50- 好機
~セバスチャン・ステリオス~
俺はアイリーンの両親の家にいた。あいつらの反応がどんなもんか、わかってるからな。ミスを埋め合わせるために、そこに立ってた。
いったい、あの女は俺に何をしてんだ? 誰も想像しなかったことを、俺にやらせるんだからな。俺、セバスチャン・ステリオスが、謝罪だって?
なんで俺が? あいつらのバカさ加減のせいで、アイリーンはあの場所に縛り付けられてんだろ? なんで俺に逆らおうとしたんだ?
「マジだる。」 鼻の頭をつまみながら、深くため息をついた。
「一緒に行きましょうか、ボス?」 デイブが聞いてきたけど、睨みつけてやった。あのクソ野郎は、予想外の展開を見て面白がってるんだ。俺は、一秒たりともそんな気分じゃなかったけどな。
「黙れ。」 唸った。
深呼吸して、姿勢を正し、アイリーンの両親が待つ家の中に入った。ありがたいことに、アイリーンはいない。そうじゃなかったら、もっと大変だっただろうな。
アイリーンを獲物みたいに、俺のテリトリーに繋ぎ止めた時、あいつらを全部操った時でさえ、こんなに緊張なかったのに。
「いける。」 自分を奮い立たせて、中に入った。明らかにビビってる両親に、不機嫌な顔で挨拶した。あいつらは俺の存在が嫌いなんだよ。
俺のこと、マジで怖がってる。気まずい沈黙が流れて、俺は、何を言えばいいのか、どうすればいいのかわからなかった。会話の始め方もわかんない。
「セバスチャン…」 ありがたいことに、ミスター・リオーが話し始めた。この重い沈黙を破ってくれたんだ。やつらが話し始めたから、あとは俺が誘導するだけ。
「はい?」 柔らかく答えた。手を後ろに回して、できるだけ優雅に、あいつらの恐怖心を少しでも和らげようと努めた。
「アイリーンがそう言ったから、承諾しただけなんだ。あなたがこの世界でどんな存在であろうと、お願いだから、娘を許してやってください。傷つけないでください…」 そう言おうとしたところで、俺は正直に遮った。
「アイリーンのことは心配しないでください、奥様。彼女は俺にとって特別なんです。彼女のこととなると、俺はすごくナーバスになるんです。彼女を傷つけることなんて、絶対にできない。彼女は、誰もいない場所にいるんですから。」 誰にも話したことのない、アイリーンの場所を、アイリーンだけには伝えてある秘密を明かした。
「俺が性急な決断をして、めちゃくちゃにしたのはわかってる。本当に申し訳ないと思ってる。二度とこんなことはしない。でも、言ったように、彼女のことになると、俺は自分を見失うんだ。ごめんなさい。」 そう言って、下を向き、頬の内側を噛んだ。
内心では唸っていた。絶対にやりたくなかったことをやってることに、激怒してた。謝る必要なんてないんだ。むしろ、やつらが俺に謝るべきなんだ。でも、ため息…、何を言えばいいんだ?
時には、自分の意思とは関係なく、嫌なことだってしなきゃいけないんだよな。
「ただ、娘が無事でいてくれればいいのよ。」 ミセス・リオーが、アイリーンのことを心配して付け加えた。その気持ちはわかる。俺がいる場所じゃ、人生に保証なんてないんだから。
「心配しないでください。どんなことがあっても、俺が彼女を守ります。」 そう言ったけど、自分でも確信はなかった。でも、どんなことがあっても、あいつにはバレンシアみたいになってほしくなかったんだ。
アイリーンは守る。
あいつらに話を聞いてもらうのに、1時間もかかった。もう一度問題を起こさないでくれ、チャンスをくれって説得するのに。疲れたし、我慢の限界だったけど、アイリーンがいなかったら、俺はここにいなかっただろうな。
結局、貴重な1時間を無駄にして、家に帰った。時間を無駄にしたせいで、気分は最悪だった。もう家に帰りたかった。
帰る途中、信号で止まった時、角の花屋が目に入った。できるだけ無視しようとしたけど、無駄だった。嫌だけど、俺の頭は、婚約してた頃のことを思い出してた。
彼女が何の意味もなかった頃、俺の言葉が嘘だった頃、何も存在しなかった頃に戻ってしまった。それでも、俺はそれを覚えてる。
「忙しいのはわかってるけど、2分くらいなら大丈夫でしょ。」 アイリーンの元気な声が聞こえた。俺が奪った――いや、殺したメロディー。
またそんな口ききやがって。
「はい、マダム? 何かできますか?」 俺は、デイブに被害者の口を塞ぐように合図し、地下室から飛び出した。彼女の悲鳴が聞こえないように。
「バラをちょうだい。次のデートで、耳の後ろに挟んでね。」 彼女はそう要求してきた。
最初は、彼女の要求とか言葉とか、イライラしてたけど、今は、どう言えばいいのかわからない。でも…、でも、俺は…、もういいや。
「それだけのために、こんなに急いで電話してきたのか?」 俺はため息をついた。あの頃はイライラしてたけど、今は、彼女に要求してほしいんだ。
またそんな口ききやがって。
「邪魔しちゃった?」 彼女がクスクス笑う。結婚前は、ほとんど彼女からの電話には出なかった。出ると、話が何時間も長引くから、それが嫌だったんだ。
「いや。」 俺は壁に寄りかかって、唸った。
「よかった。それでね、バラが欲しいの。次のデートで耳の後ろに挟んでほしいのよ、ミスター。」 彼女はきつく要求したけど、最後まで言いきれず、笑ってしまった。
「なんでデートなんだ? 俺は、あんたに会う時間もほとんどないんだよ。あんたの家族は、結婚式で初めて俺に正式に会わせるって約束したんだぞ。結婚式の夜とか、どう?」 俺はニヤリと笑って、彼女が赤くなるに違いないと賭けた。
「何でもいいわ…」 少しの間をおいて、彼女がそう囁いた。彼女の純粋さに、俺は笑ってしまった。あの罪滅ぼしを、貪り食いたかった。取り返しのつかないほど汚してやりたかった――やったけどな。
「もちろん。」 俺は唸った。でも、あの後の名前が頭に浮かんだんだ。
俺はそれを忘れてたし、彼女も口にしなかった。そして、この2分の会話は、いつの間にか1時間も延長されたんだ。
目を開けると、俺はまた自分の世界に戻っていた。以前存在していたことを忘れるわけじゃないんだ。全部覚えてる。彼女のことすべてが、俺を誘惑する。
「ジェームズ。」 運転手に呼びかけ、花屋に目をやった。彼女の願いを叶えてやりたいという衝動がこみ上げてきたからだ。
「はい、ボス?」
「あの店で、バラを一本買ってこい。」 そう命令した。彼は頷き、車を角に停めて、俺にバラを一本買ってきてくれた。
「一本だけですか?」 確認するように聞いてきた。俺は唸り、手にしたバラをよく見て、トゲを取った。家に向かう途中だ。
俺はバラを見ていた。彼女の耳の後ろに挟んでやりたい、そして、彼女が微笑んでくれたら、俺の壁紙を変えられるのに、そう思ってた。その考えに興奮して、家に戻ったんだ。
中に入ると、アイリーンがアサドと話しているのが見えた。それだけで、俺の期待は霧散した。彼女があいつと話しているのを見て、燃えるような気持ちになった。誰でも許せるけど、あいつだけは許せない。
アイリーンを、あいつにも渡すわけにはいかない。彼女だけは…