Chapter 122: キンスリー
数日後、ダリルはなんだか落ち着いた感じだった。
トリクシーは仕事に行き、キンスリーを時間通りに迎えに行き、送り迎えもきちんとこなすようになった。前よりもずっとマメになったよね。
時々トリクシーは早く会社に着いて、ダリルの会社の前で待って、一緒にキンスリーを迎えに行ったりもした。
エリンとは何度か偶然会っただけ。以前のあの威勢の良さはどこへやら、弱々しくて覇気がないんだ。
トリクシーは、フランクが離婚届にサインさせたんだって思ってた。
でも、よく考えたらフランクの家のこと考えたら、たとえフランクが先に離婚を言い出したとしても、エリンは何ももらえないんじゃないかな。
会社の噂によると、フランクの両親はエリンのこと全然気に入ってなかったらしいけど、フランクは無理やり結婚した。だから、二人は渋々承諾したんだって。
結婚したのは籍を入れただけで、結婚式も挙げなかった。だから、結婚してから離婚するまで、ほとんどの人が知らなかったんだよね。
フランクがエリンと離婚しようとした時、両親がすごく喜んでたって聞いた。エリンがサインしないってわかってたから、200万元でサインを買おうとしたらしい。
もちろん、エリンは断ったみたいだけどね。
普通の離婚の手続きだったら、エリンは結構な額を分けることができたはずなのに、結局何も言い争うことなくサインしちゃったんだよね。
エリンに何があったのか、誰にもわからないけど。
トリクシーも噂好きじゃないから、エリンに会うたびに挨拶するくらいで、あんまり深くは聞かなかった。
だって、エリンに聞いてもきっと教えてくれないだろうから、そんな無駄なこと聞く必要ないしね。
金曜日の午後の仕事が終わってから、トリクシーはいつものようにダリルの会社に行った。
入るとすぐにエディソンが来て、笑顔で挨拶してきた。
「トリクシー・アルバート・ブレイデンさん、ダリルさんは今、会議に行かれました。」
「じゃあ、彼のオフィスで待ってるわ。」
「かしこまりました。」
トリクシーは足を踏み入れ、エレベーターの方向に歩き始めた。エレベーターのドアが開いた瞬間、中にはダリルが立っていて、エリンも一緒だった。
二人は話して笑っていたけど、トリクシーに気づいたダリルは明らかに一瞬止まって、それから笑顔でエレベーターから出てきた。
「今日はなんでこんなに早く仕事が終わったの、ハニー?」
「全部終わらせてから、早く出たの。」トリクシーはそう言って、ダリルの後ろのエリンを見上げた。
トリクシーの視線を感じたエリンは、無意識に頭を下げたけど、顔の赤みが消えないのがトリクシーの目に留まったんだ。
「この二人、さっきエレベーターの中で何してたんだろう?」トリクシーは、一緒にいるのにそう思わずにはいられなかった。
トリクシーの視線がエリンに注がれていることに気づいたダリルは、笑顔でトリクシーの手を掴んで、急いで引っ張った。
「ちょうど会議が終わったところで、しばらく時間があるんだ。一緒に買い物に行かないか?」
トリクシーと歩きながら、ダリルは後ろを振り返ってエリンに言った。「会議の議事録は、後で僕の机に置いておいて。」
「大丈夫ですよ、ボス。奥様とショッピングに行ってください。」
エリンはトリクシーに微笑んだけど、トリクシーはなんだか罪悪感を感じた。
車の中で、トリクシーはあれこれ考えすぎて、何かおかしいと感じた。
さっきエディソンは、ダリルはちょうど会議に入ったって言ったのに、会社に入るまでほんの数分しか経ってない。
どういう会議なら、あんなに早く終わるんだろう?
それに、エリンと話して笑って、一緒にエレベーターに乗ってたけど、会議で何があったらあんなに楽しく笑えるんだろう?業績報告?
トリクシーは考え込んでいて、もうすぐ爆発しそうになった時、不意に携帯電話が地面に落ちた。
トリクシーはそれを拾おうと身をかがめると、下にいくつか開封済みのDurexと、二つの包装袋が落ちているのが見えた。
トリクシーは一瞬で固まった。
トリクシーとダリルはいつも岡本を使っていた。ジェッサは岡本が使いやすいって言ってたし、トリクシーが以前ジェッサに持ってきてもらった箱は、まだ家に置いてあって、ほとんど使ってない。
車の中にDurexがあったんだから、トリクシーはもう他の女が車で何かしたに違いないって思った。
この車はダリルの仕事用の車で、普段はダリルは使わないけど、時々部下が運転したりする。
だから、プライベートで使うのもよくあることで、ダリルもトリクシーも見て見ぬふりをしてたんだ。
でも、今回は違った。
ダリルの車から女の物が見つかったのは、これが初めてじゃないんだから。
最初は下着で、二度目は謎の液体、そして三度目がDurex。
トリクシーは、ダリルが他の女と車で何かしてないなんて思わないけど、あのDurexがダリルが使ったものだって直接証明する証拠はない。
その時、トリクシーの心は不安でいっぱいだった。
「ハニー、どのデパートに行こうか?前によく行ってたのはどこだっけ?エルメスのバッグを一つ選んでたよね、見に行かない?」
「うーん。」
トリクシーはダリルの言葉に耳を傾けず、ただダリルが後ろめたいことしてるんだと思った。
だって、ダリルとエリンが一緒にエレベーターから出てくるのを見たから、何か隠してるんじゃないかって準備してたんだもん。
車を降りてからも、トリク��ーは上の空だった。ダリルと一緒にデパートに入り、エルメスのカウンターに直行した。
以前に選んだことがあって、買うのを躊躇してたバッグを適当に選んだ。
23万円っていうのは、安めのバッグの値段だ。
前は高いと思って買いたくなかったのに、今日はエレベーターでの出来事を見て腹が立ったから、あっさりとダリルのカードを切ったんだよね。
でも、ダリルのカードには限度額があったみたいで、エディソンに電話して、別のカードを送ってもらった。
トリクシーは静かに座って、店員が買ったものを包装するのを見てたけど、その間お金のことについて何も聞かなかった。
トリクシーの目はダリルに釘付けで、彼の心を見透かそうとしてるみたいだった。
しばらくして、エディソンが慌ててやってきて、ダリルにカードを渡した。
カードを切った後、店員はトリクシーが買ったバッグの付属品を整理してくれた。
その時、ダリルの携帯電話が突然鳴った。ダリルはちらっと見て、会社で緊急の用事があるからってトリクシーに言って、電話に出て、階段に向かったんだよね。
トリクシーはその後ろ姿を見て、何か簡単には済ませられないって感じた。
エディソンに待機してもらい、バッグを持たせて、自分はトイレに行くって言って、ダリルとは反対方向に歩き始めた。
トリクシーは、エディソンがダリルに密告するかもしれないって心配してたから、トイレを迂回して、ダリルをこっそり追いかけ、階段に立ったんだ。
トリクシーは、セキュリティドアのそばでじっと立って、壁に寄り添いながら、ダリルが誰と話してるのか聞こうとした。
でも、ダリルは声を低くしていたから、トリクシーには全然聞こえなかった。なんとなく、誰かと口論してるみたいで、すごく怒ってる声だけはわかった。
本当に会社の事なんだろうか?
トリクシーの印象では、ダリルは滅多に怒らないし、たとえ怒っても家では絶対怒らないで、ほとんど会社で仕事のことで揉めてる時に怒るくらいだった。
それに、あんなにイライラしてるのは、ほとんど見たことない。
トリクシーも昔、ダリルのこと「大きな犬みたい」って言ったことがあったけど、叩かれても文句言わないし、怒られても言い返さないんだもん。
突然、ダリルの声がものすごく荒々しくなった。トリクシーが意識を取り戻す前に、ものすごく鋭い声で、
「もしキンスリーのことをトリクシーに知られたくなかったら、さっさと出ていけ!」