蹴り飛ばして、下着姿でベッドに倒れ込んだ。クソみたいなシーツでさえ、彼の匂いがするんだ。清潔で男性的。彼の存在が完全に消え去るまで、そう長くはないだろう。それが一番いいのはわかってる。わかってるけど、涙が頬を伝って、目を閉じた。
ああ、痛い。そうなるはずじゃないのに、また心臓が砕けるのが聞こえるみたい。痛みが酷すぎて、息を呑んだ。まるで治らない酷い病気にかかったみたい。時間と共に良くなるって自分に言い聞かせようとしてるけど、7年前にその嘘を言ったことがあって、うまくいかなかったんだよね。
むしろ、中毒みたいに毎日彼のことを考えてた。それが嫌だった。あの頃の自分が嫌だった。なんでまた繰り返してるんだろう?
答えは見つからないけど、涙は出る。止まらないから、あたしは眠りに落ちた。目は濡れてて、心はズタズタ。
柔らかい指が、涙を拭って、それがあたしの体を伝ってきた。あたしは飛び起きて、目を見開いた。大きな影が、あたしの上に覆いかぶさってる。あたしは叫んだけど、彼の手がどんな音も出ないように口を塞いだ。彼の匂いが鼻に入ってきて、骨の髄まで染み込むから、そこで止まってしまった。
これは夢?それとも悪夢?両方かもしれない。
「まさか、あたしから逃げられると思ったのか、ローズ?」