第16章
うわ、びっくり。 シェリダン が ソーヤー をビンタしたって? マジで信じらんない。 シェリダン っていつも優しくて、我慢強いじゃん。 ソーヤー をビンタしたってことは、相当キレてたってことだよ!
「あいつ、ビンタしたの!? ふざけんな! あいつに目にもの見せてやる!」
やばい。 シェリダン 、どんだけツラい目に遭うんだろう? ママ が油断してたら、死んじゃうよ。 そう思ったら鳥肌が止まらなくて、また涙が頬を伝ってきた。
「無理だよ。」 ロブ の言葉に、なんで?って思った。 泣くのやめて、真剣に聞いた。
「なんで??」
「逃げたんだよ。」
言葉が頭の中でこだまして、まるで夢みたい。 シェリダン が逃げた? 口がポカーンって開いちゃった。
「マジで!? なんで??」
「逃げたんだよ。」
「聞こえてるよ、バカ! でも、どうやって!?」
「馬がいなくなってるのに気づいたんだ。 白い馬に乗ってったんだよ。」
ダブ だ!
「あんなクソガキ、見つけなきゃ!」
「心配すんなよ、 クリスティーナ 。」
「なんで!?」
「あいつの地元は、ここから3、4時間くらいの場所だろ。 絶対無理だよ。 しかも、馬に見捨てられて、餓死するだろうし。」
「なんでそんなに確信できるの?」
「ほとんどメシ食わせてないんだから。 弱ってるし。それに、ケガだらけだろ。 いい状態じゃないんだよ、 クリスティーナ 。 すぐ迷子になるよ。 あいつを始末したいんだろ? ほら、自然が助けてくれたじゃん。」
「ふーん。 確かにそうね。 あのクソガキが野生動物に食われればいいのに。」
ママ がそんなひどいこと言ったけど、あたしはまだ シェリダン を信じてた。 あいつは弱くない。 強いんだ。 あんなにひどい扱い受けて、メシもろくに食えなかったのに、倒れることもなく、一度もサボらなかった。 あいつなら、きっとあそこで生き残って、あたしのとこに戻ってくるってわかってた。
その時、誰かがドアを開けた。 ママ だ。
「話聞いてたんでしょ。 あなたの友達が逃げたわよ。 嬉しい?」って、冷たく言った。
あたしは何も言わず、 ママ を見た。
「部屋に行きなさい。 もう1時よ。」
あたしは ママ を追い越して、自分の部屋に直行した。
***
シェリダン の視点:
鳥のさえずりと、明るい朝日に起こされた。 目をこすって起き上がった。
「いて。」 って、背中を触った。 森の地面で寝てたんだ。 枯れ葉と小さい石ころの上で、木の下で。
周りの森を見て、ニヤッとした。 逃げ切ったんだ。 ダブ を見た。 木の幹に繋いである。
あたしは立ち上がって、あいつのところに向かって歩いた。 体中がまだ痛い。 靴も履いてないし、Tシャツは破けてるし、短パンはすっごい汚いし。 髪の毛もボサボサ。 ドロドロなんだ。 アザだらけで、ケガだらけ。 体のほとんどが赤、黒、青。 足の裏にもケガしてる。 それだけじゃなくて、 ロブ にマジギレされて、ベルトの重い鉄の部分でひざを思いっきり殴られたんだ。 多分、ちょっと外れちゃってて、今は足を引きずってる。
「よお、ベイビー。」 って、馬のたてがみを撫でながら言った。 「旅はここまでみたいだな。 この森で生き残るために戦わなきゃならない。 しかも、お前のことまで守れるほど強くないし。」
あたしは足を引きずりながら、あいつを繋いである幹のところまで行った。
「もう家に帰れよ。 帰り方はわかるよな。 助けてくれてありがとう。」 馬を抱きしめた。 「家に帰れ。 ヘザー のこと、よろしくな。 あたしは…あたしは、また来るから。」 って、ニヤッとした。
「そうだといいけど。 自分でも生き残れるかどうかわからないんだよな。 でも、ネガティブになるのはやめよう。 神様と お父さん と ケネスおじさん が見守ってくれてるから。 バイバイ。」 ダブ をもう一度強く抱きしめた。 ロープを放して、馬が可能な限り速くギャロップしていくのを見てた。
馬が森の中に消えてしまったとき、あたしは振り返って、反対方向に歩き始めた。 洞窟か、どこか泊まれる場所を見つけなきゃならないんだ。 この森で迷子になっちゃったけど、気にしない。 クリスティーナおばさん の家よりはマシだ。
あたしにとって、逃げられたことは人生最大のラッキーだった。 もし捕まってたら、たぶん死んでたかもしれない。
ヘザー の視点:
あたしは次の日の朝、沈んでて静かだった。 ソーヤー がやっと起きて、 ママ は シェリダン が逃げたことにすごく満足してた。 ママ は、あたしがどうにかして死んでくれって祈ってたから。 ママ がすっごい怖くなった。 全然違う人に見えたんだ。
朝ごはんを食べてた時、突然、 従業員 が入ってきた。
「奥様?」
「ええ、何?」
「盗まれた馬が、牧場に走って帰ってきました。 厩舎に戻しました。」
ママ はニヤッとした。 なんでかわかった。 ダブ が シェリダン を見捨てたって思ってるんだ。
「ありがとう。」
従業員 は出て行った。
あたしは知ってる。 シェリダン は、きっと ダブ を家に帰したんだ。 あいつのこと、面倒見きれないから。 どこにいるかわかんないけど。 死んでない。 危険な目に遭ってない。 違う。
***
シェリダン の視点:
ずいぶん長い間、森の中を歩き回って、洞窟とか、避難できる場所が見つからなかった。 足も痛いし、体も痛い。 疲れた。
あたしは木の根元に座り込んで、泣き始めた。 これから、どうなるんだろう。
30分くらい休んで、諦めるのは無駄だって結論に至って、立ち上がって探し続けた。
午後5時頃、森の中で泉を見つけた時は、すっごく嬉しかった! 考えることもなく、泉に走って行って、ひざまずいて、できるだけたくさん水を飲んだ。 きれいな水が見つかってよかった。 一日中、ケガした足と外れたひざで歩いたから。 エネルギーが必要だった。 満足いくまで飲んだ。
きれいな水の味を堪能してたら、雷が聞こえた。 飲むのやめて、空を見上げた。 黒い雲が広がり始めてるのが見える。 豪雨が来るんだ! 場所を見つけなきゃ! 早く!