56- サプライズ
次の日、あたしはラウンジで、紅茶のカップを見つめながら、頭がおかしくなりそうだった。アイリーンに近づいてるって思うたびに、ひどく遠ざけちゃうんだもん。
歯を食いしばって、アイリーンに電話して謝りたかったけど、あたしのキツい物言いで彼女をどれだけ苦しめたのか、和らげる言葉なんて思いつかない。
それに、スマホ壊しちゃったし。
ため息をついて、どうしたらいいかわからなくなった。気を紛らわしたいのに、余計にイライラする。そんな時に、スフィヤンが現れた。
「どうしたんだ?なんか落ち込んでるみたいだけど」 彼は気軽に尋ね、席に着いてスマホをいじり始めた。
「スフィヤン…」 あたしは長い溜息をついて彼を呼んだ。
「ん?」
「なんでこんなことするんだ? バレンシアが、あたしたちのためだって言って土地を分けたこと、知ってるだろ。お前は自分のいるべき場所にいろよ」 アイリーンから気をそらすために、仕事のことを聞いてみた。
彼はニヤリと笑って、スマホをしまい、あたしの無表情な顔をじっと見つめた。
「バレンシアと彼女の世界は20年前に終わったんだよ、セバスチャン。今は俺たちの時代、俺たちの時間なんだ。俺たちは自分たちの土地の支配者で、欲は誰にでもある。自分のために何だってできるんだ」 彼は肩をすくめ、起きた変化を見せるように手を広げた。
「…なるほどな」 あたしは唸って、また紅茶に目を戻し、一口飲んだ。すると、彼のニヤつきはさらに深くなった。
「変わったのはお前だけだ。お前はもう、昔のお前じゃない。俺たちはみんな、お前の攻撃に備えてたんだ。この地に墓石を建ててやるために。でも、見てみろよ。何もしてない」 彼は軽蔑したように笑い、あたしの無活動に落胆したように首を振った。でも、あたしはアイリーンをアサドと二人きりにはしておけなかったんだ。
「なんで、みんなそんなにあたしを嫌うんだ?」 あたしは冷たく尋ね、カップを置いて彼の方を向いた。
あたしが作り出した悪魔のようなイメージ、あたしがどうにかして作り上げた支配力は、消え去ろうとしていた。あたしは自分自身を見失っていた。
「なんでかって? お前は嫌われて当然だ、お前はアルフォンスを投獄し、彼の魂を殺した。人々を最悪の形で拷問したんだ。しかも理由もなく」 スフィヤンはあたしが何者で、何をしたのかを思い出させるように唸った。
「最悪って? あいつらが叫んでるの、覚えてないんだけど」 あたしは小声で呟いた。
彼らの声は、ルーベンやアイリーンのようにあたしには届かなかった。あいつらは、まだ足りないんだ。
「それに、お前らだって聖人じゃないだろ。優しくもないし、俺たちの仕事はそれを求めてるわけでもないし」 あたしは論理的に考えて呟いたが、スフィヤンの楽しそうな顔は消え去った。
「でも、俺たちは理由があって殺すし、理由があって拷問する。楽しんでやってるわけじゃない。そして、何よりも」 彼は身を乗り出し、あたしを激しく睨みつけ、あたしが嫌われる理由を明確にした。
「自分たちの仲間は殺さない」
あたしの心臓はドキリとしたが、あたしは毅然とした態度を保ち、自分がなぜ悪名高いのかを思い出した。あたしは、自分たちの仲間と呼んでいた人々を殺したんだから。
「大切な人を傷つけない。お前は愛する人を傷つけることに躊躇しなかっただろ、セバスチャン。お前は自分のブラザーの目をえぐり出したんだ」 彼は軽蔑して指をさし、あたしが一度も見せたことのない恥辱をあたしに投げつけた。
「罰は受けた。自分の行動には責任を取った」 そうは言えなかった。
スフィヤンは席を立ち、あたしを軽蔑するように見下ろした。彼はもうあたしと話したくなかったんだ。
「だから、誰もお前と一緒に仕事をしたくないんだ。自分の血を傷つけることに手が震えなかった人間が、どうして他人を傷つけるのをためらうんだ?」
あたしがみんなから嫌われ、みんなにあたしが抱かせた恐怖の本当の理由を吐き捨て、彼は歩き去った。
でも、彼の言葉はあたしの心を締め付けた。彼は正しかったから。あたしの手がルーベンを泣かせたとき、どうしてアイリーンが呼んだときに止められるだろうか。
あたしは自分をコントロールできなかった…
「なのに、どうして自分の恋人を選んで傷つけようとしたんだ?!」
「ただ、あたしにとって大事な存在になりたかっただけなんだ」
「愛してる、セバスチャン…」
あたしは、そんなことできない… あたしがやってきたことと言えば、彼女の心を傷つけることだけだ。
彼女のために、あたしには何ができるんだろう? あたしの手は彼女を傷つける前に震えるんだろうか? また彼女を傷つけることになるんだろうか?
自分自身に激怒して、隠された片隅に残っていた希望の欠片を取り戻したくて、あたしは立ち上がり、デイブとジェイコブに会いに行った。
「ジェイコブ」
「はい、ボス?」
「戻るぞ」 あたしは歯を食いしばって命令した。自分の手で自分の人生を失う前に、もうこれ以上失いたくなかったんだ。
「え? もうですか?」 ジェイコブは眉をひそめて尋ねた。
「ああ。デイブはここに残って、色々片付けてくれ。何か重要なこととか、変更があったら教えてくれ」 あたしは唸り、ここにいたくなくて、ザヴィヤールがいつものダークな笑みを浮かべて近づいてくるのを見た。
「そうですね」 ジェイコブはあまり深く考えずに言った。
「何?もう戻るのか? 彼女がいなかったら数日も過ごせないなら、女を連れてくればいいのに」 ザヴィヤールはダークに笑い、あたしの肩を乱暴に叩いた。
彼はあたしの弱みに付け込んでいる。あたしは誓うけど、こいつら兄弟は、いるだけでムカつくんだ。
「お言葉ありがとうございます。ありがたいですね、シェイクさん」 あたしは鼻で笑い、彼の手を払い除け、眉をひそめた。
「どういたしまして」 彼は笑って去った。
彼が去った後、あたしはため息をつき、ジェイコブに再び命令した。「まずはパリに行くぞ」
「ロンドンに戻るんじゃないんですか?」 彼は困惑した様子で尋ねた。
「まだだ。パリで先に済ませたい仕事がある」 あたしは呟いた。ロンドンに戻る前に、どうしてもパリで済ませておかなければならない、非常に重要なことがあったんだ。
アルフォンスの物語の結末は、あたしの手の中にあった。
***
そこに滞在した後、あたしは戻り、アイリーンには到着したことを伝えていなかった。彼女を驚かせたかったんだ。彼女が喜んでくれるかどうか見たかった。
「奥様に電話して、到着したことを伝えないんですか?」 ジェイコブは、あたしたちが戻ってくるときに尋ねた。
「いや、奥様にはサプライズをあげたいんだ。もう十分イライラさせてしまったからな」 あたしはニヤリとし、彼女がどう反応するか楽しみだった。
「プレゼントもあげたらどうですか?」 ジェイコブは尋ねた。
「もちろん、そうするよ」 あたしのニヤリとした顔はさらに大きくなった。なぜなら、アイリーンには、イニシャル「S」が刻まれたダイヤモンドのネックレスを買っていたからだ。それを彼女にあげたかったんだ。
「あと、ジェイコブ、スマホも修理してくれよ。あたし、あんまりスマホ使わないから、壊したの忘れてた。直してくれ。アイリーンにも電話してないんだ。きっと心配してるだろうし」 あたしはため息をつき、壊れたスマホを彼に渡した。
それに、裏取引に使ってる番号で彼女に電話するつもりはなかった。
あたしは、きれいな方のスマホもほとんど使わないんだけどね。
「わかりました、ボス」
あたしはまずアイリーンに会いに行った。花とチョコレートを買った。彼女に会いたい、会いたくてたまらない自分の心臓の鼓動に気づきながら、あたしはいつものようにかっこよく、彼女の家に入った。
「やあ、マダム。アイリーンはいますか?」 あたしは優雅に尋ねた。
「あら… 大丈夫?」 彼女はあたしの登場に驚き、曖昧に尋ねた。
「はい、大丈夫です。何か問題でも?」 あたしは困惑して眉を上げた。
「彼女を驚かせたいんでしょ?」 彼女は再び尋ねた。あたしは「ああ」と頷いた。
「ああ、そうだったのね。彼女は1時間前に出かけたわ」 彼女はまた微笑んだが、あたしには理解できないことがあって困惑した。
「ありがとう。彼女はどこに?」 あたしは、どうせ知るつもりもなかったけど、ただあたしのアイリーンに会いたかったんだ。
「あなたが知るべきよ。ルーベンのとこに行ったんだから」 彼女はニヤリと笑い、腕を組んだ。でも、あたしは、その言い方が気に入らなかったんだ。
なんで彼女はアサドがいるとこにいるんだ? あたしは、彼女を一人にしておくのは最悪なアイデアだって知ってたんだ。
「そうか」 あたしは言葉を濁した。
「彼女のこと待つ?」
「いや、待てない。会いに行くよ。あたしが戻ってきたこと、彼女には言わないで。驚かせたいんだ」 あたしは首を振って、今回はそれを許した。彼女にどうしても会いたかったから。
もうこれ以上彼女を怒らせたくなかったんだ。
「アイスクリームでも買って行ったら? 溶かしてあげるのに役立つかもしれないわ。あなたに怒ってるんだから」 彼女は、かすかな笑顔を浮かべながら付け加えた。
「ありがとう、そうするよ」 あたしは頷き、去った。彼女に会いたくてたまらなくなって、話を聞かせたかった。抱きしめて欲しかった。ルーベンのように、あたしの手から滑り落ちていくのを見たくなかったんだ。
「すごく嬉しそうですね」 ジェイコブはあたしの喜びを見て微笑んだ。どうしようもなかったんだ。
「そうだよ。彼女が花を持って、あたしを見て笑う姿を録画しておいた方がいいよ」 あたしは厳しく言った。彼はあたしからこんな言葉が出てくるなんて思ってなかったから驚いていた。
あたしも思ってなかったけど、もうルーベンは失ったんだ。彼女も失うわけにはいかない。
「あなたはそうするんですか?」 彼は、あたしの聞き間違いかと思って尋ねたが、あたしは眉をひそめて彼の方を向いた。
「なんでしないんだ?」
彼は瞬きし、我に返って微笑んだ。「よかったですね、ボス」 彼は心からそう言って、頭を下げた。あたしは再び唸った。
「あたしもだよ」 あたしは呟き、自分がどんな状況を演出するのかを思い描いた。今日は彼女に新しい世界を見せてやるんだ。彼女がアサドのところにいたという事実から思考を振り払い、何もあたしの気分を台無しにしたくなかったんだ。
あたしは彼の家に行き、深呼吸をして、アイリーンのボディーガード、サムが家の外にいることに気づいた。ため息をつき、首を振り、ノックしようとしたとき、アサドの声が聞こえた。
「セバスチャンと一緒にいる意味が、彼女を不幸にする以外にあるのかわからないんだよな?!」 あたしは目を細め、自分の心が欺瞞を演じてあたしを不幸にしようとしているのだと思ったが、効果はなかった。
「お前の悲惨な結婚に希望はないこと、見えてないのか?!」 しかし、彼が再び話したとき、あたしの目は見開かれた。
あたしは、彼女に愛情を示したことも、愛を与えたことも、彼女の認知を得るために何かをしたことすらなかったことに同意する。でも、それを悲惨な結婚と呼ぶのは… あたしを傷つけていたんだ。
「やめろ…」 アイリーンの声は低く、何を言ってるのか聞こえなかったけど、彼女が再びあたしの大切なものを奪おうとしていると感じたとき、あたしの心臓の鼓動が遅くなった。
「十分だ。あたしは君の弁護士だし、何が一番いいのかわかってるんだ、アイリーン」 あたしは一歩後退し、顔から興奮が消え、あたしが聞いたことを理解しようとした。
「あなたはセバスチャンと離婚することになるんだ」
そして、あたしの最後の忍耐と、悪魔のように長い時間の後に得た感情を砕いて、あたしは歯を食いしばり、目をそらし、歩き去った。心には一つの疑問だけが残って、それ以上のことを聞くことができなかったんだ
「こんなに近くにいるのに、どうして君の手を握るのが、あたしにはこんなにも難しいんだ?」