60- 目的地
「ボクはさ、彼の特別な存在になりたかったんだ。世の中の全部の欲よりも大切になりたくて、どうすればいいのか分かんなかったんだけど、でも、そうなれたんだ」
「マジでやんの?」 ルーベンがセバスチャンを上から下までじっくり見て、問いかけた。セバスチャンは無表情だった。
「冗談に聞こえるか、相棒?」 セバスチャンは片眉を上げて、彼をからかった。
「お前が更生するなんて、いつからだ?」 ルーベンは呆れたように言って、目を回し、しかめっ面をした。
「なんでだめなんだ?」 セバスチャンは厳しい口調で、彼の言葉に不快感を示した。
「結局、彼女はただの獲物だろ」 ルーベンは核心をついた。これまで私が彼にとってただの獲物だったことを思い出させたんだ。
「言葉に気をつけろ、ルーベン。それは俺の妻のことだ」 セバスチャンは彼に警告した。彼が私を妻と呼ぶのを聞いて、心臓がドキドキして、すごく幸せだった。
「おや、妻? いつ奇跡が起きたんだ?」 ルーベンはくすくす笑い、彼をあざ笑った。でも、私が妻として認められたって事実は、私の心を溶かすには十分だった。
「俺は…」 言い返そうとしたんだけど、ボクは彼のシャツを引っ張って、彼の注意を引いた。
「セバスチャン…」 恐る恐る彼を呼んだ。冷静さを保つのがやっとだった。
「なんだ?」 彼は優しく尋ねた。
「ただ…分からないんだ…」 どうすれば彼を傷つけるために手を上げられるのか考えて、手が震えていることに気づきながら、ボソボソ言った。
「彼を更生させてやれよ、彼は誰のためでもなくやったんだから。自分はラッキーだって思え」 ルーベンは乾いた笑いを浮かべ、一瞬彼を見た。
「セバスチャン…」 必死に彼を呼んで、一歩近づいたけど、彼は手を間に挟んで、ボクを止めた。
「やめて。お願い、やめて」 彼は息を漏らし、ボクが彼に話したり、別の解決策を見つけたりするのを許さなかった。
「アイリーン、もし俺が…」 セバスチャンは言いかけたけど、二人のイライラした男たちが注意深く聞いているのに気づいて、言葉を止めた。
「俺は…」 もう一度話そうとしたけど、彼らの前で無理で、止まって、大きくため息をつき、「出ていけ」 彼らに命令した。
「ハハ、俺たちの前じゃ二言も言えないのか」 アサドはくすくす笑い、ルーベンの肩を叩いた。ボクとセバスチャンは彼に止まるように睨んだ。
「俺たちの生活は公開されてないんだ、プライバシーが必要だ。出て行け、お前ら」 セバスチャンは命令し、出て行くようにジェスチャーした。彼らは喜んで出て行き、ボクたちは二人きりになった。
彼らが出て行った後、セバスチャンは深呼吸をして、私をソファーに座らせて、ボクの前にひざまずき、両手をしっかりと握りしめて、私の目をじっと見つめた。
胸に走る真剣な繋がりで、心臓の鼓動は高まった。彼の目は静かに懇願していたけど、ボクには何が言いたいのか分からなかったから、彼が話すのを辛抱強く待った。そして、落ち着きを取り戻した後、彼の低い、落ち込んだ声が聞こえてきた。
「アイリーン、もし俺がこれをしなかったら、永遠にお前の罪人になる。自分の姿を見ることができなくなる。変わることができなくなる」
彼は言葉を切った。震えが私の唇から漏れ、同情のまなざしで目を細めた。彼の行為の深さが、彼の能力をこの程度まで制約することになるとは、私の心には理解できなかった。
「物事を始めることができなくなるだろう、俺の過ちは常に俺の獣性、俺の最も深い願望を思い出させるだろう」
ゴクリとつばを飲み込み、彼の瞳は恥ずかしそうに繋がりを断ち切り、ボクの手をきつく握って、彼が言えなかった言葉を話すためらいをあらわにした。
「それは、俺がお前にとって完璧な男じゃないことを自覚させ、そして、そうじゃないという事実は、俺をこれまでにないほど傷つけることになるだろう」
彼の共鳴は途切れ、目を閉じ、長い間彼の砂漠に沈んでいる暗い積み重ねで、頭を下げた。彼の悲惨さはボクの目を湿らせた。誰かにこんなに大切に思われるなんて、考えもしなかった。
「お前の夢の男じゃなくてごめん、でも、俺に失望しないでくれ」 彼は必死にささやいた。
二人とも、彼が白馬の王子様ではないかもしれないことは知っていたけど、彼をこれほど傷つけるという事実は、ボクの鼓動を彼の痛みの中に閉じ込めた。
「いつ始まったの、セバスチャン? いつから私がこんなに大切になったの? あなたのために何もしてないのに、どうして私の心とあなたの心がつながったの?」 ボクは彼の頬を包み込み、泣き出すのを何とか我慢しながら尋ねた。
「お前はいつもそうだった、ただ俺がそれに気づけなかっただけだ、お前はいつも誰もいなかった場所にいたんだ」 彼はささやき、頬に手を置いて、まだ彼の心痛んだ視線で私の視線に挨拶するのを拒んだ。
「セバスチャン、私から目をそらさないで…お願い…」 絶望的に、期待を込めてささやき、彼の優しい肌を愛おしそうになでたけど、彼は心の中に重荷を背負っていた。
「アイリーン…」 頭を下げて、ボクの膝の上に頭を乗せ、痛ましいほど長い旅の後、自分の聖域に帰ってきた人のように、私にしがみついた。
「どうしたの、セバスチャン…?」 ボクのつぶやきが彼を呼んだ。心を込めて彼を歓迎し、それが彼をボクのドレスにしっかりと抱きつかせた。
「ごめん…道を踏み外したんだ」 息を切らしてささやき、顔を隠し、ボクのドレスをしっかりと掴んだ。
そして、ボクはセバスチャンがこんなに打ちひしがれているのを見たことがなかったので、すっかり怖じ気づいた。ボクは彼をすごく心配していた。彼に安らぎを与えるためなら、何でもするつもりだった。何でも。
「どこに?」 頬を噛んで泣かないようにして、彼の悲しみをボクのものとバランスを崩さないようにして尋ねた。
「分からないけど、道を踏み外したんだ。道に迷って、自分がどこを歩いているのか分からなかった。暗くて、見えなくて、聞こえなくて、すごく迷子になったような気がした…」 彼は少し震えながら、自分の体験を語り始めた。
悲しそうに微笑んで、彼の髪を指でなでて、彼の苦悩がボクの指が彼の髪をなぞると和らいでいくのが分かった。
でも、彼の苦しみを目の当たりにするのは、紛れもなく耐え難かった。
「その道は意味をなさなかったんだ、まるで深淵のようで、ただ歩き続けて、歩き続けて、歩き続けたけど、止まらなかったんだ」 彼は突然息を呑み、彼を縛り付けた暗闇について言及した。
「足が痛くて、止まりたかったけど、止まれなかった、人生は無意味に感じた…俺はあの暗い道を踏み外したんだ…」 彼は続けた。喉のつかえを無理やり押し込み、ゆっくりと涙でいっぱいになった目を開いた。
「それは、あなたがまだ迷っているってこと? まだあの道を歩いているの?」 優しく、穏やかに尋ね、彼の髪を解きほぐしながら、彼の荒れ果てた顔をきちんと見ようと身を乗り出した。
「いや、違う」 彼は首を振り、ボクの手を自分の手の中に握り、指を絡ませ、長い間、私たちの繋がれた手を見つめて魅了された後、続けた。
「なぜあの道を歩いたのか分からなかった、なぜあの道を選んだのか分からなかった、それがどこへ向かうのか分からなかった、そして、俺が気づいた時には、お前と一緒にいたんだ」
彼のくすくす笑いに、背筋がゾクゾクして、私の感覚はスリルを増し、よろめいた。
「そして、人生は突然意味を持ち始めた」
彼の愛情のこもった言葉がボクの平静さになった時、ボクの魂は一瞬止まった。彼の解放に私がそんなに重要な役割を果たしていたとき、私を凍らせた。
「セバスチャン…」
言おうと唇を開いたんだけど、彼のドレスを掴んで、彼は重い視線を上げて、一瞬ボクの視線とぶつかった。
「何もかもが未知で、俺には異質だったけど、お前を目的地として見つけた時、その暗闇は価値あるものになったんだ」 彼の言葉の力は私を無言にした。彼のささやきは完全に私を酔わせた。
強烈に、情熱的に、息を呑むように。他は忘れた、世界を忘れた、自分自身を忘れた。彼がいて、それだけだった。
「もう旅のことは覚えてない、目的地を覚えてるんだ」
つまり、彼もどうしてそうなったのか分からなかったけど、ボクに夢中になることから逃れられなかったんだ。どうしてそうなのか分からなかった、ただ落ちたことだけ覚えてたんだ。
彼がボクの手のひらにキスをして、私から離れる前に、本物の笑顔が私の顔に浮かんだ。それは私たち双方には不都合だったけど、告白した後、彼は後ろに下がった。
「じゃあ言って、すべての感覚でボクを愛していると告白して。否定してないでしょ。結局、すべての否定の後でボクに恋をしたことを認めるんだ…よね?」 彼の手を握ってエクスタシーを与えながら、嬉しそうに彼に言った。
一言言って - はい。
「もう一度聞いて」 だけど、かすれた笑い声で、彼は手を引っ込め、彼の額に美しくキスする髪を後ろに押しやった。
「なんで今じゃないの?」 しかめっ面をして、彼からはっきりと聞きたいのに拒否されたけど、幸いなことに彼は否定しなかった。
「今は、お前の行いのせいで、お前の目を見ることができないからだ」 彼はため息をつき、顔を背けた。
彼の後悔を隠そうとしたけど、できなかった。でも、思い出したんだ。彼が告白したり泣いたりするときも、ボクの目を見てなかったことを。
「だから、前も私の目を見なかったの? あなたはできないから?」 悲しそうに尋ね、同情のまなざしで目を細めた。
彼はもうまともに私の視線を受け止めることができなかった…彼は罪悪感に苛まれていた。
「どうやって、俺がお前の罪人なのに、お前を愛することができるんだ? どうやって『愛してる』って、お前の目を見ることができないのに言えるんだ?」 彼は突っかかったけど、それはボクじゃなくて、彼に向けられたものだった。
「だから、私をこんなにひどく傷つけたいの? 更生のために?」 驚きで口を開けて尋ねた。
「ああ」 彼は即座に答え、二度考えなかった。
ボクは、それは単なる罰で、彼が私たちを同じレベルにしてやり直すことができるようにするものだと思ってたけど、それは彼が集めたすべての重さだったんだ。
彼は自分の痛みを解放したかった。
その時、ボクは、彼がこの罰をすごく必要としていたことに気づいた。それは更生のためだけでなく、「これ」が彼の安らぎだったんだ。