10。彼らの後ろで会おう
「オリビアちゃんのメイク、マジですごいね」
褒め言葉は、お客さんのひとりから発せられた。
メイク道具を片付けていたオリビアは、反射的に微笑んだ。 嬉しい気持ちが、すぐに心に広がった。
「ありがとうございます。嬉しいです」 オリビアは軽く頷いて答えた。「何か気に入らないところはありますか? 奥様」
上流階級の女性客は、自分の顔の左右をじっくりと確認した。何度も何度も。そして、大きく笑った。 彼女の目には満足げな輝きがあった。
「ううん、ないわ」 彼女はそう答えたので、オリビアはほっとした。「本当にメイクの腕がいいのね。もしあなたがやってくれなかったら、きっと気に入らないところがたくさんあったと思うわ」
オリビアはすぐに愛想笑いをした。「まあ、奥様。先輩たちは私なんかよりずっとずっと優秀です」 彼女はそう言ってニヤリとした。
女性客は唇をきゅっと引き締めて、首を横に振った。「そうかもしれないけど、あなたのサービスを受けたいの」
「ありがとうございます、奥様」
オリビアが気づかないうちに、2歩後ろにジェーンが立っていた。ジェーンは腕を組んで、皮肉な視線でオリビアを見ていた。
女性客の言葉は、偶然にもジェーンの耳に入っていた。ジェーンは、女性客の最後の言葉を聞いたとき、なぜか胸がチクリとした。このお客をオリビアに紹介したのは、明らかにジェーンなのに。
日を追うごとに、オリビアに対するジェーンの不満は薄れることはなかった。なぜいつもオリビアが注目されるんだ?この仕事を引き受けることが多いのは、ジェーンなのに。
苛立ちを感じながらも、ジェーンは自分の表情をいつものように保とうとした。無理やり笑顔を作ろうと、口角を動かしているように見えた。ジェーンはすぐに軽く咳払いをした。
「すみません、奥様、もう終わりましたか?」 ジェーンはオリビアの後ろから歩み寄り、軽くお辞儀をしながら顔を覗き込んだ。「わあ、すごく綺麗ですね」
女性客とオリビアは同時に、声のする方へ顔を向けた。すぐに笑顔を消して、敬意を払ってお辞儀をしたオリビアとは対照的に、女性客は席から立ち上がり、ジェーンと向き合って、嬉しそうに目を輝かせた。
「そうなの?」 女性客は自分の顔のいくつかの箇所を軽く触った。「もう綺麗なの?」
ジェーンは頷いた。彼女の笑顔は礼儀正しく弧を描いた。彼女の顔には温かさが漂っていた。
「どうして嘘をつくことができるでしょうか? 私たちの会長は美しいんですから」 ジェーンはそう言って、女性客をさらに喜ばせた。
ジェーンの言葉に答えず、女性客の視線はオリビアに移った。
「さっきも言ったけど、あなたのメイク、本当にすごいわね」 女性客は感動した様子で言った。
オリビアはただ大きく微笑みたかった。でも、オリビアはジェーンの顔を見た。ジェーンの顔には皮肉な表情が浮かんでいたので、オリビアの気持ちはすぐに萎縮した。
「きっと彼女みたいな先輩がいて、嬉しいんでしょうね」 女性客は、2人の間の状況を少しでもぎこちなくさせないように、冗談を言った。
オリビアは、ぎこちなく頷くことしかできなかった。時々、ジェーンをちらりと見ながら。残念ながら、女性客はジェーンがその瞬間、オリビアを睨んでいることに気づいていなかった。
オリビアは礼儀正しくお辞儀をして、「ありがとうございます、奥様。私も奥様のメイクをすることができて嬉しいです」と答えた。
「もちろん。あなたは私の、そして私のような人たちのメイクをするべきよ」 女性客は答えた。「今度、こんなイベントがあったら、私のメイクアップアーティストになってくれない?」
その質問を聞いたオリビアは、すぐにムッとした。ジェーンもそうだった。
オリビアが最初にしたのは、ジェーンをじっと見つめることだった。ジェーンはオリビアが嫌いらしい。そのせいで、オリビアはすぐに気まずく、答えにくくなった。
「あの…」 オリビアは、答えにくいと感じて、言葉を詰まらせた。「お選びいただきありがとうございますが…」
「もちろん、奥様」 オリビアが返事を終える前に、ジェーンが割り込んできた。彼女はジェーンに近づき、わざとオリビアの背中に腕を回した。
オリビアをちらりと見て、ジェーンは続けた。「オリビアは、会長をとても尊敬している後輩です。だから、私の許可を待っていたんです」
オリビアは、ジェーンがそばにいるのを感じて、少し気が進まなかった。ジェーンの言葉が出た後、オリビアはジェーンの手が自分の背中を掴んでいるのを感じた。その掴み方はかなり強かったので、オリビアは怯んだが、ゆっくりと普通に振る舞おうとした。
「なんでそんなにぎこちないの?」 ジェーンはオリビアの体を軽く揺さぶり、親友のように振る舞った。「組織の会長の頼みを断るのは失礼よ。そんなことしちゃだめよ、光栄なんだから」
オリビアのぎこちなさに不審を抱いていた女性客は、安堵して笑った。
「あらまあ。本当ね、会長の言うとおりよ、彼女の話を聞いてあげなさい。私の頼みを断らないでね」 女性客は冗談めかして言った。彼女は組織の会長で、楽しそうに笑っている様子だったので、オリビアは緊張した雰囲気が少し和らいだと感じた。
「このお願いを受けてもよろしいでしょうか?」 オリビアはジェーンに尋ねた。ジェーンが本当に許可してくれるのかどうかはわからなかった。
ジェーンは、オリビアが無邪気にそう尋ねたので、一瞬だけ目を見開いた。
「もちろん。なんで私が許可しないと思うの? 私があなたに、お客さんを受けちゃだめって言ったことある?」
ジェーンの顔の異変に気づいたオリビアは、ジェーンがただふりをしているだけだとわかった。ジェーンは、オリビアが承諾するべきだと、その表情で示唆した。
「あ、い…はい、会長。あなたのお願いを断ることはできません」 オリビアは気まずそうに笑って答えた。彼女はわざと嘘をついていた。「ジェーン会長はいつも、私がお客さんを受け入れるのを許可してくれるんです」
女性客は、くすくす笑いながら頷いた。彼女は2人の間に何か気まずさがあるとは気づいていないようだった。
「それはよかったわ。あなたたちは本当にうまくいってるわね」
オリビアは内心、悲しい気持ちになった。もしそうならいいのに、そう思ったオリビアは、無理やり笑顔を作らなければならなかった。
***
お昼休み。オリビアは、自分の働いている建物から数メートルのところにあるカフェに行くことにした。
「新しいプルコギのお肉メニュー、食べたい?」 オリビアの同僚であるレイバは、オリビアの肩に腕を回しながら尋ねた。
オリビアは頷き、目を輝かせた。「もう食べられるの?」
レイバは興奮して言った。「もちろんだよ。昨日新しいメニューが出たばっかりなんだ。今が試すのに最高のタイミングだよ」
「あ、そんなメニューが出たの知らなかった」 オリビアはそう言って、一瞬眉をひそめた。考えている。
「あのメニュー、食べに行こうよ!」
ちょうど今、オリビアは口を開いて、何かを言おうとしたが、オリビアの意図は中止された。オリビアは、携帯電話の通知音が鳴る音を偶然聞いたのだ。
オリビアの足が止まった。一方、レイバも足を止めた。
「どうしたの、オリビア?」 レイバが尋ねた。
オリビアはすぐに、自分の肩掛けバッグから携帯電話を取り出した。レイバに、少しの間静かにするように頼むようなジェスチャーをした。
「メッセージが来たの、ちょっと待ってて」
レイバは、画面を真剣に見ているオリビアを見ていた。一瞬、オリビアの目は輝いて見開かれた。
レイバにはわからないことだが、オリビアは誰かからのメッセージを読んでいたのだ。
[アクセル:ちょっと会えない?オリビア。どこにいるか教えるよ]