73. 異なる意見
ヌルマンお父さんもムルシダも、娘のこと、マジで心配してたんだよね。それで、ある日の晩、ヌルマンお父さんがモスクから帰ってきてから、ザフラに電話したんだ。ザフラは、ヌルマンお父さんとお母さんの前に座った。もうこの時点で、お父さんが何を言いたいか、特にムルシダは察しがついてたと思う。
「ザフラ、うみとお父さんはただ、もう潮時だって言いたいんだ。一人暮らしも十分楽しんだでしょ。そろそろ、新しい生活のこと、真剣に考えなさい」
「うみ、それってどういうこと? うみはザフラに、出てけって言ってるの?」
「違うわよ。うみは、ザフラに、エサンとの結婚のこと、マジで考えてほしいの」 ザフラの顔、一気に険しくなった。またエサンか。今まで、ムルシダの前ではエサンの話は避けてたんだ。お母さんと喧嘩したくなかったから。
「遅かれ早かれ、好きでも嫌いでも、結婚生活には入らないといけないのよ、ザフラ。それが女の性分なんだから。子供を産んで、家系を継がないと」
「それだけ? うみの考えてることは、それだけ?」
「ザフラ、わがまま言わないで! 今まで、お父さんとお母さんは、あなたを理解しようとしてきたのよ。すごく、すごく理解しようとしてたの。あなたがその歳の子たちが、もう小学生や中学生の子供を育ててるのに、お父さんとお母さんは黙ってたでしょ? でも、今回は、私たちの話を聞いてちょうだい」
ザフラ、深呼吸。我慢しようと必死だった。こんな話、初めてじゃないから、驚くことじゃないんだけど。
「お父さんとうみが孫を考えてるなら、ザフラはまだ無理。でも、お父さんとうみがザフラの幸せを考えてるなら、ザフラは今、すごく幸せだよ。ザフラは、それが一番大事だと思ってる。ザフラは、この人生を、何も背負わずに、ありのままに生きてる」
「人間はペアで創造されたってこと、忘れちゃったの? 運命のレールを拒否しないで。エサンは何度も、あなたと結婚する準備はできてるって言ってるわよ!」
「ザフラはごめんなさい。今、ザフラはエサンとは結婚しないって決めたの」
ヌルマンお父さん、黙っちゃった。ムルシダはすぐに胸を押さえた。急に苦しくなったんだと思う。
「なんでエサンを断ったの?」 ムルシダの声、トーンダウン。
「うーん、縁がなかったってことにしとこうかな、うみ。ザフラが何もしてなかったって言わないでよね? うみ、ザフラが今までどんなことしてるか見てたでしょ? 毎日毎日、ザフラがあれやこれや、めちゃくちゃ頑張ってるのに、エサンはザフラが男の力が必要な時に、どこにいたの?」 ザフラはムルシダに問いかけた。ムルシダは、黙ってしまった。
「ザフラは、エサンのことを過小評価してるわけでもないし、彼の微妙な仕事のこと、大げさに言ってるわけでもないよ。まあ、それも問題かもしれないけど。ザフラはただ、心からザフラを愛してくれる人がほしいだけなの。お願いしなくても、言われなくても、お父さんがいつもうみの手を取ってくれるみたいに」
ザフラ、言葉を止めた。心の中で祈った。両親を小馬鹿にしてるみたいにならないように。ただ、両親に自分の考えを理解してほしいだけだった。
「お父さんはいつも、うみの身支度を整えるんだ。アブラージュ(沐浴)のたびに。お父さんは、物干し竿も持ってきて、うみの服を畳むんだ。うみの仕事だってわかってるのに。お父さんは、うみが何を作ってるか、絶対聞かない。うみの料理は全部食べる。お父さんは、自分の食器、自分の服、自分のズボン、全部自分でやるんだ。なんでかって? それは、お父さんがうみを心から愛してるからだよ。うみを困らせたくないんだ。うみが全部やってあげれば、報われるって知ってても、自分勝手じゃないんだ。これが、ザフラが言ってる心からの愛だよ、うみ。ザフラは、お父さんみたいな人に会えたら、結婚する」
ヌルマンお父さんとムルシダ、もう何も言えなかった。ザフラと喧嘩したくもなかったんだ。娘の考えてることって、そういうことなんだから。単純じゃないけど、その男性はすでにザフラの人生に現れてるんだ。
「うみは、ザフラがうみみたいに幸せになってほしいんでしょ?」 ムルシダは今回、感情を整理しながら、頷くことしかできなかった。父は娘の初恋。今まで、夫のザフラに対する態度は、過度なものではなかった。ヌルマンお父さんは、彼女が間違ったときにだけ叱った。でも、これがザフラに、こっそりお父さんみたいな夫を探させることになるとは。ムルシダにとって、新しい発見だった。
「だからザフラは我慢して、いつかアッラーがザフラの望む夫をくれるって信じてる。アッラーは、ザフラに必要なものを一番よく知ってるから」
「すべての男がお父さんみたいなわけじゃないぞ。それを基準にするな、ザフラ」 ヌルマンお父さん、割り込んできた。
「お父さんも、うみと間違ったことはあったんだ。お父さんは、お前が結婚相手を選ぶときのメッカになれるような、完璧な男じゃない」
「ううん。ザフラにとって、お父さんは世界で一番、我慢強い夫で、一番理解のあるお父さんだよ」
今までザフラは独身で、お父さんは一度もコメントしたり、ムルシダみたいに叱ったりしたことがない。ヌルマンお父さんは、娘の恋愛事情に干渉することもなかった。だからザフラは、すごく居心地が良くて、今35歳なんだ。
「それで、やっぱりエサンとは結婚したくないの?」 ムルシダは繰り返した。ザフラを説得する方法が、もうわからなかった。現実、ザフラの言ってることは本当だった。エサンは本当に近づこうともしなかったし、助けようともしなかった。もし彼が望めばできたはずなのに。
ザフラは、他の人を探さないといけなかった。そして、彼女の選択はダヤンだった。同僚として。このケータリングの仕事で、信頼できる配達員が必要だったから。
「ごめんね、うみ。ザフラは今回も、うみとお父さんをガッカリさせてしまった」 ザフラ、優しく言った。
ヌルマンお父さん、メガネを外して鼻の根元を擦った。これが一番恐れてたことだった。ザフラがエサンとの結婚を拒否したからではなく、ザフラの心が別の男に奪われたから。
「ザフラをいつも市場に連れて行く男は、ただの同僚ってわけじゃないみたいだな。ザフラが両親に自分の気持ちをこんなに冷静に話すことなんて、今までなかった。きっと、彼となにか関係があるんだろう」 ヌルマンお父さん、考えた。
「ザフラ、毎朝お前を迎えに来る男は誰だ?」 彼は尋ねた。
「ああ、ザフラが顧客への配達を信頼してるバイクタクシーの運転手だよ、お父さん。彼は優しくて、礼儀正しくて、勤勉で、信頼できるんだ。急ぎで必要な場合はすぐに来てくれるから、ザフラはオフラインのバイクタクシーを利用せざるを得ないんだ」
「昨日、お父さんが私に尋ねたのはこれだね。オフラインのバイクタクシーって、ベースのバイクタクシー運転手みたいなものでしょ?」
「そうだよ、うみ。最初は、ザフラはエサンを信頼してたんだ。でも、ガッカリした。お客様まで怒っちゃって、注文が届かなかったから。ザフラは、エサンみたいな男には頼れないんだ。もう一度、ザフラがお父さんとうみをガッカリさせてしまったらごめんなさい。ザフラは、結婚を拒否してるわけじゃないよ。ただ、その人に合わないだけ。お父さんとうみが理解してくれると嬉しい」
「でもザフラ、夫を持つ一番の目的は、配達を手伝ってもらうことじゃないんでしょ?」 ムルシダはまだ興味津々だった。娘の考えが間違ってる方向に行かないように、もしそうなら、彼女が正してあげたいんだ。
「うみじゃないけど、それだけでも、その人の責任感がわかるんだよ。仕事に対しても、家族に対しても」
ヌルマンお父さんとムルシダ、お互いを見た。彼らは今、新しい宿題をもらったんだ。エサンの家族に、エサンとザフラの結婚話は実現しないだろうって説明すること。