第51章
あたしの答えを聞いて、ルーカスの目がカッと見開いたのが見えた。でも、そこにフェリシティが近づいてきたせいで、そっちに気がいっちゃったみたい。あいつは、ちょうどいいタイミングであたしをあの場から連れ出してくれたんだよね。ルーカスは、あたしの親友があたしたちに近づいてきたのが気に入らなかったらしくて、すっごい睨んでたし。
ルーカスはフェリシティの頭からつま先までじっくり観察してた。ただ見てるだけじゃなくて、なんでここにいるんだ?みたいな感じで睨みつけてたんだよね。それとも、あたしの親友があいつだってことに混乱してるのかも。だって、あいつってゲイだって知ってるはずなのに。
だってさ、正直、あの日メイクしてなかったら、誰が見てもストレートだって思うだろうし。派手なハンドバッグは車に置きっぱなしで、まるで本当に殴り込みに来た男みたいだったし。
ルーカスは満足そうにニヤリとした。椅子に背中を預けて、フェリシティを値踏みするように見てる。「エリー、お前があたしに戻ってこれなかったのは、あいつのせいか?」
あの言い方は、本当にムカついた。あたしは、あいつが目の前にいるのが誰だか知ってるってわかってたし、あたしがやった平手打ちの代わりに、みんなの前であいつを辱めたいんだと思った。
親友をかばうために何か言おうとしたんだけど、フェリシティが先に話し出しちゃったんだよね。で、一番驚いたのは、あいつが声を変えて、男っぽい声にしたこと。双子のフェリックスと同じなんだ。
「それが正解だったら、どうする?」ってフェリシティがルーカスに聞いたら、ルーカスは急に大声で笑い出した狂人みたいだった。
周りでヒソヒソ話が聞こえ始めて、これはヤバいって思ったから、フェリシティの腕を掴んだ。「もう行こう」
ルーカスの顔が真剣になった。立ち上がって、フェリシティに近づきながら「そうなのか?」って聞いてきた。
二人の顔がすごく近くて、二人とも背が高いから、目線が同じ高さだったんだよね。
「なんで? 正解だったら、恥ずかしいのか?」ってフェリシティが言い返した。
ルーカスは短い笑い声を上げて、周りを見回した。「やめろよ。お前のタイプは知ってるよ」って言って、あたしはフェリシティの腕をきつく掴んで、時間の無駄だって合図したんだけど、あいつは全然動こうとしない。
もう本当に心配になってきた。
「あたしがゲイだからって、そんなにジャッジするわけ?」ってフェリシティが強い口調で聞いたんだけど、あたしには、ただの質問じゃなくて、もっと深い意味があるように聞こえた。
「家に帰ろう」って、ルーカスに聞こえるように頼んだら、あいつはあたしをギロリと睨んできた。
「本当なの? このゲイが、お前の新しい人? あいつ、お前と同じ家に住んでるんだろ。二人で同じ部屋で寝て、隣で寝たりもしてるのか?」ってルーカスの声が震えてるのがわかった。
あの時のあいつの目には、痛みが感じられた。まさか、あたしの言葉をあんな風に解釈するとは思わなかったよ。
「う、うちは——」
「そうだよ!」ってフェリシティが遮ったんだ。あたしの答えを許さなくて、さらに悪い状況にしてしまった。「
同じ家に住んでるし、一緒に何しようと、もうお前の知ったことじゃないんだよ、ルーカス!」ってフェリシティが付け加えた。
フェリシティはもう、あいつの口調を隠せなかったけど、あたしの耳には、あの声は男っぽくて、すごく威圧的に聞こえた。
「黙れ! あたしはあいつに聞いてるんだ!」って、ルーカスが突然叫んだのにびっくりしたけど、もっとびっくりしたのは、フェリシティがあたしを後ろに引っ張ったこと。
あたしを、今や激怒している元夫から隠そうとしてくれたんだ。正直、あいつの後ろにいる方が安全だって感じた。あいつはまだあたしの手首を離さないで、その手のひらの温かさで、あたしの心は落ち着いた。まるで、ものすごく怒ったドラゴンが、あたしたちを焼き尽くすような怒りを燃やしてるのに。
「どけ!」ってルーカスが叫んだ。フェリシティを押したけど、あたしの親友を動かすほどの力はなかった。
「もしどかなかったら?」ってフェリシティが挑発した。声の調子から、あいつはもう楽しんでるってわかったけど、そんな場合じゃないんだよ。ルーカスが突然キレて、物を壊し始めたら、大変なことになるかもしれないし。
『まあ、あいつなら金で払えるだろうけどさ。もしフェリシティが傷つけられたら?』
「クソったれ、あいつに答えさせろ!」ってルーカスはもう一度フェリシティを押したけど、最初と同じで、うまくいかなかった。
もう、逃げるしかないってわかってた。フェリシティを引っ張ろうとしたけど、できなかった。あいつは、殴ってくるかもしれない男と向き合っていて、レストランのお客さんたちがみんなあたしたちを見てるから、どんどん恥ずかしくなってきた。
「これはエリーとあたしの間のことなんだから、どけ」
「あたしからすれば、これはあたしたち三人の間のことだ。もし一緒に寝てるってことは、あたしもこの一部ってことだろ。だから、あたしたち三人のことだろ?」ってフェリシティが言い返した。
もうどうしたらいいのかわからなくなった。わかったのは、二人が言葉を交わし続ければ、もっとこの場所に閉じ込められるってことだけ。
「エリー、あたしの質問に答えて!」ってルーカスが呼んだけど、あたしは答えなかった。
「す、すみません、もし何か問題があれば。お客様にご迷惑をおかけしています」って、女性の声が聞こえてきた。
やっと誰かが止めに入ってくれたんだ。
「ここで解決するつもりです、奥さん。もし何か損害が出たら、全部払いますから、心配しないでください」って、ルーカスは傲慢な態度で言った。フィリピンでよくあることだけど、金さえあれば何でも買えるって思ってるんだよね。
別の人が現れたことで、心を落ち着かせようとしたんだけど、フェリシティはまだ終わってなかったんだ。
「そうだね、心配しないで。全部払うよ」って言って、さらにこう付け加えた。「もしあたしの性別が気に入らないなら、お前の親に言って、お前の欠陥を直してもらえ。あたしは内も外もゲイかもしれないけど、少なくとも男らしさはあるから」
そのあと、沈黙が訪れた。あたしは顔を上げて、フェリシティがルーカスに近づいていくのを見て、何やら耳打ちしてるみたいだった。
まだ聞いてないけど、何であれ、ルーカスは固まって、やっと、平和にここを去るチャンスができたんだ。
車の中で二人きりになって、走り出した時に、やっと我に返った。「何て言ったの、バクラ?あたしは興味津々で尋ねた。
あいつは答えなくて、道路に視線を固定したまま、何も聞いてないような顔をしてた。
「あいつを怒らせたみたいだね。また戻ってくるのが怖くないの?」ってあたしは続けたけど、やっぱり答えはなかった。
聞こえてるってわかってたよ。ただ話したくなかっただけなんだ。でも、ルーカスがあいつに何をするのか心配だったから、ルーカスが誰かに金を払って、あいつが今まで築き上げてきたものを台無しにすることだって簡単にできるんだってことを、わからせようとしたんだ。
「あいつが聞くべきことを言っただけだよ、ガール」って、いつもの甲高い声に戻った。あたしを一瞥して、すごくイライラした様子で、あたしに目をむけた。
「きっとあいつは、あたしたちが一緒に寝たりすると、何かしてるって思ってるんだろうな。それで、お前はあたしたちの関係を認めたことになったわけだし。怖くないの?」
「なんで怖がる必要がある? お前の元旦那は臆病者だよ、ガール」って、共感するように答えた。
あたしは顔をしかめた。もう、あいつに説明する言葉が見つからなかったんだ。あたしを助けたことで、あいつが全てを失うことになるかもしれないのに。「あたしはあいつが何をするのか知ってるから、お前に何が起きるか心配なんだ」ってあたしは答えた。
「大丈夫だよ、心配しないで。あいつは、ダイアンにずいぶん長い間脅迫されてたんだから。あいつは、ダイアンにああやって使われるままだった。それだけでも、どれだけ臆病者か分かるでしょ?」って言うのを耳にして、あたしは衝撃を受けた。
あいつの顔には笑顔が浮かんでて、すごく自信があるってことだった。でも、それはルーカスが言ってたことなんだから、あたしはまだあいつに話してなかったのに、なんで知ってるの?
「どうやってダイアンがルーカスを脅迫してたって知ったの?」あたしは、あいつの唇の笑顔が消えるのを見た。あいつの目が何度か瞬きして、あたしの質問に答えた。
「お、お前が教えてくれたんじゃないの?」って、どもってて、あたしはあいつがルーカスから聞いたこと以上に知ってるって結論づけた。
「教えてないわ」って、あたしはきっぱり答えた。「どこでそんな情報を手に入れたの? 誰があなたにそれを言ったの?」
車のスピードが上がった。フェリシティは緊張してた。あたしは、あいつが不意をつかれたってわかってたけど、答えが必要だった。
「質問に答えて、バクラ! 誰がそんなこと言ったんだよ?」ってあたしは叫んだ。
「お、落ち着いて、叫ばないで。キンティンから聞いたんだ」って答えたけど、あたしは納得できなかった。
あいつはあたしの方を向いて、あたしの顔を見て、全部話すべきだって思ったみたい。ルーカスとキンティンは、ルーカスがこの国に飛んでくる数日前に話をしたんだって知った。あいつは、あたしの元夫が、あたしに会うように頼みたいって言ってるって、知ってたって認めたんだ。
あたしは傷ついた。あたしをハメたみたいだったから。
「思ってるようなことじゃないんだ」ってフェリシティが言った。あたしが黙った後だった。「お前の役に立てると思ったんだ。あたしは、お前があいつをどれだけ愛してたか知ってたし、キンティンを通してあいつの話を聞いて、もう一度チャンスを与えるべきだって思ったんだ。本当に心を打たれたんだ」って、しばらくしてから続けた。
「全然役に立ってないじゃない!」ってあたしは叫んだ。胸の重さが一気にきて、フェリシティとキンティンがやったことにすごく失望して、あたしの目から涙が溢れてきた。
「おい、ガール…泣かないで、お願いだよ」ってあいつは頼んだけど、それがさらにあたしを刺激して、すごく傷ついた子供みたいに大声で泣いてしまった。車のドアを開けようとしたけど、ロックされてた。
「開けて!」ってあたしは怒って命令したけど、あいつは聞かなかった。
「お前はまだ火傷が治ったばっかりなんだ。もしこの動いてる車から飛び降りたら、顔は整形手術が必要になるだろうよ」って、あたしをからかうように冗談を言ってることに、信じられなかった。
あたしは飛び降りるつもりだったけど、あいつの言う通りだし、あのウザいダイアンみたいになりたくなかったんだよね。あのダイアンは、自分がなりたい姿になるために、何度も整形手術を繰り返してるんだから。
あたしは無力だって感じた。両手で顔を覆って、あのシートの上で泣いて、一瞬、あいつや、あたしの気持ちを傷つけた人たちから離れた。
「他に知っておくべきことがあるんだ」ってフェリシティが言ったけど、もう興味なかった。あいつが何を言っても、あたしを傷つけるだけだって感じたから。
「あいつはお前に嘘をついてたんだ、ガール。お前の不妊について嘘をついてたんだ」って、あいつは言った。あたしは一瞬で顔を上げて、口から出ていたすすり泣きが止まった。
「な、何て言ったの?」って、あたしは繰り返すように言った。
「お前が問題じゃなかったんだ。問題はあいつなんだ。あいつはインポテンツなんだ、お前じゃない」って、あいつは明かした。