第3章 - 準備不足 - ダミアン・ブラックウッドの視点
彼女の姿を見た瞬間、俺が求めていたもの全部だってわかったし、同時に、きっとこうなるんだろうなって思ってたこと全部でもあった。
綺麗だけど、一番俺の気を引くのは彼女の燃えるようなスピリット。
まるで、彼女の瞳の中に燃える炎と、彼女の態度そのものに反抗心を感じるんだ。
ほとんどのウーマンは俺の前で怯えて、何も言わずに従うだろう。
でも、彼女はほとんどのウーマンとは違うんだ。
「マヤ・シンクレア」
俺は彼女をじっくり見ながら、そう囁いた。
彼女は背筋を伸ばして立っていて、その姿勢は揺るがない。
これは、俺の視線を受け止める、ちょっとした挑戦。
彼女はまだ気づいてないけどね。
俺の隣に立っているファーザーは、ショックを受けたみたいで、彼女の強い態度にちょっとイライラしてる。
どうやら、ファーザーの思ってた展開とは違ったらしい。
正直、俺はファーザーのことなんて気にしない。
俺の視線は、別のところに向いているから。
目の前にいる、この小さな妖精みたいな子に釘付けなんだ。
これから、すごく面白くなりそうだよ。
「シンクレアさん」
俺はもう一度、今度はちょっと大きめの声で言った。
「そろそろ、行く時間だと思うよ。
ファーザーは、明日からあなたの荷物を送ってくれるって言ってた。
今のところ、必要なものはあるかい?」
彼女の瞳に、ほんの少しの変化を感じた。
前よりもっと反抗心が見える。
それが俺をゾクゾクさせるんだ。
もう、震え上がって、俺から逃げようとしたり、俺を喜ばせようとしたりするやつが多いだろ。
でも、彼女は違う。
彼女は、誰かに支配されるような、か弱い、無力なウーマンなんかじゃない。
違う、彼女は自分の力を持った存在で、俺はまだ完全に準備できてないけど、征服したいと強く願ってる。
俺は彼女をじっと見つめ、彼女の些細な動き一つ一つを追う。
そして、違うアプローチが必要だってことに気づいたんだ。
彼女を屈服させるのは、もう少し後だ。
「ブラックウッドさんは、今夜遅くにあなたを待ってるよ」
俺は正体を隠したまま、そう付け加えた。
「もう少し、荷造りする時間もいいんじゃないかな。
あの小さなバッグじゃ、すぐにいっぱいになっちゃうだろうし」
そう言って、俺は開いたドアを通って、車に戻った。
「待ってくれ、今すぐ連れて行くのかと思ったんだが」
ファーザーが、俺の後ろからドアを通って出てきて言った。
「まだちょっと早いし、俺が来るってことは予想してなかっただろう。
もう少しちゃんとしたバッグに荷造りさせよう。
すぐに迎えに行くから」
俺は車のドアを開けて、乗り込み、ドアを閉めるとため息をついた。
ファーザーは俺の顔すら知らないのに、誰と気軽に話してたのか、まだ気づいてないんだな
俺の思考が駆け巡り始め、それが俺を締め付け、窒息させそうになるのを感じる。
ここで、今にも壊れてしまいそうな気がする。
ファーザーは、彼女を手放すことに、ほんの少しも感情を表さなかった。
俺が彼女を連れて行かないって決まるまで。
まるで、彼女はファーザーにとってどうでもいい存在みたいだ。
一体どんなファーザーが、自分の子供にそんなことするんだ?
それだけじゃなく、なんで俺はそれに腹が立ってるんだ?
俺は首を振って、屋敷に向かって走り始めた。
彼女がここに来るまで、そう時間はかからないだろうから、もう少し準備しなきゃな。
屋敷には、ウーマンが溢れてるってわけでもないし。
俺はシートに落ち着き、ステアリングホイールを握りしめて、家までの道のりで思考を落ち着かせようとする。
エンジンの音が聞こえるけど、車内の静けさが、俺を窒息させそうなんだ。
一体どんなファーザーなんだ?
その疑問が俺を悩ませるけど、なんでこんなに気になるのか、わからない。
彼女の人生で俺が関わることっていうのは、彼女が俺の家族に対する予言を成就させるっていうことだけだ。
彼女は、俺がずっとやってきたゲームの中の、ただの駒の一つなんだ。
でも、なぜか、ファーザーが少しのお金のために彼女を手放そうとして、彼女をただの駒のように扱ってることに、俺はすごくムカついてるんだ。
そんなこと、今までも見てきたことじゃない。
金持ちで権力のある家族は、問題が起きたときに、子供たちを交渉材料として差し出す。
それは冷酷で残酷な世界で、俺はそれに慣れてる。
でも、今回は違う気がしたんだ。
彼女のこと、そして彼女の瞳の中の炎に、何か心を揺さぶられるものがある。
彼女は、ただの駒じゃないんだ。
彼女は、それ以上の何かで、俺は彼女を完全に手に入れたい、自分のものにしたいって気持ちになるんだ。
俺は、片手をステアリングホイールから離して、自分のボサボサの黒髪をかき上げながら、家へと続く道へと入っていく。
どんなに思考を振り払おうとしても、それが離れないんだ。
それはまるで、絡み付いて離れないツルみたいに、俺のに巻き付いてる。
そして、それを追い払おうとすればするほど、ますますきつく締め付けられるんだ。
「しっかりしろよ、ダミアン・ブラックウッド」
俺は自分自身にそう呟いた。
彼女は、俺が守るべきものでもないし、気にかけるべきものでもない。
彼女にできることっていうのは、予言を成就させることだけなんだ。
それなのに、俺は今、まさにそんな気持ちになってて、彼女に対してかすかな引力を感じてる。
それは胸の中の塊みたいで、何かしたくてたまらない。
でも、してはいけないってことはわかってる。
彼女は危険で、俺が築き上げてきたものをすべて台無しにするかもしれないし、あるいは、俺の救済となり、予言を成就させるかもしれない。
俺はもう一度深呼吸して、屋敷へと続く曲がりくねった私道に車を走らせた。
遠くに家が見えて、暗くて威圧的だ。
俺はまだ準備できてない。
まだだ。
でも、取引と権力のためには、そうしなきゃいけないんだ。
俺は、広大な屋敷の前に車を停め、そこから石段を上っていくと、空気中に緊張が高まっていくのがほぼわかる。
ドアに着く前に、サイモンがすでにそこで俺を待っていた。
彼の表情は読み取れないけど、すぐに困惑した様子が顔に浮かんだ。
「彼女は?
女の子を連れて行ったんじゃないのか?」
俺は一瞬ためらって、ゆっくりと息を吐き出した。
「彼女は、今、家で荷造りしてるんだ。
2時間後に、誰かを迎えに行かせるつもりだ。
必要なことは全部やったし、見たいものはちゃんと見たからな」
「なんで、一緒に連れて行かなくて、また別の旅を省かなかったんだ?」
彼は鋭い声で、好奇心に満ちて尋ねた。
「だってできるから」
俺はそれ以上の説明はせずに言った。
サイモンはそれ以上は追求しない。
彼は、そういう俺のことはよくわかってるんだ。
俺の隣に並んで歩きながら、俺たちは中へと入っていく。
いつもそうだけど、この家は冷たくて空っぽで暗く、侵入不可能な要塞みたいだ。
でも、今回は何かが変わった気がするんだ。
その存在感の中に、希望があるんだ。
それは、これまで感じたことのないもの。
そして、誰かに見られているような感覚が、拭えないんだ。
俺が準備できてるかどうかは関係ない。
予言は誰のためにも待たないし、俺が準備できてるかどうかなんて、気にもしないんだ。
「準備しておけ。
2時間後に、お前を彼女のところに行かせる。
それから、彼女はここに来る」
彼は俺の隣で歩くのをやめて、笑った。
「お前が最初に彼女に会ったってこと、あいつらは知ってるのか?」
俺は微笑んで、口元に笑みを浮かべながら振り向いた。
「いや、知らないだろうな。
でも、彼女はきっと、ショックを受けるだろうな」