第8章 - 部屋は暖かい - マヤの視点
部屋、マジで予想外。
正直、想像よりずっと広いし、たぶん実家より広い。
私の部屋はいつも、なんかこう、閉塞感あったし。
壁は淡いピンクで塗られてるんだけど、上の方の明かりが届かない隅っこには影が潜んでるみたい。
部屋の中心には、天蓋付きの巨大な四柱式ベッド。左側の壁にくっついてる。
濃いチェリー色のフレームは磨かれてて、光を浴びてキラキラしてる。ベッドリネンは、クリーム色の分厚い毛布と、細かいバラの模様が刺繍された枕で重ねられてる。まるで、こういう部屋で寝るのは、お城の暮らしみたい。
右側には、暖炉のそばに小さなソファエリアがあって、背の高い椅子が2つ置いてある。
マントルピースを見て、彼が自分でデザインしたのか、誰かに頼んだのか考えた。
プロが作ったにしては、ちょっと荒削りすぎる。
ため息をついて、前を見ると、天井まで届きそうな高い窓がある。
ベッドリネンと色を合わせたカーテンがかかってるんだけど、分厚すぎて閉めたら窓から光なんて絶対入ってこなさそう。
窓の外には、夕焼け空の下、暗くてどこまでも続く森の木々のてっぺんが見える。
この部屋が私のものって、まだ信じられない。
老女に案内されてここに来たとき、牢屋を覚悟してた。
冷たくて、陰気な感じかなって。
でも、この空間は暖かくて、ちょっと居心地いい。
それでも、この部屋が本当に自分のものだって思える日は、一生来ない気がする。
寝るって伝えたから、彼は私を一人にしてくれた。
でも、布団に入るんじゃなくて、部屋の真ん中に立って、全部を吟味してる。
静寂が空気を満たしていて、かすかな床板の軋む音だけが聞こえる。
ベッドに横になって、本当に眠るっていう気分になれない。
ここ、家じゃない。
全然違う。
ドアの方を見て、老女が去る前に優しく微笑んでくれたのを思い出す。
彼女の名前はエヴリンで、何かあったら言って、ゆっくり休むか、すぐに寝るようにって。
ただ、一番予想外だったのは、最後の言葉。
ここで大丈夫って言われた。
大丈夫って、どういう意味?
今まで知ってたもの全部奪われたのに、どうやって大丈夫でいられるの?
ファーザーは、私が彼らのものだって伝えたとき、まるで嬉しそうだった。
私は、彼が好きにするだけの所有物みたいなもんなんだから。
今、ダミアン・ブラックウッドが私の未来を握ってて、彼はまるで私が問題の解決策だって見てる。
あるいは、単なる利用できる資産として見てるのかもしれない。
最後の考えが頭をよぎって、ベッドに近づき、端に腰を下ろす。
手が少し震えて、コンフォーターの端を掴む。
柔らかくて、贅沢な感じがするのに、指先ではまだ違和感がある。
頭の中では、今日の出来事が何度も繰り返されて、記憶が蘇る。
どれもこれも、ますます現実離れしていく。
ダミアンがオフィスに立っていた時の様子、彼は落ち着いてて、感情がないみたいだった。
ある意味、彼のこと嫌い。
そうじゃない?
そうしたい。
彼を軽蔑して、この変な世界に私を連れ込んだことを呪いたい。
でも、何か別のものも感じる。
彼に引き寄せられるような気がするんだ。
彼が私を見て、一瞬だけ優しくなる目つき、それはたった一回しか起こらなかったことだけど。
その考えを追い払おうとして、頭を振る。
ダミアンが何者であれ、彼は私の救世主じゃない。
ファーザーと同じように、自分の都合で私を利用してるだけなんだ。
数分後、私は再び立ち上がり、窓の方へ向かう。
外の景色は美しくて、どこまでも広がる森が見える。木々のてっぺんは、そよ風に揺れてる。
でも、その美しい景色も、私には何もしてくれない。
胸の中に広がるあの苦しい塊を、少しも和らげてくれないんだから。
どこかに、危険が潜んでる。
少なくとも、私はそう思ってる。
エヴリンは気づいてないだろうけど、部屋に行く途中で、私は人々の会話を聞いてたんだ。
縄張りとか、敵とか話してた。
慣れない奇妙な言葉だった。
私たちは普通の国に住んでるし、敵なんて知らない。
一番不思議だったのは、誰かがダミアンを「アルファ」って呼んだこと。
上司をアルファって呼ぶ?
なんだか、怖い。
でも、他にいくところがない。
深くため息をついて、窓から背を向けて、床の真ん中にあるバッグを見た。
これが私の人生になるなら、最大限に利用するしかない。
部屋の真ん中に行って、最初のバッグを開ける。
他のものは、たぶん後で届く。
ファーザーは、それらを使うこともないだろうし、彼の家に私を思い出させるようなものは何も欲しくないだろうから。
今夜は、これで十分。
服を取り出して、クローゼットにかけ始める。
それが終わったら、バッグの中からお気に入りの本を見つけた。
古くて使い込まれたカバーに、手が伸びる。
それは、まるで小さな頃からの私の生活の一部にいるような、安心感を与えてくれる、唯一のもの。
ベッドサイドテーブルに置いて、この新しい生活に慣れるのに役立つことを願う。
ベッドに沈み込み、誰かが今にもドアを開けるかのように、ドアを見つめる。
きっと、何があっても、準備できないんだろうな。
悲しいことに、私は崩壊できないんだ。
今も、これからも。
心の奥底には、ダミアンと、ここにいる他の人たちしかいない。
たとえ、それが私にとって未知の人々だったとしても。
その考えだけで、私は心の底から震える。
彼に何を期待したらいいのか、次は何を求めてくるのか、わからない。
何も要求してないけど、それは要求が来ないって意味じゃない。
私は彼の使い捨ての駒で、彼は自分が望む限り、私を使い続けるだろう。