怖い - マヤの視点
ムチャクチャ逃げ出したくなって、どうしようもない衝動に駆られる。彼のこと見て、マジで捕まらずに逃げられるかなって考えてみたけど、無理だってのは分かってる。だから、胸がドキドキしっぱなしのまま、彼の掴んだ手首を振りほどいた。
彼の独占欲、所有欲みたいなのが、ずしーんって俺にのしかかってくる。俺は彼のもの、たとえそうなりたくなくても。時間の問題だってこと。その言葉が頭の中でぐるぐるして、胸が締め付けられる。息しなきゃ。
そう、空気吸わなきゃ。
背中には彼の視線を感じながら、歩き始めた。逃げ場なんてどこにもない。どこにも逃げられない。奇跡的に屋敷から出られたとしても、彼に捕まらずに森を抜けられるわけがない。俺は彼のターゲットで、なんでか分かんないけど、彼は絶対俺を手放さない。
それに、心の奥底では、彼は決して俺に教えてくれないって分かってる。
廊下を歩き続けると、すぐ後ろから彼の柔らかい足音が聞こえてくる。ニヤリ。彼がどこに行こうと俺についてくるって分かってるから。
自分の部屋に戻る代わりに、屋敷の一番奥に行って、外に通じるドアを見つけた。一番大事なのは新鮮な空気だったんだ。
ドアに手が触れ、ノブに手が置かれると、周りの音が全部消え去った。一回ひねると、外からの新鮮な空気が流れ込んでくる。それが、求めていた安堵感をもたらした。
外に出ると、葉っぱがこすれる音が一番大きくなる。涼しい風が神経を落ち着かせてくれるけど、まだ肌に残ってる熱は消してくれない。手を伸ばして、自分の唇をそっと触ってみる。俺たちの激しいキスを思い出しながら。
「俺のこと考えてた?」ダミアンが俺の後ろから出てきて、ドアを閉めながら言った。
「なんで?」俺はささやくように言った。そうしてたこと認めなくなくて。
もっと大事なのは、なんで俺はそうなったのかってこと。彼は俺を買ったんだ。それは絶対に変わらないこと。もう俺のこと、ベルって呼んで、彼のこと、野獣って呼んだっていいくらい。だって、それが俺たちの関係なんだから。少なくとも、そう感じてる。
歩き続けて、足が彼から離れるように願う。一番近い木を見つけると、寄りかかって、心の中で荒れ狂う嵐をなんとかしようとした。彼のものになるのは嫌だって、彼に言い返したい気持ちもある。でも、それと同時に、それがいいなって思う気持ちも大きくなってる。
それがどんな感じか、嫌いじゃない。それが一番怖い。彼のこととか、群れのこととか、それ以上に。こんな世界にいたくない。前に持ってたものに戻りたい。
「隠れてても何も変わらないわよ」エヴリンの声がして、俺はビクッとした。
横を向くと、数メートル先に彼女が立っていた。そして、彼女は横を見て、ダミアンが近づいてくるのを見た。
「あら、もう見つけちゃったのね。逃げ出そうとしてるのかなって思ったんだけど。それにしても今日は明るいから、そうなるのは分かってたわ」
「そう、彼が逃げられないように、屋敷中俺を追いかけてきたんだから、隠れてるわけじゃないよ」俺は彼と目を合わせて言った。「もうちょっと、ここでゆっくりさせてよ」
エヴリンはくすくす笑った。「これからもっと酷くなるわよ」
少しだけ浮かんだ笑顔がすぐに消えた。「もっと?」
彼女はさらに大きな声で笑った。「彼らは独占欲の塊よ、特に男はね。自分の女を誰にも渡さないし、近づけもしない。他の女でさえね」彼女の目は横を向いた。「まだものにしてない女にはね。そして、彼は彼女を狙ってる」
笑い出したくなる。だってバカみたいに聞こえるから。でも、後ろを見たら、冗談じゃないって分かった。彼は本当にワイルドな感じで、まるで俺を狩ってるみたい。もう時間の問題なんだ。
「もし俺が受け入れたら、どうなるの? 狩りは終わるの?」俺は全部を理解しようとして、そう尋ねた。「だって、俺が彼から逃げてるのに、彼はまだ俺をストーキングしてるじゃん」
「あら、ハニー。彼はあなたの体に牙を突き立てて、自分のものにするまで狩るわよ。本当の楽しみはそれから始まるの」
その言葉を聞いて震えた。「彼は何するの? 牙を俺の体に突き立てるって? どこに、いつ?」
エヴリンは肩をすくめた。「あなたが彼にとって何なのかを受け入れた時よ。刻印は彼の好みで。喉にされる人もいるし、太ももにされる人もいる。あなたが受け入れたら、彼のオオカミがどこに刻印するかなんて、誰にも分からないわ」
「もし受け入れなかったら?」
彼女は彼を見た。「あなたは逆らえなくなるわ。最終的には彼に屈することになるわ」
「なんで今になってそんなこと言うの? ここに来てそんなに経ってないのに、着いた時に教えてくれてもよかったでしょ。今知るより、何でもよかったのに」
後ろを見ると、彼は立ち止まっているのが分かった。彼の目は人間の目と光る目を交互に繰り返してる。
聞こえるのは、エヴリンの笑い声だけ。「あなたの逃走が彼を怒らせたのね。もうあなたの姿を見逃すことはないわ。前はくっついて離れなかったり、側にいろって言ってたけど、もっと酷くなったわ。彼のオオカミが彼と戦ってるのよ」
「つまり、俺が自分でこうしちゃったってこと? 愚痴は言わない。分かった」俺は緊張したように笑った。「もし、彼にものにされなかったら?」
彼女はため息をつき、近づいてきたけど、それだけダミアンからの唸り声を引き出しただけだった。彼女が近づかないと分かると、彼は落ち着いた。「ダミアンは簡単に心を開かないの。もしあなたを側に置きたがって、あなたのことを自分のものだって言うなら、それは何か意味があるのよ」
俺はムッとしたけど、彼女は首を横に振った。
「あなたは怖いんでしょう。それは分かるわ。でも、ただ戦うためだけに戦うのはやめた方がいいわ。あなたは彼のこと、認めたくない以上に好きなんじゃないかしら」
俺は彼の方を見て、まだ木にしがみついている。彼女の言う通り。俺は彼のこと、絶対に認めたくないくらい好き。それが怖いんだ。