51- 公然の脅威
~ アイリーン ~
「だってさ、あたしがなんでアンタのこと嫌いなのか、わけわかんないんだけど。でも、アンタのバカげたアイデアのせいで、あたしは散々苦労してきたけどね」
セバスチャン、なんか変なんだよね。まあ、ルーベンが前もって忠告してくれたんだけど、まさかセバスチャンがこんなにもアサドのこと嫌うとは思わなかった。っていうか、アサドは別に何も悪いことしてないのに、なんで?
「何なの、あいつ?」
ブツブツ言いながら、あたしは部屋から出てった。セバスチャンは身だしなみを整えるためにバスルームに行ったから。
「どうしたんだ?」
アサドが、あたしに近づいてきた。眉毛を上げてさ。セバスチャンがあたしと話してるのを見て、変な態度だったから。
「話しかけないで」
あたしはため息をついて、壁に寄りかかり、腕を組んでそっけなく肩をすくめた。
「何したんだ?」
彼は困惑したように首を傾げた。まるで何も知らないふりだけど、あたしよりずっとわかってるくせに。
「知らない。ミスター・ステリオスからの命令。アサドには近づかないで」
あたしは感情を込めることなくそう言った。あたしが彼との交流を減らしてる理由。
彼はしてやったりって顔でニヤリとした。あたしたちがメインエントランスの近くで話してたのは、セバスチャンに見られるためだったんだから。あたしは彼の反応を見てたんだけど、彼はまさにあたしが言った通りに振る舞ったんだよね。
「言ったでしょ?彼はあたしと一緒にいるアンタのこと、絶対我慢できないって」
彼は得意げに言ったけど、あたしはただただ困惑してた。なんでかわかんなかったんだよね。
「なんで?」
あたしは尋ねた。
「嫉妬だよ」
彼はがっかりしたようにため息をついたけど、あたしの困惑はさらに増した。
「なんでアンタに嫉妬するわけ?」
あたしは彼を挑発した。だって、あたしの知る限り、セバスチャンには彼を妬む理由なんてないはずなんだから。
「アンタ、旦那のことすごい自慢げに話すじゃん」
彼はクスクス笑って、首を振った。彼の無関心な態度にはイライラする。あたしが話すたびに、彼は笑って、微笑んでるだけなんだもん。
「ただ言ってるだけ。セバスチャンには全部あるじゃん。アンタに嫉妬するようなもの、何があるの?」
あたしは反論した。彼が何を持っているのか、あたしのセバスチャンが羨ましいと思うようなものが何なのか、知りたかったんだ。
彼は少し笑って、肩を壁につけて、あたしに楽しそうにニヤリとした。自信満々な態度にあたしはムカついた。
「奥様は彼のこと、あたしたちよりずっとよく知ってるかもしれないけど、それでもまだ、アンタにはわからないことがあるんだよ」
彼はきっぱりと言った。あたしは混乱した。セバスチャンについて、あたしが知らないことなんて何があるんだろう?
「例えば?」
あたしはそう言い返してニヤリとした。あたしは自分のセバスチャンのことなら誰よりもよく知ってるって信じて、頭を高く上げてた。
「例えば、アンタの旦那が、今、あたしのこと睨んでるとか」
彼は笑って、あたしの後ろを指差した。あたしは思わず息をのんだ。振り返ると、セバスチャンがカジュアルな服で立ってた。
タオルを首に巻いて、髪の毛から水滴が落ちてて、彼の顔立ちが際立ってる。あたしに厳命に背いたことで、深く眉をひそめてた。でも、話しかけてきたのはアサドだったのに。
「セバスチャン?」
あたしは緊張して呼んだ。彼が怒ってないことを願った。明らかに怒ってるんだけど。あたしは彼の視線から怒りを感じて、息が詰まった。
「アイリーン、荷物をまとめろ。あと数時間で出なきゃならない」
ありがたいことに、セバスチャンは激怒するようなことはせず、ただあたしに命令しただけだった。あたしは彼の怒りを煽りたくなかったから、静かに従った。
「わかった…」
あたしは頷き、背筋を伸ばし、話を中断して部屋から急いで出ようとしたんだけど、彼のそばを通り過ぎたとき、腕を掴まれたんだ。
「そうだ、アンタはさ、両親のところに行って、彼らにアンタの言葉で理解してもらったらどうだ?」
彼は言った。アサドから視線を外さず、そのニヤリとした表情がゆっくりと消え、あたしはアサドの顔に、それまで見たことのない真剣さを見た。
「わかった、そうするよ…」
あたしは途切れ途切れに言った。反論しなかった。本当に両親に理解してもらわなきゃいけないんだ。あたしは、今、セバスチャンの扱い方を覚えつつある。
「そうそう、それから、アンタはそうしてて。奥様、荷造りさせてやろう。セバスチャン、ちょっと話があるんだ」
アサドが呼び止めた。セバスチャンの注意を惹きつけるために、指を鳴らしてさ。
唇を細く結んで、あたしは部屋に駆け込んだ。でも、ドアは開けたままにした。セバスチャンがアサドをこんなに警戒させることをしたのか、覗き見たかったから。
「何がしたいんだ?」
セバスチャンは鼻で笑い、向かいの壁に寄りかかり、険しい顔つきをした。
アサドの楽しそうな顔は消え、威圧的に話し始めた。「あたしは興味のないやつに、ちょっかい出すようなことはしない。セバスチャン。そして、アンタがあたしの弱点に触れたってこと、理解した」
あたしの心臓はドキッと跳ねた。セバスチャンが何をして彼を怒らせたのか。彼の切羽詰まった様子は危険の前触れだった。あたしはそれが破滅的になるだろうって感じたんだ。
「何の話だ、アサド?あたしは、アンタに関することには、何もしてないはずだが」
セバスチャンは困惑した。彼は自分が何を言われてるのか、まるでわかってなかったんだ。
「いや、やったんだ。信じてくれ、やったんだ」
アサドは乾いた笑い声を漏らし、背筋を伸ばし、手をポケットに入れた。セバスチャンに一歩近づいた。
「何が…」
セバスチャンは、彼が何を言いたいのか尋ねようと口を開いたけど、アサドはそれを遮った。
「ソフィア・エルバズを撃ったのは、アンタだろ」
ソフィア…?アサドは、どうして彼女のこと知ってるの?ソフィアは、あたしに、アサドみたいに危険な人を知ってるなんて、一度も言わなかったのに。
彼は、あのザヴィヤールの弟だよ!4番目に危険なマフィアのリーダーの!
どうしてソフィアは彼を知ってるの?そして、彼は彼女のことを弱点だって言った?マジで何?
「なんで?彼女はアンタにとって何なんだ?」
セバスチャンが尋ねた。あたしの頭の中に、その言葉がすぐに浮かんだ。セバスチャンもあたしと同じように、彼女がこの騒動に関わってる理由がわからず、唖然としてたんだ。
「放っておけ。彼女はすごく個人的な問題なんだ、わかったな?」
アサドはセバスチャンを脅した。あたしは、彼女のこととなると、彼がこんなに必死になるなんて信じられなかった。
あー、信じられない。あたしは何を聞いてるの?あたしの友達を、この騒ぎから出して!
アサドはセバスチャンの目をじっと見つめ、心底真剣に、セバスチャンに公然と警告した。「二度と彼女を傷つけるようなことはするな。さもないと、アンタは気づかないうちに、愛する人が目の前から消えることになる」
そして、それが…それがセバスチャンにとって、最大の恐怖なんだ。アサドが、あたしを彼から奪うこと。それは、あたしからしたら、ありえないことだった。
「自分の場所で、あたしを脅迫してるってこと、わかってるよな?」
セバスチャンは空虚に笑い、アサドの警告を無視し、あたしの男を脅迫する彼の図々しさに笑ったんだ。
「どうすればいいんだ?アンタが個人的なことをしたんだから」
アサドは冷たく肩をすくめ、絶望してため息をつき、顔をそらした。
「彼女はアンタにとって何なんだ?」
セバスチャンは再び、厳しい口調で尋ねたけど、彼はもうこの会話を続けるつもりはなかった。
「放っておけ。次からは気をつけろ」
アサドは呟き、立ち去ろうとした。でも、その時、彼の暗い部分とあの嫌なイタズラ心が再び彼の顔に現れ、肩越しにセバスチャンを見て、彼を公然と脅迫した。
「アンタは、誰を失うことになるか、わからないままかもしれないな」
そして、この一言が、セバスチャンを焼き尽くした。あたしは彼から怒りが発散されてるのを感じた。彼を殺してやりたいほどだったけど、彼は何とか自制心を保ってたんだ。
あたしは、初めて、彼があたしを失うことへの恐怖を彼の目の中で見た。彼は完全に冷静さを失ってた。
アサドは歩いて行って、あたしはすぐにクローゼットに走り、彼の服を取り出すふりをした。彼の白いシャツを取り出して、あたしは動けなくなった。彼があたし向かって歩いてくるのを感じ、彼の怒りを感じたから。
「セバスチャン?」
あたしは優しく呼んだ。これで彼の怒りが少しでも収まればいいと思ったけど、無駄だった。
「荷物をまとめろ。両親のところに送ってやる。あたしが戻るまで、そこにいろ」
彼は命令した。顎を食いしばり、両サイドを抱え、部屋の中を歩き回ってたんだ。
「でも、セバスチャン…」
あたしは彼を呼び止めようとしたけど、彼は手を上げてあたしを制止した。「何も聞きたくない。荷物をまとめろ」
彼の声は服従を求めてたから、あたしはソフィアとも話さなきゃいけなかったし、承知したんだ。
「わかった…」
そして、このすべての間に、一つのことがずっと頭の中でループしてた。
なんで?
セバスチャンは何も恐れないのに、アサドはなんで、こんな緊張と恐怖を呼び起こせたんだ?