第55章 青い丸い石
「あー、やっぱさ、この前までの従業員って、ただの様子見だったんだよね。マジメすぎると、なんか気まずいっていうかさ」
「でもさ、リストラしたのはメーガンだろ? 今、私が雇ったんだから、応援してくれるべきじゃん」 サラ・デイビスは、そういうの、あんまり深く考えてなかった。
ジェイコブ・スミスは、しょうがねーなって感じで首を横に振った。「サラ、それは違う。勝った方にしかつかないもんだよ」
ジェイコブの真剣な分析に、サラ・デイビスは感心せざるを得なかった。自分に足りない、ジェイコブの観察眼。
「ジェイコブって、なんでそんなに優秀なの?」
めっちゃ色々知ってるし。
会社に入ってからも、アシュリー・アーロンはいないし、第一事業部の連中は、まるで砂みたいにバラバラ。
なんか、アシュリーがサラ・デイビスにやられたってのは、みんな信じてるっぽい。サラ・デイビスを見る目が、ちょっと偉そうで、ちょっと遠慮がち。
サラ・デイビスは無表情でオフィスに入った。
コンコン、ってノックがあって、エミリーがサインする書類を差し出した。「サラ社長、30周年記念のパーティー、どこでやるんですか?」
「クルーズ」サラ・デイビスは、引き出しからカードを取り出した。「この人に連絡して、サラが会場予約したって伝えて。あとは、彼が勝手にやってくれるから」
「はい」
エミリーはカードを受け取り、続けた。「あと、第一事業部の副部長が、アシュリーさんはいないって。IBMの連中から、データに何か問題があって、再編成しないといけないって電話がありました」
「アシュリーさんの下の副部長が、自分でやればいいんじゃないの?」 サラ・デイビスは眉をひそめた。
エミリーは、どうしたらいいか分からず、黙っていた。
サラ・デイビスは、ため息をついた。「副部長にやらせなさい。部長がいないなら、副部長がやるべき」
エミリーは指示を受け、オフィスを出た。
サラ・デイビスは、机の上の書類を見て、少し考え、オフィスを出ることにした。
彼女はジェイコブ・スミスの席の前に立ち、軽く机を叩いた。「ちょっと来て」
ジェイコブ・スミスは立ち上がった。
二人が遠ざかっていくのを見て、さっきまで真面目に仕事してた同僚たちが、すぐさま輪を作った。
「サラさんって、最近ジェイコブ・スミスとばっか一緒にいるよね」
「だって、ジェイコブが助けたんだし。なんか罪悪感みたいなの、あるんじゃないの?」
「でもさー、サラさんはジェイコブのこと、なんか特別扱いしてる気がするんだけど、具体的にどう違うのかは、よく分かんないんだよね」
エミリーは、お湯を注いでいた。この話を聞いて、熱湯が手の甲にかかって、ちょっと熱い。
会社を出てから、サラ・デイビスはジェイコブ・スミスを連れて、アシュリー・アーロンの家に向かった。
「車で待ってて」
サラ・デイビスは車から降り、トランクから二つの袋を取り出した。
ピンポーン、ってチャイムを鳴らすと、サラ・デイビスだって分かった執事は、奥さんに報告する準備をした。
「新しい人?」
部屋にいたメーガンは、サラ・デイビスの声を聞いて、冷たく言った。「入れなさい」
サラ・デイビスは入ってきて、笑顔を見せた。「何日か帰ってなかったら、お母様ったら、この家の使用人全部入れ替えちゃったみたい」
「何持ってきたの?」 メーガンは、入ってきたサラ・デイビスの手の袋に気がついた。
サラ・デイビスは、袋をテーブルに置いた。「お母様と妹に、サプリメント持ってきたの。そんな高くないよ。だって、うちの会社、今、資金繰り大変だし、Bラウンドの資金調達とかもあるし」
メーガンの表情は変わらない。彼女は、サラ・デイビスのことさえ見てない感じ。声は攻撃的。「よくもまあ、そんなことできるわね。今やあんたが監督権持ってるんだから、他に何がしたいの?」
サラ・デイビスを警察に突き出さないために、管理権を与えてなかったら、こんなことにはなってなかったのに。
サラ・デイビスは言った。「お母様、何言ってるの? 朝から、妹が殴られたっていう噂が会社中に広がってるのよ。私が、お見舞いに来ないわけにはいかないでしょ?」
そう言いながら、サラ・デイビスはわざとメーガンの表情を観察した。メーガンは少し驚いた顔をした。
どうやら、朝の噂は本当らしい。
「あんたの妹は、昨夜酔っぱらって何かしただけよ。誰が噂を流したの?」 メーガンは、急に嫌な予感がした。
この予感は、右まぶたがピクピクしたときに、突然やってきた。
アシュリー・アーロンは、二階から降りてきた。外に出るのが怖かったから。
サラ・デイビスがリビングにいるのを見て、アシュリー・アーロンは、とっさに二階に戻ろうとしたけど、サラ・デイビスに見つかってしまった。
目の周りはアザだらけ、顔は色んなとこ腫れてるし、鼻にはまだ医療用の絆創膏が貼ってある。
「姉さん、変な美容整形外科とか行っちゃダメだよ。病院に行った方がいいよ。私、割引してくれる医者知ってるから」
「私に助けてほしいとでも?」
アシュリー・アーロンは、いつでも警戒心バリバリ。
昨夜、地獄みたいに冷酷な男に殴られたこと、決して忘れてない。
あの男は言ったんだ。「またサラ・デイビスを怒らせたら、あんたが殴られた動画を、公共のメディアに公開する」って。
今考えても、マジで怖かった。
サラ・デイビスのせいで、今、外にも出られないし、美容整形も何度も失敗してる。
「もう時間がないの。私、見ないといけない書類がいっぱいあるの」 サラ・デイビスは、勝ち誇った感じで言った。「今日は、来月初めから30周年記念パーティーの準備を始めてって、あなたに伝えに来たの」
それから、くるっと踵を返して出て行こうとした。
ドアのところにいる男を見て、少し驚いた顔をした。
「サラさん、携帯を車に置きっぱなしでしたね。電話がかかってきてますよ」 ジェイコブ・スミスは、ずっとドアのところで待っていて、携帯を渡した。
「ありがとう」 サラ・デイビスは携帯を受け取り、かけ直した。
一方、メーガンは男の姿に気づき、彼を見た。
突然、彼女は青い丸い石を見つけた。よく見ようとしたときには、男は視界から消えていた。
サラ・デイビスは、急いで帰らずに、別荘の裏庭に向かった。
彼女は手すりのところに立って、しばらく待っていた。台所のドアから、おばあさんが出てきた。
サラ・デイビスは身を乗り出し、ポケットから小さな紙袋を取り出し、彼女に渡した。
「アレクシス、色々ありがとうね。気をつけて」
「心配しないで。あなたも気をつけてね」
帰りの車の中で、サラ・デイビスは少しリラックスした様子だった。
ジェイコブ・スミスは理由が分からず、尋ねた。「サラさん、さっきのおばあさんと、すごく親しそうでしたね?」
サラ・デイビスは否定しなかった。「デイビス家に一番長くいるの。誠実で忠実だから、メーガンも彼女を置いてるのよ」
これも、彼女にとっては都合が良かった。「私が彼女にあげたもの、気になる?」
隣の男は「はい」と言った。
サラ・デイビスは、アシュリー・アーロンを特殊な薬で醜くしたという事実を、もはや隠さなかった。
そう言った後、ジェイコブ・スミスが彼女のことを悪いやつだって思わないか、ちょっと心配になった。
「私が、意地悪だって思う?」