53- 悪質なリーダー
「まるで、お前がアウトロー扱いされてるみたいだな、セバスチャン・ステリオス?」
顔を向けると、いつもの格好で手錠をかけられたナサニエルがいた。
黒いシャツに、お揃いのズボンとベスト、そして手袋。
袖は肘まで完璧にまくられてて、手にはペスト医師のマスクを持ってる。
つまり――
彼はペスト医師として生き、ペスト医師として死ぬってこと。
「あと五分だ」 オフィサーが中に入るように合図した。
ナサニエルは僕を睨みつけ、「二分で十分だ」と返した。
「ナサニエル」 僕はニヤリとして彼の方を向いた。彼はゆっくりと僕の方に歩いてくる。ああ、自分の愛する人が辱められて、どんなに燃えてるかな。
「正直、お前の家族のヒエラルキーなしじゃ何もできない男には、威厳なんて似合わないよな?それとも、ミソジニストのクソ野郎でいるのが好きなのか?」 ナサニエルは冷笑して僕を挑発してきた。僕はそれにニヤリと笑って言い返した。
「奥さんの現実を知るのは、辛いか?俺はただ、彼女が何者かを言っただけだよ」 僕は冷静に肩をすくめたが、嫌らしい笑みは消えなかった。ナサニエルをイライラさせるために。
「でも事実は、彼女はザリア・アルロイだってことだ。俺の奥さんだ」
スフィヤンは、ナサニエルが作った緊張感にニヤリとして、立ち上がった。チッ、クソ野郎ども、この瞬間を楽しんでる。
ザヴィヤールの隣に立ち、二人で僕らの間の熱を楽しんでる。まるで優位性の戦いみたいに。
「もし、もう一度彼女に逆らうような言葉を発したら、お前を地獄に引きずり込むのも構わない」
ナサニエルは僕を公然と脅してきた。誰かが彼女を嘲笑うなんて許せないって。
「息が詰まるようじゃ、良いことじゃないな」 僕は鼻で笑い、彼が死ぬんだってことを思い出させた。
腕を組んで、彼の脅しをくだらない発言だって顔で表現した。
「俺の呼吸なんてどうでもいい。俺が生きようが死のうが、俺の支配は決して終わらない」 ナサニエルはそう言って、自分が維持してきた権威を思い出し、僕をイライラさせた。
彼が得た権威は、最高のものだった。
もう一歩近づき、ナサニエルは僕の目を真っ直ぐに見つめ、宣言した。
「そして警告しておく、セバスチャン・ステリオス。もしお前が俺の奥さんの近くにいたら、それは戦争だと思え」
僕たちは皆、高まる緊張に驚いた。ナサニエルが、自分を破滅させた人のために、僕に公然と挑戦してくるなんて思ってもみなかった。でも、その中で、ある疑問が僕の心に浮かんだ――
俺はアイリーンのために同じことをするだろうか?
俺はアイリーンに対して、このレベルの誠実さを保てるだろうか?
「お前が死ぬってわかってるよな、ナサニエル、だろ?」 僕は笑って彼をからかった。まともに受け止めずに。
「俺の仲間も?俺の仲間が起こす恐怖も?何が変わるんだ?」
ナサニエルは眉をひそめた。僕の笑いが消え、僕らは互いを睨み合った。
彼を敵にするのは、破壊を引き起こすのと同じだ。認めたくはないけど、彼の支配は俺より強い。
「すごい光景だ」 ザヴィヤールがささやき、笑った。僕をイライラさせるように。
「同感」 スフィヤンはうなずき、ショーを最大限に楽しんだ。
「じゃあ、彼女には二度と俺の前に現れるなって言っとけ。さもなきゃ、俺の手で殺してやる栄誉を与えてやる」 僕はザリアを睨みつけながら脅した。彼女と手を組むことなんて絶対ない。
絶対。
「ザリア」 ナサニエルの重々しい声が聞こえた。彼女のことを見ていない。正直、理由もわかる。
もし彼女を見たら、心が溶けてしまうだろう。アイリーンに対しても、同じ事が起こるんだ。
彼女を見たら止まってしまうから、彼はそうしなかったんだ。
「え?は、はい?」 ナサニエルの前で、彼女はどもった。そうでなければ、彼女がどんな悪魔か、みんな知ってるはずだ。
クソ、人殺しマシーン。
「いいか、お前」 ナサニエルは冷たく言った。一歩後ろに下がり、ザリアに二度と僕の前に現れるなってことを思い出させた。
「これ、なんか変じゃない?ザヴィヤール」 スフィヤンは目を細めてささやいた。僕もそう感じたんだ。
何かおかしい。ナサニエルは何か企んでいる。
「うーん。どうしてこんなに公然と言えるんだろう?」 ザヴィヤールはうなずき、僕らが解読できない奇妙なオーラに気づいた。
「嫌な予感がする」 スフィヤンは息を吐き出した。ナサニエルに疑念を抱きながら。
「なー」
ザリアが彼を呼ぼうとしたけど、僕は彼女をからかった。「お前が俺に力をくれって頼む日が楽しみだよ」
「チッ」 彼女は鼻で笑い、ナサニエルのもとへ歩いていった。彼は彼女に背を向け、永遠に去ろうとしている。彼女の鼓動、彼女の存在を一緒に。
彼は永遠に去ろうとしている。彼女は耐えられなかった。でも、彼らを見てると、アイリーンのことが頭から離れなかった。
もし俺が去ったら、彼女の目も、同じ絶望の色になるんだろうか?
「ナサニエル」 彼女は必死に彼を呼び、冷たく弱々しい手で彼の片手を取った。
彼は彼女の手の震えに気づいたが、彼女の必死な目に目を合わせることなく、石のように立っていた。
そして僕は、目の前で別のカップルが不幸に陥るのを目撃したんだ。
「お願いだから、私を見て」 彼女はささやき、頭を下げて彼の肩に寄りかかり、彼を手放そうとしない。
部屋に沈黙が広がり、彼女の泣き叫ぶ声が響き渡った。彼女の涙が彼の肩を濡らし、たった一つの要求で泣いている。
感情のないクレイジーザリアは、エースたちの前で崩壊した。この瞬間、彼女にとってナサニエル以外は何も重要じゃなかったんだ。
「お願いだから、私を嫌いにならないで、ナサニエル。お願いだから、私を嫌いにならないで」
目を閉じ、彼は冷たくささやいた。「そんなことしない」
もしアイリーンだったら、同じことする?
「時間だ」 オフィサーが叫び、ナサニエルに近づくように合図した。
ザリアは彼を手放そうとせず、かすかに泣きながら、首を横に振って拒否した。
彼女は彼を手放せなかった。でも――
愛する人を手放すのが、いつからそんなに簡単になったんだ?
「ザリア」 スフィヤンが彼女を呼び、肩を抱いたが、彼女はびくともしなかった。
「彼を行かせてあげなよ」
「もう、彼を行かせる時だよ」 スフィヤンはささやき、彼女をナサニエルから引き離そうと強く抱きしめた。
目を閉じ、彼女はスフィヤンの胸に倒れ込み、顔を隠して静かに泣いた。
ナサニエルは肩越しにスフィヤンを見た。スフィヤンはザリアの肩を抱き、胸の中で彼女が静かに泣くのを許していた。
二人は何も言わず、視線を交わすだけだった。ナサニエルは去り、永遠に彼女の領土から去ったんだ。
この光景は、僕の心を無意識に締め付けた。俺はいつからこんなに優しくなったんだ?
「愛する人を去らせるのは、弱い心じゃないよな、スフィヤン?お前は彼女の状況を、俺たちよりもずっと理解してるよ」 ザヴィヤールが後ろからニヤリと笑った。
スフィヤンは鼻で笑い、彼女の背中をさすって落ち着かせた。
「お前の奥さんも、彼女みたいに悲しむと思うか?」 ザヴィヤールは僕をからかい、聞きたくないことを尋ねてきた。
僕はザヴィヤールを睨みつけた。
「絶対に。彼女はきっと感謝するだろう」 スフィヤンは鼻で笑い、ザリアに水を渡して落ち着かせた。
いや、彼女も壊れるだろう…結局のところ、彼女は俺を愛してるんだから…
僕は黙っていた。ザヴィヤールが「ああ、始まるぞ」と呼ぶまで。
「皆さん、注目!」
看守が前に出てきた。集まった人々の数は膨大だった。ペスト医師のマスクをつけた男が立っていた。
「あそこにいる男はペスト医師だ!裏社会の頭、私たちの平和な家に災いをなす者。彼は私たちの惨めな人生の原因です」
「チッ、嘘つき」 僕は鼻で笑い、警察が自分たちを褒め称えてるのを見つけた。現実は、彼が自首したのに。
「処刑を開始せよ!」 そう言うと、ザリアは立ち上がり、行こうとした。しかし、スフィヤンが彼女を止めた。
「行かせて、スフィヤン」 彼女は涙を目にためながら、ヒステリックに言った。
彼女は耐えられなかった。
僕は窓の外を興奮して見ていた。でもすぐに、その興奮は消え去った。
顔をしかめ、僕は去り、彼らを一人にした。「チッ、なんて無駄なんだ」
何かおかしいのはわかっていた。